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彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
最終章:堕落した神々との戦い
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レクイエム⑪





『ごめんなさい、オスカー! あなたとルイだけにまかせっきりにしちゃって、それで、そのせいでルシアが......! くうぅ......」


『ソフィアだけのせいじゃないよ。私も、自分のことばかりで、全然会いにいけなった......』


『本当に今更で、こんなことを言う資格がないってことは分かっている......けどオスカー、何かあったら私達を頼ってほしい。心許ないかもしれない、それでも頼ってほしいの。ソフィアでもエラでも、私でもいいから。今度はきっと、あなたの力になるはずだから』



............



『来たぞ、オスカー』


『飯、ちゃんと食ってるか......?』


『これ、ルシアがお前にって』


『遺言、かもしれないが、あいつずっと「約束、守れなくてごめん」って言ってた』


『ああ、くそ......! お前がこうなっちまうなら、教えなければよかった......』




........................






 ―――――――――――――――――


 オスカー、元気にしてくれていますか?


 よく物語の中で、この手紙を読んでいるということは、そんなフレーズを目にするよね。あと、何もなかったら、そんなフレーズも。

 私もできればそんな感じの気分で書きたかったんだけど、その人達と私はきっと違うから書けなかったんだ。


 なんだかしんみりした書き出しになっちゃったね。

 手紙を書くことに慣れていないからうまく書けるかわからないけど、私なりに頑張って書きました。

 つらいことが書いてあるけど、できれば最後まで読んでほしい。

 

 早速なんだけど。

 ねえオスカー、あなたは多分、もう全部知っているんだよね。

 いま世界で、妖刀がどういう認識にあるのか。

 書き方があれだけど、責めてるわけじゃないんだ、ただ謝りたいの。

 兄さんもあの日から、苦しんでた。

 同じ雰囲気を、お見舞いに来てくれたあなたからも感じた。


 兄さんから、オスカーには言わないでって伝えていたこと、あなたはもう知っているよね。

 きっと兄さんは、あなたが無茶をするって思ったから、そう言ったんだと思ってる。

 それは本当で、実際はもう1つあるの。


 突然だけど、私と出会った日のこと覚えてる?

 あなたのことを想えば、あなたは忘れてしまっていた方がいいって思う。

 思い出させない方がいいって。

 ほんとにごめんね、こんなこと書いてしまって。


 こんな世界、見ていてもつまらない、そんな言葉をあなたは呟いていたの。

 

 大袈裟かもしれないけど、あの時のあなたは、まるでこの世界に絶望しているように見えたんだ。

 放っておけなかった。いつもどこか暗い表情をしているあなたが、下界を見てそんな表情になっているから。

 だから私は、そんなことはないってあなたに声をかけた。

 そして私の目に映る世界を教えてあげた。


 それで全部拭えたとは、思ってないよ。

 あの日のあなたが、今のあなたの中に燻っているのは、長年隣にいさせてもらえたから分かるんだ。

 

 知らないでいてくれたら、少なくとも世界は、あなたにとって、あの頃の世界に戻らなかった。

 だからこそ私は、あなたにだけは知ってほしくなかった。

 今の私には、今のあなたの目に、私のいなくなった世界が、どう映ってしまうのかが、想像もできないし、考えたくないから。

 

 このことを、手紙じゃなくて、言葉で伝えられればって後悔してる。

 昨日、今日、あなたが来た時、伝えられれば、いつも後悔してる。

 昨日、いなくなったかもしれない。今日、いなくなるかもしれない。明日、あなたに会えないかもしれない。そう思っても、私は言葉じゃなくて手紙を選ぶ。

 言葉で伝えようとすると、伝えたらいけないことまで口にしそうだから。 

 

 だけど手紙でも、余計なことを書きそうだなって思い始めているので、この辺りで終わりにするね。

 だって思い出は、あなたの中にあるはずだから、ここでしか伝えられないことを伝えたい。 


 いつも仕事で大変なのに、お見舞いに来てくれてありがとう。

 塞ぎ込む私のために、楽しい話をしてくれてありがとう。

 あなたがいない時、オルゴールをあったから、気が安らいだよ。

 あなたがいない時、あなたがくれたあの子が、代わりに寄り添ってくれた。

 それと、初めから私は、神になるって決めてたから、そんなに気に病まないで、あの頃のあなたのままでいてください。


 あなたがくれたものは、机の中にあるので、落ち着いてから、もらってください。捨てたら悲しいけど、それであなたが前に進めるのなら、それもいいと思う。

 それと兄さんは、少し寂しがり屋なので、私の代わりに構ってあげてください。2人の仲だから書く必要ないかもしれないけど、一応兄さんへ宛てた手紙にも、同じことを書いているので、きっとそれで大丈夫だよね。


 

 オスカー。

 守ってくれる、そう約束してくれて、たとえ無理でも私は嬉しかった。

 そんなあなたがいてくれて、私は世界の誰よりも幸せだった。

 最期の時まで、きっとあなたが傍にいてくれるから、私は世界で一番の幸せ者だよ。

 あなたの隣には、もういることはできないけど、心はあなたのことをずっと想い続けるから。

 だからどうか遠くの場所から、あなたの幸せを祈らせてください。

 

 ありがとう

 愛しています


 約束、守れなくて、ごめんね



 ――――――――――――――――――





 曇天の空

 神界には珍しい雨が降っている。

 

 そして世界は、今日も回っている。

 いつも通り回っている。

 たとえ、この世から彼女がいなくなっても、それを知らずに世界は常に回っている。


「オスカー、濡れるぞ」


「......」


「オル兄も心配している、ほら、帰るぞ」


 他種族で、時には同族同士で戦争をする存在は、あの頃のまま、何も変わっていなかった。

 変わらない、本当に変わらない。

 それなのに......


「何を見ているんだ......?」


「......つまらない、世界だ」


 あの美しい世界だけは、もうどこにもない。


「兄さん、こんな世界見ていてもつまらない」

 

 










「待て、オスカー」


「オル兄さん、そこをどいてくれ」


「オズウェルはどうした? 先ほど、お前が来た方向に向かったはずだが」


「俺の邪魔をしようとしたんだ」


「......とりあえず、家に戻るぞ。話は戻ってからだ」


「兄さんだけ戻ればいい。俺は行かないといけないんだ」


「どこに、行くつもりだ......?」


「......」


「......神として、そして兄として、今のお前は止めなければならない」


「ああ、そう......ならもういいよ」











「ルイ、大変だ!」


「どうしたんだ、そんな血相を変えて」


「オスカーの野郎やりやがった!!」


「まさか―――!」











「オスカー、お前は自分が何をしたのか自覚しているのか?」


「自覚しているから、オル兄さんの死体を持ってきたんだろ」


 傍らで雨に打ち付けられる兄さんの体から、血はもう流れ切っていた。俺が、殺したんだ、この手で、自分の兄を。この時から、死に対しての意識が変わり始めていた。


「おいハル! 黙示録に触れた神など、さっさと堕落させてしまえ!!」


「そうだ! 下手したら、我々にまで手を出すかもしれないんだぞ!!」


「チッ、うるせえな。いつも神殿の中に籠っている奴らが、こういう時だけでしゃばるんじゃねえよ」


「き、貴様! 我々はお前よりも―――」


「君達よりも上の私が、と言っても?」


「コ、コスモス様......!」


「君達はもう戻りなさい。そしてハルは、もう少し口を慎みなさい」


「へいへい。それで、どうするんだ?」


「......オスカー、今から私は、黙示録に則り、君を堕落させなければならない。そのことに、異論はあるかい?」


 あるはずがない。


「そうか......では」


「待ってください、コスモス様!!」


「君は、剣神のルイ......」


 これだけ騒ぎになっている、ルイが来てもおかしくはなかった。


「お願いします、こいつの言い分を聞いてやってください!!」


「聞いてやっても、オスカーの罪は消えない。罪が軽くなることもない」


「ハルさん、それはあんまりだ! 俺があなたに、ルシアのことを相談したのを忘れたはずがないだろ!?」


 ルイは、ハルさんにまで相談していたのか。その上で、彼がああいったのなら、本当に何もできなかったのか。ただそれも、今となってはどうでもいい。


「ルイ、もういいんだ......」


「オスカー、お前!」


「ルイ、事情は全部知っている。今のオスカーの心境も、分からないとは言わない。だが同情はできても、その罪を許すことはできないんだ。彼は、超えてはならない一線を越えてしまったのだから」


「なら、どうかこれだけは許してください......!」


「......!」


「それは?」


「ルシアの、遺品です......」


 彼女の体調が悪くなって、一度だけ妖刀を作る部屋に入ったことがあった。その時には、1本しかなかったのに。なんで、3本もあるんだ......。


「武器があるぞ! そんな危険なものを―――」


「戻らないなら、せめて口を閉じてもらえないかな?」


「「「............」」」


「ハル、君はどうしたらいいと思う?」


「......立場的にはダメだろうが、個人的には渡してもいいと思う。もし、妖刀を使えたとしても、オスカーがそれで何かするとは到底思えない」


「うん......私もそう思う。ルイ、オスカーの傍に置いてあげなさい」


「はい! ......オスカー」


 ルイが、知って止めないはずがない。


「ルイ、この妖刀って」


「あいつ、苦しいはずなのに隠れて作ってた......手紙に、お前にあげてって書いてた......」


 気付いて、あげられなかった......。 


「オスカー、お前は悪くない......誰も、悪くないんだ......」


「ルイ、時間だ。離れていろ」


「オスカー、何か言い残すことはあるかい......?」


「......」


「......本当に残念だ、オスカー」












 自分で言うのもあれだが、俺は変わっていた。

 そのことを誰よりも自覚していた。

 凶神オスカーは、落ちて、堕落した神々になる。

 それは、もとからそうなる運命の上にあったんだ。


 そして本当なら、もっと早くその運命になるはずだった。

 それがこうも先延ばしになったのは、俺がルシアと出会ってしまったからだ。


 あの日、あのベンチに座ってなければよかった。

 あの日、彼女を否定できればよかった。


 そうすればルシアに、会わずに落ちることができた。

 そうすれば、ルシアは死なず、彼女の世界は、いつまでも回り続けることができた。

 そうすれば、これほどまでに、世界を、そして自分のことを憎まずに済んだんだ。


「誰かが、ボクを呼ぶ声がしたと思ってきてみたけど、まさか神、それも堕落した神々とはネ。世も末ダ」


 俺の運命が、彼女の運命を狂わせた。


「まあいいヤ。それで、君の願いは何かナ? 代償は、その後ろの奇妙な建物の大黒柱でもいいんだヨ」


「......生き返らせたい、人がいる」


「死人ねえ......今日死んだ人なら、生き返らせることはできるヨ」


 もうどうしようもできない。何もかも遅すぎた。


「なら......力が欲しい」


「力?」


 彼女に関わって、知ってしまったあの世界は、もうどこにもない。隣で笑いかけてくれる彼女のいない、空虚に満ちたこの世界しかない。彼女にも俺にも、明るい未来など永遠に訪れない。


「この世界を、ぐちゃぐちゃにぶっ壊せるぐらいの、絶望的な、破壊的な力が欲しい!」


「へえ.......別にいいけど、今の君に、それに見合う代償を払えるとは」


「全部、やるよ」


「は?」


 彼女がいたから、思い出も、肩書きも、力も、この気持ちも、手に入れることができた。


「俺はもうどうなってもいいから! 最期に! ルシアを裏切ったこの世界だけは!! 絶望に染めないといけないんだ......!!!」


 彼女がいたから、こんな世界でも俺は未来を歩みたいと思えた。

 そんな俺の思い描いた未来が来ることは二度とない。

 なぜなら、ルシアが、死んでしまったから。

 その時に、俺のすべてが終わった。

 それなのに、平凡な世界がありつづけることを、誰かの苦しみのうえにある世界を、俺は許せるだろうか。


「なるほど、例の妖刀神カ」


 ......もういいんだ。

 もう全部、どうなってもいい。

 こんな報いも、救いもない世界なんて......。


「いいヨ。君のすべてをもって、その願いを叶えてあげル」


 ねえ、ルシア。


「ではではおやすみ、悲劇の主人公オスカークン」




 ずいぶん遅くなったけど

 今からでも、君との約束

 守ってみせるよ。


 








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