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彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
第三章:堕落した神々との戦い:アルタイル編
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深淵の使い手


「『邪王炎殺黒龍波ジャオウエンサツコクリュウハ!!』」


「......」


 ある男が森の中でそんなことを叫んでいる。しかし男は一人ではない、もう一人男と酷似といよりもまったく同じ人物が木に寄りかかるようにして、その光景をただ呆然と見ている。


「くそ! やはりダメだ!」


 男は吐き捨てるようにそう言う。そんな光景をもう人は見ていることしかできないじゃなくて何か言っても聞く耳を持たないからだ


「よし今度は! 『オーロラ・エクスキューション!!』」


 しかしそのオーロラ・エクスキューションの効果は何も発揮されない。理由は簡単、ただなんかカッコいいことを言いたい......ただそれだけの意味しかないからだ。


「ねえ兄さん」


「なら最後は! 『深淵に呑まれろ、ダークインフィニテイィィィィ!!』」


とうとうしびれを切らした気に寄り掛かっている男が、先ほどから自分の世界に浸っているもう一人の男をそう呼んだのだが、まったく聞こえていないのか体に芯にまで響くかのごとく声で叫ぶ。


「はあー......兄者」


「何だ弟者? 何か用か、それなら手短に済ませてくれよ」


 何かを諦めたかのように溜息をした男と、いつもの呼び名で呼ばれそこで初めて反応した男、彼らはクラスメイト達から「影井兄弟」と呼ばれている。下の名前も一応あることにはある。しかしほとんどの場合、「なあ兄、まだ封印されし右手の封印は解かれないのか?」や「ねえ弟君、その包帯ってちゃんと洗ってるの?」、そして極めつけは「影井兄弟、そろそろそ受験だ。それを卒業する時期が来たんじゃないのか?」とそんな感じである。


 一つ目の兄の回答は、「封印を解いてしまうと半径千キロが焼け野原になってしまうが、それでもいいのか?」。二つ目の弟の回答は、「あ、大丈夫です。毎日アリエールで洗濯しているし、それに予備もいくつかあるので」。気になる最後は、「そのジャッチメントは正しいのか? このままで本当に半径せ「はい分かりました兄にもしっかりと言い聞かせておきます」」。


 気になる効果は焼け石に水。つまり、誰一人として彼らを下の名前で呼ぶことがない、そして彼らはまったく変わらないということだ。それは生徒だけに留まらず、教師からもそう呼ばれている。すでに兄と弟が下の名前として認知され、二人同時の時は熟語で呼ばれてしまうという現状だ。そのことに一応まともであると自負している弟だけが気づいているのだが、すでに深淵に染まっている兄はそのことを微塵も知らない。


「もうこの設定やめにしない? 僕かなりめんどくさいんだけど.....」


「設定? 何のことだ?」


 どうやら弟の心からの願いは、まったく兄の心に響いていないように見える。それもそのはず、なぜなら兄の心はすでに一生取れることがない深淵に染まっているからだ。


「ならもういいや」


「そうか、それで一体何のようだ?」


「この前スドウ君から、力がほしいかって訊かれた時なんで断ったの? 兄さんじゃなくて兄者ならそれを望むんと思っていたんだけど......」


 彼らにもカミタニ同様スドウからの誘いがあったのだが、それを兄を断った。その理由を訊いていない弟は、それが気になり訊くことにしたのだ。


「そうだなあ......あいつを信じることができない、それだけだ」


「なんで信じられないの? 一応クラスメイトだよね?」


 兄は封印されし右手を包帯の上からさすりながらそう答える。あの時しかし、案の定望んでいた回答ではなかったので、弟は普段兄の前では付けている包帯が巻いている左手で頭をかきながら更に踏み込む。


「スドウ......あいつは『深淵の使い手』じゃないからだ」


「......何それ?」


 それを聞き弟は、眉を顰めとうとうあるところに足を突っ込んでしまう。そこは、『底という概念が存在しない深淵の世界』だった......。


「深淵とはこの世界の始まりと終わりと司るもの。それ概念であると同時に実際に存在するんだが、その使い手のことを敬意を払い、『深淵の使い手』と呼ぶ。これ以上は俺も知らない」


 兄は香ばしいポーズを取り、弟にそう説明した。それを聞いて弟は一瞬フリーズしたかのように固まっている。


「......それ、言ってて恥ずかしくないの?」


「? どこに恥ずかしいところがあるんだ?」


 気をどうにかして持ち直した弟は頭痛がするのか頭を押さえながらそう訊いた。しかし、まったく兄には伝わっていたなかったようだ。それを見て弟は諦めざるを得ない。


「はぁーそれで、その深淵の使い手っていうは誰なの? 一応いるんだよね?」


「いたことにはいた、だが......そいつは俺達のせいで死んでしまったんだ」


 そ突然兄の纏う雰囲気が変わったのを、弟は瞬時に感じ取る。


「......そう、リンドウ君のことだったのか」


 唇を噛み、あの日のことを後悔している兄の言葉を聞き、弟も同様に顔を歪ませながら自分達のせいで死んでしまったと思っているが、実際には元気ピンピン絶好調であるその人物の名を呟いた。


「ああその通りだ、だから俺達はやらなければならない......敵討ちを」


「でも魔族は降伏したって話だから、今それをするとまた戦争に発展するけど」


 弟の言う通り、数週間前魔国からのある使者がこのユーリシア国に訪れた。そして王であるグラムの前まで通されるとその使者は、「長年続いた人魔大戦は、我々魔族側の降伏で手を打ちたい」と突然そう宣言したので、その場は騒然となったのは語るまでもない。


「安心するんだ、いきなりそんなことをするつもりはない」


「? じゃあどうやってリンドウ君の仇を取るの?」


「後一週間したら、魔族側から魔王が来るという話を覚えているだろう」


 続けざまに、「約一月後、この国に魔王ラシャド様が来られるだろう。その際我々は、何一つ武器を付けないつもりだ」とそう自分の武器一つ装備しない姿を、自身を警戒するかのように取り囲む王宮騎士団に見せつけながらそう宣言したんだ。


 本来ならば魔族が、この謁見の間まで通されることは異例のことだ。しかし、その使者がこの場所まで通されたは、何一つ武器を装備していないことともう一つ、ある大きな理由がある。


「そういえば団長さんがそんなこと言ってたね」


 謁見の許可を承諾したのは、王宮騎士団団長のアレックスだ。その理由は、彼は団長と宰相の位に就いる、故に今回のような場合に限り王と変わり、指揮と取るようにと王自ら彼に命令しているからだ。


 そんな彼は、単身武器無しのこの場に来た使者である『不死身の兵士長』、ジーンを見て王への謁見を許可することにしたのだ。


「その通りだ。そして俺はあることを考えたんだ」

 

「はっ! もしかして魔王に直談判するの!? やめときなよ兄さん! ワンパンされる可能性大だよ!」


「兄さんじゃなくて兄者だ。それを話は最後まで聞くんだ」


 自身の兄である彼が突然の凶行に走ろうとしていると思った弟は、すぐに手ぶり素振りで兄が魔王にワンパンされるシーンを再現する。しかしそれを見た兄は、しっかり呼び名を訂正し、言い聞かせるようにそう言うだけだ。


「そ、そうだね、ごめん」


 それが話の腰を折ったこと対する、それとも呼び名を間違ったことに対する謝罪なのかどうか、弟は疑問に思っていたが兄はそんな弟の様子を満足そうに見ている。


「気にするな。それで話の続きだが、人族側の有力な王達とその魔王が、このユーリシア国で会議を開くそうだ」


「あー協定みたいなものでも結ぶってこと?」


「さあな、俺もそこまでは知らない......だが、そこで何か流れが大きく変わるような気がする」


「流れって何の? それとリンドウ君の死が関係しているってこと?」


 突然兄が曖昧ながらもどこか確信するかのように言うので、弟はそれが気になり尋ねる。


「これは勘だからな、あまり当てにしてもいいかは知らんが、リンドウの死の真相がそこで明らかになるかもしれないような気がするんだ」


「えっ!? あれってあの変な魔族がやったことじゃないの!?」


 あの事件があった日から数週間後、彼らが実際に魔族がどのような姿をしているのか間近で見る機会を得た。その魔族とは、あの事件の原因になったと大半の者達が思い込んでいる犯人のことだ。


「俺も初めはそう思ったんだが、あいつは何か隠しているような気がするんだ」


「でもあの魔族、『魔族である自分がやりましたよ』って何か丁寧口調で自白していたけど」


 その時の魔族は、飄々としたどこにでもいそうな好青年の雰囲気を出していたのだ。そんな魔族は、彼ら異世界人を見ると自身が魔族であることを意識付けるように強調して言っていた。


「そうそこなんだよ。魔族であることは分かり切った事実だ、なのに奴は魔族であることを強調するかのよう言っていた。何かおかしいとは思わないか?」


「うーん、言葉の綾とかじゃないの?」


 その部分に疑問を抱いている兄はそのことで悩んでいる様子だが、それが分からない弟は兄の疑問に感じていることに気づいていないようだ。


「まあとにかく最初に言ったと思うが、これは俺の勘だ。外れることもあるかもしれん、だからあまり深刻に考える必要はない」


「でも、もし仮に兄さんの「兄者」......兄者の話が本当だったら、リンドウ君の敵討ちはまだ可能ってことだよね?」


「ああ、そのために俺とお前は今だ特訓しているんだ。ナリタも他の場所でやっているだろうが、他の奴は地球に帰る準備でもしているだろうな」


 冒頭あんなことを叫んでいた兄だが、一応それ以外にも弟と一緒に訓練をしているのだ。彼らはクラスメイト達から悟られぬよう、ナリタ同様他の場所で密かに訓練に励んでいたのだ。


 残念ながら彼らは悟られないようにしているつもりだったが、すでにそのことを委員長であるカミタニと担任である小笠原から気づかれてしまっている。つまり彼らの行動は、すべて徒労に終わっているのだ。しかし、そのことに彼らは微塵も気づいていない。


 そして今日も彼らは、主に兄がアンダーグラウンドと呼んでいる秘密の特訓場で訓練をしている。


「とにかくだ。今俺達にできることは、少しでもこの『フォトンランサー ファランクスシフト』を習得することだ」


「あれ? なんままた増えてない? それにしてもよく噛まずにそんなこと言えるね」


「当たり前だろうが、これは転生前の頃の俺がよく使用していた技だからな」


「でもそれって、『魔法少女リリカルなのは』で出て来る技なんじゃ......」


 この世界に来て弟は徐々に回復の兆しに向かっているようだが、それに比べ兄はさらに悪化の方に進んでいるようだ。


 そんな会話をしながら、彼らは『今』すべきことするために再度特訓を始めるのであった。

 



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