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異世界パン屋~赤眼の少女と機械じかけのパン職人~  作者: どるき
第二章 パン屋の滅びた世界

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ストレンジ出版

 図書館で騒がしいのは流石に失礼だった。

 司書のお姉さんに「静かにしてくださいね」と怒られたわたしたちは、仕切り直して次の調べものを始める。

 現行のジャポネで使われている黒麦という代用品。

 最初はなにかわからなかったが、黒饂飩という伝統的料理を見て、それがいわゆる蕎麦のことだとようやくわたしは理解した。

 それを踏まえて考えれば黒麦代用料理も輪郭が見えてきた。

 ラーメンは最近日本でも見かけるようになったラーメン風蕎麦に近いものだろうし、ケーキ類はガレットなどの蕎麦粉スイーツのようなものなのだろう。

 パンだけが除け者になったのは蕎麦粉では発酵させても膨らみが悪いからと考えれば辻褄があう。なぜ過去のジャポネ人がパンだけを諦めたのかはわからないが、黒麦では他にも不都合があるのだろうか。


「あら?」


 次々と料理情報をデバイスで検索していたわたしは不意に見覚えのある絵柄の広告を見つけた。

 あの台風がなければ書店で買い求める予定だったとあるラノベの最終巻。なぜこれがこの世界にと驚いてしまう。


「ストレンジ出版?」


 発売元は本来の出版社とは当然ながら別だが、どうやらものはわたしが知るものと同じようだ。

 先に調べたストレンジャーについての情報によれば、わたしの世界からこの世界に迷い混むストレンジャーの年代にはズレが起きるそうだ。

 わたしのような二十一世紀の人間に限らず、あるものは幕末の戦場、あるものは大戦時の特効兵、あるものは二十二世紀以降の未来から呼ばれた人間と、元いた時代と呼ばれる時代には規則性はないらしい。

 わかっていることは、ストレンジャーの来訪がジャポニウムリアクターが発明された世界歴千九百九十年代以降に集中していることと、天然ジャポネニウムが枯渇した二千十年代よりめっきり少なくなるという点。

 わたしのように今更やってきたストレンジャーは珍しいらしく、ヨハネが言っていた過去の保証制度などとっくに廃止されていた。

 ストレンジ出版はそんな理由から補助金もなく無一文だった十数年前のストレンジャーが起こした出版社だという。手持ちの電子書籍リーダーに入っていた本を片っ端から出版したことで、件の人物は成功を納めていた。


「これはすべてがうまくいった時の御褒美ね」


 これが最終巻というのもあって楽しみにしていたのもあるが、わたしは一先ず欲求を押さえ込んだ。

 ヨハネと開くパン屋を成功させることと、いつかヨハネを連れて故郷に帰る日を願って。


 ちなみに、冷静に考えれば咎めるべき存在が欠如した海賊行為であるストレンジ出版の悪意にわたしが気づくのはまた別の話である。

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