転移
あの後オーブリー達の申し出を受けた俺達は女神アリアナ、亜神テオ、邪神オスカーからそれぞれ喝を貰った。
アリアナからは、頬にキス!
テオからは、背骨が砕けるほどの熱い抱擁......バキッ!
オズウェルからは、白い花の形をした金属製の首飾りを。彼が曰く、お守りのようなものだそうだ。
そして今現在俺とアスナは別室にいる。
「......なあアスナ」
「なんですか」
女番長事件はもう忘れたようだなっと危ねえ、あんま考えるとまたバレる可能性が高いからな。ともかくこんのこと訊いても今更なのでが、一応確認のつもりで訊いてみるか。
「俺が勝手に仕事引き受けたけど、それでよかったのか?」
俺は自分の意志で決めたのだが、彼女にはあまりそのことについて確認してないからだ。
もし嫌ならキャンセルメールとか送らないといけないだろうし。
「別に気にしてませんよ......それに初めから分かっていたので」
「なんで初めから分かったんだ?」
だがアスナはあまり気にしていない様子でそのようなことを言ったので、俺はその理由がきになってしまったのだ。
「それがユウト様の道だと思ったからです」
......こいつ人の心が読めるのか? やっぱ神なんじゃないのか? 『坂井明日奈は神様である』が始まるんじゃないのか? まあ本家は見たことないがな。
俺がアスナ主演のアニメを考えていると主演女優の彼女が、
「......相棒なので」
こちらを横目で見ながら、少し照れたように言っていた......おいおいマジかよ、まさかこいつ....,.。
「お前ツンデレなのか?」
その瞬間別室に何かの潰れる音と俺の悲鳴が響き渡った。
「グシャ!! あぁぁぁぁぁ!!」
「ホントに大丈夫かのお?」
「一応大丈夫だ......多分」
オーブリーが心配するのも無理はない。
先ほどの俺の悲鳴を聞いて駆けつけたオーブリーが見たのは、『かつて俺だった者たちへ』だったからだ。ちなみに複数形なのは俺がスライムみたいになってしまったせいである。とにかくアスナとは違うが、俺もこれで本家に出演することができるかもしれないな。気になる出演枠としてはスライム、すでに神でもなく獣でもなくただのゲルだ。水色のゲルならワンチャン『潰されたらスライムだった件』に替え玉で出演できるのだが、まったく残念である。
そんな俺を彼が治療してくれたから主演俳優にならずに済んだのだが、一瞬三途の川みたいのが見えたんだからな。だが、あの時死神が来なかったのは不思議に感じた、しかしよく考えてみると来たら来たで俺は死んじまった可能性がある。
「ふんっ!」
どうやらアスナさんは激おこぷんぷん丸のようだが、生憎こいつの場合のツンではなくグシャ! だからな。ついでにそれが素手であるという事実。
俺はここで再度思い知る..,,,,女って怖ぇぇぇぇぇ! と。
「それでは、ダンジョンから外に転移させるからちょっと待っててくれ」
そう言ってオーブリーがいなくなってしまった。
ここには今俺とアスナしかいない。そんな彼女は先ほどからあの『13区のジェイソン』みたく指をポキポキと鳴らしている......まさか俺に対して、とかではないよな? これから先ほどのパーティー(拷問)の続きを始めるとかじゃないよね? その様子を見て、俺は黒カネキ君みたいにガタガタ震えながらオーブリーが戻ってくるのを待っていた。
数分してやっとオーブリーが戻って来ると、
「よし、では転移を始めるぞい」
その前にと言ってオーブリーがこちらを見て申し訳なさそうにしながら、
「その前に先ほど言い忘れたことがあったのを思い出したのだが、いいかの?」
「まあ別に今回の仕事絡みだから増えてもあまり気にしないからな。そういうことだから言ってもらっても構わない」
俺の返事を聞いてオーブリーは満足そうに頷くと、
「それで頼みというのは、可能な限り妖刀または妖刀使いを集めるか仲間にしてほしいということじゃ」
「分かったけど、妖刀使いってセスやアスナの師匠だよな? それに触っても大丈夫なのか?」
これで触った瞬間呪いみたいなのに憑りつかれたらそれこそ
「その通りじゃ、ついでに触っても多分大丈夫じゃろ」
多分って.....,あんた適当やな、てかホント神なのか? そもそもなんでそんな頼みをしてくるんだ? 一応俺達が集めるんだしそこんところ訊いていた方がいいかもな。
「それでなんで必要なんだ? 妖刀ってそんなに強いのか?」
セスの『妖刀ヤタガラス』は不死、アスナの師匠が使った『妖刀ムラマサ』は詳細不明だからな。他にもあるだろうけど、以上のことから判断してもよく分からんっていうのが感想だな。
オーブリーはどう答えるか迷っているかのように顎をさすりながら、
「ん~妖刀それぞれによっては強いかもしれんし、弱いかもしれん」
「すまない、意味が分からないだが......」
また新しい矛盾の例を見つけたぞ。ちなみにこれは二つ目なのだが一つ目は忘れてしまった。記憶力は良い方だと宣言していた割に、つい最近あった矛盾の例を忘れている......どうやらこれも矛盾の例の一つに加えた方がよさそうだ。
「つまり力量だけでは判断できんということじゃ」
オーブリーが俺に納得させようと努力しているのだが、生憎さっぱり分からん。力量以外にも何かあるのか? とにかくそこまで負担になることじゃないしな。
「分かった、できたら仲間にするよ」
「うむ、では頼んだぞ」
そこで俺はある重要なことを思い出してそれについて聞こうとした。
「なあところでこれってどこにーー」
「ーー行くんだ?」
ん? 足に地面の感触が......伝わらない......だと!?
俺がゆっくり下を見てみるとそこには地面がなく......真っ白い雲以外見当たらない。
アスナを見てみると......彼女は眠るかのように......気絶していた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺の乙女な絶叫だけが大空に木霊した.....,。
「彼、最後何か言おうとしなかったかしら?」
そう儂に問いかけてきたのは女神であるアリアナじゃった。
「大方行先はどこかってところじゃろうな」
「たしかに説明しても返って逆効果かもしれないしね」
彼女の言う通り彼らにそのことを伝えても逆効果である、だから勢いに任せるしか解決方法はないと判断したまでよ。
するとアリアナは儂の心を読むかのように見つめながら、
「ところで......彼らに真実を話さなくてよかったのかしら?」
それを訊かれて儂は敢えてとぼけたふりをしてみる。
「はて? どういう意味じゃ?」
「とぼけても意味ないわよ。彼らの裏切られたのは凶神が関係してるってことよ」
......仕方ないか。
「たしかに真実を言えば彼らの為かもしれんが、それは世界の安寧の為には仕方ないじゃ。すまないと思うが」
「幸せは誰かの犠牲の上に成り立っているとも言うしね」
儂の言い分にアリアナも苦笑いをするかのように賛同しているが、それがある意味ではこの世の真理の一つである。
ここで例を挙げるとする。
美味しい食べ物は、誰かが身を削って作ったものである。
仮に肉を食べているなら、その肉は動物であり彼らはその者の幸せのために犠牲になっている。
このように誰かが幸せなら、誰かがその犠牲になる。
だが......誰しも幸せになる権利があるのだ。
だから自分が幸せだと感じれば、今度は誰かのために犠牲になってもらいたい。
彼らの本意ではないだろうが......それが平和に繋がるのだ。
「......それに今彼らに絶望者の称号を失ってもらう訳にはいかんのじゃ」
「真実を知ればその称号が剥奪されるものね......絶望の原因を知れば」
儂は一度考え込んで、
「彼らはいずれ気づくじゃろう......絶望者の力に」
彼らには聞こえないと思いながらもそう呟いたのだ。




