表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界パン屋~赤眼の少女と機械じかけのパン職人~  作者: どるき
第三章 初恋の味

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/49

コンビーフニップル

 電気ネズミは竜の夢を見るのか?


 そういうタイトルの小説がかつて世界的にヒットした事がある。

 ここでいう電気ネズミとは人工知能のことで、いわゆる僕のような存在を予期した作家の仮想がこの物語にはふんだんに盛り込まれていた。


 この作品よりも後に誕生した僕はどうだろう。

 先に結論だけ言えば見る───いいや、見れるのだ。


 がさごそと物音を聞いた僕は「アマネがトイレにでも起きたのか?」と気にせず横になっていた。

 僕は普通の人間ではないので寝る必要はないが、不眠がつづけば体にたまったストレスで不調をきたしてしまう。それにアマネには普通の人間だと認識していて欲しい手前、僕は布団を敷いて横になっていた。

 普通の人間で言うところの眠いという感覚は僕にもある。というか、僕らの産みの親は人であって人でない存在を目指していたようで、僕らが眠れるようにとこの機能を組み込んでいたらしい。

 うとうとと思考が混濁し、スリープモードに移行したことで、僕の脳裏には様々な記憶が写される。それはメモリーを整理するためのロジカルな処理のハズなのだが、その記憶はアマネのことばかりでロジカルとは遠い感情的なものだった。

 普段の姿、ジャージの姿、コックコートの姿。どれも彼女の赤い眼がアクセントとなり、ボディラインの素晴らしさが引き立っている。

 かつての僕はマリーのグラマラスな体によく劣情したものだが、今はもうアマネのことばかりだ。身近な華ともう手が届かない華ではどちらがよいかという話も含むとはいえ、過去に抱いたマリーへの気持ちが吹き飛ぶくらいに僕は自分が思う以上にアマネに恋をしていたようだ。


「ねえヨハネ、まだ起きている?」


 スリープモードの僕は、それが現実なのか幻想なのかわからない。ただアマネが僕の寝床に来たとだけ認識した。


「一緒に寝てもいいかな?」


 むにゅんと何かが当たる感覚に片眼を開けると、そこには裸のアマネがいた。

 抱きついているので全裸かは把握できないが、少なくとも肩と背中は丸見えである。彼女の白い肌は綺麗でそのうえスベスベとしている。さわっているだけで心地が良い。


「ア、アマネ?!」

「ひとりじゃ寝付けなくて」


 抱き着く彼女は僕を抱き枕代わりにしているのだろう。押し付けられた胸や絡まる脚の感触に僕はむしろ寝付けない。ドキドキが止まらなくて感情が制御できないのを感じる程に僕はこの刺激に酔っている。

 これ以上はいけない。

 これ以上は理性が保てない。

 僕の同類からすれば「壊れたか」と言われても反論できないほどに、僕の感情は人間と同じものである。

 男子たるもの意中の異性にこんなことをされて、正気を保てるものか。


「ヨハネは寝苦しい?」

「そ、それは」

「まあ服を着ていたら寝苦しくても仕方がないわよ。さあ、ヨハネも脱いじゃおう」

挿絵(By みてみん)

 僕を脱がせようとして一度離れたことで、アマネの体を僕はようやく正面で捉えた。

 どうやら彼女は全裸ではないようで、下は掛け布団が影となってまだ判断がつかないが、上は胸元を隠す乳当てのようなものをつけていた。

 あれは牛か?

 どうやら以前作ってくれたコンビーフパンに使用したコンビーフ缶に描かれた牛のデザインをあしらったニップルパッチで乳首だけは隠していた。

 確かに雑誌の成人指定としては乳首さえ隠せばオーケーだよ?

 でもそういう問題じゃないだろう。

 そうとしか思えないアマネの格好に僕は理性を失っていた。

 誘ったのはあくまでアマネだ。

 僕だって彼女とそういう関係になりたいという淡い願望はあるので、彼女から求めてくるのなら願ったり叶ったりだ。

 ならばもう行くしかあるまい。

 服を脱いでアマネを押し倒そうとした僕は、その先の記憶を失ってしまう。今宵見た竜の夢はこれで終わりだからだ。


「おはよう、ヨハネ。今朝は少し遅いわね」

「ああ。ちょっと寝覚めが悪くてね」

「きょうの外出だけど、気分が優れないのなら明日にしてもいいんだから、無理はしないで」

「その心配には及ばないさ。体調はバッチリだから」


 本当は心地よい夢だったので寝覚めが悪いというのは語弊がある。

 だが、良いところまでいったのに寸止めで終わったという点で、鬱憤が貯まってスッキリしない夢なのは間違いがなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ