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彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
第三章:堕落した神々との戦い:アルタイル編
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成長の兆し

 なぜならたった今まで俺に降りかかろうとしていた妖刀は、急激にその振り下ろす対象を変えたかのようにして俺の鼻先を通り、肩を掠り、空気を斬るかのような動きをして見事空振ったからだ。


 すぐにムラサメから距離を取るためにバックステップで後ろに下がる。


「どうやらうまく力が作用したようだな」


 彼が安堵するかのようにしてそんなことを呟いていた。そういえば彼の力は『思考過剰』だったな。ムラサメにとって俺は斬る対象、直前まで俺のことしか考えていなかった。だからその思考を過剰に促進させることにより、今まで以上に脳があるかは知らんがそれが活発に働いて混乱させたおかげで俺は死なずに済んだ。それにムラサメの攻撃がスローモーションのように感じたのは彼の力の一つだろう。

 

 それに今までの戦闘はアスナがいたおかげでそこまで死を感じるようなことはなかった。だか今回は、そんな頼れる相棒はここにはいない。だからある意味今回の戦闘は、この世界に来てから初の相棒なしの死と隣り合わせの戦闘になる。そういう状況なので彼の力はかなり期待しているし、寧ろそれだけに頼りたいと思っているのだ。


こういう奴を世間では『親の脛を齧る』というのだろうが、この際気にしない。こんな些細なことを気にして死んでしまったら、それこそ『馬鹿が見るー豚のケツ』だからな。そこんところをしっかりと意識している俺は、これからも率先して権力のある者(オーブリー達)や力のあるアスナオンリーワンに媚を売ろうと考えているのだ。勘違いしてもらっては困るから一応言っておくが、これは社会の歯車の一つであるためには仕方ないこと。そのためにもこの場で力のある妖刀である彼に機嫌と取り、生き残るために礼を言うことにした。


「ありがとうマジで助かった」


「気にするな、それに今は目の前の彼女だけに集中してくれ」


 そんなことを知らない彼はそれを聞き優しくそう言っているが、すぐに緊張感のある声でムラサメに目を向けるように指示をする。


 それに頷き先ほどまで俺の殺そうとしていたムラサメの方を見てみると、ムラサメは彼の力の影響が出ているのか、少しゆらゆらと体を左右に振るかのようしてこちらを見ている。


 さっきはいきなり来たから対処できなかったが、今度は目の前のムラサメだけを見る。


 ムラサメは竜神とは違い体を小さい、加えて力もあまり強くはないと推測して奴の次手を待っていると、先ほど同様その体がブレるほどのスピードを出して俺に近づいて来る。


 ギリギリだがその姿が見えるほどに俺の思考は加速しているのか、なんとかムラマサの右から迫ってくる攻撃に対応することができたのだが、この攻撃がくそっ重い! 予想していた重量を遥かに超えているぞ。時々アスナと剣の打ち合いすることがあるのだが、彼女の場合はそれほど一つ一つの攻撃は重くない。ただし確実に急所を狙うほどの技術を持っている。極め付きはそれを日常にまで持ってくるもんだから更に質が悪い。


 対してムラマサは先ほど言った通り一つ一つの攻撃が体の芯に響くほど重さ、こちらとしては刀ではなく金属バットで打ち合いをしているように感じてしまうほどだ。ホントバッティングなら他所でやってもらい。だがその代わりなのか、その攻撃は不確実で当てずっぽうで振っているように感じる。だからといって楽なわけがない、先ほどずっと防戦一方だ。このままでは埒が明かない、というか俺の体力が持たない。


「彼女の力は戦闘向きではないが、彼女の仮の体はかなり戦闘が出来るんだ」


 時折俺がうめき声を上げているのに気づいたのか、彼はさらに追い詰めるようなこと言っている。


 そんなの体験している俺が一番分かっとるわ! てかあんたは痛くないのか!? さっきから打ち合いの際に発生する振動があんた越しに伝わってくるから地味に痛いぞ! 血豆ができてもおかしくない!


 そんなことも言えないほどの激戦というよりも防戦である、徐々に息も上がってきている。


 それに合わせてムラマサの剣筋が徐々に見えなくなってきているような気がしてきた。


「うおっ!」


 とうとうそのスピードに対応することができなくなってしまった俺は、ムラマサの右から来る攻撃に対応したのだが、それに耐えることができず盛大に吹き飛ばされた。打ち所が悪かったのか、少しめまいがする。もしかすると脳震盪っていうやつなのかもしれない。


 だがいつまでも倒れたままではいけない、俺はムラサメと戦っているからだ。


 なんとか気力だけで立つことができたが、めまいは治っていないようだ。加えてムラサメの二重になって見えてきたな。ヤバイ、これはホントにヤバイ状況だ。なんか集中力なくなってきたような気がする。そういえばあの妖刀あんま見んなって彼は言っていたな。


 右手に握られている彼は先ほどから何か叫んでいるような気がする。だが耳に水が入っている感じなのか、その内容ははっきりと聞き取ることはできない。


 ていうかそろそろアスナが来てもいいはずなんだが......まさかあいつ、ホントに気絶しているのか? なら時間を稼ごうとする前にあいつ起こしに行った方がよかったんじゃないのか? それにこのままじゃさっきの二の舞を踏んでしまう。


「ユウト君! 前を見るんだ!」


 どうやら意識がはっきりしてきたのか、この時になってやっと彼の大声で忠告する声が聞こえた。


 それに従って前、つまりムラサメの方を見ーー


「あっ」










「ユウト様っ!」


 たった今まで俺の脳天目掛けで振り下ろされようとしていた妖刀から守るために、誰がそんなことを言って自身と一緒に俺を吹き飛ばすようにしてタックルを決めてきた。そのおかげで妖刀に斬られることはなかったが、一種のトラウマ的みたいなものを発症した俺は情けないことに倒れたまま動くことができない。そんな俺を見かねたのか、タックルをしてくれた人物であるアスナは俺をお姫様抱っこする要領で運んでくれた。この間何も攻撃してこないムラサメを見てみると、何か感情の籠った目でこちらをジッと凝視している。それに気づいていないアスナは、ムラサメから距離を置いたところまで来るとやっとお姫様抱っこの刑から解放してくれた。


 助けてもらった俺の第一声は......?


「アアアアスナさん、たたたた助けてもらってどうもです」


 日本人形症候群が発症してしまっている。この時もし熱々のコーヒーかコンポタージュとかを飲もうとしていたら間違いなく口に、ではなく顔に盛大にぶっかけうどんしてしまう。これにはダチョウ俱楽部も驚くほどの熱さとやる気だ、芸能界も夢じゃない。それほど体が震えていると言いたいのだ。説明の癖が凄い!


「大丈夫ですか!?」


 そんな俺の様子をアスナは、久々に見せる深刻そうに表情で心配している。彼女の綺麗な目を見ていることでなんとか落ち着くことができた、というかなんで目を見ただけで落ち着くのかっていう話だけどな。これには誰もツッコんではいけないんだ。


「あぁ問題ない、さっきはマジで助かった」


 ホントあそこでもしアスナが来なかったら、俺は今頃逝っていたからな。故にアスナは命の恩人、感謝永遠に。


「いえ、先ほどあの日本人形の囮になってくれたので、そのお礼と思ってくれればいいです」


 そんなリトルグリーンメンである俺の感謝の言葉が嬉しかったのか、アスナは照れ隠しのつもりなのか頬を掻く仕草をしている。


 だが俺には彼女のその感情を理解することはできなかった。それは彼女の何気ない一言を拾ってしまい、それどころではなかったからだ。


 彼女の言う通り俺は囮になった......絶望した原因であるのに関わらず。


 それは誰かに命令されたわけでもなく自分自身の意思でその役を引き受けたんだ。


 その時、そのことを認識していたかどうかは分からない。


 だがそれが正しい行動だと思った、ただそれだけが自身を突き動かしたのだ。


 何となくだが、こういうのを成長した、または乗り越えたと言って喜ぶべきなのだろう。


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