3日目昼
仕事のためギルドにやってきた。
俺は30歳になり魔法使いになったあと、魔法使いのみで構成された『マジマジック』という名前のパーティに所属した。このパーティは主に魔物討伐を生業として仕事をしている。
で、俺は補助魔法担当だ。魔物討伐の花形ともいえる攻撃魔法は別のメンバーが担当だ。
もちろん俺が攻撃魔法担当じゃないのは、虫を殺すのにも躊躇するような人間だからだ。
だってほら、虫だったり魔物だったりをさ、直接痛めつけたうえに殺すとかさ、なんかアレじゃん。心が痛むじゃん。
人間が生きるために他の生き物を殺すことはしょうがないことなのかもしれないけど、命ってもっと大切で尊いものなんだと思うんだよ。
とまあ、そんな呑気なこと考えているうちに魔物にソッコーで殺されちゃうのが俺のような人間なんだけどさ。
ギルドの魔物情報掲示板の前が俺たちパーティメンバーの待ち合わせ場所だ。
俺が着いたときにはすでに他の3人は揃っていた。
「よお、遅かったナ」
パーティリーダーのルーニーさんが俺に向けて手を挙げ、真っ先に声をかけてきた。ルーニーさんは魔法使いになって15年以上のベテラン魔法使いだ。結婚もしており、子どももいる。素敵なパパさんだ。
「昨日も急に休んで今日も一番最後に来るなんて……何かあったのかい?」
次に話しかけてきたのは女魔法使いのキララさんだ。キララさんは2児の母。ママさん魔法使いだ。ちなみに現在はキララさんの旦那さんが子どもたちの育児をしているらしい。
「なんといいますか、昨日今日と具合が悪かったんです。まだ本調子ではないんですが、でもとりあえずは大丈夫です。みなさんすみませんでした」
一番下っ端の俺は本当の理由は伝えず口を濁して謝った。
性奴隷を買ったらサキュバスだったせいで常に対応に追われてしまい、昨日は休み、今日は遅刻ギリギリになってしまいました、だなんて口が裂けても言えるはずがない。
「アレンさん、体調が悪くなったらすぐに私に言ってくださいね。その、癒しますので」
俺にやさしく語りかけてきてくれたのは女魔法使いのメアリさん。メアリさんは俺と同じく補助魔法を使えて、さらには回復魔法も嗜んでいるという優秀な魔法使いだ。
メガネをかけており長い緑髪の美しい女性だ。まだ結婚はされていないらしい。美しい女性なのにもったいない。
「よし、それじゃあ行くとするゾ!」
ルーニーさんが号令をかけ、俺たちは魔物討伐をするため洞窟へと向かった。
◆
洞窟の奥地までやってきた。
道中で数匹の魔物と出会ったが、魔物たちは魔法で燃やされたり切り刻まれたりして呆気なく死んでいった。
「アレンさん、体調は大丈夫ですか? 具合悪くはないですか?」
「あ、はい。大丈夫です。ご心配おかけしてしまいすみません。ありがとうございます」
メアリさんはこうやって時々俺の方を見て体調面を気遣ってくれた。なんてやさしいのだろう。
「しっかしこの洞窟はぬるいわねえ。お宝もしょっぱいし」
一方キララさんは宝箱から出てきた銅の腕輪を腕にはめて愚痴を言っていた。
キララさんにとっては銅の腕輪はしょっぱいお宝らしい。俺はそこそこ金になるお宝だと思ってるんだがなあ。
「おい、見つけたゾ! 目的の魔物ダ!」
ルーニーさんの声が響いた。
そしてルーニーさんの指差す方を見てみると、岩陰に洞窟の主、ドラゴンがいた。
「さあて、いっちょやりますかね! メアリ! いつものお願い!」
「はいっ!」
キララさんの合図を聞いたメアリさんは魔法『バリシバル』をドラゴンに向けて放った。
「グオオオオオン!」
ドラゴンはうめき声を上げた。魔法の効果アリだ。ドラゴンはその場から動けないでいる。
「アレン! 次頼むゾ!」
「はいっ!」
俺は魔法『バイマジ』をルーニーさんとキララさんにかけた。この魔法は魔法攻撃力が倍になるという補助魔法だ。
「よしっ! キララ! いくゾ!」
「あいよっ!」
ルーニーさんとキララさんは魔法『フレアアロー』を放った。
ドラゴンの体に無数の火の矢が次々に突き刺さっていく。
そしてドラゴンは死んだ。道中に遭遇した他の魔物と同じく呆気ない死だった。
俺たちパーティが強すぎたのだ。
「よし討伐完了ダ! ドラゴンの尻尾を切ってギルドに持ち帰るとするゾ!」
そう言うとルーニーさんはドラゴンに近づき尻尾を切りはじめた。他のメンバーもドラゴンに近づきルーニーさんの様子を見る。
「おや? 岩陰の隅にドラゴンの卵があるじゃないか」
ルーニーさんが切断作業をしている途中、キララさんがドラゴンの卵を発見した。
ドラゴンは母親だったのだろうか。卵を守って死んだのだろうか。
俺も近寄って見てみたところ、卵は四つあった。大きな卵だった。
「ちょうど卵は四つだし、みんなで一つずつ割るとするかねえ」
「えっ、割るんですか」
俺は思わず聞いてしまった。
「ああ、もちろん割るゾ。なんたってドラゴンは危険だからナ。卵が孵化して成長してしまう前に、脅威を未然に防ぐんダ」
ルーニーさんがそう説明したあと、キララさんは躊躇なく割った。
間もなくして尻尾の切断を終えたルーニーさんも、簡単に卵を割った。
「これはしょうがないことなのでしょうけど、やっぱり可哀想ですね」
メアリさんが俺に向けて小声で言った。
「そうですね」
「居た堪れないといいますか、なんといいますか」
「あのドラゴンも必死に生きて、子を授かり、ついさっきまで卵を守っていたのでしょう。命って何なのでしょうかね」
俺とメアリさんは価値観が似ているのだろう。魔物とはいえ一つの命。その命について語り合った。
そして卵を割っていない俺たち二人も最後に卵を割った。中からはとろりとした黄身が流れ出してきた。
こうして俺たちパーティの任務は完了した。
洞窟からの帰り道、メアリさんは俺を心配してか、不安そうな顔で俺を見ていた。