10話 親睦会
――ギオラ視点――
見た目からは想像もできないほど、アホそうな発言をしている彼女。
私はこのギルドに足りないものは、人員だと思い勸誘していたのだ。
流石が顔が良い私、仕事も出来る。
「って、あいつ最初から居たのかよ。あたしが、気づけなかった……のか」
「そうだね。ずっとあそこでぼけっとしていたよ」
視線の先の美少女は、まるで自分の話なんてどうでもいいのか振り向きすらしない。
聞こえていないだけかもしれないが。
「おーい。自己紹介始めるよ」
私は窓を眺める少女の肩に触れる。
やっと、こちらに気づいた彼女はゆっくりと振り向いた。
「じゃあ、まずは私からね。私の名前はギオラ。ギルドマスターになったばかりだから、右も左も分からないけどなったからには頑張るよ。よろしく」
「次はあたしだな。ニャンだ」
「え、それだけ?」
「駄目か」
「駄目ではないけど……まあ、いいか。それじゃあ、次行ってみよう」
名前さえ分かれば、仕事を重ねるうちに性格も伝わるだろう。
実際にニャンの性格は何となく分かったきた。
仕事は出来るが、チームプレイが苦手なタイプだ。
学院時代のAちゃんを思い出す。
「あ、私の番ですね。私はドレミって言います。特技って程ではないですが、事務作業には自信があります、よろしくお願いします」
ドレミは自己紹介を終えると、ゆっくりと頭を下げた。
正直、彼女の能力や性格、経歴は未知数だが心配はないだろう。
そして何より、事務を希望しているところが良い。
私の偏見だと、ギルドに加入したいという者はだいたい腕に覚えがある冒険者が多いのだ。
つまり、クエストを受けることを目的として加入する者の割合が高い。
ギルドにはクエストを受ける者も必要だが、当然そのクエストを用意する者も必要になる。
そんな少数枠の仕事を志望していると言うのだから、願ったり叶ったりだ。
「次はあなたね」
相変わらず、窓の外の鳥に夢中な少女の頬で指で押す。
ふにふにで柔らかい。
まるで幼児の肌のようだ。
私のハリのある肌も良いが、この触り心地は悪くない。
「ウレレはね〜。ウレレだよ?」
ウレレと名乗った少女はニコニコと笑っている。
魔狼の死体を運ぶ際、森の中で横になっている彼女を見つけた。
風魔法を使い、高速で水分を飛ばした即席干し肉を食べさせていたら懐いて着いてきたのだ。
何を聞いても、呆けた様子でよく分からない。
というか、自分の名前以外分かっていない様子だ。
とりあえず、人員確保と保護という目的でギルドに加入させても問題ないだろう。
「これで自己紹介は終わりだね。それじゃあ、初めましてってことで肉でも焼いて、親睦会を始めますか!」
「おう、いいな!」
「肉〜!」
流石はニャン、食い付きがいい。
そして、肉と聞いてウレレもノリノリだ。
ドレミはキョロキョロと落ち着かない様子だが、一緒にご飯を食べていれば慣れるだろう。
肉は余るほどあるんだ。
親睦を深めるには、同じ釜の飯を食うに限る。
本に書いてあった。
と、思っていたのだが。
いざ、肉を焼いてみるととても硬いのだ。
こんなの、親睦を深める所ではない。
「なんで、こんな硬いのに2人は食べれるんだよ」
薄くスライスした肉ですら噛みちぎれない私とドレミとは打って変わって、ニャンとウレレは分厚い肉を頬張っている。
「美味い! やっぱり狼もどきの肉は格別だな。魔狼の肉も何とも言えない癖があって、飽きないぜ」
「ウレレも好き〜! 沢山食べる!」
「おう、ウレレ! あたしがもっと焼いてやるから、沢山食えよ! フォンは焦らずよく噛んで食べるんだぞ」
「あい!」
ある意味、ニャンとウレレは親睦を深めている。
波長が合うのか何なのか。
フォンというのはニャンの妹だ。
妹が目に見える場所にいて落ち着いたのか、肩の荷がおりたようにはしゃいでいる。
2人きりの家族のようだから、自分が見守れる距離に妹があて安心できたのだろう。
ちなみにフォンも、ニャンとウレレほどではないが充分厚い肉を頬張っている。
「あの、私。顎の力が足りてないんですかね」
ドレミはどこか悔しそうに呟いた。
輪の中に入れなかったことが、悔しいのだろう。
いや、あの輪に入れたら危険な気もするが。
常識の範疇ではないのは間違いない。
「いや、むしろドレミがこっち側で助かったよ」
「そうですか?」
「だって、こんなの普通噛みちぎれないからさ」
「ですよね……私、こんなに硬いお肉初めて食べました」
「私もだよ。地元のお店で食べたことあったから、食べれる物だと思ってたけどこんなに硬いなんてね。もしかして、腐って変質したとか?」
地元で食べた時も多少は硬かったが、食べれないほどではなかった。
それに、適当に作った干し肉もウレレがバクバクと食べていたし、試しに焼いた肉もニャンが美味しそうに食べていたから食料として使えると思っていたのだ。
しかし、噛みきれない以上こんな物食料としては使えない。
ニャンたちは例外として。
「このお肉って、ただ焼いただけですか?」
「焼いたってより、魔法で一瞬で火を通した感じかな」
「てことは……」
ブツブツと呟きながらドレミはギルドハウスへ入ると、すぐに広場に戻ってきた。
手には、赤い石版のような物と同じような色をしたナイフを持っている。
「それは?」
「詳しいことは私も分からないんですけど、私の作った石とナイフです。これを使って、お肉を調理してみましょう」
「へ? 石とナイフを作った?」
「説明すると長くなるので、まずお肉を焼きましょう」
そう言うと、彼女はテーブルに石版を置いた。
さらに上から、まだ火を通していない狼肉を乗せる。
「お肉は調理する前に、切込みを入れて筋を切ると良いんですよ」
「ほへー」
「ざく、ざくっと」
ドレミはリズム良く、肉に切込みを入れていく。
その手際の良さから、手馴れていることが分かる。
「それじゃあ、ギオラさん。今度はお肉に火を通すのでは無く、同じ火力でこの石に火を通してください」
「その石に?」
疑問に思いながらも、意識を石に集中させる。
石へ火属性魔法を発動させると、パチパチと石の上に溢れた肉汁が弾け始めた。
顎が疲れてきたこともあって、食欲が無くなっていたがこの音はそそる。
さっきのウレレじゃなけど、ヨダレが垂れてきそうだ。
「キラキラ〜!」
「美味そうだな、その肉!」
音と香りに誘われたのか、ニャンたちも集まってくる。
肉に誘惑されてふやけた顔を引き締めてみたが、肉を裏返した時の音につられ再度ふやけてしまった。
「さあどうぞ、ギオラさん」
ドレミは食べやすいように、分厚いステーキを1口サイズに切り分けた。
ナイフの性能がいいのか、それとも調理による成果なのか、あの噛みごたえからは想像も出来ないほど簡単に切れている。
そして、絶えず溢れる肉汁が食欲を飽きさせない。
「いただきます!」
フォークで軽く、触れただけなのに奥まで沈んでいく。
柔らかさが感覚で伝わってくる。
新しい扉が開けそうなそんな未知の感覚と共に、肉を口へと運ぶ。
「なにこれ! 美味しい!」
さっきまでの硬い肉が嘘のように柔らかい。
というか、地元食べていた物より圧倒的に美味しいぞ。
ただ肉を柔らかくしただけではなく、味付けまで行っていたのだ。
これなら、料理人としてもやっていける腕前だろう。
「あたしも食べていいか?」
「ウレレも〜?」
「あたちも!」
私の表情を見て、我慢出来なくなったみんなが一斉に飛び出した。
ドレミは楽しそうに、3人に肉を振り分けている。
その様子を眺め、私は今回の親睦会の成功を確信した。
そして、私も3人に負けじと輪の中に入っていく。
間が空いてしまいました。
でも、割と忙しかったので謎ルールでセーフです。
次回から、ギルド活動始める予定なのでよろしくおねがいします!