プラチナランクのクランマスターは役立たずのサポーターを追放して、サポーターはスキル「オートサポート」を使い成り上がる
なんか流行りっぽいので書いてみました。流行りですよね?
「コーシュ、てめえはもうこのクランを追放だ! この役立たずめっ! クビだ、クビッ」
冒険者たちが作る団体、クラン「ふぁくとり〜」のクランマスターが、皆が集まる寛ぎのホールである一人の若い男性を怒鳴る。周囲には大勢のクランの団員がおもいおもいに寛いでいたが、怒鳴り声を耳にして驚き注目する。
クラン『ふぁくとり〜』、7年前にクランマスターが作り上げ、2年前から急速にランクを上げてきた新進気鋭のクランだ。9ランクあるランクでプラチナランクという6階位の高いランクのクランである。
「えぇっ! 僕がなにをしたんですか? クビは勘弁してください。なんでもしますから」
クランマスターに怒鳴られた気の弱そうなしょぼくれた茶髪の若い男、コーシュと呼ばれた男はホールに敷かれた絨毯に額をつけて土下座をする。ホールは土足厳禁なので、常に掃除がされていて汚れることはないが、土下座すること事態が情けなかった。
その姿を見て、40代前半に見えるクランマスターのおっさんは、ずる賢そうな顔を怒りで歪ませてワナワナと手に持っていた紙を握りつぶして、コーシュへとその紙を叩きつけた。
「なんだこりゃ? 『暴食なる獣のダンジョン』で儲けが金貨200枚だと? うちのパーティーを使って1日かけてこれかっ!」
パラパラと舞い散る紙切れ。それは先程、コーシュが一人で書き上げて、提出してきた今日の収支の報告書であった。
「経費に中魔力ポーション2個使用? 一つが金貨2枚もする中魔力ポーションを2個も使ったのか?」
「は、はい。僕の魔力が尽きまして……。仕方なく使ったんです。すいません、クラウンさん!」
額をゴリゴリとふかふか絨毯に擦りつけて泣きそうな声音で言うコーシュ。それを見てクランマスター、クラウンはほとほと愛想が尽きたと溜め息を吐く。
「魔力ポーションを2個も使うなんてもったいねぇ! それに危機管理もなってねえ。2年間、てめえをサポーターとして使ってきたがもう限界だ。退職金として金貨1000枚やるから、もう出てけ……。役立たずとはいえ、全然休みもとらずに働いてきたからな。ほらよ」
クラウンは亜空間倉庫から取り出した金貨の袋を、ポイッと土下座するコーシュへと放り投げる。袋の口が開きジャラリと金貨の輝きが見える。
「僕はこれまでダンジョンアタックの前の事前準備を色々としてきました。食料品は僕のアイテムボックスに仕舞えますし、ダンジョンのマップ、トラップの位置、敵の出現場所も調べておきましたし、皆さんの武器の手入れもしてきました。戦いだって支援魔法を使って……そりゃ、僕の支援魔法はしょぼいですが、少しは貢献してきたはずです!」
「……そうだな、役立たずの支援魔法を使ってきたな。荷物持ちもしてきたな。だが、お前よりもっと良い支援魔法使いはいるし、もっとしっかりとした荷物持ちだっていくらでもいるんだ。てめえは邪魔でしかないんだよ! お前らもそう思うだろ? なぁ?」
懸命に自分の活躍を話すコーシュを見て、鼻で笑い周囲へと声をかけるクラウン。コーシュは役立たずのために、固定パーティーをクラウンは持たせていない。日替わりで、週替わりで様々なパーティーに入れていたのだ。
そのため、皆はコーシュがいかに役立たずかを知って、顔を見合わせて頷く。
「そうだなぁ、いつも俺たちはあっさりと魔物を倒しちまうからな。コーシュの支援魔法なんかいらないぜ」
「そうよね。希少なアイテムボックスが使えるけど、他の荷物持ちでも良いわよね。魔力ポーションをいつも使うし」
「そうだよな。あの道が安全ですとか、トラップはあそこにありますとか、うるさいしな」
クラウンの言葉に皆がコーシュを役立たずだと同意する。一緒にダンジョンに潜っていたからこそ、役立たずだと皆は理解していたのだ。
「そ、そんな……僕なりに頑張ったのに……」
涙を浮かせて、コーシュは皆の言葉に意気消沈する。そこまで皆に役立たずだと思われていたとは自覚していなかったのだ。
「わかったか? それじゃ、クランを出ていって貰おうか、コーシュ」
クラウンが凄味を見せて睨みつけると、最後の希望とコーシュは尋ねてくる。
「あ、あの、クラウンさんの娘さんのレンカさんは? あの娘も僕のことを役立たずだと言っているんですか?」
クラウンの養女レンカ。たまにクランに顔を出す幼気な少女だが、腕が良く皆に慕われている。その娘ならばと聞いてくるコーシュにクラウンはギクリと身体をこわばらせて、目を泳がすが
「あ、あいつはクランの団員じゃねぇ! まだ12歳だからな。あいつの意見は無しだ!」
誤魔化すように怒鳴るクラウンを見てコーシュは項垂れる。きっとレンカは擁護してくれると思っていたが、クラウンは意見を聞かないつもりだと、絶対にやめさせるつもりだと確信したからだ。
よろよろと立ち上がり、コーシュは金貨の袋を手にホールから出ていく。扉の前でピタリと立ち止まり、ちらりとクラウンに顔を向けると
「これからは僕の仕事を皆でやることになると思います。頑張ってくださいね」
そう呟くと、再び歩き出しクランを出て行くのであった。
コーシュは金貨の袋を手にしながら、不安げに顔を曇らせながら、冒険者ギルドに入った。クランに入っていない冒険者はフリーとして活動しなくてはならない。数年は遊んで暮らせるだろうが、そんなことをすれば、その先で苦労することは明らかなので、地道に頑張っていかなくてはなるまいと。それと、金貨を冒険者ギルドに預けるために。冒険者ギルドは冒険者の金を預かってもくれるので。
「え〜っ! コーシュさん、『ふぁくとり〜』をクビになったんですか?」
珍しく依頼表を持ってやってきたコーシュを見て、不思議に思い尋ねると、クビになったと聞いて、冒険者ギルドの窓口受付の少女モネは驚きで立ち上がる。
周囲に屯していた冒険者たちが何事かと注目してくるので、コホンと咳払いをして、しずしずと椅子に座り直し頬を赤らめる。
「あれだけコーシュさん頑張っていたじゃないですか。雑用を全部一人で熟して……いつも支援魔法が使えないと、コーシュさんのクランの人たちは言っていましたが酷すぎます。クビにするなんて!」
「うん……でも僕は確かにしょぼい支援魔法『オートサポート』しか使えないからね。武器もそこそこにしか使えないし。仕方ないよ」
アハハとカラ笑いをしてコーシュが言うのを気の毒そうにモネは見る。自分から見てもコーシュは頑張っていた。普通のサポーターなら全部の準備をするなんてあり得ないのに頑張っていたのだ。悔しく思う。
「あ、ギルドマスター、聞いてくださいよ! コーシュさん『ふぁくとり〜』をクビになっちゃったらしいんです!」
そこへギルドマスターがちょうどよく通りかかった。どこかへ出掛けようとするのだろうギルドマスターを呼び止める。
出かけようとしていた強面のギルドマスターはモネの言葉を聞いて、目を見開き驚きを示す。
「はぁ〜ん……。そうか、クラウンの奴、コーシュを遂にクビにしたのか。たしかにコーシュの支援魔法はなぁ……」
顎の無精髭をジョリジョリと擦りながらギルドマスターはしかめっ面でコーシュを見てくる。
やはり僕の支援魔法は役立たずなんだと、ますます意気消沈するコーシュ。それを見てモネは気の毒そうにする。
「まぁ、アイテムボックスもあるし、野良パーティーならば問題ないだろ。頑張れよ」
手を振って去っていくギルドマスター。その姿に同情する様子はなく冷たい態度であった。
「はぁ、しばらくはソロで頑張っていきますよ。ハハッ」
諦念の表情で言うコーシュに悲痛な表情でモネは見つめる。この頑張り屋の少年をなんとか助けることができないかと。
「アイテムボックス持ちなのですか? それなら私たちが雇おうと思うのですが」
コーシュが簡単な依頼を受けようと、依頼表を渡そうとすると、後ろからかけられてきた美しい声に振り返る。
「えぇっ! 『勝利の剣』のエリザベスさんっ!」
見ると、そこには白金の鎧に身を包む凛とした見目美しい少女が立っていた。最近はワイバーンを倒したとして有名な第7階位のミスリルランク『勝利の剣』と呼ばれるクランの副マスター、魔法剣士として名高いエリザベスであった。
「明日は『堅牢なる大地』のダンジョンに挑もうと思っていたのですが、知っての通り『堅牢なる大地』の素材は鉱石のために重いのです。アイテムボックス持ちがいれば助かると考えていたのでちょうど良いです。よろしかったら一緒にパーティーを組みませんか? 新進気鋭の『ふぁくとり〜』の支援魔法使いでもあったんでしょう?」
「は、はいっ! 是非お願いしますっ!」
幸運だとコーシュは立ち上がり頭を下げる。モネは良かったと顔を綻ばす。
そうして翌日、コーシュは『勝利の剣』のパーティーと『堅牢なる大地』のダンジョンへと挑むのであった。
翌日、『堅牢なる大地』の中層にて、エリザベスたちは驚いていた。このダンジョンは鉱物系モンスター、ゴーレムや金属の肌を持つモンスターが多く、倒すのは極めて難しいはずだ。
それなのに、まったく苦戦しないで紙でも斬るように、今しがたアイアンゴーレムを倒せたのだから。
「これはいったい?」
パーティーメンバーが呆然とする中で、エリザベスはコーシュへと勢いよく尋ねる。原因はなぜだと考えれば、一つしかいない。コーシュだからだ。
「あはは、僕の『オートサポート』の強化です。これぐらいの敵なら簡単に倒せますよ」
「オートサポート? ですけど、コーシュさんは魔法を唱えていませんでしたわ」
エリザベスは一流の冒険者だ。そしてパーティーのリーダーでもある。仲間の様子を確認していたが、コーシュは魔法を唱えていた様子はなかった。
「僕の『オートサポート』は戦闘に入ると自動的に発動するんです。だから詠唱はいらないんですよ。あ、このゴーレムしまっちゃいますね」
コーシュが手をかざすと、3メートルはあるアイアンゴーレムが丸ごと消える。その様子にぽかんと口を開けて驚きをエリザベスは示す。
「え? 丸ごとアイアンゴーレムを仕舞えるアイテムボックス?」
「はい、僕のアイテムボックスは人よりも多く入れることができるんです。アハハ。あ、次はシルバートータスを倒しに行きませんか? この先の道を右にしばらく進むといることが多いとギルドの資料に載ってましたので」
そのとおりに進むと、シルバートータスがいて、しかもエリザベスたちは簡単に倒すことができてしまった。
同じようにアイテムボックスにシルバートータスを仕舞い、次の魔物の場所を告げて、テキパキと行動をするコーシュにエリザベスはふふっと楽しげに微笑む。
「どうやら予想外に凄い人を拾ってしまったみたいですね。コーシュさん」
「え? 僕、そんなに凄いでしょうか?」
中魔力ポーションを飲みながらコーシュが自覚のない表情で答えるので、ますます笑みをエリザベスは深める。あり得ない程強力な支援魔法、膨大な荷物を入れることのできるアイテムボックス。この人は凄いのに、なにも自覚していないのだと、好意を持つ。
「ええ、『ふぁくとり〜』のクランマスターは馬鹿な男ですね。よかったら、いえ、お願いしますコーシュさん。私たちのクランに入りませんか?」
頭を下げるエリザベスに、コーシュはワタワタと慌てながらも頷いて、『勝利の剣』に入団する。
そうして、ミスリルのクランにて、その真価を発揮して、どんどん名を挙げていく。その後に王女と知り合ったり、奴隷の娘を買い取ったら凄腕に育成したりと、様々な出来事があり、英雄への道を歩き始める。
反対に『ふぁくとり〜』はダンジョンアタックを失敗し続けてランクを3つも下げてアイアンになった。コーシュがいなくなってから僅かに一ヶ月後の話であった。
めでたしめでたし。
「わかっただろ? コーシュの『オートサポート』の危険性が?」
アイアンランクに落ちてしまったクラン『ふぁくとり〜』のホールにてぶどうジュースを飲みながら、寛いでいる男女へとクラウンは声をかける。
その手には冒険者新聞がある。版画を使い作られた一枚っぺらの紙には「『勝利の剣』が『闇の影指す大森林』ダンジョンにてキマイラに勝利! 新人コーシュの力によるものとエリザベスは答える」と見出しに書かれている。
センセーショナルな見出しと、コーシュがどれほど凄いのかを褒め耐えている記事だ。
恐らくは、クラン以外の者たちは、『ふぁくとり〜』のクランメンバーが嫉妬しながら、記事を読んでいると思うだろうが、実際は違った。
その記事を見て、皆は哀れみを持っていた。
「はい……。クラウンさんが言っていた意味がわかりますよ。キマイラなんて、魔法は使うし、呪いも使うし、しかも売れる部分がないですよね? いや、あるけど呪い系統の触媒だから表には出せない物だし、真っ当なクランなら倒しませんよ。なんでキマイラ退治なんか?」
「たぶん、名声が欲しかったんだ。宝を守るボスでもなく、野良のレアモンスターだったみたいだからな。ミスリルからランクを上げるには貴族たちの後押しも必要だ。だから、キマイラなんか倒しに行ったんだろうよ」
「コーシュの『オートサポート』があったからですよね?」
「そうだな。あいつの支援魔法は強力すぎる。きっとその力に酔ったんだ」
クラウンは周囲の団員たちの言葉に、しかめっ面で答える。一回でも一緒にパーティーをすれば馬鹿でもない限り、コーシュの力が規格外だとわかる。クランマスターならば、報告書を読むのだから客観的にもわかるので尚更だ。
「支援魔法は強力なら良いと言うわけじゃねぇ。その時々に合った魔法を節約して無理なく使っていくんだ。なのに、あいつの『オートサポート』はどんな雑魚でも戦いになれば発動する。しかもアイテムボックスもどでかいサイズ。アイテムボックスだけでも常に魔力を消費していくのに、そんな魔法を使われるなど、たまったものじゃねえよな」
「あいつ、いつもモンスターを丸ごとアイテムボックスにしまいましたしね。冒険者は必要な素材だけ剥ぎ取っていくのが基本なのに」
この世界のアイテムボックスは使っている最中は常に魔力を消費していく。消費魔力は小さなアイテムボックスなら微々たるものだが、大きければかなり魔力を喰う。
正直、そこそこの大きさのアイテムボックスの使い手が、魔力消費も少なく一番重宝されるのだ。
「あいつ、いつも魔力ポーションを飲んでましたものね……。たしかにあいつの力で稼ぎは良かったけど、いつ魔力が尽きるかヒヤヒヤものでしたよ。クラウンさんに忠告されなかったら、俺たちじゃわからなかったですけどね」
苦笑いをする団員に、そうだそうだと周りも同意する。
「他の雑用も全部やったからな……やめろっていくら言っても聞きやしねえ」
思わずクラウンは溜め息をついてしまう。これでもコーシュの良いところを活かそうと頑張ったのだ。『オートサポート』に団員が慣れないように固定パーティーはなくし、魔力が尽きた場合の危険性を考慮して日帰りのみのパーティーに入れたりと。
クランマスターとして頑張ったのだ。全ての雑用をやると他の者たちが何もできなくなる。普通の冒険者は自分で全てをなさねばならい。強い冒険者ならば役割分担しても、力で強引に解決できて良いだろうが、平凡な冒険者たちはなにが起こっても生き残れるように技術を身に着けなければならない。
そして『ふぁくとり〜』の団員たちは冒険者としては平凡な者たちだ。
コーシュはそれを潰していた。誰だって、自分よりも完璧に雑用をしてくれるなら、自分ではしない。『オートサポート』だけならまだしも、それは看過できなかった。
「しかも日帰りでも、金貨200枚の稼ぎ。日帰りなら安全なはずなのに、6人の平均的な魔法使いの魔力を満タンに回復できる中魔力ポーションを2個も使う……。どんだけ危険なモンスターに挑んでいるんだ。安全マージンとれよな」
これ以上は団員たちの命にかかわると、遂にクラウンはコーシュの追放を決定したのだ。魔力ポーションがなくなるほど、連続の戦闘が発生したら? 小さな兎との戦いでも『オートサポート』は使用されるのだ。魔力を吸収するモンスターだっているのだ。コーシュの魔力が尽きたその時にコーシュの『オートサポート』に頼っていたパーティーはどうなるか?
ブルリと身体を震わせて、恐怖に襲われる。一気に弱体化したパーティーは酷い目に遭うに違いない。もしかしたら、命を失うかもしれない。
コーシュはなんだかんだ自分を卑下しながらも、自身の『オートサポート』の力を自覚していた。自覚していなかったら、パーティーの能力以上の敵へと案内することなどしないだろうし。
即ち悪意なくパーティーを危険に晒す役立たずであった。『勝利の剣』のクランマスターはその危険に気づかないのだろうか?
「まぁ、すぐに『勝利の剣』のクランマスターもコーシュの危険性に気づくだろ。それよりもアイアンランクに戻ったし、これからのことを話し合うぞ」
パンパンと手を叩き、周囲の注目を集める。本当はアイアンランクでずっと良かったのに、コーシュのせいで高価な魔物をたくさん倒し続けたので、プラチナランクまで上がってしまったのだ。ほとんどはコーシュのせい。
なので、コーシュを追放したその日に、アイアンランクに戻してくれと、密かに冒険者ギルドのギルドマスターを呼び出してお願いをした。
コーシュが抜けて、大規模なダンジョンアタックに失敗したとの噂も流し、目出度くアイアンランクに下がった『ふぁくとり〜』である。
「もう魔物退治の指名依頼もないでしょうしね」
「今度はお湯の温度を変えられて生みだす魔法道具の開発でしたっけ?」
「アクセサリーの凝ったものがないかと、侯爵から手紙来てましたよ」
「レンカさんに護衛をしてもらえれば、『堅牢なる大地』で鉱石掘りができるのですが……土の魔石が少なくなってまして。がーでぃあんどろ〜んとかいうゴーレムを護衛につけてもらっても良いんですが」
団員たちが笑顔で提案を口々にしてくる。結成当時から『ふぁくとり〜』の目的は便利な魔法道具の開発である。団員たちもその理念に同調した者たちが集まったのだ。
もちろんクランに入る条件は付与魔法が使えること。コーシュも使えたのだが、使ったところはテストの時しかなかった。というか、最初にこのクランの目的は話したのだが、なぜかコーシュは聞いてはくれなかった。なんでだろう?
即ち、このクランの面々は冒険者は素材の入手のために仕方なくやっていたのだ。自分で手に入れたほうが遥かに安くなるし。
ワイワイと笑顔で団員たちが話に花を咲かせて、時間が経って、夜もふける。
皆がそれぞれ帰っていくのをクラウンは見送ると、奥のクランマスターの寝室に戻る。
そうして、等身大の姿見の鏡の前でおっさんはポツリと呟く。
「敵の感知、盗聴の可能性はないな?」
「イエス。敵の反応なし。エネルギー反応なし。盗聴の予兆なし」
クラウンの肩の上に野球ボール程の大きさの丸い姿のマシンが空中から滲み出す。
コクリと頷くと、クラウンは姿見の前で呟く。
「『道化の幻想』解除」
その言葉を合図として、クラウンの身体から金色の粒子が生み出されて、おっさんの身体がボヤケて消えていく。
後には黒目黒髪でポニーテールのかっこよいと言われそうな顔立ちの小柄な可愛らしい少女が立っていた。
「あ〜、偽装を解くと楽ですね。おっさんの姿の方が良いのですが」
コキリと首を解すように回して、クラウンこと、養女設定の少女レンカは呟く。
「なぜかスペースオペラ系統のゲームをしていたら、剣と魔法の異世界に来ていましたが、苦節7年。ようやく安定した生活、疑われないレベルの魔法道具を作れそうです」
自分の力はスペースオペラゲームのそれを引き継いでいたために、なんでも機械を作れた。エアコン、コンロ、冷蔵庫などなど。しかし、この世界は生活品にあまり力を入れていなかった。竈は薪だし、エアコンはないし、氷室が普通だ。
これじゃ目立っちゃうと、レンカは自身で魔法道具を作ることを決意した。
「おっさんは便利な生活をしないと死んじゃいますし」
レンカの中の人はおっさんだった。もはや7年も前になるが。ゲームキャラは少女でしょう。おっさんを視界に入れる必要はないと、レンカを操っていたのだ。そしたら、レンカになっていた。
「コーシュの力……明らかにザマァされる役どころに私は見えますが……。偶然でしょうか。まぁ、もうかかわることもないでしょう。ランクが下がってザマァされましたしね」
外から見たらザマァされたように見えるよねと頷いて、レンカは大気圏外に待機している自分の持つ宇宙母艦へとテレポートで帰るのであった。
そうして、クラン『ふぁくとり〜』はコーシュがいなくなったために、ランクが下がりザマァされたのであった。
めでたしめでたし。