試練
「......そろそろか」
「......えぇ、そろそろですね」
セスと別れてはや約一か月と少しが経過した。
彼の言った通り900階層のボスは知能のないモンスターで俺達はあまり苦戦せずに勝てつことができた。一応は以前までの階層よりかは強いモンスターも増えてきたような気がするが、強いといっても俺一人でも倒せるほどのモンスターばかりだ。つまり最強のアスナならモンスターは蟻ちゃんみたいなものである。ここからアスナは『蟻の王』だと推測でき、これから先は成り上がり人生の始まりなのではないだろうか、と思うほどの余裕がこの階層ではあったのだ。
そして今現在、俺達は最深部である1000階層に迫ろうとしている。いつの間にか地面も黒曜石のようなものから、大理石のようなものに変わっている。あれか、なんか階層が進むにつれてダンジョンの内部の価値を上がるということか。てかこれって持って返ったら売れるのかな? 地球なら高いかもしれないけど、ここじゃどうかは分からんしな。
シンドバットに出てくるダイヤモンドの谷ではないが、大理石を持って返ることで大金持ちも夢ではないなってかそれより、より重要な問題があるのだ。そちらが解決してから大金持ちになるのも遅くはない、結局なるんかーい......起承転結完了!
「セスの言っていた試練ってのがさっぱりわからん」
「そうですね。たしかに漠然としていますしね」
俺達が言うように1000階層での試練というものについてである。
彼曰く、『1000階層のボスの強さは君達それぞれで違う。そこで君達は自分自身に向き合わなければならい』らしいのだが、これがさっぱりなのである。
「ボスの強さがそれぞれで違うってことは別々に相手をするってことなのか?」
「普通に考えれそうなるかもしれませんが、そんな簡単なものなのでしょうか?」
アスナは俺の問いかけに同意しながらも、それを疑問を感じるかのように眼差しでこちらを見る。
「どうゆうことだ?」
俺はその疑問に意味が分からないので彼女に訊き返すと、
「そんな簡単なことなら900階層と変わりませんし、今回の1000階層は最深部です。そんな簡単な問題じゃありません」
それにと言い、
「セスさんが忠告するぐらいなのことなのですから、考慮するべきかと」
「......たしかにな」
セスがあそこまで言うんだ、こんな簡単に片づけていい問題ではないか。それにしても『自分自身と向き合う』ていうところが一番難しい。強さが違うといことと自分自身と向き合う、これらがキーになるのか。それにセスとの戦いの時にも何か大事なことを思い出したのような気がする。いやそれ以前もどこかで......だめだ、思い出せん。
そんな感じて歩みを進めていると
「おっ! どうやら着いたみたいだぞ」
そうして俺達の前に現れたのはいままでと同様の装飾を施された扉であるが、大きく一つだけ違うところがあり、それはその扉の大きさである
俺は見上げる様にしてぱっと見で測ってみるとおおよそだが、縦は50メートル、横は30メートルといったところかな。
そしていままでボス部屋での経験上、扉の大きさとボスの体格は比例していることも分かっている。
これまで見た中で一番大きかったのは900階層である。扉の大きさが縦が20メートル、横が10メートルでボスモンスターは巨大な犬だった。
アスナ曰く、そのモンスターは『ガルム』と言い、幻獣種に属しているらしい。幻獣種とは伝説、伝承上のモンスターを意味しており、それらの多くは好意的・神秘的な印象からそう分類している。例えで挙げるならばユニコーンみたいなモンスターである。ガンダムじゃないぞ、たしかにあれはクオリティが高かったがな。
ガンダムはいいとして、扉の大きさから判断すると最後のボスモンスターは今まで見た中で一番でかいようだ。
「なあアスナ。これだけの大きさのモンスターって見たことあるか?」
「いえ、流石にこれほどの大きさのモンスターは見たことはありません。それにこれほどの大きさになると国から帝災級に指定されるでしょうね」
彼女の言う災害レベルには大きく分けて7区分がある。
亜災級:一つの街の滅亡の危機。
王災級:複数の街の滅亡の危機。
皇災級:一つの国家の滅亡の危機。
帝災級:複数の国家の滅亡の危機。
天災級:一種族の滅亡の危機。
神災級:複数の種族の滅亡の危機。
滅亡級:全種族の滅亡の危機。
アスナに聞いた話、過去に起こった災害の中で一番被害が大きかったのが神災級であったが、なんせかなり昔の話なので当時の記録も曖昧であったそうだ。それらを何とかまとめ上げたところ、どうやらその災害は一匹の人型のモンスターが引き起こしものらしい。
そのときは人族、亜人族、魔族の三種族が壊滅の危機に瀕したそうだが、その後その人型のモンスターはその場で消えてしまったと記録には書いてあったそうだ。
「帝災級か......かなりヤバイよな?」
これはハゲマントの出番ではないのか? そう思いつつアスナに同意を求める。
「私も皇災級しか対処したことがないので分からないのですが、案外今の私達なら余裕かもしれませんね。それに一度だけ、それっぽいモンスターと戦ったことがあるのですが......」
最後の方は声が小さくて少ししか聞こえなかったし、それが何を指しているか分からなかったのでハゲマントと一緒に聞き流すことにした。
「......だといいんだがな」
そう言うと俺は扉に近づくことにしたのだが、近づくにつれてセス以上に強いと俺の本能が叫ぶかように汗が流れ始める。
これはかなり厳しいな、そう思いながら少し力を加えるとひとりでに扉は開いたので、完全に開き終わったのを確認してからその部屋に中に入っていく。内部は明かり一つなくまったくの闇だ。しかし何者かがいるのはなんとなくだが理解できる。
その直後部屋全体に青い光が走る。いきなり明るくなったので俺達は目を瞑ったが慣れた頃に目を開くと同時に、
「よくぞ参った、勇敢な者達よ」
声がかなりの高さに加えて真上から聞こえので、俺達は顔を70度ほど上げてその声の主の正体を確認する。
そこには......?
「ドラゴンか......」
俺の言う通りドラゴンがいたのだが、これが普通のドラゴンではないのだ。
ここまでくる間にドラゴンは相手にしたことがあるのだが、それらは大体の大きさはアスナが召喚した竜(龍)達と同じくらいであり、喋る仕草も見せることもなかった。まあアスナの召喚した奴らはなんか知性があったような気がしたが。
とにかく普通のドラゴンではなく、あの扉に見合った大きさの馬鹿でかい大きさのドラゴンである。
加えて全身が黒く光沢を帯び、その瞳は青く輝き、胸元のには体のサイズに見合った綺麗な青い宝玉が埋め込まれている。
総合した感想は、元! 中二病患者の心くすぐるヴュジュアルというものだ。
「まさか、あれは......『ファフニール』」
俺がわくわくした目でそのドラゴンを見つめていると、突然アスナが目を見開いてそんなことを呟いた。
「なんだそのファフニールって?」
「......『ファフニール』とは『ノーライフキング』であるセスさんが生きた古代の時代よりも更に昔、神話の時代を生きたドラゴンと言われています。当時の人々は、その存在のことを白竜神と対をなす黒竜神と恐れ、崇拝していたと古文書には書かれていました」
アスナは俺に説明している最中も、そのファフニールから目を離さなかった。
「そんな昔の奴なのか......やっぱ強いよな?」
「当時の文献を読んだ神話学者が言うには、その口から出るブレスによって数個の国が消えており、その災害レベルは最低でも帝災級はあるそうです」
俺達の会話を聞いていたのかファフニールは、
「たしかにその話は本当だ。ただし、その国達は我を恐れ結託した上で攻撃を仕掛けてきた。だから滅ぼしたのだ」
おいおいマジかよ。それならそいつらが悪いかもしれないが、それだけの力をこのファフニールが持っているという証拠じゃねえか......てかそんなのと戦いたくない。
そう身構えながら考えていると、何か察したのかファフニールはその巨大な口を開く。
「そんなに身構えなくてもよい。戦うのは我ではない」
「......そういえばセスもそんな感じのことを言ってたな。どういう意味だ?」
「何? あいつお前達にそんなことまで教えていたのか。ついでに名前まで」
俺の言葉にファフニールは少し驚いた様子だ。
「普通じゃないのか? 名前を教えるなんて」
ここって会社みていな設定のはずだろ、なら名刺交換ぐらいしもいいとおもうんだがな。
「あいつは相手のこと気に入らないと絶対に名前は教えてくれないぞ。我だって教えてもらえるまで数百年かかったからな」
マジかよ。
俺達なんて会って、戦って、結果はっぴょおぉぉぉぉ! して、話して、別れる時に教えてもらったぞ。少し気合が入っているところがあるが、そう考えると俺達って案外すごいのか? それに何か他にも言っていたよな......。
「そういえば......セスは俺達が何か成しそうな気がするとか言ってたな」
俺の言葉を聞いて、ファフニールは目を細めている。
「どうやらあいつはかなりお前達に期待しているようだな。合格通知も貰ったのだから」
まあ俺はギリ! 合格だったのだが。
そんなことを考えているとファフニールは仕切り直しすかのように、その巨大な口を開く。
「無駄話が過ぎたな。早速だが、お前達にはこれから試練を受けてもらう」




