騎士(ナイト)の心得
お姉ちゃんいらっしゃい!
わざわざありがとう!
まだ引っ越して1ヶ月もたってないからさ、あまり片付いてないんだけど…上がって上がって!
カイトくんとサアヤちゃんはお母さんが見てくれてるんでしょ?
先生ももうすぐ帰ってくると思うから一緒にごはん食べよう。
え? 真麻がごはんなんて作れるのかって?
もーっ。いつまでも私のことを子供扱いして!
そりゃ、お姉ちゃんより8歳も年下だけどさ。
私ももう大人なんだよ。
真麻、すごく幸せそう?
うん。私、とっても幸せだよ。
先生がいつも私をやさしく見守ってくれて。
え? 結婚したのに先生っておかしい?
それに先生じゃなくて研究職なのに?
先生にも「もう先生じゃないよ」って言われるー。てへっ。
え? 先生との馴れ初め?
そうだよね、お姉ちゃん、サアヤちゃんのお熱が移っちゃって私たちの式も出られなかったもんね。
馴れ初め…うーん、やっぱりあの時かな。はじめての出会いではなく、再会になるんだけど…
今から3年前、私がハタチになったばかりの大学生だった頃の出来事。
電車で痴漢に遭った時にね、先生が助けてくれたの。
痴漢の手をつかんで「こんなことはやめましょう」って。
はじめて痴漢に遭って怖くて仕方なかった私は「騎士が現れた!」って思った。
その騎士、どこかで会ったことがある気がしていたらなんと…中学の時の塾の先生!
うん。私は憶えてたの。
私が中3の時に先生は大学生のアルバイト講師として塾に入ってきてさ。
受験間近の中3生を受け持つことはなかったから、あまり接点はなかったんだけどね。
先生のことを「ステキだな」って思ってたから。
まぁでも当時は中学生だったから。大学生と中学生じゃ、ね。
だから高校受験が終わって、塾を辞めてからは特に思い出すこともなかったけど、先生は変わらないから私、すぐに気付いたの。
で、先生に「お礼をしたいです」って言ったら「またいつか会えたら、その時に」って。
かっこよかったぁ。
この時は私、別の人とおつきあいしてて。
先生との一件を当時の彼氏、ヒロくんに話したんだ。
そうしたら「そいつと浮気するつもりだろ」ってヒロくんが怒っちゃって。あの時は大変だったな…。
ヒロくん、自分は浮気してるのにおかしいよね。
え? どうして浮気してるってわかったか?
彼の家に長い茶色い髪の毛が落ちてたの。それから、売れないミュージシャンだったんだけど、ファンの子とこっそり飲みに行ってたみたいだし。
それと、親切な人が手紙で教えてくれたのよ。「あなたの彼氏は浮気してますよ」って。
でも私がヒロくんに作ったスマホケースをずっと使ってたから、ヒロくん、私のこともちゃんと好きだったのかな。
ヒロくんは「広之進」っていう名前で。
スマホケースにhironoshinって私がラインストーンでデコって。
広之進、ちょっと珍しい古風な名前でしょ。本人はちっとも古風じゃなかったけど。
なにしろ、売れないミュージシャンだしね。その上、あちこち借金があったみたいで、女癖も悪くて。
先生の件ではヒロくんと大喧嘩になった。
「お前みたいな売女とは別れる」って騒いで。
別れるとか言うくせに私は手を掴まれて、顔をぶたれて。
…怖かった。
ね。異常だよね。その時のひろくんはスランプだとかで、酔ってたんだけどね。
お酒のせいだけじゃないかも。何か変なクスリでもやっていたのかもしれない。
でもね、なんとその翌日から、ヒロくんは失踪したの。
部屋がもぬけの殻!
借金で首が回らなくなっていたのかもしれないね。実は私もお金を貸してて…学生からもお金を借りるなんて最低だよね。
うん、深追いしなかったよ。
それっきり。
私のところに借金取りが来ることもなく、むしろ安心した。
そうそう、先生とはまた会えたんた。
痴漢事件から3ヶ月後ぐらいかな。
私が朝、駅に着いてからSuicaもスマホも忘れたことに気付いて困っていたところ「どうしたの?」って。
なんとね、先生も、ひかりの市駅が最寄り駅だったの!
運命を感じちゃった。
その時は先生から電車賃を借りて、事なきを得ました。
お金をお借りしたから、お礼に後日ごはん食べに行ったんだ。
それがきっかけで、先生とのおつきあいがはじまったの。
私が塾に通っていた中3の時に先生は大学1年で、随分大人に感じたけど。
おつきあいがはじまった当時は院生。不思議だよね。中学生だった私が大学生になって、先生は院生ではあるけれど、大学生っていう同じ立場になるのって。
一気に距離が縮まった感じがした。
でもね、やっぱり先生は先生なんです。
先生はいろいろなことに詳しいんですよぉ。
新幹線やGPSと相対性理論の関係を教えてくれたり。
おかげで文系の私も少し、先生の分野が分かるようになったよ!
あ、そうそう。
Facebookで「去年の今日は何してた?」ってあるじゃない?
先生と付き合い始めた頃、ふと見ていたら、その時の1年前の私は親友のチカと旅行してたの。飛騨高山に。
高山祭を見てみたくてね。
山車がたくさん出て、からくり人形が見所のお祭り。
その時の写真を見ていたら、なんと!
先生がはじっこに写っている写真があって!
お祭りの時期に高山に旅行する人が多いとは言え、また運命を感じちゃった。
この旅行、ひとつ苦い思い出があって。
私、泊まっていたホテルのロビーにあった花瓶を壊しちゃったの。
たぶんバカラで、高級そうで申し訳なくて「弁償します」って言ったら「後でお部屋に伺います」ってことになって。
最終的に事なきを得たんだけど。
旅行と言えば!
お姉ちゃんも先生とニアミスしてるの。
お姉ちゃんの結婚式のちょっと前に、お祝いに家族で日光に旅行したでしょ。
そう、あの旅行から帰ってきた直後にお姉ちゃんのおめでたが発覚して一気に授かり婚になったんだよね。
あの時のカイトくんももう小学生だもんね。
当時、女子高生だった私も今や人妻。
月日がたつのって早いね。
でね、あの時の写真にも先生らしき人が写っていて!
訊いてみたら、確かにその時期に日光に行ったんですって!
運命!って思った!
縁があるだけじゃなくて、先生ね、本当にすごいんだ。
私のことを色々とお見通しで。
「今上映中の映画だと真麻はこれが好きかな」とか、「真麻はパスタならボンゴレだよね」とか、「左のスカートほうが真麻の他の手持ちの服に合うんじゃない?」とか。
ね、すごいでしょ。
だから先生といるとすごく楽よ。
少し困っちゃうのは「ニンジンも少しは食べたほうがいいよ」って言われること。
私がニンジンを嫌いなんじゃなくて、ニンジンが私を嫌いなのにー。
ニンジンのことはあれだけれど。
先生とは好みもよく合うんだ。
私、飲み物でロイヤルミルクティが一番好きじゃない? 先生もそうなんだって。
うん、男の人なのに珍しいよね。
先生に「男性なのに珍しいね」って言ったら「真麻はずっとロイヤルミルクティが好きだから、合わせてみたくて飲むようになったんだ」って。
確かに私は昔からロイヤルミルクティが好きだけど、この当時、先生に言ったおぼえがなくて…。
私の思い違い? そうなのかなぁ。こう見えて記憶力はいいのよ。
ちょっとそれが引っ掛かっていたんだけどね。
ああ、そう言えば。
先生は学部生の時からの親友がいて。
堀江さんって言う人で、結婚式でもスピーチしてくれたの。
明るくておもしろい人なのよ。
先生と付き合いだしてから数ヶ月たった時に「堀江に紹介したいから」って堀江さんと先生と私の三人で飲んだことがあってね。
で、先生がトイレに立った隙に堀江さんが私に変なことを訊いてきたの。
「真麻ちゃんって、地下アイドルだった?」って。
「あいつさ、モテないわけじゃないのに、女っ気が全然ないから心配してたんだけどね。女に興味がないのか訊いてみたらさ『実は地下アイドルの追っかけをしてる。その子のことが本気で好きだから彼女はいらない』って言ってて。で、そのアイドルの子の名前を訊いたら『マーサ』って言ってた気がするんだよね。ごめん、変なこと言って。違うならいいの。忘れて」とか。
え? 私がこっそり地下アイドル活動? ないない!
で、この時は「まさか追いかけていたアイドルと同じ名前だから私を好きになったの?」って思ったんだけどね。
でも、つきあってからの先生はぜんっぜんアイドルの追っかけなんてしてる素振りないし。
「変なの」って思ってたのよ。
それがね、最近、私、分かっちゃったんだ。
ロイヤルミルクティの謎。
それと『地下アイドル追っかけ』の謎。
この家に引っ越してきた時にね。
この家への引っ越しは先生が先でね、私の引っ越しの日は、先生は仕事でどうしても抜けられなくて。
私、1人で作業をしてたの。
あれこれやっているうちにカッターが見当たらなくなっちゃって。
先生のを借りようと思って、先生の机を探ったら。
おかしいのよ。
机が見た目の割には引き出しの底が浅くて。
引き出しが二重底になってたの。
『拳銃でも入ってたらどうしよう』と思ってこっそり二重底の中身を確認させてもらったの。
で、見つけちゃったんだ。
領収書と送付票控え。
領収書はバカラの花瓶。
送付票は高山のホテル宛て。
チカとの高山旅行で壊しちゃった花瓶、先生ったら、私の代わりに弁償してくれていたみたいなの。
え? 私が花瓶を壊しちゃった話を先生にしたから? ううん、高山に行ったのは、先生とつきあう一年前の出来事よ。
それから記録書。
記録書には私の観察日記が書かれてた。
なんと、先生は初対面の中学生の時から私を見初めてくれてたの。
最寄り駅が同じだったのも、私を見守るために近くに引っ越してくれたみたい。
私を見守ることを『真麻の追っかけ』って堀江さんには言ってたみたい。
私の着ていた服とか、食べていたものとか書かれてた。
だから私の好みをよく知ってたのよね。
…うん、そりゃへこむよ。
え? 先生が私のストーカーだからへこんでる?
違う違う。なに言ってるの。
先生と家が近かったことや、旅先が同じだったことが、運命じゃなかったのがすごく残念。
お姉ちゃん、ストーカーってどんなのか分かってる?
ストーカーって危害を加えるものでしょ。
一家が殺害されたりとかあるじゃない。
先生は騎士だと思うなぁ。
先生とは中学生の時から両思いだったのに、5年間もおつきあいせずにいたのはもったいないことをしたなって思ってるの。
まぁ、中学生に手を出すわけにいかないもんね。
私がハタチになるまで待っていてくれたみたい。
うん、先生にヒロくんのことを話したこともあるよ。
ヒロくんとつきあいだした時期はね、先生、短期留学してたのよ。
先生が日本にいてくれたら、あんな思いをしなくて済んだかもしれないのに。
で、ヒロくんのことはね「ある日姿を消してしまって…このままずっと失踪していればいいけれど、ひょっこり姿を現したらどうしよう」って相談したよ。
そうしたら先生は「何も心配しなくていいよ」って言ってくれたの。
え? ヒロくんは失踪したんじゃなくて、先生がヒロくんを殺したんじゃないか?
…ううん。
ひとつだけ、先生にも、誰にも言っていないことがあって。
…お姉ちゃんにだけカミングアウトするね。
落ち着いて聞いてね。
ヒロくんと最後に会った場所はヒロくんの家だったんだけど。
その時に先生との浮気を疑われて殴られたの。
揉み合いになって、私、逃げたくて必死でヒロくんを突き飛ばしたの。
そうしたら、ヒロくんは頭を打って倒れちゃったの。
それで、打ち所が悪かったのか死んじゃったみたいなんだ。
…漫画みたいだよね。
だから私、次の日にヒロくんの死体を処分しなきゃいけないかな、って思っていたの。何の策もなかったけれど。
策もないままヒロくんの家に行ったら、部屋がもぬけの殻。
だから「ヒロくんは生きてたのかな。何か他に問題があって逃げたのかな」って、前向きに考えることにしてた。
でもね、これも謎が解けた。
どうして先生が「何も心配しなくていいよ」って言ったのか。
スマホケースがね、入ってたの。
先生の机に。二重底の中にね。
hironoshinってデコってあるやつ。
きっと先生が、私より一歩先じてヒロくんを処分してくれたの。
責任を感じたのかもね。
先生が留学さえしなければ、私があんな男とつきあうことも阻止できたかもしれないのに。
スマホケースは私が作ったものだから、とっておきたかったんじゃないかな。
先生は私にまつわるものは何でも大事にしてくれるから。
どうしてそんなタイムリーに処分できたか、って?
それは先生が私の跡をつけていたんじゃないかな。
それか盗聴器?
え? 気持ち悪い?
どうして?
ヒロくんを処分してくれたんだよ?
私はすごく感謝してる。
じゃなかったら私、殺人犯として捕まっちゃったかもしれないよ。
え? 警察に連絡する?
何言ってるの?!
お姉ちゃん、気は確か?!
お義兄さん、仕事やめなきゃいけなくなっちゃうよ。
カイトくんだって学校でいじめられる。ううん、学校に通うことすらままなくなるかもね。
お願い、警察に連絡なんてしないで! やめて!
なーんて。
ふふふっ。
お姉ちゃん、日本で年間の行方不明者が何人いるか知ってる?
9万人弱もいるんだよ。
ひかりの市の住人が1年間でまるまる行方不明になっていることになるよね。
その一人一人の行方を探すために警察が動いてくれると思う?
モノ(死体)がなければ警察は動かないよ。
警察に連絡するなら死体が見つかってからにしなよ。
先生が帰ってきたら訊いてみたら?
「ヒロくんの死体はどこですか?」って。
あはははは!
先生はね、私がヒロくんを殺してしまったことは知らないふりをしてくれている。
たぶんこの先もずっと。
だから私も、先生がヒロくんを処分してくれたことは、知らないふりをしようと思っているの。
夫婦間にも秘密はあっていいと思うんだよね。
でしょ?
さ、秘密の話はおしまい。
よかった。先生が帰ってくる前にお姉ちゃんに全部話せて。
そうそう、今日の夕飯はカレーなの。
ニンジンさんはおやすみ。
「ニンジンさんが私のことを嫌いなの」って言えば、先生は笑って許してくれるから、大丈夫。
私、とっても幸せよ。
●ジャンル
恋愛モノと見せかけ二転するホラー
●登場人物
メインは以下の二人
・主人公
女性
物語開始時には彼氏がいる。彼氏とは物語の中で別れ、その後Bとつきあう。
女子大生または働いていてもOK。
以下「A」とします。
・Aの中学時代の塾の講師
男性
Aが塾に通っていた当時は大学生。今も院生で塾講でもいいし、別のバイトでも、社会人でもOK。
以下「B」とします。
●書き方
Aの日記形式がいいかな。でもおまかせ。
●設定
大人になってから再会したAとBが恋に落ちる。
中学を卒業してからは特に思い出すこともなかったが、Aは塾に通っていた当時、Bに憧れていた。
※ここからの設定は読者とAに隠しておき、最後に出す。
AとBの再会はBが仕組んだもの。
Bは誰にも気付かれていないけれど、Aが中学生の頃からAのストーカー。
※以下は最後の最後に出す。
Aは元カレとの別れ話の時、はずみで元カレを殺してしまった。後日死体の隠蔽に行ったら死体が消えていた←Bが処理してくれたことにAが気付く。
平和に進んで、最後に落とす。最後は怖い感じで。
所々、Bがストーカーであることを匂わせる伏線を。
例えばBが「Aは中学の頃からずっとロイヤルミルクティが好きだよね」とか。
↑
昔のことを妙に憶えている上、何年も会っていなかったのに「ずっと」はおかしい。
他は家の場所を知っているとか。
旅先でのAの写真にBが映っているとか。おまかせ。
●流れ
ある日Aはピンチを救われる形でBにばったり会う(ピンチは痴漢から助けてくれる、落とし物を拾ってくれる、バイト先や仕事上でクレームをつけられているところを守ってくれる、なんでもOK)
Aは彼氏から一方的に別れを告げられる。
(ここでは書かないが)その際にはずみで彼氏を殺してしまう。
AはまたBと偶然会うことがあり、最終的に二人はつきあうことに。Bはやさしくて超幸せに。
ラストでBがAのストーカーである証拠をAがみつけ、さらに元カレの死体の隠蔽もBがやってくれたことを知る。
読者はこの時点でAの元カレ殺害を知る。
ストーカーの証拠はいいものと悪いものとあるといいです。各々複数あってもいいです。
いい例)
Aが何かを壊してしまい、こっそり修復したがいつの間にか新品に差し替わっていた。そのレシートを見つける、とか。
悪い例)
Aに近付くための計画書を見つける、とか。
殺害隠蔽の証拠)
元カレのスマホを見つけるとか。
Aは本当にBに感謝して終了。
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セルフ原作をセルフ執筆してみました。
ミーナ




