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異世界パン屋~赤眼の少女と機械じかけのパン職人~  作者: どるき
第二章 パン屋の滅びた世界

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寝顔

 僕が風呂場から戻ると彼女は寝息を立てていた。

 折角のお風呂が冷めてしまうと思いつつも、幸せそうな彼女を起こすのは忍びない。

 一向に起きる気配のない彼女を眺めるのも案外楽しいものなのだが、こうしているとどうも余計なことを考えてしまう。

 なぜそもそも僕は彼女を保護しているのだろうと。

 合理的に考えれば、アマネと出会ったのも昨日の話である。

 僕には彼女に尽力する理由もしがらみもない。

 僕が彼女を見捨てたところで、垂れ死ぬにしても誰かに保護されるにしても僕には本来関係のないことだ。

 きっかけが彼女の焼いた簡素なパンとはいえ、パンだけもらっておさらばでも良かったのだ。むしろ僕の同類に言わせればそうするべきだと答えただろう。


「似ていないのに似ているのかもなあ」


 ポツリと呟いた比較対照は恩師トスカーさんだ。

 外見どころか性別も違うしパン職人としての力量も雲泥の差である。

 酒好きだった彼と比べたら、酒が苦手なところなんて正反対だろう。

 それでもふたりはある一点が似ている。

 僕のことを心配する素振りでありつつも、悪気のないワガママで僕を困らせるトラブルメーカー気質がとても懐かしかった。

 彼も思い付きの新商品を考え出すと失敗作が多いので、その度に僕がフォローをしたものだ。これから取りかかる「現在手に入る食材でのパン作り」など、まさにこういうときのトスカーさんと同じで、それが僕には懐かしい。

 経緯を考えれば彼女には他に頼れる相手がいないだけではあるが「僕を必要としてくれる誰か」という存在は心強い。

 あとついでの話になるが、彼女の赤い眼がとても好みなのを付け加えよう。今は眠っているので瞼を閉じているが、あの赤い色に僕の心は引かれていた。


「アマネ、そこで寝たらいけないよ」


 気がつくとアマネの寝顔を眺めているだけで三時間程経過していた。

 僕は風邪を引かないようにアマネに毛布を被せ、体を痛めないように優しく枕を抱かせ、そして朝まで目覚めないだろうと想定して部屋の明かりを薄くした。

 もしアマネが起きたときでも驚かないように僕は風呂場に向かい、体を清めた後は隣の部屋で彼女が目覚めるのを静かに待つ。

 思えば誰にも必要とされずひとりで過ごす寂しさでは意図的に忘却していた時間の経過を「楽しいもの」として認識できている自分に僕は驚き、トスカーさんとふたりで幸せに暮らしていた頃もこうだったなと僕は思い返す。

 頼られているはずなのに、なんだか自分がアマネに頼っている状況に僕も少し赤面してしまう。

 この感情を僕の同類に説明しても「理解されない」か「別の意味で受け取られる」かだろう。

 だが僕にとって、この感情はヒトとしてのモノだと胸を張って主張できる。


 生物学的に言えば僕は人間ではない。

 それでも僕はトスカーさんに育てられた人間だ。


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