家族
あの氷柱野郎は、俺に言いたいことを言った後彼女と一緒にどこかに走り去った。
大方エレナを救いに行ったのだろう。
本来は止めに行かねばならないが......俺にはそんな気力も力も残っていなかった。
それはあいつの言葉が胸に突き刺さったからだ。
「俺はどうすればいいんだ......」
あいつの言うように、自分の思ったようにエレナを救えればどれほどいいことか......だがそれはできない。俺には『守り人』の役目があるからだ。それが俺を縛り付けていることは知っている、だがそうすること以外の方法を俺は知らない。
それに里だけで考えるとあいつの言ったことは間違っている。独りよがりな考え方で実際にそれを実行した場合、無事成功すればいい。だが失敗した場合、自分だけがそのしっぺ返しを受けるならいい、だが実際は違う。その報いを受けるのは、この里全体だ。
だから躊躇してしまうのだ......エレナの命か、里の命運か......どちらを選べばいいのかを。
もしこの『守り人』の役目がなかったから、俺は何の躊躇いもなくすぐにエレナを救いに行くだろう......それは家族だから......大事な家族だからこそ......ただそれだけの理由で、エレナの命を選ぶだろう。
だからそれを実行できる、あいつのことが羨ましく感じたのも事実だ。
「このままここにいても仕方ないな......」
俺はそう呟くと、家の中に入ることにした。だが玄関にはあの時から泣いているだろう母さんが姿をある。
「母さん、こんなところにいたら体に悪い。部屋に戻ろう」
「ギル......そうね、分かったわ」
俺の呼びかけに母さんは目元が赤くなった顔を上げまだ悲しそうにしていたが、そう言うとおぼつかない足取りで部屋に入って行く。
エレナを除く、俺達家族の気持ちは一致しているだろう。
そんな母さんを見送った後、突然後ろから誰かに声を掛けられた。
この家には俺と母さん、そして......。
「ギル、少し話がある」
そう俺に話しかけてきたのは親父だった。
「......」
今俺は親父の部屋にいる。
先ほど話しかけられた後、部屋に呼ばれたからだ。
「何で呼んだんだ?」
なんとなく予想は出来ている。
そんな俺の方を見ずに親父は、あの洞窟、竜の寝床の方向を見ながら、
「彼らは......向かったようだな」
目的語がないが、親父の見る方向を考えれば何を言いたいかは分かる。
そうエレナを救いにだ。
「聞いていたのか?」
あの時、近くには俺達三人以外の気配はなかったはずだ。
「お前があんなに声を出すんだ、聞こえないはずがない」
俺の反応が面白かったのか、親父は少し微笑みながら答えを教えてくれた。
たしかに俺はあまり大声を出すことがない......あの二人が来てから、というよりもあいつが来る前までは。そもそも俺は親しい者以外とあまり話さない方だ。一応話したりはするが、それは業務的なことばかりだ。家族や直近の部下であるレイナ、ケイリー、後数人の部下である者達以外とはあまり親しいことは話さない......だがあいつだけは違った。
会った当初は、鼻に氷柱を付けた氷柱野郎と思い、それ以外はどうでもよかった。だが俺の家に来て、妹のエレナと親しく話している光景を見た瞬間、俺の中にあった歯車が取れたのだろう。だからあんな口調で、いつもの冷静な口調ではなく、家族に接するような親しい者に接するような感じになってしまったんだ。
だからなのかは分からない......。
「あぁ行った」
俺は守り人の役割を放棄して、あの二人がエレナを助ける行こうとしたのを止めなかったのだ。
「では何故彼らを止めなかったんだ? これは守り人の役目でもあるんだぞ」
案の定親父は痛いところを突いてきた
言われなくても分かっている、俺は任された仕事を放棄したことを......だが。
「彼らに賭けてみたいんだな、エレナの命を」
親父の言う通りだ、あの二人ならもしかしたら......そう思ったから......ホント俺は......兄失格だ。
「再度尋ねる。お前は本当に行かなくてもいいのか? エレナを救いに」
それはあいつにも言われたことだ.....それについてはもう答えは出ている。
「守り人の役目であるこの里を守らなければならない、そうだろう?」
「あぁ。それが俺の仕事だ」
これのせいでだとは分かっている......だがこれが最後の砦なんだ......この里の。
「守り人ではなく、お前個人としてはどうなんだ?」
「俺個人?」
「あぁ、お前個人。一人の兄としてはどうなんだと聞いているんだ。」
そんなもん決まってる!
「助けに行きたいに決まってるだろ! あいつは俺の妹なんだ! だがそうすればこの里が滅ぶかもしれないんだ!」
俺の気持ちを聞き終わった親父が突然、
「少し昔話をしようか」
そう言って語り始めた。
この里にある一家がいた。
ある日その一家の中から、五匹の竜の印を持って生まれた赤子がいたが、そんなこの里では当たり前な話だ、だから何ら不思議なことではなかった。
そしてその赤ん坊には兄がいて、その兄妹は仲睦まじく成長したんだ。
そんな兄は、成人すると共に守り人の仕事を与えられた。それはこの里では誇りある仕事として認知されていたんだ。
それを知った彼の妹は、まるで自分のことのように喜んでくれた。
それから月日が流れたある日、彼は守り人の仕事で竜の寝床に行くことになる。そしてそこで竜神の姿を見た。
案の定彼は腰を抜かして帰って来ることしかできなかった。
そして更に月日が流れ、とうとう運命の日がやって来たんだ。
その日、妹は殿の巫女の服装に着替えて出発の準備をしていた。
妹の役目はこの里のために竜神の殿になること......そして彼の役目はこの里を守ることだ。
これらは密接に関わり合っており、もしどちらかが怠れば里は滅びてしまうだろう。
しかし彼は自分の妹を救いたかった......それは大切な家族だからだ。
しかしこともあろうか彼は、あることを天秤に掛けてしまったのだ。
妹の命と里の命運を......。
だがそのたびに思い出してしまうんだ、竜神の姿を......そして彼は妹を見送ったんだ......戦うのを恐れて......。
別れ際、彼に対して妹はこう言った。
「いままでお世話になりました、兄さん。どうかこの里をお守りください」
彼女は涙を流しながら、この里の安寧を願ったのだ。
妹が去った後、彼は後悔した。
自分の力は何の為にあるのか、それはこの里の人達を守るためではないか、それなのにたった一人の家族も救えないなんて、そんな者は守り人とは言わない、そう思ったんだ。
その当時彼は結婚しており、その妻の腹には二人目の命が宿っていた。
なんの因果か分からないが、その生まれた子には印があった。
そしてその子には兄がいたんだ。
彼はまるであの頃の自分達のようではないかと思った。
だから俺は決意したんだ、あの悲しみの連鎖を断ち切りたいと。
だから俺はお前に守り人の仕事を与えたんだ......俺が出来なかったことをお前にやってもらおうと......。
「そんな身勝手な親父の話だ」
叔母がいたのは知っていたが、死因については病気だと聞いていた。だから真実を聞いてしまい何も反応することができない。
「勝手な話、その後俺はこう思ったさ。なんで片方した選ばなかったのかと、両方得らべばよかったのではないかとね。だが当時の俺には力がなかった」
親父はまるでその日を目の前にしている当時の自分の様子でその選択をしてしまった自分自身ことを後悔しているように見えた。
「今のお前にはあると思う。それにいるだろ、強力な助っ人が」
俺は特に氷柱野郎のことが頭に浮かんだ。
最後に親父がこう言った。
「これはお前が決めることだ。俺の意志は考えなくてもいい。だが、後で後悔するような選択だけはするなよ」
それを聞いて俺は......。




