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異世界パン屋~赤眼の少女と機械じかけのパン職人~  作者: どるき
第四章 いちご大福パン

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いちご大福パン

 公園でのフィールドワークを終えたわたしたちは、食材を購入して家路についた。

 途中、わたしがとあるお菓子を多めに買うように頼んだことを、ヨハネは小首を傾げつつも了承してくれた。

 ホームに戻るとわたしは早速コックコートに着替えて手を洗い、浮かんだアイデアを試してみたくヨハネを急かした。


「ほら、ヨハネも早く着替えて」

「わ!」


 何が「わ!」なのか、興奮したわたしは気づかない。着替える最中、うっかりジーンズを脱いだ直後にリビングを横切っており、その際にぱんつ姿を見られていたことに。


「慌てすぎだよ」

「そりゃあね。良いアイデアが浮かんだものだからつい」

「それはさっきも聞いたよ。でも、秘密にされたらわからないじゃないか」

「ヒントはこれよ」


 お互いに着替えが終わった後、わたしが閃いたアイデアの答えを求めるヨハネに向けて、わたしはあるものを手に取った。

 それは本日の買い物で購入した菓子の袋。中に入っているのはいちご大福とさらしのあんこで、あんこの方はこれから使う予定のものだ。


「ああ、あんこか。ライ麦のパンであんパンを作ろうと言うわけか」

「それだけじゃないわよ。まあ見ていてよ」


 わたしははやる気持ちを押さえきれず、着替えを急かしたヨハネに手伝わせずにパンをこねる。出来映えで言えばヨハネに任せたほうが良くなることなど重々承知で作業を続けた。

 間に生地を発酵させる時間を挟んだので、二次発酵が終わったのは夜も遅い十時過ぎ。いつもならそろそろ眠る時間だが、今夜のわたしは止まらない。


「これでヨシ!」


 わたしは中にあんことあるものを入れてパンを整形すると、早速窯にそれを入れて焼き上げる。ヨハネには「後のお楽しみ」だと秘密のモノは見せてはいないが、彼のことだから気づいているかも。

 そしてしばらくして、窯から取り出した焼きたてのパンは甘い匂いを漂わせていた。

 あんこの匂いに混じって微かに香るこの匂いをわたしは気に入っている。


「出来たみたいだね」

「ええ。遅くなっちゃったけど、早速食べましょう」


 いてもたってもな気持ちのわたしは、熱々のままパンを二つに割って、片方を口に運んだ。

 サワードウ独特の酸味はあんこの甘味と喧嘩せず、生地のしっとり感はあんこを絡めて舌の上で踊る。そして隠し味のアレの甘酸っぱさが口直しになり、わたしは狙い通りの味に満面の笑みを浮かべた。


「自画自賛だけれど、大成功ね。ヨハネはどう思う?」


 自信満々な顔で、横にいるヨハネを見つめた。


「これは……そうか、木苺か」


 ヨハネが呟いたモノこそわたしの入れた隠し味だ。

 ヨハネが山で採集した自然の恵みの一つ、甘酸っぱい木苺をわたしはあんこの中に混ぜていた。

 いちごとあんこと言えばいちご大福が思い浮かぶが、このあんパンはその応用である。

 名付けて「いちご大福パン」。

 異世界でも定番のいちご大福と比べると、同じ組み立てなのにあんパンといちごと言うのは妙に珍しい。だが、白玉粉の生地がライ麦パンになろうとも、この取り合わせは鉄板だった。

 こっそり生地に混ぜていた米粉も添えてバランスもいい。あえて名前に大福を入れたのは、米粉の隠し味から取っていた。


「だからアマネはいちご大福をたくさん買っていたのか。おやつではなくて、参考資料だったんだね」

「まあね。いきなりで大成功だったから、買いすぎかも知れないけど」

「そんなことはないさ。このパンは良いアイデアだとは思うけれど、気は抜かない方がいい。受かれているときほど思わぬ落とし穴があるものさ」

「言われてみれば───」


 確かにその通りだ。

 そう返事をしようとしたわたしは気を失っていた。

 時刻は夜の十一時を過ぎており、諸々の疲労が蓄積していたわたしは気が緩んだ途端、崩れ落ちて眠ってしまう。


「アマネ?!」


 流石に急に倒れたわたしの様子にヨハネも驚いてたが、すぐにただの寝落ちだと気がついた彼は、わたしを抱えてベッドに運んでくれた。

 眠っていて気づかなかったが、彼はそのとき少しだけわたしの匂いを嗅いで悦に入っていた。

 むっつりすけべのヨハネはどうやら、匂いフェチでもあるのだろう。


 基本となる「初恋の味」に続いて完成した二つ目のパン。

 出来ればあと一つ、それも酸味が苦手な人でも食べられるパンが欲しいと、夢の中からわたしは訴えた。

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