表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界パン屋~赤眼の少女と機械じかけのパン職人~  作者: どるき
第一章 ふたりの出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/49

ヨハネの物思い

 明日はアマネと街に行くことになった。

 自分で言い出した事ではあるが、正直言えば僕だって街のことはよく分からないから不安である。

 恐らくもうアンタイオートマタンなどは活動していない事だろうとは予想がつく。それくらい長い間、僕はこの山に閉じ籠っていた。

 それでも僕が今まで街に向かわなかったのはきっかけがなかったからだ。万が一の場合の危険ではなく、その危険を建前に人間を避けていたからこそ僕は街には行かなかった。

 一度存在を拒絶された人間と向き合うのが僕は怖かった。


「久々だが、これでいいだろう」


 僕は使うのがいつ以来になるかわからないあるものの調整を夜通し行っていた。

 言い出したのは僕だし、それに僕は寝なくても平気な体である。これくらいの徹夜は屁でもない。


「そうだ。街に行くのならお金も用意しておかなければ」


 僕はあるものに続いて財布の中身を確認した。

 定期的に掃除しているので埃など被ってはいないが、埃をかぶるやカビが生えると言われてしまうほどに放置していた財布の中身は分厚い。

 この山に来る前にトスカーナ(トスカーさんの店)に残った有り金をすべて財布にしまっておいたこともあり、一万ルート札が五十枚以上は入っているだろう。

 もしかしたら貨幣制度が変わってしまって使えないかも知れないが、その場合は古銭として売却するかこれを売れば金は作れるだろう。折角なので、僕は有り金をすべて持っていくことに決めた。


「それにしても、デートか」


 準備を終えた僕は、朝になるまでベッドの上であぐらをかいた。

 僕はデートなどしたことがないが、二千年問題よりも前にはトスカーさんがよく行っていたのを覚えている。

 最初はデートの意味を知らなかった僕に意味を教えてくれた少女がいたが、彼女は僕が■■■■■■でなければデートに誘ったのにと残念そうにしていた。

 僕だって生身の女性とそういうことが出来なくもないが、それは非生産的なものでしかない。あの少女は僕のことを好いてくれたが、それはあくまで友人としてであり夫婦や性欲の捌け口としては考えていなかったようだ。

 なので僕が正体を隠しているのもあるが、アマネが僕とのデートを口にした時には驚いた。あんなことを言われたのは初めての事だったからだ。

 後で聞いたところによれば日本ではデートコースにホテルの休憩を入れるという常識はなかったため、ホテルでの会瀬をイメージしたのは僕の勘違いだったらしい。それでもこの事実を知らない僕は年甲斐もなく胸をときめかせていた。

 久々に出会った人間で、しかも異性ということで思いのほか彼女に気を許しているのもあるのだろう。それを差し引いても、僕は出会ったばかりだというのに彼女に惚れはじめていた。

 僕が女性を好きになるのなんて二度目だが、最初の相手はトスカーさんのデート相手だったので、一方的に憧れるだけで彼女とはそういう関係にはならなかった。そのためデートの〆のアレについて、僕は知識としては知っていても実践経験はない。

 僕の同類が僕のこんな気持ちを聞けば「気でも狂ったか」とでも言われるだろう。

 だがトスカーさんなら僕の気持ちを理解してくれるハズだ。

 僕にすけべ心を教えてくれたのもまた、彼なのだから。


「お前、マリーのことが好きだろう?」


 トスカーさんが晩年たずねたあの質問。

 マリーとは彼が毎週デートしていた麗しい女性。

 そしてこの頃マリーは戦争の影響で行方がわからなくなっており、僕らの中では思い出に咲く華に過ぎなかった。

 あのときの僕は「憧れの人として好き」だと答えたが、今思えば遠慮なく「恋人にしたい人として好き」と言えば良かったのかなと、僕は朝まで物思いに耽った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ