腹立たしい
今年も腹立たしい季節がやってきた。
・・・このクソ寒いのにしっかり飛んできやがる、花粉様の季節だよ!!!
二月になると、我が家は窓という窓をきっちり閉めまくる。
…ひと粒たりとも花粉を屋内に侵入させぬため、外気の一切をシャットアウトするのだ。
玄関には大き目の空気清浄機、廊下にも普通サイズの空気清浄機、外出したあとの付着花粉をダブルで捕獲する完全対策を施し、さらには各部屋でも空気清浄機をフル稼働させる徹底ぶりである。
我が家の空気清浄機保有台数は実に7、そんじょそこらの電気店よりも品揃えがすごいのさ!!
そしてこの季節、洗濯物はすべて乾燥機に投入されることになる。
花粉でみっちり汚染されている外の空気に衣服をさらすなんて…とんでもない!
二月から五月まで、やけに電気代が高くなるのが例年なのである。
「あ、乾燥終わってる。たたんどこ。」
毎朝届く花粉飛散情報で初の非常に危険マークが出現したとある日、外に出る仕事が入っていた私は朝出かける前に洗濯を終え、それらを乾燥機に投入したのち厳重装備をして家を出た。
出向先で重装備を散々笑われた後、買い物をして帰宅。玄関で重装備を解き、できる限り花粉を落とし切ってリビングへ。
花粉まみれの服を洗濯機に放り込みに行くと、乾燥が終わっていたので、かごを用意して乾いた洗濯物を出そうと・・・。
「ああっ!!またこいつ!!!」
乾燥機のドアを開けると、乾いた洗濯物ではなく・・・黒い丸い物体が鎮座している。
この、丸い黒い物体の正体は・・・!!!
「この腹立たしい服め!!」
旦那のジャージである!!!
乾燥機シーズン中において、非常に私を苛立たせるのが旦那のジャージ(上)。…こいつほど腹立たしいものはない!
サイズにして5Lのこのジャージ、毎回毎回なぜか他の洗濯物を抱え込むのである!!
でかすぎるからなのか、静電気が発生しやすい素材だからなのか、他の洗濯物たちが旦那のジャージの中に巻き込まれ、袖の中に入り込み!!三日に一度は、乾燥機の中ででっかい団子状になってしまうのである!!!
怒り心頭で丸い塊をかごの中に取り出し、中に抱え込まれている洗濯物たちをばっさばっさと解放する・・・げえ!!
「乾いてないじゃん!!」
乾燥機にかけたばかりの早い段階でジャージに抱え込まれてしまうと、乾ききることができずに丸まってしまうのだ!
しかも中途半端に水分が残った状態で熱を受けたまま放置され、その後ゆっくりと冷えることで、著しいしわが残ってですね!!!
また腹立たしいことに、旦那のジャージはかっさかさに乾燥しているのだ!一番外側だから!!!乾燥機にかけなくても、部屋干しで充分乾く、ぺらっぺらの素材のくせしやがって!!
「もう我慢がならん!!このジャージは今後部屋干し一択だ!!!」
私は旦那のジャージ乾燥機インを今後一切認めないことにした。
乾燥機内に団子が発生しなくなって、平和な洗濯ライフが三日ほど続いた、ある朝。
仕事が急遽休みになった旦那に、家事の一切をお任せして…朝から仕事に没頭していた私であったが。
「ちょっと!!お母さんのこのスカート!!ちょーやな感じなんだけど!!!」
やけにぷんぷんした旦那の声が聞こえてきたぞ!
パソコンに向かっていた顔を旦那のほうに向けると・・・げえ!!
私のスカートが・・・塊になっとるがな!!!
「何でかわかんないけど、お母さんのスカートの中に洗濯物が全部丸まって入る!!」
裏地付きのマキシスカートなんだけど、どうやら裏地と表地の間に洗濯物が入り込んでしまうらしい。
いつも私が洗うときは、洗濯ネットに入れてそのまま乾燥させてたから…気がつかなかった。
「もー!!カッターシャツがしわしわじゃん!!乾いてないじゃん!!もう乾燥機に入れちゃダメ!!」
ぷんぷんしながらスカートの中に巻き込まれた洗濯物を出している旦那。
その手には、旦那のジャージが!!!
・・・私のスカートは、旦那のジャージをも飲み込んでしまったというのか。
スカートがなければ、旦那のジャージに他の洗濯物が巻き込まれていた可能性が高い。
だがそれはただの可能性であって、現実は自分のスカートがやらかしてしまっている。
くそう、旦那のジャージ、意外と弱いな、もっと頑張らんかい!
頭の中を実にいろんな思惑がぐるんぐるんとかけめぐり、結局私は適当に流すことを決めた。
「ああそお?ごめんごめん!」
私は微塵も謝罪心の篭っていない言葉を返すと、仕事をするためにパソコン画面と向き合った。
「いいけど!!!あとでアイロンやってね!!!」
ムム、なぜかアイロン作業をやる羽目になったぞ。旦那はいっつも私に謝らせるシチュエーションにもってって、それにかこつけていろいろとやらせるのが常套手段なんだよ…。あざといというか狡賢いというが図々しいというかあくどいというかえげつないというか・・・まあ、やらせていただきましょうかね。
…洗濯も乾燥機もやってくれる旦那だし、多少はこちらも返せるもん返しておかないとね。
少々たまにいろいろやらかすけど、ずいぶん助けてくれる旦那ですからね。
たまに、ポケットの中確認しないで洗って、ティッシュだらけの洗濯物になるけどさ。
たまに、洗剤入れずに洗って、ヨゴレが取れないまま乾燥されちゃったりするけどさ。
たまに、セーターを洗濯袋に入れないで洗って、ファスナーに引っかかって毛糸が一本伸びちゃったりするけどさ。
たまに、仕事で使った作業用タオルとバスタオル一緒に洗われて、機械油臭がついちゃったりするけどさ。
…ありがたいことですよ。
私だってパソコンクリーンアップしようとして初期化しちゃったりしたし。
多少のやらかしはね、うん。お互い様ってやつですよ、ええ。
「へいへい。」
適当な返事を返しつつ、私は目の前の仕事のみに没頭させていただいた。
私が仕事を終えてリビングにいくと、腹立たしい旦那のジャージとしわしわのカッターシャツ、私のスカートが窓際で並んで干されていた。
旦那は…ガレージで何やらごそごそやっている。機材のチェックをするとか言ってたな。あんまりバタバタやると花粉が舞い散るので大人しく作業してほしいところだけど…。
――どんがらがっしゃん!!…ばきっ!!!
ああ、豪快な旦那には繊細な作業はできなかった、そうでした、そうでした…。
花粉だらけの外気にさらされているガレージをのぞき込む気力のない私は、アイロンに電源を入れた後、まだ少し湿っているカッターシャツをハンガーからはずしでアイロン台の上に広げた。
地味に私はアイロンをかける作業が好きだったりするんだな。
シワの延びる感じ、高温で殺菌される感じ、きちっと折り目がつく感じ。
スプレーのりのにおいも爽やかで、愛おしいっていうかさ。
カッターシャツをきっちり畳んで、ついでに自分のスカートにもアイロンをかけて、スイッチを切った、その時。
「ごめーん、ついでにこれもお願い!間に合う?」
ぎょえええええええええ!!!!
ガレージから、リビングの窓を開けて、直接、直接!!!旦那が段ボールをリビングに持ち込み!!!!
どさっ!!!!
ばふっ…と、花粉が散ったのは見えなかったけど!!絶対に舞った、舞ってる、舞わせやがったなああああああああ?!
「は、ハクション、はっくしゅ、くしゅん、へぶしっ!」
ちょ!!
くしゃみが!
目が!
鼻水が!!
ひいいイイイイイ!!ティッシュ!!眼球ウォッシュ剤!!!鼻スプレー!!!!
しまった、完全花粉対策済みの部屋のなかで油断していた!!
思いっきり花粉吸い込んだ!!
完全無防備で、100%の威力の花粉を…この花粉耐性0を誇るこの体に取り込んじゃったじゃん!!!!!!
旦那の開けた窓から入ってきた花粉の猛攻!!!
旦那の持ち込んだ段ボールに付着した花粉の総攻撃っ!
完全対策済みの玄関を越えずに乗り込んできた、アレルギーとてんで縁のない、気遣いのかけらもない旦那の無自覚攻撃の威力、威力ううううううう!!!
「むり!部屋から出ていけ!窓から入るな!!つか、窓から出たな?!やめてって言ってるじゃん!!!」
私は鼻をカミカミ、開いた窓から旦那を叩きだし、鍵をかけた。
「あっ!!ひどーい!!!」
うちのガレージは、リビング窓の横にあるので、横着者の旦那はすぐに玄関と使わず直接窓から出ようとするくせがあってですね。
まあ、夏とか窓から出入りする習慣があるから仕方ないと言えば仕方ないけど、この時期、花粉が空気中を埋め尽くす三か月間ぐらいはね、ちょっとくらいは気遣いってもんをですね!!!
ああ、まったくもって腹立たしい季節だよ、ホントイヤな季節だよ!!!旦那への腹立たしさもいつもより三倍増しだよ!!!
私は怒り心頭で花粉まみれの段ボールを鼻水を垂らしつつ玄関へと持って行き!
玄関の空気清浄機を強にして!!
廊下の空気清浄機も強にして!!
リビングの空気清浄機も強にして!!
そうこうしているうちに、旦那がリビングへ戻ってきた。
「ちょっと!!ちゃんと花粉落としてきた?!上着は玄関で脱いでって言ってるじゃん!!」
「もー!!神経質になりすぎなんだってば!!だって窓から出てったのに、リビングで平気でアイロンかけてたじゃん!」
「空気清浄機が働いてくれたからだよ!!!お父さんが出てった後フル稼働で全花粉を吸い取ってくれてたからなんだってば!!空気清浄機に感謝しろ!謝れ!崇めろ!!頭が高いわ!!!」
私は怒り心頭でアイロンをかけたばかりのカッターシャツを旦那に押し付けた。
「ありがとー!」
その感謝の言葉は、私に対してなのか空気清浄機に対してなのか。
くそう、空気清浄機様がフルパワーで頑張ってくださってるけど、鼻水が止まらないぞ。…花粉の存在しないどこかに避難するか。ちょっと早いけど、もう晩御飯作っちゃお。
「じゃあ、私は晩御飯作るんで。」
そそくさとキッチンに向かった私であったが。
私がいないのを此れ幸いと、旦那がガレージの荷物を分別し始めやがってですね。
部屋中に花粉が舞い散ってですね。
リビングに足を踏み入れることができなくなってですね。
干してあったスカートをたたむこともできずにですね。
ひどい目に合ったって、お話ですよ…。