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新しい(ゲーム)開発様式    こむこむ

2030年6月現在、ゲームソフト開発会社というものは存在しない。


理由は主には2つある。

理由の1つはVRヴァーチャルリアリティが世界中に浸透し、世界中の人がVRに夢中になっているから。

もう1つは、AIがゲームのプログラミングから運用までのすべての工程を担うようになり、唯一、人がやっていた企画やゲームデザインも、ゲームに登場するキャラクター自身(人格を持ったAI)が相談しあって作っていくようになったから。

つまり、人がいなくてもゲームは開発できるようになった。


第1章

私は、島田悠しまだゆう。東京都にあるVR開発を行っているマッドスタジオ社の社員で、今回のプロジェクトのプロデューサを務めることになった。簡単にいうとまとめ役だ。

AIだけに任せると、無難な案しか出てこなくて、結局作るものが決まらないということが多々あるから、決める人が必要ということだ。


今回のプロジェクトというのは、VR世界で遊べるゲームを作るというもの。

もちろん、VR世界にもゲーム自体は存在しているが、スポーツをVRで楽しむようなものが多かったり、

これまでのゲーム機でもできるゲームをVR世界にあるゲーム機でプレイするという意味のわからないものが多かったので、文字通り、これまでにないようなゲームが求められている。


最近のゲーム企画はキャラクター自体が行うようになっているようになっているので、企画に参加してくれるキャラクターを公募したところ、4キャラというか4人が応じてくれた。

4人で相談するか、コンペで企画を決めて良さそうなら開発を進めるという流れだ。運営のキャラクターが足りない場合は、エキストラを足してもいいし、追加募集してもいい。


これからキックオフミーティングを行う予定だ。ミーティング場所はもちろんVR世界だ。

定刻5分前、全員そろったようだ。アバターを見ると、私でも知っているキャラクターもいる。尊敬するキャラクターとこんな形で仕事ができるなんて感激だ。

まずは自己紹介をしてもらうことにしよう。

(島田)「みなさん、初めまして。今回の企画でプロデューサをやることになりました、マッドスタジオの島田です。よろしくお願いします。今回のプロジェクトは、VR世界でこれまでにない新しい、楽しいゲームを作るというプロジェクトになります。ここにいるみなさんはそのプロジェクトに応募してきたキャラクターの方々です。これからみなさんにはまずは自己紹介をしてもらって、これまでに参加してきたゲームやどんなゲームを作りたいかを説明してください。まだ考えていないのであればそれでも構いません」


(※{}は島田の心の声)

{金髪のアバターのキャラが立ち上がったぞ。大剣もってるし、もしかして・・・?}


(蔵人)「初めまして、蔵人くろうどといいます。本業はソルジャー・・・じゃなかった・・・警備員をやっています。よろしくお願いします。代表作は知っているかもしれませんが、SF7ですね。作りたいゲームは、マージャンゲームです。タイトルは『テンピン倶楽部』なんてどうでしょうか」


{あー、やっぱりあのキャラで間違ってなかった。でもマージャン?なんか正統派のイメージがあったのに、どうしてマージャンなのだろう。やることなくなったのだろうか・・・。一応聞いてみるか。}


(島田)「蔵人さん、よろしくお願いします。マージャンゲームなんてイマドキ流行るんですかね。わざわざVRでやる意味もなさそうですけど。それにテンピンってなんですか?賭けるのは違法ではありませんか?」

(蔵人)「案ですので深く突っ込まないでください。テンピンは合法だってえらい人が言ってました。それに俺がやりたいんです。きっと日本中の人たちがやりたいんです」


{日本中ときたか。こんな感じの人だったんだ。イメージ変わるなぁ。これはこれでいいんだけど}


(島田)「まあいいでしょう、次の方、お願いします」


{あー、このキャラはまさか、SF8のあの人!}


(須氷)「須氷すこおりです。俺もSFシリーズの、SF8の主人公をやった。本業は傭兵・・・じゃなくて・・・警備員だ。作りたいゲームはまだ考えてないがゲームなら負けたことがない」

(島田)「須氷さん、よろしくお願いします。お会いできて光栄です。これから考えていきましょう。次どうぞ」


{私は何言ってるんだろう。仕事はまだまだこれからじゃないか。緊張したぁー。警備員やってるんだ。傭兵じゃ仕事ないもんね}


(守尾)「はじめましてー。僕は守尾もりおですー。代表作はスーパーモリオワールドですねー。本業は配管工・・・じゃなかった・・・公務員ですー。作りたいゲームは、ありませんー!」


{大丈夫なのだろうか。でも代表作は1000万本くらい売れてるって聞いたことある。本業は別に言わなくてもいいんだけどな。}


(島田)「はい、よろしくお願いします。元気ですね。どうして本業で言い間違えるのかはわからないですけど、あえて触れないでおきましょう。それに、作りたいゲームがありませんというのは、まだ考えてないということですよね。作りたくなかったら応募しないでください・・・。最後の方どうぞ」

(茸日翁)「茸日翁きのひおです。私は守尾さんの友達です。役職は隊長です。作りたいゲームは、ベースはFPSゲームのようなものなんですけど、参加者が悪いことをして、警備員から逃げ切るゲームです。警備員も2人いるということなので、よりリアルなゲームが作れるんじゃないかなと思います」


{きのこ?隊長ってなんだろう。・・・気にしたら負けだ。マージャンよりはマシな気がする。嫌いじゃないなー。でもこのキャラのイメージと違うよ。全然。}


(島田)「よろしくお願いします。なんかちょっと面白そうですけど、大丈夫なんですかそのゲーム?まぁこれからみなさんでいいものに仕上げていけばいいことなので。力を合わせてがんばっていきましょう」

(全員)「よろしくおねがいします」



第2章

1週間後、2回目のミーティング。

キックオフミーティング後、それぞれに作りたいゲームをもっと考えてもらったり、案をブラッシュアップしてもらった。

キャラ同士で話し合って考えてもいいとは伝えてあるのでどのような案が出てくるか楽しみではある。今日もまたVRのミーティングルームに集まっている。

(島田)「あれから1週間経ちましたが、進捗具合はどうでしょうか?一人ずつ説明をお願いします。」


{1週間じゃそんなに進まないかな。もう少し具体的に検討するポイントを伝えるべきだったか。私もプロデューサとしてはまだまだだな。}


(須氷)「俺は、考えたんだけど、俺もマージャンやりたいし、蔵人と組んでやろうかなと思ってる」


{そうきましたか。まぁほんとは何も考えてないんだろうけど。憧れの須氷さんだし、出てくれればそれでいいよ}


(蔵人)「須氷さんも言ったように、一緒にやろうと思っています。プレイヤーはアバターで戦うのですが、点数がHPみたいな感じになっていて、アガったらカットインみたいな感じで魔法とかアクションを使って点数を減らして、減らした分だけ自分のHPが増えるというようなのはどうかなとか。まだ考えているところですけど。プレイヤーが、キャラクターと一体感をもてるようなシステムが魅力ですね」


{そのまんまやん。何のひねりもない。実質一人で考えてるみたいだから仕方ないとも言えるか。}


(島田)「なるほど、ちょっと具体的になりましたね。課金要素はどうするかとか、勝ったらどういうメリットがあるとかそういうのは考えていますか?」

(須氷)「だからぁ、テンピンっていってるだろ。金をかけるんだよ」


{あぁ須氷さん・・・。本気なのか。でもそうなると審査が・・・。な、なんとかしたいな。}


(島田)「あれ本気だったんですか。審査がめちゃくちゃ厳しくなりますよ」

(須氷)「それに俺たちはプレイヤーが楽しめるかじゃなくて、俺たちが楽しめればいいんだよ。魔法撃ったら楽しいだろ?」


{わがままだ、このキャラ。大丈夫なんだろうかこれで。須氷さんファンも多いし、それはそれでありなのかもしれないけど。}


(蔵人)「ちょっと須氷さん・・・。島田さん、冗談ですよ。楽しいのは楽しいですけど、課金要素などについてはこれからの話です。まぁVRじゃないとできないということではないので、少しアピールが弱い気もしますが、RPGの王道を作って、戦闘手段としてマージャンを使って敵と戦うといいと思っています」


{蔵人さん思ったよりしっかりしてるな。須氷さんがひどいとも言うか。蔵人さん面白くないけど。でこぼこなコンビの方が面白いものができるかもしれないし、このままにしておこうかな。}


(島田)「他の2人はどうですか?」

(茸日翁)「前回のゲームを発展させるために、守尾さんと相談してみました。悪いことっていうと大袈裟なので、ちょっとしたいたずらみたいなことを発端にすればいいかなと思います。動画企画とかでもわりとあるじゃないですか。ドッキリと言ってもいいかもしれない。それをやって、追いかけてくる人からひたすら逃げるみたいな。FPSは敵を倒すとか、サバイバルを楽しむみたいなところがありますけど、暴力的なものが嫌いな人もいると思うんですよ。それにリアルじゃないからこそ許される、というのもあると思いますし。プレイヤーもきっと、そういうのをやりたいっていう願望があるんじゃないかな。子どものころに遊んだ、ケイドロのようなイメージですね」

(守尾)「ですね」


{ケイドロ?ドロケイか。地方で呼び方が違ったりするんだっけ。ちょっと面白くなってきたな。プレイヤーのこととかしっかり考えてるし、本当は良識的な人なのかもしれない。みんながやりたいかというとちょっと疑問は残るけどね。っていうか、守尾さん乗ってるだけやん。}


(島田)「守尾さん、それだけですか・・・。まぁいいでしょう。」


{正直なところこれでは決められないなぁ。決め手がない。もう少し話し合って、実際にプレイヤーの意見を聞くというのもありかもしれないな。というか守尾さんなにがしたいんだろう}


(島田)「えっと、どちらもちょっと具体的になった感じですが、どちらがいいとはまだ言えないですね。本当は今日の時点で1つの案に絞る予定だったんですけど、せっかくだし、蔵人さんと須氷さん、守尾さんと茸日翁さんの2チームにわかれてもう少し話を進めていって、企画書を作成しましょう。必要ならエキストラや他の共演者を誘ってもらってもいいですよ。2人じゃゲームにならないですし。それで話し合ってどっちにするか決めます。それではまた1週間後に」



第3章

またミーティング。細かいところは略。いつものところ、いつものメンバーで。


(茸日翁)「そちらのチームのゲームについては、アイディアは悪くないと思うんですけど、それってプレイヤーは楽しいんですか?結局出演者というかキャラクターが楽しいだけみたいな、そういうことにはなりませんかね?自己満足というか。そういうのでも売れているものはごまんとありますけど、みんながやりたいと思うかどうか、どうしてわかるんでしょうか?」


{なるほど、もっともではある。もしかしたらマーケティングの才能があって、裏付けるものとかあるのかもしれないけど、そんな感じには見えないからな。大剣もってるし。金髪だし。}


(蔵人)「根拠はありませんが、売れる確信があります。勘です。だってマージャンだし」


{だってマージャンだし・・・。}


(蔵人)「それにFPSだって、一部の人が好きな人しかやってない。マージャンとはプレイする人口が違う。それにAIがチートやり放題じゃないか。それこそプレイヤーが面白くない。ゲームにならないよ」


{どっちもどっちだなー。埒が明かないぞ。なにかいい方法はないか}


(島田)「それぞれのゲームが魅力があるかどうかをVRのユーザというか、ゲームのプレイヤーに問うというのはどうでしょうか。どちらのゲームをやりたいかホームページで投票をしましょう。アンケートを取れば、改善点のようなものも教えてもらえるかもしれないし。それなら納得いくでしょう?明日までに企画書を出して、投票期間は24時間で」

(全員)「やりましょう」


なんとか前には進めそうだ。プレイヤーが選んだということであれば納得もいくし、どれくらい遊んでもらえるか予想もできるというもの。ようやく終わりが見えてきたか。集計までは自動でできるのであとは発表を待つのみ。


結果発表当日。いつものミーティングルームで。


(島田)「投票の結果が出ました。投票数は42票です。一人あたり1票までで、両方には入れられないようになっています。どちらも遊びたくない場合は、どちらも遊びたくないという選択肢があります」

(全員)「すくな。24時間もやってそれだけ?」


{さーて、どうなることやら。む、}


(島田)「はい。ちょっとわかりにくいところにあったのか、ユーザにはあまり知られてなかったようです。とにかく、結果発表ー。蔵人さんチームのゲームをプレイしたいという票は9票です」


(蔵人)「え、少なくないか?」


{どういうことだ?もしかしてなんか操作した?}


(島田)「茸日翁さんのチームのゲームをプレイしたいという票は9票です」

(茸日翁)「同点?え?ということは?」

(島田)「どちらもプレイしたくないは19票。無効票5票です」

(蔵人)「どちらもダメということになりますかね。厳しいな」

(島田)「そういうことになりますね。アンケートの意見欄の悪い点を発表します。蔵人さんチームのゲームには、【マージャンは好きだけど、マージャンとの違いがわからない5票】、【つまらない5票】、【VRでなくてもできる2票】、【自己満足ゲー1票】の合計13個のマイナス評価がありました」

(蔵人)「13票か。数え役満だな」

(島田)「そんなこと言ってる場合じゃないです!ちなみに茸日翁チームには、【発想は悪くないがつかまりたくない4票】、【グレーだ3票】といった結果となりました」

(茸日翁)「うぅ、だめかぁ」


{さてどうしようか。}


(島田)「ということで、どちらも採用せず、このプロジェクトは終わりとなるか、全員で一丸となってもう一度考えるか、どちらかということだね」

(蔵人)「全員でやる、にかけてみたいのだけどどうでしょうか」

(茸日翁)「賛成です」


結果として、もう一度話し合うことにした。新しいことは出てこないので、いいとこどりで、作ってみるしかないのか。


第4章

話し合いはまとまり、1か月後、無事にゲームが完成しローンチした。

どういうゲームができたかというと、街を再現した会場で、どこかに隠れながらテンピンでマージャンをプレイして、警備員(捜査員)にバレたら町中を逃げる。

法に触れなければなにをやってもOK。乗り物OK。魔法OK。捕まったら1週間出禁。捕まらずに半荘終わったらプレイヤーたちの勝ちで1日警備員は休み。

キャラクターは警備員役で登場するというもの。人数が足りないときや途中でログオフすると代打ちすることもある。

なんのひねりもない。2つのゲームを足しただけ。でもプレイヤーたちはゲーム内でいきいきと活動している。なぜかプレイヤーたちの評判も上々だ。




あとでわかったことなのだが、投票のときに、蔵人さんが投票の妨害工作をしていた。蔵人さんの言う通り、マージャンは人気のあるゲームだった。

好きなキャラクターが出るのであればぜひやりたいという意見が実は多かったのだ。ただ、妨害工作によって自分の首も絞めてしまった。

蔵人さんは警備員として活躍もできているみたいだし、結果としてよかったのだろう。好きなだけ暴れているみたいだし。


もう1つというか2つ事件があった。須氷さんと守尾さんがタイホされたのだ。

須氷さんは、警備員を買収して、自分がプレイヤーとして遊ぶときに捕まらないようにしていたのだ。電子計算機損壊等業務妨害罪というやつだ。チートともいう。

守尾さんは、実はあの守尾さんではなく森尾さんだった。経歴詐称はいいとしても、さらに問題があって、実は、プレイしているレートがデカピンになるように不正をしていたのだ。

どうやったかは全くわからないらしいが、やっぱりチートはチートである。そしてデカピンはアウトだ。


そうしたちょっとした事件もあったが、今は多くの人たちに愛されるゲームとなった。


おわり


原作:原作者は つみれさん です(編集者注)


プロット

この世にゲームソフト開発会社というものは存在しない。

なぜなら、この世に存在するすべてのゲームソフトは、そのゲームに登場するキャラクター自身が相談しあって作っていくものだからである。ゲームキャラクターは、ソフトの開発者であると同時にその登場人物でもあるのだ。


第1章

ゲームキャラクターたちが集まって新しいゲームソフトの企画を練っていくところから物語ははじまる。第1章は世界観の説明と、ゲームキャラクターたちの自己紹介。


第2章

ゲーム開発時には、キャラクターたちが自分が考えた案やエピソードを通そうと意見を戦わせることがある。次第にキャラクターたちは、プレイヤーのことを常に意識する良識派と、自分がゲーム内で活躍することしか考えていないわがまま派に分かれていく。


第3章

いつまでも議論を戦わせていても埒が明かないことに気付く両陣営。両陣営のリーダー格同士が互いの妥協点を模索する。ゲーム作りもいよいよ終盤へ。


第4章

無事にゲームが完成。開発者たちはゲーム内でいきいきと活動している。プレイヤーたちの評判も上々だ。


おわり

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