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彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
最終章:堕落した神々との戦い
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再会


 この日、ユーリシア国に激震を与えた出来事は、突発的に生じかけたアスラン帝国との戦争と、調停人としてその戦いを防いだ死んだと思われていた勇者アスナの登場である。

 当時、魔王を倒した勇者パーティーは人族の中で英雄視され、また異世界人という稀有な存在として人気を博した。『神々の箱庭』での全員死亡による勇者パーティー壊滅以降も、彼女は多くの人族の間で語り継がれる、そんな存在である。


「......(お姉ちゃん、人気なんだね)」


 セツナは人垣の隙間から見えるアスナを見ながら、隣にいるリアムに言った。


「人族と魔族の関係を考えれば分からなくもない。あるいは神よりも心強い存在だろう」


「......(でも竜の姿もかっこいいから人気になると思うけどなあ)」


「ふん、誉めても菓子ぐらいしかやらんぞ」


「......(ふーん......(この人わかりやすいなあ))」


 リアムを褒めちぎって出てくる限り菓子を食していると、背に人影を乗せたドラゴンが降り立った。それを見た人々はざわめきだしたが、セツナもリアムも反応はしても警戒はしていない。


「......(あれが、会わないといけない人?)」


 セツナの目には、王城に向かうルシアーナとマサト達が映っていた。リアムはルシアーナと目が合った。


「......そうだ。あとは、ルシアーナとユウトが決めること。我にできることは、あの若造に竜とは何かを教えてやることぐらいだ」


「......(がんばって(多分暇つぶしかな?))」


 ジルニトラにちょっかいを出しかぶりつかれそうになるリアムを見ていると、なんとか人混みをかき分けてアスナが出てきた。慣れないことであったので、肩で息をしていた。


「......(お疲れ様。どこかで休憩した方がいいんじゃない?)」


「それよりさっきの人達、城の方に向かったよね?」


 ルシアーナ達のことだ。そうだとセツナが答えると、アスナもその方向に歩き出した。この時、アリシアを救出したユウトが城中に移動していた。慌ててセツナは後に続いた。


「......(ねえおねえ―――)」


 アスナの横顔を見て、セツナはその続きを言えなかった。旅の途中で出会った女性の中で、何人か親し気にユウトに話しかけていた時も、今と同じ感覚をアスナから感じていた。

 そういう経験をしたことがないセツナは、心配すればいいのか喜べばいいのかよく分からなかった。











「生きていたんだねリンドウ君!!」


「うお、委員長だ」


 リアムのことを反省したユウトは、飛びつこうとしたカミタニを華麗に避ける。その頭をペシっと丸めた紙で叩かれた。


「先生、お久しぶりです。リンドウ ユウト、ただ今戻りました」


 真剣なのかふざけてるのか、オガワラはユウトの毒気に当てられた、良い意味で肩の荷がおりた。


「まったく、君という生徒は」


 生きていた、そしてかつてユウトにあった陰りがなくなったことに、オガワラは安心したのだ。

 すると部屋の扉が勢いよく開いた。ユウトは、いつものような調子で声をかけた。


「よおマサト、元気だった?」


 マサトは無言でユウトに駆け寄ると、力を込めた拳でユウトを殴ろうとした。だがユウトはひょいと躱した。カミタニが止めようとするのをオガワラは無言で止めた。


「ユウト! 一発殴らせろ!!」


「痛そうだから絶対殴らせん」


 ユウトはマサトの拳を楽しそうにすべて躱していく。押し問答が続く中、その最後の一撃が当たったのは。


「どうして真っ先に戻ってこなかったんだ!!」


「!」


 マサトの拳がユウトの頬に当たった。倒れるまではいかなくとも、鈍い音がした。マサトははっとして、謝ろうとしたがそれをユウトは手で制した。


「......戻ろうとは、考えてなかった」


 口元の血を拭った。


「あの時すぐ戻っていたら、少なくとも今みたいに振舞える自信が俺にはない。時間がすべてを解決するとは言わないけど、頭を冷やす時間と、考える時間がほしかった」


 マサトの背後で、こちらに土下座をする影井兄弟に視線をやる。


「あれをやったのはお前達の真意じゃないってことは分かってる。だからそんなことする必要ないから顔上げてくれ」


「「............」」


「ああ、そうだった」


 ユウトは自分のいたらなさを反省した。


「ゴホン.......深淵なるダークロード、およびそのジュニアに―――」


「その設定序盤のみ適応だからやめてください」


「そもそもガチの中二病じゃない」


 張り詰めた空気が和らいだ。影井兄弟の中二病設定に驚くユウトの反応に、顔をそらして笑いをこらえるマサト。

 次にそわそわした様子でクロサキが入って来た。ユウトは思わず、頭に?マークを付けた。マサトは耳打ちをすると、納得した様子だった。


「うんまあ、彼氏にはなれないけど、友達にならなれる」


 クロサキはマサトの顔を見た。マサトは自身の顔をペシっと叩いた。2人の反応に、今度はユウトが噴出した。


「冗談だよ。よろしくな、クロサキ。あと心配してくれて、ありがとう」


「できればその、下の名前でよんでほしい」


「シュンちゃん、これからもよろしく」


「やっぱり苗字のままで」


 なんやかんやユウトはクロサキと握手を交わした。この場にいる誰もが、今のユウトなら彼女に会っても大丈夫だと感じた。そのため問題となるのは。

 

「あなたが、リンドウ ユウト」


「ルシアーナ か」


 最後に入室したのは、ルシアーナ、そして彼女の背に隠れるようにして。


「ユキ......」


「......」


 どういう顔をして会えばいいのか分からない。ユキは、影井兄弟よりもずっと重い罪悪感を背負っていた。今もそうだ。ユウトもまたユキと対面すると、さっきまでの弛緩した気分ではいられなかった。

 

 ルシアーナは、2人の関係性と、何が起こってこうなってしまったのか、長くも短い旅の中で聞いていた。彼女はユキに寄り添うよう自身の横に、ユウトと向き合えるにした。


 全員、ユウトが何を言うのか想像できなかった。たった一言で、絶望から救い出せることができ、もう一度そこへ突き落とすことができる、その言葉を。


「......俺には」


 一瞬、口をつぐみかけたが、ユウトはその先を口にした。


「ユキとマサトに会う前に、親友がいた。2人の学校に、転校する前の話だ」


 2人にとって、初めて聞く話だった。ユキはやっと顔を上げた。


「彼には、持病があった。いじめも受けていた。俺はこの事実を知っていて、見て見ぬふりをしていた。彼が亡くなった時、その持病が悪化したせいだと周りの大人は言ったけど、俺はそれだけじゃないって知っていた」


 ユウトはユキを見た。


「俺は、ずっとずっと、許せなかった。いじめられていた俺を、彼は助けてくれたのに、そんな親友を俺は、助けなかった。俺は、自分のことが許せなかった」


 なぜユウトがこのような話をしているのか、全員気付いた。


(私も、ユウ君の彼女なのに、見捨てた。ユウ君は、私を助けてくれたのに。だから私も、自分のことが......)


 これ以上見続ける資格さえないと、ユキは視線をそらそうとしたが。


「けど、この前死にそうになった時、彼に会った。彼は全部、知っていた。そのうえで俺に、許しをくれた。それだけで俺は、救われた。その時俺は、自分を許す代わりに、罪だけは背負っていくって決めたんだ」


 ユウトは彼女の手を取った。


「ユキ、俺はここにいる誰よりもお前の苦しみを理解しているつもりだ。だからその苦しみを消すことができるのか、俺の言葉で救えるのか、分からない、けど......彼がそうしたように、俺もこれだけはユキに伝えるよ」


 きっと2年前のユウトには言えなかった。


「あの時ああしたのは、ユキじゃないってことは分かってる。俺も許すから、ユキももう自分のこと許していいんだ」


 世界を旅し、人と出会い、その経験を通じて、導き出した言葉だった。


「......ごめん、なさい」


「俺も、遅くなってごめん」


 時に人は、誰かの言葉でしか救えない時がある。


「ゆるしてくれて、ありがとう......!」


 フユジマ ユキ。


「お互いに、時間がかかったな......」


 彼女には、報いも救いもあった。


 




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