最期の願い
エレナの開口一番が、
「どうして......こんなところに......」
目を大きく開けて、まるで信じられないものを見たかのようにそう言った。
たしかに普通の奴はそう言うし、俺が彼女の立場だったらこいつ頭湧いてんの? てか顔なんてすでに手遅れーー! と思うだろう......自分で言って自分で傷付いている奴。
とにかく俺はこの里に来てから繰り返し使っている、あの言葉を言ってあげることにした。
「俺達は困っている人を救うためにこの里に来たんだ」
案の定エレナは俺の言葉を否定するかのように、
「でも普通は私なんかの為に......会って間もない人の為なんかに命は張りませんよ!?」
そりゃそうだよ、大抵そんなことする奴は後になって「おい坊主、お菓子あげるから一緒に行かないか?」とかそんなこと言ってきたからな、逃げるの必死だったぞ。まあつまるところ俺が言いたいことは......普通の奴ならな!
彼女を安心させるために俺は頑張ってとびっきりの笑顔? を作る。
「残念ながら俺は普通の奴じゃないんだ。ギルとのやり取りを見とけば分かるだろ? それに俺達は......家族だ」
ヴェノムスネークを意識して冗談げにそう言ってあげたのだが、エレナは割と本気でドン引きしながら、
「はぁたしかに普通ではないですね、それにまだ家族ではありませんね」
かなり呆れているような感じで言われてしまった。
あ、あれ? おかしいな? ここは普通、そんなことないですよ! 少しずれているだけですから! 頭のネジがぶっ飛んでるだけですから! と言ってくれるところでは?
だがすぐにエレナは表情を変えると、
「でも......でもホント怖かったんです!」
そう言ってポロポロと涙を流し始めた。
俺は竜神の様子を見ると襲わずにじっとこちらを観察するかのように見ていたので、すぐにエレナに駆け寄って抱き寄せると猛ダッシュでアスナの元に運んだ。
「アスナ! エレナのことよろしく! 安全なとこまで!」
「分かりました。私が戻って来るまで死なないでくださいね!」
アスナはエレナを背負いながらそんなこと言ってきたので、俺はサムズアップして
「当たり前だ! 俺はこんなとこで死ぬほどやわじゃない!」
はい! という訳で見事フラグを立ててしまいました。
俺の返事を聞いたアスナがエレナを背負い連れて行く時にエレナが俺の目を見て、
「ユウトさん......ご武運を」
そして二人は洞窟の出口に消えて行った。
あっちはアスナに任せればいいとして、俺のやるべきことはそれは......。
「そういう訳で、あんたの相手は俺ってわけだ」
振り返ると竜神は先ほどいた位置よりも更にこちらに地響きを鳴らしながら、近づいてきている。
奴が近づくにつれてその大きさが如実に感じられる。アダム山脈ほどではないと知っていたが......まさかこれほどの大きさとは夢にも思わなかったぞ。
だが、俺はなんとなくだが先ほど比べて奴の様子が違うことに気が付いた。
「あんた......知性があんのか?」
俺が言うように今の竜神の赤い瞳には意思が宿っているような気がした。
それは奴の瞳が初めてリアムと対面した時の、彼の瞳と同様に透き通るほどの綺麗な瞳をしているからだ。
すると案の定竜神がその巨大な口を開き始め、やはり知性がなくブレスでも吐くのか? と思ったが奴の口からはブレスではなく、その巨大な口からは想像もできないほど消え入りそうな声で、
「誰かは知らん......だが頼む......俺を殺してでも止めてくれ」
懇願するかのように俺にそう言ってきた。
何故この時、彼にこの質問をしようと思ったのか、その理由をこの時の俺は詳しくは説明することはできないだろう。
「それが......あんたの願いか?」
だが、彼は願いを聞き届けなくてはならない......。
「あぁ......これが俺の......最期の願いだ」
ただ、そう思ったからだ。
彼は願いを言い終えると安心したのかその瞳をゆっくりと閉じ、そして次に開いた時の瞳はエレナを救出した時の、あの野生の瞳に変わっていた。
すぐに俺は次に右手に持っている黒刀を構える。
そして奴がその巨大な口を開くがそこから出る声は先ほどとはまったく違う、野生のモンスターと同じような耳をつんざくほどの咆哮を上げる。
「ガアァァァァァァ!!」
その時になって初めて、俺と堕落した神々である竜神との戦いの火ぶたが切って落とされた。




