内の存在と外の存在
「まあ相棒だからな、これくらい朝飯前だ」
だが素直ではないちょっぴりシャイボーイである俺は、そう言い誤魔化すようにして東の方を見る仕草をする。実際今は早朝だ、そろそろヘーリオス様がこんにちわ! する時間帯。そんな俺が言いたいことは......腹減ったなあということだ。
「そうですか......ならそういうことにしておきます」
アスナが何故か少し残念そうにしながらも最後は笑顔でそう言っているが、今はそれどころの騒ぎではない。お腹の話ではなくここは戦場、故に敵あり。
すぐにムラサメに目をやるとこちらは何故か羨んでいるような感じで見ている。まあたしかにこの雰囲気を傍から見ていれば「リア充爆発しやがれええぇぇぇぇ!!」と思うわな。ちなみにそんな輩は現れると同時にそれを率いる『リア充撲滅隊隊長』なんてものが生まれる可能性がある。だが一つ訂正があるとすれば、リア充撲滅隊隊長は俺が勤めるってことかな。だって俺のリア充ちゃうし、非リア充やから。
とにかくムラサメがこの甘ったるい匂いがするかは知らんが、それに気を取られているうちにやるべきことがある。
「アスナ、これを受け取ってくれ」
あまりムラサメを刺激しないよう小声で、俺は今まで拾ってきたアイテム達と巻物が入っている袋をアスナに手渡した。
「どうするんですかこれ?」
「中に巻物入っているからそれに従ってアイテムを使用してくれして、後詳細については俺も知らん」
「それって大丈夫なんですか?」
アスナが不思議そうな顔をして袋の処遇について訊いてきたので、簡潔にそして一応念を押してそう言うことにした。しかし更に訝しげにこちらを見てくる。まったく信用されてねえな、もし俺が銀行の頭取なんてものになったら一瞬でその銀行の信用をガタ落ちさせるのも夢じゃない。ここは力のある者も引き合いにだせば納得してくれるだろう。
「妖刀様のお告げだ、俺に訊くな」
「えっ、それって妖刀なんですか? 何か変な形をしていますよ」
「変な形とは失礼な、これでも君よりは年齢は上なんだからな」
アスナが彼のコンプレックスであると思われるあの刀身から生えるようにして出ている枝の部分を見てそう言うと、自身をそんな風に言われた彼は少しご立腹なのか不機嫌そうにしてそう言っているが、変な形と年齢は関係ないだろ。それにここで口喧嘩をしても仕方がない、というかそろそろ話を進めないといつまで経ってもこの話が終わらん。
「はいはい分かったから、二人ともそこら辺で終了にして戦闘に戻るぞ」
「あっ、たしかにそうですね......ん?」
「そうだったねすまい、変な形と言われてつい......」
このままでは会話に発展しそうなので割って入ってそれを一旦中断させると、アスナは思い出しかのように納得していたが少し不思議そうな表情をしている。それに対し彼の一応は納得している様子だ。
「彼を返して!」
先ほどからのけ者にされていたムラサメが、突然戦闘前にも口にしていたあの事を言っている。だが今のムラマサからはあの時以上の必死さを感じることができた。これがムラマサへの思いなのだろうが、今の俺達はそれに応えてやることはできない。
「すまんが返そうにも俺達はムラマサを持っていなんだ」
そもそも俺達は堕落した神々の相手をしつつ、その影響又は普通に困っている人を救いつつ、その過程で妖刀集めをしている。なので妖刀集めも仕事の範疇なのだが、如何せんまだ妖刀は、『ナナツサヤノタチ』である彼にしかもっていないからな。
「いや......」
ムラサメはその事実を認めなくないのだろう、刀を持ったまま両手で耳を押さえながらそんなことを呟いている。
「だからあんたの要望には応えることはできない、すまないな」
そんなムラサメが気の毒に思えてしまったので、俺は申し訳なさそうな表情を作りそう言った。だがそれすらもムラサメは聞きたくなかったのだろう。
「いや......いや! いやあああぁぁぁぁぁ!!」
呟き程度だったはずの声量は、ムラサメの心境に比例するかのようすぐに叫び声に変わる。そしてムラサメの握る妖刀から深青色の靄が湯水のごとく溢れ始めた。加えてそれを直視していないはずなのに、先ほど同様めまいが襲ってくると同時に耳鳴りする。俺同様アスナもそれに襲われているのか眉を顰めている様子だ。
「このままでは、彼女自身が妖刀そのものになってしまう」
そんな状況の中、突然彼がおかしなことを呟いた。
「ムラサメ自身が妖刀なんじゃないのか?」
「......私達妖刀には、『内の存在』と『外の存在』というものがあり、本来私や以前の彼女も『外の存在』に当てはまっていたんだ。しかし、それが何かのきっかけで暴走することがあるんだが......」
そこで彼は言いにくいのか口を閉ざしてしまった。だが、先ほどの話の流れから何となくそのことを理解した俺は、それを引き継ぐことにした。
「つまり今のムラサメがそれに当てはまるってことか」
「......その通りだ。そしてその原因は、相棒であるムラマサと引き離されたということになる」
「それで、仮に暴走してしまったらどうなるんだ?」
今のムラサメは頭を押さえ声にならない悲鳴を上げている。その姿が余りにも不憫に見えてしまい、なんとかしてあげたいと思ってしまうのも事実だ。だがその暴走というものがどのようなものか分からない以上、今の俺達にどうしようもない。
そんな暴走しかけているムラサメを見ながら俺は彼に尋ねた。
「それは外と内の交換を表す。今の彼女は、『内の存在』と『外の存在』が同時に存在しているというかなり危険な状況だ。このままでは、完全に『内の存在』に侵食されてしまう』」
「そしたらムラサメはどうなるんだ?」
「......分からない。何分これは私の記憶の中にあることだからな」
だがいいことではないだろうな、と彼は暗に語っているような気がした。たしかにこのままでは現状は悪化してしまうだろうな。現に今もその交換が進んでいる影響でめまいと耳鳴りもひどくなってきているからだ。
「とにかくどうにかするしかないな」
そう言いムラサメを見ているとその暴走が収まったのか、深青色の靄はその勢いをすでに見えず、ムラサメ自身は俯いているのでその表情は窺い知ることはできない。しかし妖刀の方を見てみると、その怨念がすべて凝縮されたのか濃青色の刀に変化している。つまりあの怨念すべてがあの妖刀に注ぎ込まれたってわけか。まあどちらにせよ倒し方じゃなくてムラサメを抑える方法はあれしかないからな。




