悩み
俺の名前をユウトから氷柱野郎に改名するという議題が賛成一致で可決した後、俺はギル達の家に居候している。
「彼女はともかく、なんでこの氷柱野郎までここにいるんだ!?」
今現在この部屋には俺、アスナ、そしてギルしかいない。
それにしてもこいつ氷柱氷柱うるさいな、それに今の言い方からするとまさか、こいつ......。
「なんだよお前、もしかしてアスナが好きなのか? やめとけ、こいつ俺よりも強いから絶対に! 尻に敷かれるぞ......死ぬまで」
アスナとダンジョン攻略を共にした、そして何よりすでに彼女の社蓄になっているかもしれない俺がそう言うんだから間違いない。
なのでギルがアスナと駆け落ちしないように、俺が優しく諭してあげると彼が心外そうな顔をしている。
「そんなわけないだろ。俺の方が年上に加えて、妹もいるからだ」
「なんだよ、ただのシスコン野郎かよ。驚かせんなよ」
だからこいつから同志の匂いがしたのか。『*ただし、加齢臭系』
こいつとならシスコン同盟を組めるかもしれないが......氷柱野郎はねえわ。
すると突然誰かに肩を掴まれたので、俺は振り返ろうとするが......。
「ん? 一体誰だ、俺のかーー」
そこにはアスナの仮面を被った般若がいた。
まさかの今日三度目のかなり響きの良い音と俺の悲鳴が響き渡った。
「スパーーン!! あぁぁぁぁぁ!!」
「さっきの悲鳴はどうしたのですか!?」
心配そうに部屋に入ってきて俺を心配してくれるエレナ。
「な、何もなかったよ......なあギル?」
俺は頬をさすりながらギルの方を見る。
「あ、ああぁ。つ、つつつ氷柱野郎の言う通り、ななな何も見てないぞ。お、おおお俺は」
その質問にまるでマルフォイのように震えながら歯をカチカチ鳴らしながら答えている。
今の俺の状態は完璧元のままだ。
エレナが入って来る前にすごい手際の良さで般若さんが治してくれ、その変わりようにギルはマルフォイになってしまったのだ。
「ユウト様の言う通り何もありませんでしたよ、エレナさん?」
笑顔なのに冷たい声を出しているアスナ。もしこいつが何か事件起こしても、証拠とか絶対に残ってないだろうな。
そんな俺達を監視するからのように、先ほどから少しだけ仮面が外れかけてその下から般若さんが......おはこんばんにちは! している。不用意に真実を喋れば、今度はエレナにまでその恐怖を植え付けてーー。
「ひっ! わ、分かりました! し、失礼しました!」
それで何かを感じ取ったのかエレナが逃げていってしまった......すでに植え付けられちゃってるー。
「お、おお俺は少しエレナが心配だから、ちょちょちょっと見てくるな」
あのシスコン野郎早々に逃げ出しやがった。
兄妹揃って仕方ないな......こういう時の対処法を教えてやるか。
「お、おおお俺も二人が心配だからな~、ちょちょちょっと行ってこようかな~」
このビッグウェーブに乗る......それ以外ねえぜ!
そう思って部屋を出ようとした瞬間、
「ユウト様、こちらにいらしてください」
先ほどの続きが始まり、二人の兄妹の脳内に忘れられないトラウマ(おれのひめい)が植え付けられた......かもしれない。
「あぁぁぁぁぁ!! たすけてくれぇぇぇぇぇ!!」
先ほどの誰の者とも思えない叫びが聞こえたが今は普通に俺とアスナ、そしてギル達の家族と一緒に食事をしている。
全員気づいているのだ......その存在に......。
何故俺達がギル家にいる理由は至ってシンプル、何かあった時に対処できるのがギルとカルロスだけだからだ。
しかし般若さんには敵わない! なぜならあれは人を越えたナニカなのだから......。
「それでこの里には何か困ったことはありませんか?」
そんな思考を放棄して俺はギル家の皆さんを見回しながらそう尋ねた。
今の俺達にできる仕事は困っている人救うことだ。
俺の質問にカルロスは軽く唸りながら答える。
「う~んこの時期だからな~.......そうだ、備蓄の食料が少し心もとない気がするな」
備蓄......だと? それが尽きればあの料理や目の前のこの料理達がいなくなる......だと?......そんなのいけませーーん!!
「よし!! それなら俺達がその問題を解決しようではありませんか!!」
これは仕事とか言っている場合ではない!
「おぉ! かなり気合が入っているなあ。というかホントにそのために来たんだな、君達は......」
そんな俺の様子にカルロスも驚き呆れていた。
「でも助かるからいいんじゃないのアナタ」
そう言いながら嬉しそうに顔を綻ばせているのは、カルロスの奥さんであるジャネットさん。
「母さん、氷柱野郎のことは気にしなくてもいい。ついさっき前払いはしといたから」
そう言ったのは先ほど俺より先にビッグウェーブに乗って逃げたギル改めシスコン野郎だ。
まったく仕方ないな......こういうお子様には少々お灸をすえないといけないな。
「前払いのお礼に俺から良いものをやるよ......シスコン野郎っていう立派な名前をよぉぉぉ!」
「あんだよ、それは忘れろよ......氷柱ぁぁぁ!」
「それは俺じゃあねえぇぇ!」
すると突然鼻の中がもぞもぞし始める。
そして......。
その通りだ! それは我の名前であるぞ! それと言いそびれた我の生まれたばーー。
「てめぇのせいでまた生まれちまったじゃねえか!」
「汚ねえ鼻水だしてんじゃねえ! さっさと拭き取れ!」
「そんなん分かっとるわ! まったく......」
俺が氷柱君に前身である鼻水君を拭き取る際に、あばよ! マブダチ! そんな声が聞こえたような気がした......これもフラグなのか?。
そのおかげでヒートアップした俺達は収まり、俺は再度カルロスさんとジャネットさんを見るとUFOでも見たかのように目を大きくして俺だけを見ている。
「あの~何か俺の顔に付いているのですか?」
「何言ってんだ? お前のそのかーー」
「はいはい飴ちゃんやるからあっちにいきな......さい!」
俺はズボンのポケットからバナナ系の飴玉を取り出すと、座った状態でギルに向かってメジャー選手のキャッチャーを意識しながら割と本気で投げておいた。
「パァン!」
いい響きと共にギルが吹っ飛び静かになってくれたので俺は再度2人を見ると、
「今の見ただろ? ギルがあんなに素を出すのは久々だな」
「たしかにあんな口調でいつもは喋れなかったものね」
彼らは微笑ましそうにしながらこちらを見ており、エレナを見ると彼らと同じ感じように微笑んでいた。
どういうことだ? 俺のそんな表情が出ていたのか、それにカルロスさんが気が付いたようだ。
「いやすまないね、先ほども言った通りギルのあの口調は久々なんだ。今この子はこの里の守り人になっているから上に立つ者としての自覚する必要があるからね。それに自分も気が付いているのか、先ほどのような感じで話さなくなったんだ......だが君達が来てから久々にあの子を見ることができたよ......ありがとう」
そう言って3人が俺達に向かって一礼した。
「あ、そうなんですか......アレが素だったのか」
3人にそう言いながらも最後に聞こえないように関心しながら一人呟く。
俺は、でこの辺りに飴が当たり赤い点を作って気絶しているギルを見た。
てっきりかまってちゃんなのでは、と思っていたのだがこれが素だったとは......全全全然ワロエナーイ。
まあとにかく、今すべきことは......。
「俺達は居候みたいなもんなのでこの家にお世話になっている間は何でもお任せください」
家賃の代わりに俺達は本来の仕事と万事屋ユウちゃんを兼職しなければならないのだ。
俺のその態度にカルロスさんは微笑みながら頷く。
「そうか......なら頼むとしよう。案内役はエレナ、大丈夫か?」
「問題ありません、父さん」
エレナは嬉しそうにしながらそう返事をすると同時に、俺達の初仕事は食料問題の改善に決まった。