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彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
第三章:堕落した神々との戦い:アルタイル編
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青天の霹靂

 ここは魔大陸のある都市。


 その中央には、ユーリシア国にある純白のドレスような色をしている城とは全く異なり、全体が黒いベールを纏っているような外装をした巨大な城が存在する。


 そんな城の入り口には、門番を務めている魔族の兵士が二人、暇そうにして立っている。




「どうするんだろな、人族との戦争。今は停戦協定結んでいるけど」


 どうやら暇を持て余した一人の兵士が、隣に立つもう一人の兵士に尋ねると、その尋ねられた兵士は腕を組んで考え込む。


「ん~そうだな......多分そろそろ停戦協定を解いて、人族に侵攻するんじゃないか?」


「やっぱりそう思うよな。それに今日の会議はそのための話だって幹部の方々も言っていたしな」


「というかこの場所でこの話していて大丈夫なのか? これってたしか幹部の方々が今は公にしてはいけないって言っていたが......」


 彼は周囲を少し警戒しながら、この話題を振ってきた兵士に心配そうにしながら訊く。


「まあ今は夜中だし、それにこの辺り好き好んで近づく奴はあまりいないだろ」


 そう言うとその兵士はそのまま真上を見上げる。


 そこには地球と同じような満月を見ることができるが、この大陸ではそれをセレネと呼び、それに対する太陽はヘーリオスと呼ばれている。


 その日のセレネは、薄い雲にさえぎられおり、ほのかにその光を出している様子だ。


「たしかにな......それに誰か近くにいれば気配ぐらいは感じるしな」


 そんな漏れてはいけないような機密情報を話していると、その二人の兵士にある一人の黒いフード付きマントを着ている魔族の少女が近づいて来た。


 彼らはこの城の門番を務めるだけの実力と経験があるのだが、この時何故か彼らはその少女の接近に気がつかなかったのだ。


「あの~」


「うおっ! ビックリしたぁ! いつの間にいたんだ!?」


「俺も気が付かなかったぞ!」


 案の定彼女の存在を認識すると二人の兵士は同時に驚いてしまい、その反応にその少女は泣くかのような表情を作り出す。


「ひっ! す、すみません! 驚かせてしまって!」


 すぐにその二人の兵士は、自分達の仕出かしたことに気が付くとその少女の目線に合わせる腰をかがめると、


「あぁこちらこそごめんね。おじさん達もいきなり君が声を掛けてきたものだから驚いてしまったんだよ。この通りだ」


 そう言ってその二人の兵士は少女に対して頭を下げ、それを見た少女は安心した表情を作り出す。


「いえ、私が急に声を掛けてしまったのにも原因があります。ごめんなさい」


 そして彼女も彼らに合わせるかのよう頭を下げた。


「そうか......なら仲直りだな」


 少女の反応に安堵するかのよう、初めに驚いていた兵士はその頭を上げるとそう呟いた。


 それと同時に少し探るかのような目をしながら再度頭を上げた少女を見て、


「それで話しかけてきたということは、おじさん達に何か用があるからだよね?」

 

「え~と......先ほど話していた話は本当なんですか? 戦争を開始するって話は......」


 少女は少しもじもじしながら上目遣いをして、体全体でそのことについて知りたいような雰囲気を作る。


「あちゃ~、聞かれちゃったか......まあ仕方ないな」

 

 そのことを訊かれたその兵士は、そのことにバツの悪そうな顔をしながらも、再度その少女の目線まで腰を屈める。


「うんその通りだよ。これは機密事項だから、あまりお父さんやお母さんにも話さないでね」


「お前が話してどうすんだよ。同じ年頃の娘がいるからって......」


 もう一人の兵士が呆れるかのように、溜息をしながらそう言っていたがそれを聞いた少女は、


「そうですか......ありがとうございます」


 一瞬考え込む仕草をしたがすぐに元の表情に戻してその兵士にお礼を言うと、まるで自分の家のような感じで、城の入り口から入ろうと歩き出した。


 案の定二人の兵士は、少女のいきなりの行動に脳が追い付いていない様子だったが、すぐに自分達の仕事を思い出す。彼らの仕事はこの『魔王城』の門番、つまり許可のない者を通すことは命令違反。


「ちょっとお嬢ちゃん! ダメだよ入っちゃ!」


 すぐに城に入ろうとしている少女の肩を掴みながら注意をした。


 肩を掴まれて立ち止まった少女は首越しに振り返り、先ほどとは打って変わりその雰囲気と口調を変える。


「......あなた達には、大切な人はいる?」


 その問いかけに何かを感じたのか、その質問に無言で二人の兵士は頷いた。


「そう......なら見逃してあげる」


 その瞬間、二人の兵士はまるで糸の切れた操り人形のように倒れこんだ。


 しかしそれを確認した少女はすぐに視線を前......つまり魔王城に目を向けると歩き出した。


 そんな少女の進行を阻むことのできる者はこの場に一人としていない。


 なぜならそれを止めようとする兵士は、すべて先ほどの彼ら同様気絶するかのように倒れこんでしまうからだ。


 そのことに気が付いたある熟練の兵士は、手を出さない......ではなく手を出すことができないのだ。


「兵士長! 何故あの者を捕えるように命令しないのですか!?」


 その熟練の兵士である兵士長は、彼に訴えるかのように言い迫る若い兵士の言っている通り、侵入者であるその少女を捕えることを命令していないのだ。


 元々彼らは、自分達の上に立つ者達から怪しい侵入者は捕えるようにと命令されており、これに限らず本来魔族軍に属する者をとして上の命令には絶対的拘束力があり、これを守らない者には最悪は死の可能性もある、それほどのものである。


 だからこそその若い兵士は、兵士長である彼の行動が理解できないのであった。


 そこで初めてその兵士長は、その兵士を見てあることを告げる。


「俺は今まで数え切れないほどの戦場に赴き、そして生きて帰ってきた」


 彼の言う通り、この軍に属する者達は彼がこれまでの戦闘で致命傷を受けることはあっても、それで死んで帰ってくるということはなかった、だからこの場所に立っているのだ。


 そのことを畏敬と尊敬を込め、『不死身の兵士長』と多くの兵士が崇拝するかのように呼んでいる。


 だからこそその若い兵士は理解できないのだ......そんなこの軍で魔王を除けば最強である彼が、侵入者の捕獲を命令せずに、その額に汗をかいていることに。


「え、えぇ知っています。だからあなたは、皆から不死身の兵士長と呼ばれているのです!」


 当初その兵士も彼のその緊張が移ったかのようにしながらも、最後はその言葉に力を篭めるかのように言い切った。だが、そのこと否定するからのその兵士長は、かぶりを振って、


「だがな、それだけの死線を潜り抜けてきたが、あんな奴は見たことがない」


「ですがあの侵入者は......人族の者ですよね。ここまで侵入してきたということは、それだけの実力を持っている可能性が高いです。なら兵士長が一度は見たことがあるのでは?」


「......俺が人族側の奴で最も印象に残っている奴は、ユーリシア国の団長であるアレックス・カルマン。それともう一人、アスラン帝国の師団長を務めるグリシャ・サイラスの二人ぐらいだ。それ以外はあまり印象に残っていない。つまり......あの若い人族の女など見たことがないのだ」


 先ほど彼らが見た侵入者は、魔族特有の紫がかった肌の色をしている魔族の少女......ではなく、20代に近い体付きをした人族のような女性、服装も黒いマントではなく、透き通ように白いマントに変わっていたのだ。


「で、では、先ほどの者は一体誰なのでしょうか?」


 その兵士は、その侵入者が登っていた階段の先を見ながら、恐る恐る彼に尋ねた。


 その質問に一瞬だけ考え込んだが、彼は確信を持って呟く。


「......一つだけ言えることがある」


「......と言いますと?」


 彼はその侵入者がこれから向かう目的地であると思われる、ある部屋の方向を見ながら、


「あれは、おそらくだが......人族ではない」


「......えっ? いや、あの姿は人族の者以外ありえませんよ! 獣人族はそもそもここに来る理由がありませんし......」


 彼のそのカミングアウトに、その兵士は一瞬意味が分からない様子であったが、すぐにそれを否定するかのように他の可能性を上げようとした。


 彼はその兵士をまるで教え子に指摘するかのように、


「何か忘れてないか......重要なことを」


「重要なこと......ですか?」


 その兵士は彼の言いたいことが理解できないのか、頭を捻っている様子だ。


 視線はそのままで横目でその兵士のことを確認すると、彼はある一つのこの世界で真理と思われている事実を口にする。


「この世界には四つの種族が存在する。一つ目が人族......俺達魔族の相手国だ」


 しかしその兵士は、まだうまく呑み込めていないようだが、それに構わず彼は次の可能性を上げる。


「二つ目が獣人族......あの種族はこの戦争に関わることはないし、そもそもそのメリットもない」


 そこでその兵士は彼の言いたいことを理解したのか、顔を青くし始める。


「そして三つ目が魔族......つまり俺達のことだ」


「で、では、あの者は、まさか......」


「あぁ......俺も初めて見るが、まさか存在するとは思わなかった。まるで常識のように、どの本でもその存在だけは書かれていたが......誰もその存在を目にしたことはないからな」


 彼は自分の膝が笑うかような感じると共に体全体が小刻みに震えていることに気が付く。


 これが恐怖という感情なのか......あの二人と戦っている時でも一度も感じたことがなかったものだ、そんな風に彼は感じていたのだ。


 隣に立つ若い兵士も彼と同じ気持ちなのか、体全体が震え、額から汗を流しているかのように装備の外側から見えている黒い服はさらにその汗で黒く染まっていた。


 そして彼が最後の可能性を口にする。


「あれが天使族......一目見た瞬間理解した......あれは戦っていい相手じゃない」


 彼らの周囲には、彼の命令を聞こうとせずにその侵入者を捕らえよとし、無残にも気絶した兵士が所狭しと倒れていた。








 ここは魔王城のある一室。


「それでどうする、今回の協定については?」


 ここにいるのは、強さともに知識も優れた者がいる場所。


「そろそろ協定を解くべきでは?」


 彼らは魔族の幹部たち、そして部屋の一番奥の席に座る者は。


「このままでは時間が延びるだけですぞ......ラシャド様」 


 幹部の一人にそう言われた彼は顔を歪ませながらも、

 

「あぁ分かっている......だが、このままでは関係のない民までが犠牲になってしまう」


 彼の名はラシャド。


 魔族の現魔王を務めている。


 彼は歴代の魔王達と違い、争いではなく和平を願っているのだ。


「しかしそれは、あちらを滅ぼせば解決することですぞ!」


「その通りです!」


「ラシャド様! ご決断を!」


 彼がこの期に及んでまだ決断しきれていないことに苛立ちを覚えた一人の幹部の一言に、他の幹部たちもそれに賛同するかのように席を倒す勢い立つと彼に迫るように訴え始めた。


「......私はーー」


 彼は苦しそうに顔を歪ませながらも、物心ついた時から決めている決意を言葉にする前に、突然その部屋の扉が勢いよく開く。


 その場にいるすべての魔族達が、会議の邪魔をした者を睨みつけるような視線を向けると同時に、彼らのは自分達のに目を疑ってしまう。


「あれは......天使族なのか?」


「いや、そもそも天使族なんてもの自体見たことないからな」


「......だが纏っている雰囲気が、人族とは明らかに違うぞ」


 実力を兼ね備えた幹部達は、すぐにその天使族と疑っている侵入者について憶測を飛ばしていたが。


「そもそもジーンの奴は何をしているんだ!?」


「たしかあいつには、許可なき者は通すなと言っておいたはずだが」


「まさかやれられたのか!?」


 ある一人の幹部が思い出したかのようにある人物の名を小声で、だが糾弾するかのように口にすると、それにつられて他の幹部も反応している。


 彼らのいう『ジーン』とは、魔王ラシャドの次に強いと認識されている『不死身の兵士長』のことである。彼が倒されたという話が事実であれば、次の標的は自分達ではないかと疑いを向ける目で侵入者を見た。


「それならば何かしらの戦闘音が聞こえてもいいはずだ」


「なら命令違反か!?」


「あの男がそんな馬鹿な真似をするとは思えない」


 すぐにある冷静なある幹部が、その可能性を否定する。


「どちらにせよ、そこに侵入者がいるということは、ジーンはやられたと考えた方がいいだろう」


 幹部達がそんな会話をする中、魔王ラシャドだけが一人冷汗をかいていた。


 彼は自身の父親、前魔王が言っていたことを思い出していたのだ。






「いいかラシャド、仮に天使族と思われる者が来ても、決して歯向かってはいけないぞ」


 前魔王は幼いラシャドの目を見ながら、そう釘を刺した。


「なぜですか父上? 天使族とは味方なのですか?」


 その時の彼は、その存在の意味を理解してなかった。


「味方というよりも......まあ一目見れば分かるらしい」


 その質問に、自身も見たことのない前魔王はそう答えるしかなかったのだ。


 

 



 

 ラシャドは扉の前に立つ純白のマントを着ている女性を見た。


 その髪は、サラサラとしてまるで絹のような美しい銀色で、それが肩よりも長く胸のラインまで伸びている。

 

 その瞳は、理性的な冷たさと澄み渡るほどの透明感を持ち、左目が金、右目が銀のオッドアイである。


 そしてその顔は、陶器のように白く透き通っており、一言で表すと女神アリアナよりも更に美しかった。


 彼は彼女の前に行くと、その一度も地面に着いたことのない膝を何の躊躇いもなくつけると、そのまま首を垂れたのだ。


 それを見てすぐに部下である魔族達が喚くかのように訊き迫る。


「な、なぜですかラシャド様!?」


「そうですよ! 何故跪いているのですか!?」


 一目見た瞬間に、自身の本能が認めてしまったのだ。


 彼女の方が格が高いということに......。


「お前達も俺のように跪け。これは命令だ」


 上の者からの命令は絶対である魔族の掟から、その頂点の君臨する魔王の命令はすべての魔族にとっては絶対的である。


 彼らは渋々といった感じでラシャドに倣って跪いたと同時に、その様子をただ風景のように見ていたその侵入者である天使族は、今まで閉じていたその小さな口を開いた。


「今代の魔王は話が早くて助かる」


 その一言で魔王を除くその場にいた魔族全員が、まるでドラゴンと同じ檻の中に入れられたような気持ちになると同時に。ラシャドに従ってよかったと安堵してしまったのだ


 彼らの理解した......自分達とは存在が違うことに。


 そう一言言うと、彼女は彼らのことを無視するかのように歩き出し、先ほどまでラシャドが座っていた椅子に向うとゆっくりと座った。


 そして手を組むとこの時になって初めてこの魔王城に来た目的を口にする。



「私の願いはただ一つ......この戦争をやめろ。ただそれだけだ」


 

 その一方的で本来ありえないこと願いに対し、この場にそれを反抗できる者はいない。


「はっ! 分かりました!」

 

 彼女の願いにいち早くそう返事をしたのは魔王であるルシャドであった。


 それは、自分の望んでいたものでもあったからだ。


 彼は一瞬でこれからするべきことを考え、それがまとめ終わると同時に、いつの間にか首まで垂れて跪いている他の幹部達を立たせようとする。


 彼らは、それに対して何も口にせずに言われるがままに彼の指示に従い立ち上がるとそのまま彼は、部屋を退出する前に一度彼女に一礼するとすぐに彼らを連れて部屋を後にした。


 その部屋には今、彼女一人しかいない。


 席を立つと近くに備え付けられている窓から外の様子を眺めるかのように見る。


 先ほどまでは地球でいうところの朧月夜ではなく、雲一つない澄み渡った夜空と綺麗なほどまで純白色の満月があるだけだった。


 その月光を受けるかのように彼女の肌はさらに透明感のあるかのように際立出せている。


「彼女のためにも必ず、今のあなたは止めてみせる......」

 

 そんなセレネを眺めながら彼女は、どこにいるか分からないが確信を持つかのようにその者の名を呟く。


「オスカー」


 

 

 


 この日、長年続いた人族と魔族との戦争は、一人の天使族の手により一方的に終結した。


 そしてこの朗報は、この日から数か月経ったのち人族側に魔族側の使者が来たことにより伝わっていく。


 しかしその時、ユウトとアスナはすでにこの大陸にはいなかった。

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