強さ
突然の出来事に私は、その異常な光景に呆然とするほかなかったのだが、
「はっ! ルイ師匠!」
思考回路が復活すると同時にルイ師匠のことを思い出し、振り返って見てみると、彼は地面に仰向けで倒れていた。
「大丈夫ですか!?」
すぐに駆け寄り彼の体を支えるが、依然として彼の腕には蛇が巻き付き、手には妖刀が握られており、何となくだが先ほどより色が濃くなっているような気がする。
「ハァハァ大丈夫だ、気にするな」
そんな刀を握っている当の本人であるルイ師匠の状態は、明らかに息遣いが荒く深刻であった。
私はすぐに彼の手に握られているこの元凶である刀を見ながら、
「そんな刀早く捨ててくださいよ!」
「すまんな、ハァハァどうやら、一度抜いたら、捨てることも、手放すこともできないようだ」
それを聞きすぐにその手に握られている刀を彼の手から放そうとするのだが、あり得ないほどの力で握られているのかまったく手が開こうとしたない。
その事実を認識して私は絶望してしまう。元はと言えば、私があのモンスターの攻撃を避けようとしていれば......いや、そもそもここに来るのを何としてでも止めていれば、ルイ師匠はこの刀を握ることはなかったのではないか、そう思ってしまうのだ。
「ハァハァだが、お前だけでも、守れて良かったよ」
そんな私を見てルイ師匠は笑いながらそう言ってくれるが......。
「すみません。私が足手まといになってしまったせいで、ルイ師匠が......」
もしあの時、ルイ師匠が言っていた妖刀からのお告げとというものを信じて、いち早くセレーネを召喚していれば......あのモンスターとも戦うことができたのではないか......そして勝てた可能性があったのではないか、そんな私の気持ちを察したのかルイ師匠は少し面倒くさそうにしながらも、
「何回も言わせるな、ハァハァ気にするな」
「でも......」
彼がそう言ったとしても自分自身がそのことを許すことができないのだ。
「師匠が弟子を守るのは、当然の義務だ」
突然ルイ師匠が先ほどの戦闘中に言っていたその言葉を私に伝えてきた。
そんななんてことのない、ありふれた信念のようなものを私が彼に強要させたせいで......そんな気持ちになり更に痛ましい表情をしてしまい、それを見たルイ師匠は顔を歪ませている。
「どうやら、ハァハァホントに守りたい奴は、守れないらしいな......今回も」
「......えっ? どういうことですか?」
私はルイ師匠と出会って過ごした月日の中で、このような経験をしたと本人から話されたことも聞いたこともなかった。だから逆に訊き返してしまうが、彼は少し躊躇う様子を見せている。
「......お前には、話したことないと思うが......俺には家族がいたんだ」
そう言って彼は、自身の過去を語り始めた。
ーーーお前が俺の道場に来るよりも数年ほど前の話だ......その当時の俺には妻と娘がいて、仲良く暮らしていたんだ。
あの日も、いつものように俺は妻と娘と一緒に三人で、そして当時の俺の道場にはまだ弟子も数十人ぐらいいたんだが、そいつらは別館で寝ていたんだ。
そんな時だった......村の方から「モンスターが出たぞー!」という声が聞こえてきたのは......。
俺はすぐに起きて弟子達も連れて討伐に行こうとしたんだが、どうやらモンスターは大群だったようだ......運が悪いのかったのだろう、すでに俺の道場の近くまで迫っていたんだ。
俺はなんとかすべてのモンスターを討伐しようとしたんだが、モンスターの大群に恐れた弟子達が一人また一人と逃げて行く。
そこから記憶がないんだが、気が付くと朝日が昇るの中モンスターの死体の山だけが目の前にあるのが確認できた。
俺はその光景を呆然としながら、なんとなく村の方を見るとあまり被害がない様子だった。
理由は知らないが大方、人の多さに引かれて真っ先にこの道場の方に来たんだろう。
そこで今更ながらに本来戦っていた理由である妻と娘のことを思い出して振り返るようにして道場を見たんだが......そこにあったのは、道場というよりもすでに廃墟と化していた、以前は道場だったものだけだ。
俺は戦闘中前しか見ておらず、後ろは見ないで戦っていたんだ......大切な家族がいるにも関わらずにだ。
すぐに俺は家族を探した......そしてすぐに見つけたんだ......変わり果てた姿で......。
二人の体にはそれほど目立った外傷は見えない代わりに、体の真ん中に大きな穴が空いているだけだった。
だから苦しまずに逝けたのではないか、そう思ったよ。
だがな、それは目の前の現実が許してくれなかった......だから俺は、苦しかったんだ......大切な家族を守れなかったことが......そして憎かったんだ......家族を守れなかった、自分自身が。
何のために俺は腕を磨いたのか......それは大切な家族を守るためだ。
だが俺の剣だけでは、大切なものは守れなかったんだ。
俺はその日、大切な家族を失って初めてそれに気が付てしまったのだ。
「当時の俺はこう思った、時間が戻せればってな。ハァハァだが、それは結果論だ。結果を知った後なら、誰だってそんなこと言える。『覆水盆に返らず』、とも言うだろ」
ルイ師匠は再度そこで顔を歪ませる。
「そして俺は、今回も守れなかったらしい、お前の心を。ハァハァ俺は、師匠失格だな」
何も言えなかった......ルイ師匠にそんな過去があったなんて。
「だが、お前なら大丈夫だと思う」
「......えっ?」
「お前は魔王を倒した、それだけだけで、たくさんの人が救われたんだ。ハァハァお前の強さは本物だ。胸を張れ、それなら、大切なものを失わずに済む」
でも現に私は、ルイ師匠を! そう言おうとする前に、
「言っただろ。師匠が弟子を守るのは、当然の義務だ」
彼は苦しいのにも関わらず笑いながら言った。
私は涙を流した......彼の優しさに......そして、それに縋った自分が......憎かったのだ。
「泣くんじゃねえ、美人が台無しだぞ」
だがそれを知らないルイ師匠は、冗談を言うかのように笑いそう言った瞬間、突然彼の纏う雰囲気が変わる。
「アスナ、離れてろ」
「えっ? なぜですか!?」
「いいから、早くしろ、時間が、ない......」
私は離れたくない気持ちを抑えながらもルイ師匠の指示に従い、離れることにしたのだが、何故か彼が私の目をジッと見ると突然、
「......ありがとな、アスナ......こんな師を、慕ってくれて」
ルイ師匠の目から一筋の涙が流れたのだ。
それを見て、私は咄嗟に近づこうとしたのだが、その前に......。
「ルイしーー」
「お前は、精一杯生きろよ。大切なもの失わないために......」
その場を光が覆いつくした。
次に目を開けた時には、そこには何もなかったのだ......ルイ師匠の姿も......。
そしてその後、私はサラや他の仲間たちと仲良くなり、一緒にダンジョン攻略をしている最中に仲間に裏切られて死んだ......大切な親友も守れずに......。
その後私は召喚されたのだ......。
リンドウユウトという人に......。




