天使族
「話って......あの最初の攻略者の話か?」
「その通りだ」
俺の回答に彼はそう頷きながら言った。たしかに戦闘の前に勝負に勝ったら教えてくれるという約束をしていたな。だがホントに教えてくれるとは思っていなかった、しかし彼はそのことについて話そうとしているし、ここは彼の善意を受け取ることにするか。
「わかった。たしかその種族は何かってところまで話したんだよな?」
「あぁその通りだ。そしてその種族というのは天使族だ」
俺の疑問に彼はそう教えてくれた。
「天使族ってあれだろ......たしか、天空に住んでて魔族と相対して一番強い種族だろ」
アリシアもそう言っていたし、図書館の古文書にもそう書いてあったからな。てかアリシア懐かしいな、元気にして......るだろうな、まあ今のところこのダンジョンを攻略しても真っ先にそこに行くわけじゃないしな、それにあそこにはクラスメイト達の皆様方いるし、多分行かないな、うん。
「世間一般的にはそうなっているが実際は違う」
俺は心の中でそんなことを決意していると、そうとは知らない彼は、突然その事実が誤りであるかのように言っている。
つまり俺達の知っている情報は誤りだということなのか? ならあの図書館の本というか、ほぼすべての国に所蔵する本に記載されているその情報は、誤りであるということに繋がる。これってかなりヤバイであるのは明白だ、世界は情報が支配しているようなものだからだ。特に地球と違い、この世界は情報のやり取りのスピードが遅いと推測できる、一度ユーリシア国の中を見回ったことがあるのだが、機械といったものを目にすることがなかったのだ。それを補うために魔法というものがあるのだろうが、それでも情報伝達のスピードは遅いということは、異世界人である俺達からすれば考えなくても分かることだ。
とにかく今は、その誤りであるという情報について訊かないといけない。
「どう違うんだ?」
「簡単にいえば強さだな。彼らは種族というよりなんていうか......」
俺のその質問に彼は少し言い淀むと、
「神の子らしい」
「らしいって、なんだ情報が曖昧なのか?」
「そうではなく私自身上司達から聞いているんだ」
ていうかホントこいつの上司何者なんだ? 逆にそっちの方が気になるわ、ワンチャン神様だったりして、なんつって♪
「そうか、で神の子ってのは何だ?」
「そのままの意味だ。次世代を担う神達だ」
スケールがでかくなりすぎて頭がショートしそうだ。ヒューズを取り付けるのを忘れてしまったせいだな。
そんな俺の状態を察したのか彼が気遣うように、
「こんな話を聞いたら普通そうなる。気にするな」
まあそりゃそうなるわな、いきなり神降臨みたいな話されたら誰だってこうなるぞ。以前布教活動で家に来た子供連れのババァBがいきなり「キリスト様が復活しました」と言ってきたもんだから、「えっ、その子がキリストなんですか?」とその指を咥えた男の子に向かって言ってしまったことがある。このババァBは、ババァAとは無関係だが子供は同一人物だったのだ。あれか、あの子役者か何かなのか? いつも指咥えてこっちを見るもんだから、とうとうこの日はうまい棒を恵んでやったんだぞ。ちなみに味はめんたい味だ、あの明太子のうま味と辛味が絶妙にいいだんよな。そしてそれをもらったその子は、その場で勢いよく食い始めたという話だ。まだ話としては続くのだが、結論を述べよう......キリストは復活していない、だ。まあ宗教の自由もあるしな、考え方は人それぞれだ。
というわけで思い出話はここまでとしておいて、俺はこの場にはもう一人いるので、その人物にこのことについて訊いてみることにしたのだが、
「アスナはこの話知っていたか?」
「いえ、そもそも天使族自体見たことありませんでしたから......」
彼女も彼の話に対して驚いた表情をしている。てっきりアスナは、この世界でそれなりの時間を過ごしているし、魔王討伐とかでいろいろな場所を旅したりしたと思っていたからな、それで天使族にも会っていると思っていたんだが、実際には会ってこともなければ見たこともないのか。
俺達のそんな会話に彼が、
「そもそも天使族自体こちらの世界には来ないらしい」
「こちらの世界? 他にも世界があるのか?」
パラレルワールドみたいなものなのか? だがあれは、俺達のいる宇宙と同一の次元だったはずだよな、だから異世界みたいなものじゃないはずだが......あっここって異世界だわ、なら他にもあるっていう証明にもなるな。
「あぁ、ある。たしか君達は異世界人、間違いないな?」
彼のその問いかけに、一人で証明完了した俺とアスナは頷いたことを確認すると、
「それでだが、彼ら天使族は神域というところで生活していて、こちらの世界で何か不吉なことが起きないと来ないらしい」
「それじゃあこの世界にその天使族が来たってことは、あれか何か不吉なこと起きるってことだからなのか?」
てか不吉なこと俺に身に降りかかってるーー! つまり俺のために来た可能性が高いと思ったが、その天使族って俺達がこの世界に召喚する前に、このダンジョンに来ていたみたいだからな、つまり俺に降りかかったあの事件は不吉ではないことだ、なめとんのか。
この世の理不尽に対して腹と立てながら彼にそのことを尋ねてみると、
「一応そういうことになる。私も気になってその天使族に話を聞いたんだが教えてくれなかった」
「じゃあなんでその天使族はここに来たんだ?」
「......そう言えば私の上司達に話があると言っていたな」
徐々に内容が理解でき始めてきたぞ、というかやはり一番気になる、あの質問をしておかなければいけないな。男の子ならいの一番に訊こうとするあの質問を。
「ちなみにその天使族って強かったのか?」
「あぁ強かった。なんせ私を一発で消したのだから。修復するのにかなり時間が掛かって大変だった......」
彼の苦労が垣間え見たような気がした......まあこれが社畜というものなんだろうな......ここって社会勉強するために場所か何かなのか? まったく働きたくなくなったんだが......。
とにかく今まその天使族について根掘り葉掘り訊いておかないとな。
「そ、そうか。その天使族ってどんな攻撃をしてきたんだ?」
「あっ! 思い出した。たしか君と似たようなスキルを使っていたぞ」
聞き逃せない一言だった。
「それは本当か!?」
「あ、あぁ本当だ。だが君とは違ってその天使族の場合は闇系統ではなく光系統のように見えたがな」
俺の鬼気迫る勢いに彼を驚かせてしまったが、そんなこと気にしている余裕はない。
だが今聞いた話だと、無駄足だったような気がするな。
「そうなのか、ありがとう」
「......それでだが、この後の話なんだがいいか?」
「この後の話って?」
てっきりこれで話終了ー、後は試し斬りタイムの始まり始まりー、と思っていなくはないが、そんな俺のオウム返しに彼は少し眉をひそめている。
「無論ダンジョン攻略の話だ。今の君達なら900階層のボス部屋も余裕だろう」
「? 普通900階層の方が強いんじゃないのか?」
ゲームでは、階層を進む毎にモンスターは強くなっていくシステムのはずだから、てっきり彼よりも次のボスの方が強いと思っていたのだ......ゲームならな。
だが今の言い方だと、彼よりも900階層のボスの方が弱いと言っているような感じがするな。俺としては、仮に全力の彼と戦ったとしても勝ってる可能性が、限りなく低いというのは目に見えている。だから、その言葉が正しければいろいろと都合がいいので、俺は大歓迎である。
「先ほども言ったと思うが私がここにいる理由は攻略者の総合的な実力の見極めと選別だ。言ってしまえば、ここで合格判定を貰えば先に進むだけの実力があるということ意味している」
「それじゃあこのダンジョンを攻略したも同然だな」
どうやらこの後は楽そうだな、そう思って肩の荷が落ちかけようとした時、彼は俺の考え方を否定するかのように首を振ると、
「いや......問題はそこじゃない」
「どういうことだ?」
そこで彼は、指を組みながら俺達を見て言った。
「周知の通り、このダンジョンは1000階層で成り立っている。たしかに君達の実力なら900階層のボスぐらいは余裕だろう。だが問題はその先、1000階層のボスだ」
たしかに俺達が知っている情報でもそんな感じだから、齟齬はないな。
「なんだ、そんなに強いのか? その1000階層のボスは?」
「ここで私の話す話ではないけれど......」
俺の問いかけに彼は少し言うかどうか悩んでいたが、
「なんとなくだが......君達には言っておかなければならない気がするんだ」
そして彼はその話を話し始めた。
「1000階層のボスの強さは君達それぞれで違う。そこで君達は自分自身に向き合わなければならない」
彼は真剣な顔で俺達の顔を見ながら言った。
俺はその意味が気になって、
「それってどういうーー」
「すまないがこれも試練の一つなんだ。これ以上詳しくは話せない。すまない」
彼は実際に申し訳なさそうな顔をしていた。
「いや、少しでも知っておけば何か対策が打てる。ありがとう」
「いや、礼には及ばない」
しかし俺は彼の親切心が少し心配になって、
「でも本当に良かったのか? こんな重要なこと話して?」
「......なんとなくなんだが、君達ならなにかを成しそうな気がするんだ。言ってみれば私の勘だ」
俺の考えを察したのか、彼は安心させるようにそう言った。
「......そうか」
彼の考え方に俺は納得するとアスナと彼の顔を再度見て、
「とにかく礼は言うよ、ありがとう」
「ありがとうございます」
俺達のその言葉に彼は少し驚いた表情を作ったがす嬉しそうにして、
「感謝されるのはいいものだな」
微笑みながらそう言った。




