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指導者


ーーー小笠原優子side



私、オガワラ ユウコは疲れきっていた。


 私の本来の職業は二年六組の担任かつ英語教師だ。

 

 しかし三か月程前に、突然異世界召喚というものに巻き込まれてしまった。


 当初、私自身少し動揺していたがある生徒を見てそれも収まった。


 その生徒の名前は竜胆悠斗。

 

 ときどき授業に遅れるのでいつも戦争をして賠償金を与えている。

 

 そして私は何かと彼を気に掛けていた。

 

 理由は分からない。

 

 多分あの人に似ていたからではないかと思う。


 そんな彼も召喚された後のダンジョンでの実戦訓練で戻ってこなかった。

 

 原因は魔族に操られた同じチームの生徒達が彼を囮にして逃げてきたからだそうだ。

 

 私はそれを聞いて後悔した。

 

 私の天職は司書、非戦闘系の天職だ。

 

 だから実戦訓練に参加出来ず、大切な生徒を失ってしまったのだ。

 

 教師の仕事は生徒を守ること、私はそれを放棄してその結果がそれだった。

 

 大切な生徒達が危険な場所に行っているのに私は安全な城にいた。


 ホント......私は、教師失格だな。


 



 その日、懐かしい夢を見た。

 

 たしか高校生の頃の記憶だ。

 

 あのころの私は面倒見がよくて、頻繁に友人の話を聞いていた。


 そんなある日、今日も友人の話を聞いていたが、友人が帰った後私は一人で教室にいた。


「はぁー疲れた。偶には自分で考えてみなさいよ」


 机に突っ伏してそんな愚痴をこぼしていると、突然教室のドアが開く。


「ん? なんじゃ小笠原、まだいたのか。もうすぐ下校時間だぞ」


 教室に誰もいないか確認しに来たのか、そう言って入ってきたのは学校最年長であり担任の海老沢大吾先生だ。


「違うんですよ。いろいろあって休憩していたんですよ」


「なんだ? いろいろって」


 何かに気が付いた先生は、私の席の隣に座りこんでまるでカウンセラーのように尋ねてくる。


「実はですねーー」


 その後私は海老沢先生に友人の愚痴を聞いたりしたり、助言をしてりするのが大変だということ話した。


 私の話に時折相槌を打ち、聞き終えると私の顔を見ながら海老沢先生は、


「なるほど。君の言うことは分かった。だが君も人間だ、完璧じゃない。何でも対処できるというわけじゃない。儂も含めてな」


「えっ? 先生もですか?」


 私は海老沢先生ほどの人格者をあまり知らなかった。


 先生が出す答えはいつも模範解答のように思えたからだ。


 私の思い込みを否定するかのように頷きながら先生は、


「当たり前だ。儂にも欠点ぐらいある。そうじゃな......例えば幽霊とか怖いな。なんせ見えないからなあ」

  

 初めて知った先生の弱点が少々意外だ。


「え~先生幽霊なんて怖いんですか? 幽霊なんていませんよ」


 私が馬鹿にするようにそう言うと、先生は心外そうな顔をする。


「馬鹿言っちゃいかんぞ君。そうあれは儂がまだ小学生だった頃の話じゃ。あの頃のーー」


 そして突然先生の昔話が始まる。


 先生が当時小学生の頃、悪ふざけをして母親から逃げいている最中に道に飛び出した瞬間、不運にも車がいることに気づかずにそのまま車に轢かれたそうだ。


 その時はあまり目立ったケガなどもせずにそのまま病院で軽く検査した後に家に帰ったそうだが、事件は先生がトイレをしている最中に起きた。


 当時のトイレは、今のような洋式ではなく和式、加えてぼっとん便所という汲み取り式のトイレであると先生は言っていたし、祖父達の家も昔はそのような感じのトイレだと聞いていたので、すぐに飲み込めることができた。


 そんなトイレは家の中ではなく、外に設置されていたので周囲には誰もいなくて木や草しか生えていないほどの距離が家とトイレとのあったそうだ。


 その時は、あまり言いたくはないが......大ではなく小だったので先生は座った体勢でしていたそうだ。


 している間はずっと下を向いていたそうだが、何故か自分の正面から聞き覚えのある声がしたので見てみると、そこには......もう一人の自分の顔が個室の壁から生えていたのだ。


 それを見て先生は、驚いたり泣き叫んだりせずに、ただゆっくりと......ぼっとん便所に自分がぼっとんしてしまったのだ。


 その時は先生がいつまで経ってもトイレから帰ってこなかったので、それを心配した母親がトイレに様子を見に行ったところ事件が発覚したそうだ。


 その日を境にして幽霊といったものが見えるになったのだが、学年を上がるごとに幽霊を視認する回数が減っていき、小学校を卒業する時にはすでにその存在すらも見ることができなくなったそうだ。


 先生が言うには、幽霊達と何かしらのコミュニケーションは取れていて知り合いになった幽霊もいたそうだが、何故がその時の記憶が抜け落ちており、よく思い出すことができないという。


 だが一人だけ鮮明に覚えているものがいる、それは......霊感の存在が初めて確認することができるようになった、あのもう一人の自分、つまりドッペルゲンガーである。


 しかしそれとは、その時以降一度も会うことがなく当時の彼にとって唯一コミュニケーションが取れなかった者だそうだ。


 そういうことがあって以前は何ら怖くなかった幽霊達が怖くなったと話していた。


そんな話を聞いている途中、何回か吹き出したりもして私は注意された。

 

 話が終わる頃には太陽も沈み、外は暗闇に包まれていた。


「すまんな、長話に付き合わせてしまって」


「別に気にしてませし、気にしないでください。それに話も面白かったですし」


「そうか、なら良かった」

 

 私の反応に安心したのか顔を緩めたが、すぐに教師の顔に変わるとつまりだと先生が言う。


「君が思うように誰にでも欠点がある、それは儂にも当てはまることだ。それを誰かに強要してはいけないんじゃ。この世には完璧な人間なんていないんだしな。神様だって完璧ではない、なんせ戦争や紛争なんてものが起きているんじゃからな」


 そして先生最後に私のことをまるで自分の孫を見るかのようにして、


「だから疲れた時は儂を頼りなさい。私は君達の教師であり指導者じゃからな」


「先生......」


「うむ」


 私が感動していると思ったのか、先生は満足そうに頷いる。


「話が長いです」


 私はそれをきっぱりと叩き切ってあげた。


「あ、あれ? おかしいな、今いい話してたんじゃよな?」


 そんな会話をした後、私と先生はそれぞれの帰路に着いた。

 

 多分私は、この時には教師に憧れていたんだと思う。


 数日してその友人がまた私に愚痴を言ってきたので、先生の話を加えながらその友人に言った。


 そしたら、


「ごめん! 優子に頼りすぎてた。今度から自分で考えてから相談するよ」


 私に向かって手を合わしながら下を向いてその友人は謝ってきたので、


「気にしないで明日奈。それに私達親友じゃない」


「......うん! ありがとう優子!」


 私がそう言うと明日奈は感動したのか少し涙目で嬉しそうお礼を言ってきた。


 

 そして数週間が経った頃、私の親友である坂井明日奈が失踪したという情報を耳にした。

 

 警察の調べでは彼女は在宅していたと判明しているのだが、母親がご飯を呼びに彼女の自室に行くとそこには誰もいなかったそうだ。


 その後、明日奈は見つからないまま私は高校を卒業した。


 担任だった海老沢先生も彼女の安否を心配していたが、結局私の卒業と同時に転職して小学校の教師になったと本人から直接聞いた。


 高校卒業後も先生とは連絡を取り合っている。


 先生と話すときの話題は私の通っている大学でのことや先生の勤務してる小学校の出来事、そしてあの日失踪した私の親友である坂井明日奈についての話などだ。

 

 彼が話した中で一番興味深かったのは、ある男子児童が仲の良い女子児童をいじめっ子達から身を挺して守った話だ。


 なんでも彼はドロップキックでいじめっ子達に対抗したそうだ。


 私はそれを聞いて笑ったりした。

 

 そんななんてことない話を先生と話したりしたものだ。


 それから10年が経ち大学を出て教師になった私はあるクラスの担任を持つことになる......それが今の二年六組だ。






「ん......夢か」


 ベットから起き上がる私。

 

 どうやら考え事をしているうちに眠ってしまってようだ。


「誰しも完璧じゃない、か......」


 まるで自分自身に言い聞かせるように先生の言葉を口にしてみる。


 そして自分の頭に中で状況を整理してみる。


 今私にできることそれは......。


「生徒の指導者になること」


 あの事件以降クラス全体が悪い方に変化したような気がする。

 

 事実、彼が死んだことにより、この世界にも死があると認識した一部の生徒達は自室に閉じこもっている。

 

 そうでなくても彼と仲の良かった者達も変化している。


 そんな彼らを教え導くのは教師である私の役目だ。


 だからこそ今度はもう間違えない。

 

 一人で背負おうとしない。


 私は服を着替えてドアを開けた。


 『もう大切な生徒達を失いたくないから』


 そう私は決意を固めて部屋を出て行った。

 

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