決着
俺は手始めに、奴の周囲に魔力を飛ばす意識をする。
「影針!」
すぐに無数の針が奴を貫通するかのように襲っているはずなのに、何故か奴はまだ余裕な表情をしている。
俺の疑問に奴は気づいた様子を見せると肩を竦めると、
「残念だが、私に闇系統の攻撃はあまりに効かないのだよ」
その一言ですべての針が煙のように消え去ってしまい、貫いたと思っていた場所も何事もなかったかのように綺麗なまんまだ。
「マジかよ。それじゃあ俺の存在価値がないようなもんだぞ」
俺の攻撃属性は主に闇系統だから奴には効果が無いようなもんだ。
この戦闘で早くもお荷物確定か!? てかそもそも主力はアスナだからあんまし関係ないけどな。
「だが近接系だったら効かなくもない」
その一言で、黒刀さんの株が今世紀最大の値上がりを起こしている......これがバブル時代なのか?
まあバブリーはともかく、どうやら俺の存在価値は黒刀に託されたようだな。黒刀さん、後のことは任せました。
「ユウト様、次は私から仕掛けます」
「よし分かった。だが、気を付けて行けよ」
アスナさん、後のことは任せました。
俺がそう言うとアスナは、
「神速剣!」
刹那、アスナが消えたように見えたが、奴の方を見ると彼女は一瞬でノーライフキングの間合いに入った。
あれって時速どんくらい出てんのかな? ワンチャン第三宇宙速度出てんじゃないか? なら太陽系外に飛び出して無限宇宙に行ってしまうな。
そのぐらいすごいスピードである......分かりにくっ!
そんなスピードを維持したまま体と剣がシンクロする。それは見方によっては蝶の剣舞のように見える。そしてその剣先が神速の速度でノーライフキングの首に触れようとした瞬間。
「キィン!!」
彼女の白い剣とノーライフキング紫色の刀がぶつかり合い、白と紫の閃光が一瞬だが走る。
「......それは、妖刀ですね?」
「これを知っているのか?」
何かに気が付いたのか、鍔迫り合いをしながらもアスナはノーライフキングに確認するかのように尋ねると、奴はそのことに対して細い目を少し広げ驚いている。
何か妖刀って日本でも聞いたことあるな、そんな俺の思考とは関係なしに、話と展開は更に進んでいる。
「えぇまあ、以前知り合いが使っていたのを見たので......」
「なるほど......ということは、その知り合いという者は呪われているのか」
奴は何か納得するかのように頷きながらそんなことを口にした。
そして奴の握る妖刀が紫色の光を帯びめる。
「その通りだ。これは妖刀ヤタガラス。呪いの効果は不死だ、だから私は不死の王と呼ばれている」
俺は奴とアスナの戦いを少し離れたところから見ているのだが、そんな二人を取り囲むように魔力があり得ないほどの集まり出した。
俺はアスナにそれを言おうとする前に、奴が次に繰り出す技によってそれは打ち消さてしまう。
「インフェルノ!」
アスナが危険視するべきと言った技を繰り出し、 奴の周囲を紅蓮の炎が覆い始めた。
この距離ですでにその熱量の大きさを感じて汗をかき始めおり、炎が存在する地面はすでに溶岩のように溶け始めている。
アスナもそれに気づいてはいるが今動くとそれこそ奴の思うつぼだ。しかし今二人は鍔迫り合いをしている。つまり動けるのは俺と召喚された竜(龍)達だけだが、あちらはあの二匹を任せているから手を貸してもらうわけにはいなかい。
一瞬だけ竜(龍)達の戦闘を見たのだが、何やらさまざまな色の魔法が発生している。
俺は即座に脳内で最短経路で一番安全だと思われる方法を取ると決めて、依然として形勢が硬直しているアスナの近づくと同時に、炎の影響がないと思わる場所を狙い力を籠めて吹き飛ばした。
俺の接近にノーライフキングは気づいていた様子だった。気づいて上で何も手を出さなかったのは気になったが、今はそんなことを考えている暇なんてない。
アスナは直前まで俺の存在に気づいない様子だったが、彼女の間合いに入ったからなのか一瞬で俺を認識すると同時に目を見開く。しかしその時には俺と彼女はすでに選手交代をしていた。
俺は今からこの場全体を襲う炎をすべて吸収するつもりで影穴を展開させたのだが、影穴は俺の目の前に展開される。つまりその熱を真正面から受けることになるということだ。
感じたことのないような熱さに苦しみながら、前に突き出した手や腕といった部分が徐々にひどい火傷の後のようになってきている。この分だと顔も同じ感じだ。
しかしこのままだとかなりマズイ。予想していたより強力すぎるからだ。息をするたびに喉が焼けていく感じがしてくる。伊達に炎系統最強を名乗っていないな。
俺はそこで覚悟を決める。この炎をすべて吸収することは不可能だ。魔力云々ではなく、この『インフェルノ』の魔力量の方がその上を行っているからだ。
すべて吸収することができなかった俺はその余波を受けて意識を失おうとした瞬間、
「ユウトさまあぁぁ!!」
そんな声が聞こえたような気がした。
「さっさと立てこの弱虫!」
これは......。
「マジできもいんだよ!」
何だ......?
「なんで来るんだよ?」
あぁ......思い出した。これは幼稚園の頃の記憶だ。たしかこの頃いじめられていたんだっけ......。
でもここで......彼が現れたんだ......。
「---! ---!」
誰かが俺を揺さぶる。
「--ー様! ユーー様!」
あぁこの声は、
「ユウト様!」
思い出した!
俺はパッと起き上がり頭の中で今までのことを整理し始めるとにした。たしか俺は奴の攻撃を吸い込むことができなくて、その余波を受けてしまってそのまま......。
あっ! そうだ奴は! 探して見てみると、少し離れたところからこちらを観察するように見ていた。
「おいアスナ、俺ってどのくらいねーー」
俺はアスナの表情を見て驚いてしまった。
なぜなら彼女が涙をポロポロと流していたのだ。出会ったこれまでの間、彼女が涙を流していたのは、レイスに出会った時ぐらいしかない。
だから俺は、今のアスナの様子に少し驚いているのだ。
「お、おい。何で泣いてんだ?」
「当たり前じゃないですか! 勝手に助けて自分だけ攻撃受けて! 誰だって心配しますよ!」
そして自分の顔を手で覆いながら、
「大切な人を失うのはもう嫌なんです.....,」
......そうか、そうだったのか。
ここでようやくアスナの泣いていた、その理由を理解することができた。
アスナは多分......俺とサラさんを結びつけていたんだ......だから先に逝ってしまうのを恐れたのだろう。自分の力が及ばなかったせいで、守ることできなかった。ただ......そのことだけを......。
「すまん! 中途半端な助け方をして。次からはしっかり助けてみせるから!」
「......当たり前です。少なくともやる時は一言ぐらい言ってください、相棒なんですから」
そのことに対し、俺が誠意を持った謝罪をすると、アスナは流していた涙を拭き取りながらも、そう微笑みながら言った。
「ゴホン......もういいかね?」
ヤバイ! 忘れてた!
「あんたもすまん! 待っててくれて? あれ? なんで待ってたんだ?」
というか先ほどの戦闘の時も一人一人相手にするかのように戦っていたしな。なんか本気で戦っていたというよりも何かを確認するかのように感じる戦いだった。
「紳士として今のような光景は壊したくないんだよ」
俺達敵同士だよな?
そんな俺の心を読んだのか、
「冗談だ。ただ面白いものを見せてもらった礼と部下を倒した報酬だ」
そう言って彼の見た先に倒されたリッチとヴァンパイアロードの死体と、その近くに五体の竜(龍)がいた。
どうやら俺の気絶している間にあちらの決着はついていたようだ。
「ところで話を戻すが......」
ここで彼は一旦話を切って、
「このまま戦闘を続けるか?」
本音を言うと......俺として戦いたくない。自身の中で彼を敵とはもう認識していなかったからだ。それは先の戦闘がなによりも証拠だ。
それに今確認していることから彼の性格のよさを感じる。普通はこんなに早くそれを理解できないだろうが、この戦いの中の彼の行動と言動からそれを推測することができたからだ。
だからこそ、
「俺は正々堂々あなたを倒して、このダンジョンを攻略しなといけないんでね」
ここでやめたら彼に失礼だと思った。初めに彼の言っていた通り俺達は攻略者だ、だから俺達はそれに則り彼を自分達の力で倒さないといけないからだ。
「そうか......いい答えだ」
彼はその細い目をさらに細めながら満足しているかのようにに頷くと、
「では私を倒してみよ!」
その瞬間先ほど以上まで魔力が一瞬で彼の周囲に纏い始める。俺はアスナの前に出て確認するように頷くと、アスナは逡巡する様子を見せたが先ほどの約束を思い出したのか、渋々だが俺に任せるように頷き返した。
それを確認して俺は黒刀と左手に残りの全魔力を纏わせる。
そして、
「呪術・惨滅波!」
彼の体から発生した黒い波動が部屋全体に行き渡るかのようにしながら俺達に襲い掛かってくる。
彼との距離はあるのだが、この時点で服で覆われていないところには切り傷ができ始めている。
あれが直で当たったら100%切り刻まれるな。
だが俺はその前に準備していた影穴を展開するかのように左手を突き出して彼の攻撃を吸い込む。
そのまま黒刀を構える。
「無極剣!」
自身の出せる最速のスピードと最大の力を黒刀に纏わせながら彼に近づくが、それに気づいた彼がさまざまな魔法を飛ばしてくる。
俺はそれをスキルの流れに合わせるかのようにして避けていき、俺の間合いに彼が入った瞬間そのまま黒刀を彼の首を狙うように切り込もうとした。それに彼が対処することが可能だと思ったが、それに反応するより先に彼の首を飛び、俺の黒刀がその黒い一筋だけが空中に残った。
それを見届けた俺は、すでに魔力を使い果たしていた。黒刀がすり抜けるかのように手から離れたが、それを握るだけの力はすでになく、俺はそのままの勢いに任せて倒れこもうとした、その時だ。
「二人とも、合格だ」
彼の優しそうな声と急いでこちらに駆け寄るアスナの姿を見ると同時に、俺は意識を失った。




