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異世界パン屋~赤眼の少女と機械じかけのパン職人~  作者: どるき
第七章 トスカーナ

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夜明けのコーヒ

 わたしとヨハネが明日の仕込みをしていた頃、どこぞの女子大生はこんな会話を電話でしていた。


「マリー、起きているでござるか」

「ああ。でもこんな時間に電話してくるだなんて、何かあったのか?」

「ちょっと夕方からカッツォと頑張りすぎて遅くなってしまっただけでござる。お陰で明日は部屋でぐったりになりそうでござる」

「なんだよそれ。夜通しハッスルの合間に、惚気て自慢の電話とか」

「本題は別でござるよ」

「副題ではあったのか。ちょっとだけ大人だからって、時折イヤミよね、ラチャンって」

「拙者、嘘偽りなくわざとではござらぬよ」

「ハイハイ。それで主題ってのは?」

「明日は例のごとく中央公園で男漁りでござろう? そこでマリーに耳よりな情報でござる」

「?!」

「いつも土日に来るガレットの屋台があるでござろう? そこの隣に新しいパンの店が出ているでござる。恐らく明日も来るでござろうから、マリーにも是非食べてみてほしいでござるよ」

「そんなことか。変に期待させないでよ、んもー」

「ジャポネでは珍しいルンテ風で、市販のパンが口にあわないマリー好みだからというのもあるでござるが、その店の店員さんをマリーにオススメするでござる。前に見せてもらった写真があったでござろう? それに写っていた青年と良く似た人が店員だったでござる」

「マジで?」

「マジマジ。嘘だと思うのなら行ってみると良いでござる」


 この会話の主はふたり。

 ひとりはヨハネが店番をしていた時にパンを買った「初めてのお客さん」。そしてもうひとりは先日見かけたフェイトちゃんのそっくりさん───後に常連となるマリーちゃんだった。


 就寝が昨夜十一時で、今は四時を少し過ぎた頃。

 中央公園に朝九時に間に合わせる為に、わたしは眠い眼を擦る。

 シャワーで体を清めることから始まり、着替えとパンの作りの仕上げが待っている。焼成一回で済んだ昨日と違い、二回になると手間が増える。時間の限られたこの状況では、倍の数を作る負担はそれ以上だ。


「アマネ」


 二回目の焼成が始まって、ようやく一呼吸つけるか。

 そのタイミングでヨハネはさっとコーヒを入れてくれた。

 泥のような濃さのエスプレッソに山盛りの砂糖とミルク代わりの無塩バター。トスカーさん直伝のエナジードリンクだという。

 以前味見をしたときには「とんでもない濃さ」としか感じられなかったそれを、わたしは一気に飲み干していた。どうやらまだ朝の段階だというのに顔色が青いようだ。


「ありがとう。だいぶ効くわね、これ」

「癖になるだろう? トスカーさんなんか、毎朝これをキメないと寝ぼけ眼だったくらいさ」

「それって……効きすぎて中毒になっていたんじゃ」

「否定はしないさ。でもアマネが今飲んだ濃さならまだ大丈夫」

「まるでこの先があるみたいね」

「普通に入れただけで眠気覚ましになる、ダークブリンガー種でこれを淹れるんだ。さすがにトスカーさんも『死にそうだけど、寝ている場合じゃない』ときにしかやらなかったくらいに、効き目は強かったよ」

「お願い。それはさすがに、勝手には淹れないでね」

「大丈夫。ダークブリンガー種なんてなかなか手に入らないし」


 一服を終えて、身体中にコーヒの栄養が行き渡る頃に二回目の焼成が終わった。

 焼き上がったパンを箱に並べ、カーゴに積むと保温のためのシートを被せる。

 ここまでで時刻は六時半を過ぎており、そろそろ出発しなければ遅れてしまう時間だ。


「今日こそ完売! は、高望みかもしれないけれど、そのくらいの意気込みで挑もうね」

「もちろんさ」

「じゃあ出発前に確認───パンの積み込みヨシ、お金ヨシ、電気ケトルヨシ、お水ヨシ、コーヒメーカーヨシ、粉末スープヨシ、紙コップヨシ……」

「全部揃っているね。それじゃあ、出発だ」


 今日こそはと意気込んでわたしたちは中央公園に向かった。

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