マッチ売りの少女
「ライター買ってください」
冬の繁華街で、女の子が独り100円ライターを売っている。年の瀬も近づき、忘年会帰りの酔漢が助平根性丸出して、からかいの声をかけている。
しかし、わざわざ夜の街頭で100円ライターを買い求める物好きはなかなか居ない。彼女は初雪のちらつき始めた夜の街で、消え入りそうな声でライターを売りつづけている。
俺はしばらく彼女を眺めていたのだが、だんだん居たたまれなくなり、ついに声をかけた。
「なあ、100円ライターなんて、売れないだろう?それに今晩はこれから今年一番の冷え込みになるらしいし。あるだけ俺が買ってやるから、今日はもう帰ったほうがいい」
少女は俺の言葉に、ぱあっと華やいだ笑顔になった。
この笑顔を見れただけでも、安い買い物だったなと思いながら、俺はカゴいっぱいのライターを受け取る。
「丈夫で長持ちする、とてもいいライターなんですよ」
無邪気な彼女の言葉に、俺は苦笑する。
長持ちする100円ライターなんて、と思いはしたが、もちろん口には出さない。今時、自分の売るものにきちんと自信を持っているんだから、なかなかどうして、いい子じゃないか。
「そうかい、じゃあ、早速使ってみよう」
期待に満ちた彼女の前で、俺は煙草を咥えてライターの着火ボタンを押す。プシューと言う音とともにガスが噴き出して、それを吸いこんだ俺は意識を失った。
気が付くと、俺は道路の脇に寝かされていた。
人はたくさん通っているのに、みんな薄情だなとは思ったが、この時期、酔っ払って寝てるやつも多いから、誰も気に留めなかったのだろう。
ゆっくりと身体を起こし、上着の内ポケットを探ってみる。
案の定、俺の財布はなくなっていた。
してやられたと思いながら、それでも傍らに残された100円ライターのカゴを眺めて、彼女の変な律儀さに苦笑する。
ズボンのポケットに残っていた500円玉を取り出すと、販売機で酒を買い、一息にあおる。
少し身体が暖まったところでライターのカゴを手に取ると、俺は大きくいきを吸いこんだ。
「ライター要りませんか? ライター買ってください!」