番外編 匂いの記憶
初めてのプロレスごっこの晩、僕は溜まっていた衣服を洗濯しようとしていた。
当然ながら脱衣かごにはアマネが来ていたジャージが入っている。彼女が運動で流した溢れんばかりの汗が染みたそれは、汗の匂いを漂わせていた。
「ん?」
気になって少しだけ嗅いでみた僕は驚く。
アマネの匂いが凝縮された塊が、僕の鼻に襲いかかってきたからだ。
普通の人間ならくさいと言い放つほどに汗の匂いが強い。だが僕にはその匂いが甘美だった。
濃いアマネの匂いを身体中に吸い込んでしまった僕は、その匂いに酔ってしまう。もし僕が彼女とあのままプロレスごっこを出来ていたら、あのまま耽美な運動をして汗をかいた彼女からは、同じ匂いがするのだろうと。
「ごめんアマネ───これ以上はダメだ!」
これ以上はいけない。
理性ではわかっているが、僕の本能がそれを止めようとしない。僕はしばらくの間、彼女が脱ぎ捨てたジャージの匂いを嗅いでいた。
普通の人間ならば勃起が収まらず、性犯罪に走りかねない程に僕の胸は高鳴る。ジャポニウムリアクターが異常な出力を行い、身体中が火照っていた。
もしこの場にアマネが飛び込んできてきたら、理性を失った僕は彼女を襲っていただろう程に僕は正気を失ってしまう。
アマネに目撃されるリスクはもちろんあるとはいえ、僕が普通の人間ならば自分を慰めて気持ちを発散できたのだろうと、僕は自分の肉体を少し恨む。
僕の頭脳はいつでもこの匂いを再生できるように、記憶の隅に「アマネの匂い(ジャージ編)」というフォルダを作成してこの匂いを保存していた。
匂いと脱ぎ捨てられたジャージの手触りだけで、アマネを相手にイヤらしいことを考えてしまったのは飛躍しすぎていた。まあ、別の言い方をするのならば、それくらい今の僕は彼女に惹かれているのだろう。




