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彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
第三章:堕落した神々との戦い:アルタイル編
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元クラス委員長


これは、ユウトとアスナがこの大陸にいない、つまり未来の話である。



 ユーリシア国の城にある一室で、異世界人の男が一人椅子に座り頭を抱えていた。


 彼は同郷である一部の異世界人達からある意味において煙たがられているのだが、そのせいで悩んでいるというわけではない。むしろ彼はそれを知ったうえでそのように振舞おうとしている。それは仲間であるクラスメイト達の命を、彼らに襲い掛かろうとする危険から守るためにだ。しかし本人はそのことに口にすることはない。なぜなら彼にとってそれを口にしないということは美徳であり、クラスメイト達の命を守ること、それは『元クラス委員長』であっても当たり前のことだと認識しているからだ。そんな彼の過保護下にいるクラスメイト達は、残念なことに彼の心にあるその根幹の部分をよくは理解しておらず、表層的なところしか見ていない。だが一応彼の思いの少しは、大半の者達には伝わっている。しかしながら、それが本当に伝わってほしいと思う人物に限ってなぜか伝わない。つまり、残念な人物なのであった。


 そんないつも空振りばかりしている異世界人の名前は、カミタニコウキ。


 彼は今、目の前に立ちはだかる大きな問題に頭を悩ませている。






「僕は一体どうすればいいんだ......」


 僕ーーカミタニコウキは、大きく分けてある三つのことについて苦悩していた。


 一つ目は、部屋に閉じこもっている一部のクラスメイト達だ。


 あの日、リンドウ君があのダンジョンで行方不明。そして最悪なことに亡くなったという訃報が、同じクラスメイトである僕達の耳に飛び込んできた、その日。それのことを聞いたその一部のクラスメイト達は、食事以外部屋に籠るようになってしまった。彼らと接する機会はあまりないのだが、食事の時だけその表情を窺い知ることができる。


 その時の彼らはどこか疲れ切っている、そんな雰囲気を醸し出しているように見えた。それを見て何か話しかけねばと思うのだが、そもそも今の僕では何を話せばいいのか思いつかない。


 なぜならそれが一学生としては、当たり前の反応だから。誰だって同じクラスメイトがそんな悲劇に遭ったならば、ダンジョンになんて行きたいと思わないだろう。そんな中ダンジョンで訓練をしている彼ら以外の存在である僕達は、異質な者として見られても仕方がないと思う。だから彼らのその行動を諫めるなんて以ての外、むしろある意味においては推奨すべきことだと思う......地球ならば。


 この世界に来てもう半年が過ぎようとしている。この世界は言ってみれば、トールキンの『指輪物語』の同じ様なものだ。だからこの世界では戦うことが当たり前なんだろう。そのためにこの世界に召喚されたんだと今更ながらに思う。


 召喚された当初、右も左も分からない状況だった。だから目に前に提示してある『帰還の方法』を聞いた瞬間、僕の中ですでに決意は固まっていたんだ。


 ......でも今ではその選択は、間違いだったのではないかと思ってしまう。


 このユーリシア国が嫌いというわけじゃない。あの行動は今でも間違っていないと断言できる。それだけでこの国の人の心を、魔族という脅威から救われたかもしれないからだ。


 だが結果としてリンドウ君が亡くなってしまった......。


 もしあの時、僕の意見だけではなくクラス全員の意見を訊いて判断していれば、こんなことにはならなかったのではないか.....そう考えてしまう時がここ最近の悩みの一つだ。


 

 

 二つ目は、ダンジョン問題だ。


 これは自分自身のせいでもある。あの事件の日から僕は、クラスメイト達を危険から守るためあまりにも過保護なぐらいの対応を取るようになってしまったんだ。もし仮にダンジョンに来る人数が減ってくれれば、もっとまともな対応を取れるかもしれないんだけど......。


 そんな対応を見てある人物が僕に声を掛けてきたことがあった。


 それはナリタマサト君、リンドウ君と仲の良かった人物だ。僕は彼とあまり話をしたことがないのでよく分からないのだが、仲の良かったリンドウ君が亡くなったことが原因なんだろう、かなり目つきや雰囲気が変わったような気がする。そんな彼はやはり僕のこの戦法について異議を申し立ててきたが、その時あまりそのことを考えている暇はなかった。クロサキ君のこともあったからだ。彼もあの日以降どこか変わってしまったような気がする。そんないろんなことが、僕の頭の中を駆け巡っていたんだ......だから僕はナリタ君に、自分でもよく分からない感じで返してしまった。今でもなんであんな恥ずかしいことを言ったのか、少し悶えてしまう時が発作のように起きることがしばしば。


 


 そして三つ目は、一つ目と少し関係しているであろう『帰還の方法』についてだ。


 召喚された当初、『この世界が安定したら神様達が地球に帰してくれる』そう聞いて、勝手に魔王を倒したら帰還できると思っていた。だが数週間前、このユーリシア国にある一本の朗報が飛び込んできた。


 『魔国の降伏宣言』がだ。


 これを聞いた時は思わず耳を疑ってしまった。もしこれが本当なら、僕達はすぐに地球に帰ることができるそう思ったからだ。部屋に閉じこもっていた彼らもそれを聞くと涙を流しながら喜んでいた。というよりもほとんどのクラスメイト達が喜んでいたのだが、ある五人の人物だけが納得していないような表情をしていたのだ



 ナリタマサト君、フユジマ雪さん、双子である影井君達、そしてスドウ剛君の五人が。


 ナリタ君の気持ちは痛いほど分かる。親友とも呼べる人物を魔族に殺されたんだ。そんな魔族が勝手に降伏宣言をしてきた、つまり仇である魔族を殺すことができない。そんな彼を諫めていたのはオガワラ先生だ。先生は、彼を別室に連れて行き何か話をしたのだろう、戻って来た時の彼は一応は納得していた様子だった。


 次にフユジマさんについては、何となくしか分からない。以前ユイから亡くなったリンドウ君と付き合っていたという話を聞いたことがあった。だからマサト君と同じ様に仇を取ると思っていたのだが、どうやら他の事情があるように僕には見えた。それが気になり実際にフユジマさんに訊いたのだが、クロサキ君同様何か理由を言ってははぐらかされてしまった。なので、彼女と親友であるユイに訊いてみたのだが、やはりユイも聴けていないと言っていた。故に彼女の心境については何となくしか分からないという結論に至ったのだ。


 影井君達はナリタ君と同じ様な感じがする。ここ最近になって気づいたことだが、彼らはよくダンジョンではなく別の場所で特訓をしているようだ。元委員長だけどクラス全体のことを把握しているといってもいい。そして、そのことに彼らも気づいているかもしれない。でもそれを知った上で何も言わないは彼らの心境を理解しているつもりだからだ。先生も同様にそこことについて気づいているようだが、目立ったアクションを取っていない。たしか先生のモットーは,『教師は指導者。生徒を正しい道に導く者』だったはずだ。つまり彼らの行動は正しいのだろう、僕も同意見だが。


 しかし、そんな彼らの中でも一番よく分からない人物がいる......スドウ君だ。当初はナリタ君や影井君達と同じだと思っていたのだが、どうやら他のことを気に掛けているように見えたのだ。気になって声を掛けようとするたびにどこかに行ってしまう。先生にも相談したのだが、僕同様に頭を悩ましているのか、「スドウについては私もよく分からない。どうにかしようと思って声を掛けるが、何故か逃げてしまうんだ。彼はそれを望んでいないように私には見えた......」、そう眉間を手で押さえながら苦悩していた。


 だが最近になって彼が完全におかしいと思えるようになったのだ。それはーー


「コンコン」


「えっ、あはいどうぞ。開いていますよ」


 そんな考え事をしていたら突然扉から誰からがノックしている音が聞こえた。この時、ダンジョン訓練の相談のためにユイかリョウタが来たと思っていた。しかし扉を開けた人物は、たった今僕や先生が悩んでいた人物だ。


「カミタニ、ちょっといいか?」


 その人物とはスドウ君だったのだ。


「スドウ君か、どうしたんだ? そんなところに立っていないで部屋に入って来たらどうだい」


「いや、手短に済ますつもりだ」


 ここ最近、彼から何か嫌な雰囲気を感じるようになった。しかし、その違和感が何なのか判別することができない。以前の彼からは、そんなものを感じたことがなかったのだが......。


「そうか......それで何のようだい?」


 そのせいか、少し緊張してしまい冷汗のようなものをかいている気がした。そんなことを知らないスドウ君は、眼球がでるのではないかというぐらいの眼力で僕の目を覗き込む。


「単刀直入に言う。お前、力がほしいか?」


「へ? 何だいいきなり、力がほしいかって。話の内容が見えてこないんだけど」


 スドウ君の言いたいことがまったく分からない。いきなり部屋に来たと思ったら、今度は突然力がほしいかって言われたんだから。そのことが気になり訊き返した瞬間更に嫌な雰囲気が増したような気がする。


「この世界は力がすべてだ。弱者が強者の糧になる、なんて分かり易い世界なんだ......そう思わないか?」


 スドウ君はどこか感動するかのようにしながら大きく手を広げると、僕にそう尋ねてきた。


 このセリフを以前、団長やナリタ君が言っていたような気がした。だが二人と距離があったのでその詳細について聞き取ることができなかったのだが、それでもいきなりこんなことを言われて理解する人なんて限られているだろう。


「ごめん、君が伝えたいことは分からないよ」


「ちっ、ああもういい! それで力が欲しいのか! 欲しくないのかどっちなんだ!」


 望んだ回答ではなかったか、スドウ君は舌打ちをすると苛立ちを抑えられないのか糾弾するかのよう大声でそう言ったので、廊下に彼の声が木霊している。今の時間帯は夜だ、もしこれが夕食終わりなら誰か出てきてもおかしくない。


 そんなスドウ君に一言注意しようと思い、彼を見た時......今まで彼から感じてきた嫌な雰囲気の正体に気づくことができた。だからーー。


「僕は力なんていらないよ。クラスの皆がこれ以上欠けない、それだけが望みだ」


「ああそうかい。もういい、この話は忘れてくれ」


 てっきり引き留めてでも説得するのではないかと危惧してのだが、意味がないと悟った彼は引き下がるよう諦めるとドアを閉めてこの場を離れようとした。


 そんな彼にある一言、声を掛けようとしたのだが。


「くそが! なんで誰も話に乗らないんだ!......あぁ分かっている、俺が正しい。そんなこと一目瞭然だ。......あぁありがとう」


 扉を閉める最中彼は、もう僕がいることを忘れてしまったのか、ここの場に僕達以外いないはずなのに誰かと喋っているようだった。そんな彼を見てしまい、その一言を言いそびれたのだ。


 扉がしまる瞬間、スドウ君の顔があり得なく程邪悪な顔に見えたような気がした。


 そして足音と共に、扉から離れていく音が聞こえ、それは次第に遠ざかりついには聞こえなくなってしまう。


 この時僕は、彼にこう言いたかったのだ。






 君の背中にいる、その黒い靄は一体何なんだ......と。


 

 

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