おくりびと
竜神の黒い宝玉が破壊されたと同時に、奴の体が輝き始めるとそれが次第に光の粒に変わり始めて、その光の粒が徐々に分散されて、その巨体が無くなっていった。
そして後に残ったのは、仰向けで倒れている黒髪で顔に傷のある壮年の男性だった。
俺は気になって、彼に近づいて声を掛けてみた。
「おいあんた、生きてんのか?」
俺の声が聞こえたのか、彼は目を瞑った状態で返答した。
「ん~、あぁ、生きてるが、この姿を維持しとくには、時間がねえ......」
「なあ、なんであんた禁忌なんてもん犯したんだ? 今は悪人には見えないんだが......」
今の彼の様子は、そこら辺にいる気の良いおっさんにしか見えないからだ。
案の定彼は目を見開き、信じられないものを見るかのようにしている。
「お前、変わってんな。普通は聞かねえぞ、そんなこと」
「なんとなくなんだが......あんたには聞いとかないといけない気がするんだ。」
これからの堕落した神々との戦いの為に。
すると彼は少し納得したのか、これまでの経緯について語り始めた。
俺が神界にいた頃は、元々嫁と子供が三人いたんだ。
そんな三人いる内の二人の子供がかなりのやんちゃ坊主達だったんだ。
そんでそいつらは、いつも次女である娘が一番下の長男をサンドバックみたくじゃれ合っていたんだ。だが長男からすれば恐怖の対象にしか見えなかったのか、いつも逃げ回っていた。そんな光景を俺と嫁、そして長女の三人で呆れて見てたよ。
そんな俺達家族にとって当たり前な日々はあまり続かなかった......なぜならある日、その長男が急にいなくなったからだ。
次女である娘にも聞いたんだが、突然姿を消したと言っていた。
俺はすぐに上級神様に聞きに行ったんだが、案の定息子は神界ではなくここ、下界に落ちていると教えてくれた。
俺はすぐに息子を救い出そうとしたんだが、なんでも息子が落ちたのが戦場のど真ん中だそうだ、と言われた。そして、絶対に生き物だけは殺すなよ、と釘を刺すかのようして注意されたんだ。
もし俺達神が下界の生き物を殺したりしたら、それは禁忌黙示録に書かれた禁忌に触れて堕落した神々になっちまうんだ。
俺もそんなこと知っていたし、早く息子を助け出しに行かないといけないから、そこんとか注意が散漫していたかもしれない。
当時の息子はまだ幼くて、まともに神の力を使うことができなかったからだ。
だから俺は急いだ......手遅れになる前に。
到着して分かったんだが、どうやら戦場は人族と魔族との戦争だったらしく、かなり混戦していた。
俺は息子に居場所を伝えれる指輪を渡していたんだが、これは同じ世界にいないと発動しないものだったから、俺は息子がここにいるということが分からなかったようだ。
すぐに指輪で息子の位置を確かめたら、戦場の中でもかなりひどい場所にいるようだった。
俺はすぐにそこまで行って見つけたんだが、そん時息子が剣かなんかで切られているのか腕から血を流していたんだ。
そして近くに、血の付いた剣を持った兵士が立って息子を見下ろしていたんだ。
当時の俺は馬鹿だったから、禁忌のこととか忘れちまって、その兵士を殺しちまったんだ。
その瞬間、脳内に女性のような声が聞こえて、こう言ったんだ。
「禁忌黙示録、第一か条に触れました」
そこで我に返ったんだが、もう後の祭りだ。
俺はすぐに息子を担いで、神界に戻った。
戻るとすぐに降りる前に話した上級神様が走ってきて俺の頭を殴ったんだよ。
んで泣きながら消え入る声で言ったよ。
「馬鹿野郎が......今度から誰と酒を飲めばいいのだ......」
その上級神様とは飲みの席の知り合いだったんだ。 彼は少し気難しく俺以外と神とはあまり話さなかったんだ。そんな彼とは、よく一緒酒を飲んだりして二人で騒いでたんだよ。
俺がバツの悪そうな顔をすると、すぐに冷静になって、
「あのお方がお呼びだ。十中八九今回のことだ、だから噓偽りなく答えろよ」
そう言って俺をそのお方のところまで連れて行ったんだ。
そのお方のいる場所に着くと同時に、今回の理由を聞かれたから事実そのままに伝えたんだ。
「君のしたことは神としてはあるまじき行為だが、一人の親としては立派な行為だと思う。だがここは神界で、君は禁忌を犯した。だから下界に落ちてもらう」
悲しげな表情をしていたが、最後は上に立つ者として威厳を見せる様子でそう言われたよ。それが当たり前だ、俺は素直に納得してすぐにその準備が始めったんだ。
待っている間にそのお方が伝えたのか、俺の家族が来たんだ。
すぐに嫁が俺に飛びついてきて、俺の胸に顔をうずめて泣き、三人の子供達も俺の足を掴んで泣き始めたんだ。
馬鹿な俺は、その時になって初めてそのことに気づいたんだ。
俺は一家の大黒柱なのに、俺のせいで家族に涙を流させちまったんだと。
そして俺も、涙を流して泣いたよ......多分これは......嫁と一緒に子供達の成長を見れないこと......そんな一人の親としては当たり前なこと......だが今の俺では、もうどうすることもできない......そんな後悔の涙だったんだ。
その後家族に別れを告げた俺は下界に落とされ、堕落した神々になっちまうんだが、落とされた後はここに来て、寿命が来るのを待ってたんだ。
だがそれから月日が流れたある日、俺のとこにある堕落した神々が一人現れてこう言ったんだ。
「この世界を絶望に染めたいんだ。協力してくれないかい?」
「俺はそんなもんに興味はない」
するとそいつは俺の目の前で神の力を使い始めたんだ。
普通ではありえないことだからな、そんな感じで驚いていると、
「このぐらいなら君でも使えるんだよ。だからさ......」
「すまないが、俺はそんなことしたいがために下界に落ちてきた訳じゃないんだ。もう帰ってくれ」
すると突然、奴の体から真っ黒な煙を出し始めたんだ。
「仕方ないか。なら力ずくでも従ってもうよ」
そしてその黒い煙が俺に纏わり着くと同時に意識が無くなった。
気が付くと俺の前に二体の竜がいた。
紛れもない、次女と長男だった。
二人が言うには、あの後家族全員に神罰が降り、それぞれに仕事が与えられ、自分達はこの世界の守護を任せられたと言っていた。
そして今回は、このアダム山脈に一体の巨大の竜が現れたからここに来たと。
俺は泣いて謝ったが、二人はその付けは自分達にあると言ってくれた。
まだ話したことがあったんだが、自身の意識を保つのが精一杯だったんだ。
だから俺は二人にあることを頼んだ。
「もし俺を倒そうとする者が現れた時の為に、神殺槍を作っておいてくれ」
神殺槍は俺達の胸にそれぞれある宝玉に当てれば、一発で倒せると言われている槍だ。
そのことを伝えて、二人が納得してくれると、俺はすぐに意識を失った。
それからどのくらい経った時か、俺の元に一人の男が現れた。
こいつなら俺を止めてくれる、そう思ったから俺はそいつに頼んだんだ。
「そして、俺の最期の願いは、叶えられた......感謝する、神の使徒よ」
そう言って彼が再び眠りにつくかのように、その目を閉じようとした時だった。
「......どうやら、あのお方は、粋な計らいを、最期にしてくださったようだ」
俺は後ろからアスナやギルではなく、突然二人の気配が瞬時に現れたので、少し警戒しながら後ろを向くとそこには二人の男女が立っていた。
「父上......」
「父さん......」
人間姿のリアムと多分次女と思われる白髪の美女だった。
俺はすぐに前を譲ると、二人は竜神の前まで来て座り込んだ。
「すまないな、お前ら。俺のせいで、神罰なんてもん、与えられて......」
彼は苦しそうな表情をしながら、自分の行動を二人に謝罪していた。
それを聞いたリアムが首を振りながら、
「いいんだ父上、これは我と姉上がまいた種。その結果なのだから」
「リアムの言う通りです。逆に私たちのせいで、父さんを堕落した神々にしてしまって......」
後ろから見ているので仰向けの彼以外の表情を窺い知ることはできない。だが、今の二人は悲痛の表情をしている、ただそれだけは分かった。それを聞いて竜神は少し微笑みながら、
「気にすんな、あれは親の役目だ、それに最期は、立派に育った、二人の姿も、しっかり見ることができた......アマンダと、アルマのことは、気掛かりだが......」
「安心してくれ父上。母上と姉上は元気にしているから。」
「そうですよ。それに二人とも、父さんのこと心配していました。」
そんな彼の様子を見た二人は安心させるかのように、その事実を伝えている。それを聞いて彼は破顔すると、
「そうか......俺は、まだ、家族に、愛されて、いたのか」
「当たり前だ!」
「そうです!」
その事実に少し嬉しそうにしている彼に、二人は強く肯定するかのよう強く言い切る。
しかし、徐々に彼の瞼が閉じて行こうとしている。
「すまないが......眠いんだ。少しだけ......眠っても......いいか?」
次第に彼の声が小さくなっていきその体も存在を消すかのように薄くなり始めた。
それに二人も気が付いたのか、リアムが口を開く前に次女である彼女が口を開いた。
「はい、父さん。ゆっくりお休みください」
父親の手を取りながらそう言うと、彼は嬉しそうにして、
「ありがとな......二人とも。何かあったら......起こしてくれ。俺は......お前らの......親だからな」
「分かりました。その時は家族全員で起こしにいきます......ホントにお世話になりました......父さん」
「お世話になりました! 父上!」
その言葉を聞き、二人は涙を流している様子だった。
そして......。
「ありがとな......二人とも。俺達の......子供に......生まれて......きてくれ......て......」
そこで彼はゆっくりとその目を閉じた。
その頬を見ると、そこには一滴の涙が流れていた。
その後、彼の体が徐々に光の粒になっていき、それはどこか遠くへ運ばれていった......。




