追憶
「試練の名前は追憶。お前達には今からお前達自身と向き合ってもらう」
追憶ってことは過去を思い出すという意味で取っていいはずだな
「つまりあんたと戦うんじゃなくて、自分自身と戦えということか」
「うむ、その通りだ」
俺の言葉にファフニールは大きく頷いた。
たしかにセスの言っていた通りだな。ある意味ではこのファフニールと戦って勝つことよりも、この試練は難しいような気がする。それに『最大の敵は自分自身』って言うしな、そういう意味ではこのダンジョンの最後の試練には向いていると思うが、
「追憶っていう言葉の意味を理解できるが、自分自身と戦うというのはどういう意味なんだ?」
過去を思い出してそれをどうするのか分からん。過去を終わったことだ、それからは思い出か反省すべきことしか得ることができない。
それにファフニールは考えるように天井を向きながら、
「そうだな......簡単に言うとお前達の自我だけを過去に飛ばして、自身の根底と向き合って、今の自分を見つめ直すということだ」
自我を過去に飛ばすってどういうことだ? 体はこのままで俺達の現在の意識だけを過去に飛ばすという意味でいいのかな。てか全然簡単じゃないんだが......これって俺の頭が悪いからなのか? 俺は隣にいるアスナに小声で尋ねてみたのだが、
「アスナは分かったか?」
「はい」
どうやら俺の頭が悪いようだ......ホント成績平均は伊達じゃないな。
「では、準備はいいか?」
「すまん。その前に一つ聞きたいんだが、いいか?」
これだけは絶対に確認しなければないない。なぜならこれは俺達の生命に関わる重要なことだからだ。
「いいぞ」
ファフニールは快く了承してくれたので、
「これって、その試練に失敗したらどうなるんだ?」
これで失敗して「あっ! ドンマイです! ......はい」とかなってしまうとか絶対に嫌だからな。てかなんだよ最後の「はい」って、面倒くさそうな雰囲気を醸し出すんじゃねえよ。
俺達の生命に関わることの質問に対してファフニールはさも当然な顔をすると、
「死ぬんじゃないのか......多分」
「多分ってお前......分からないのか?」
こいつ試験監督者だよな? 試験方案書とか持っているだろ、それを見れば一発だから。
「セスに聞いたから分かると思うが、今までここに来たのはお前達で三人目だ。一人目の者はすぐ戻って来たからな、そういう訳だ。失敗していない以上どうなるかは我にも分からん」
マジかよ......たしか一人目の奴ってのはあの天使族のことだよな。単純な強さに加えてそのいう部分まで強いとかかなりヤバイな。
そんな俺達の安否を心配してくれたのか、ファフニールが励ますかのように、
「お前達は合格者だ、弱気になってどうする。その状態では打ち勝てるものでも打ち勝てなくなるぞ」
たしかにファフニールの言う通りだな。それにこんなのと戦うよりかは追憶っていう試練の方がまだマシに思えてくる。
「そうか、ありがとう......それで名前はあるのか? このままだといろいろ面倒だし」
ノーライフキングのセスにも名前があるのだから、このファフニールにも名前の一つや二つはあるだろう。現に黒竜神っていうあだ名があるしな。
俺の言いたいことを理解したのか少し頷くと、
「我の名前はリアムだ。好きに呼んで構わん」
「なるほど、リアムっていうのか」
リアムから名前を教えてもらった俺は、今までの会話を静観していたアスナに試験開始の準備ができているか訊こうと思たのだが、
「アスナ、準備はいいか?」
「当たり前です、五分前から準備できていました」
俺の問いかけに彼女は差も同然のような顔をしながらそう答える。
てか妙に時間がリアルだな......この世界って時計とかあんのか?
「そ、そうか。よし! リアムいつでもいいぞ!」
俺は一旦気分を仕切り直して彼に試練開始の合図を出す。
「うむ、ではいくぞ」
彼がそう言うと同時に、目の前から光が光に包まれた始める。なんか以前もこんな感じの体験をしたような......たしかこの世界に召喚された時だな。そんなことを考えてる時だ
「神達のお導きだ、健闘を祈る」
リアムがそう呟いた気がしたが、その直前俺の意識はどこかに飛ばされた。
「さっさと立てこの弱虫!」
これは......。
「マジできもいんだよ!」
何だ......?
「なんで来るんだよ?」
あぁ、思い出した。これは幼稚園の頃の記憶だ。たしかこの頃いじめられていたんだっけ。
あっ! 思い出した、たしか俺達、今試練を受けてるんだっけか。
この夢? なのか知らないが、これはセスと戦闘の時、気を失っていた時にも見てたな。なんで忘れていたんだろうな......いやこの時期に飛ばされたってことはあれしかなないな。
あぁ......そろそろか。
「おい! お前達、弱い者いじめはやめるんだ!」
そう言って現れたのはあまり体格のいいとは言えない一人の少年。
そんな少年のいきなりの登場に、当時俺をいじめていた奴らは動揺するほかない。
「......なんだよお前は?」
そうそう、この時初めて彼と出会ったんだよな。
「僕の名前か?」
初めて出来た友達であり......。
「僕は正義の味方! 佐々木薫だ!」
俺のせいで死んだ佐々木薫に......。