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彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
第五章:堕落した神々との戦い:パンゲア編
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青い炎⑪


『君達も知っての通り、オスカー率いる堕落した神々が、下界で着実にその勢力を拡大している。それに対しての対策で、天使族を送ることが決定した』


『承知しております』


『しかしこれは、あくまでも堕落した神々に対してのものであって、それ以外のことは別のものとして考えなければいけない』


『と、申しますと』


『下界に眠る、八王の一角”アダムとイブ“の復活が懸念されている。意図せず彼らが、その眠りを覚まさせるかもしれない。そこで君達には、その復活を阻止してもらいたい』


『かしこまりました。......リアム』


『問題ありません』


『権限については心配しなくていい。君達は、白竜神・黒竜神として、それぞれ最高神と同程度の力を与えることで決定している。では、任せた』







「黒竜装化」


 通常『黒竜装化』は、自身の体が竜化するものである。オリジナルの肉体ではできないことを、竜の体になることで可能にするのだ。だがその場合、力は下級神程度の力しか用いることができない。

 最高神の力の使う条件は、元の体を維持したまま、竜化すること。


 使用に際して、戦闘以外での使用は禁止されており、平時は竜の体でいなければならない。ただリアムは、竜の体を好んでいた。時間制限といったデメリットはなく、魔力も無制限で使用することができるこの体を、リアムが好まなかった理由は、至ってシンプルなものであった。


「我は、こっちよりも竜の方が好きだ」


「あんたの好みとか知らないから今すぐ死んで」


 2発目の銃弾をリアムの眉間に向かって撃ちこむ。銃弾の振る舞いがリアムには見えていた。


「遅いな」


 と言ってリアムは寸前でそれを掴もうとするが。


「爆ぜろ」


 先の地雷と同様に爆発が起こり、周辺に爆炎が広がる。微かに炎の流れが変わったのを、ラーヴァナは察知した。

 

「盾連動」


 ラーヴァナを取り囲むように分厚い障壁が、正面にそびえ立つ。


「黒炎竜砲」


 赤と黄を巻き込んだ黒炎は障壁に衝突すると、猛烈な勢いで溶解させ始める。火力を一段階上げることで、瞬く間に液体から気体に移り変わった。

 だがこれでは、倒したか倒してないか把握できない。


「......兵器神は、転送もできる兵器も作ることができるのか」


振り返ると、ライフルを構え傷一つないラーヴァナの姿があった。


「どこかの世界にあるから、使えるんじゃない?」


 3発目の銃弾は、リアムの間合いに入る瞬間に、数十、数百の微小の銃弾に分裂した。すべてを捌き切れないと判断したリアムは避けようとしたが、避けきれなかった数発が貫通とまではいかなくともリアムの鱗にめりこんだ。貫通とまでは行かなくても、肉に到達していた。

 黒竜装化のデメリットは、防御力が著しく下がることだ。続けざまに4、5発目の銃弾を撃ち込まれるのを見て、堪らず『黒炎竜砲』を放った。


 しかし今度は、先の盾とは違い、溶かすことができなかった。溶かしきれなかった銃弾はリアムに被弾した。間をおかず、鱗の強度を上げていたため大ダメージは抑えることができたが、ラーヴァナの攻勢は続く。


「全員、構え」


 彼女の号令に、床や壁、あらゆる場所から種々様々な銃火器が生え出る。使い手はいない、という常識はなかった。


「撃て」


「ッ......!」


 無人のそれらから射出する銃撃の雨を、最小限の被弾で、駆け抜ける。途中踏み抜いたマシンガンの1つが容易に破壊できることにリアムは覚る。


「竜火」


 膨大な数の超高温の火の玉は、ロケットランチャー、火炎放射器、ガトリング砲などを消し炭にした。ただしそれは無意味で、代わる代わる新たな武器が出現していく。

 これでは焼け石に水、早くラーヴァナを、と決めたリアムの目の端に、何か巨大なものが。


「発射」


 それは、鼓膜を破くほどの爆発音を出すのではなく、機械的な重低音で、あとに紫の軌跡を残していた。そしてその先にいたリアムの腹部を完全に貫通した。

 体の中心辺りは、特に守りに徹していたため、この兵器が勝負を決める決定打になり得ることが判明した。


「ぬぅ......」


 おそらく来ることと分かっていても防ぐことができないだろうと、片膝を着くリアムはその余りにも早すぎる一撃に嫌気がさした。


「これ、レールガンっていうんだけど」


 跨っていた兵器から降りるラーヴァナ。


「多分私が使える銃の中だと、一番強いんだよね。その代わり戦いの中で、一回しか使えない。だからこれは、勝負を決める時にしか使わない。こいつもそう」


 彼女の見上げる先に、黒い塊があった。


「......爆弾か」


「正確に言うなら、核兵器っていうどこかの世界で使われている破壊兵器。外で使うならいろいろと考えないといけない。けどこれだけ狭い空間だと、被害も中身の質量はあんまり考えなくていいから、ありがたいんだわ」


「被害を被るのは我だけではないぞ」


 一瞬リアムの言葉の意味が分からない様子を見せたが、ラーヴァナはすぐに吐き捨てる言う。


「それ私にいってるわけ? なら余計なお世話。普通に考えて、私の力で現れている兵器なんだから、自分にも作用するわけないじゃない」


「......」


「どうせここで死んでも、使徒の力を経由して召喚されているから死なないでしょあんた。元居た場所に戻っても、ここまでかなり距離があるから多分間に合わない。......無駄口が過ぎたわね、じゃあこんどこそ死んで」


 その命令に従い、核兵器は落下し始めた。リアム目掛けて。


 しかし当の本人は、気でも狂ったのか笑みをこぼしていた。誰もが諦める状況の中で。ラーヴァナは、それが何か考えがあってのもだと見抜いた。

 核だけではなくレールガンで完璧に息の根を止めなければと行動に移した。それは核兵器の中で核分裂が起こり始めたのと、ラーヴァナがレールガンのトリガーに指を掛けたのと同時だった。


「黒竜化」









 因果、すなわちそれは原因と結果を意味する。


 石を投げられたなら腫れあがり、刃物で切られたなら血を流す。


 ある原因によって生じる結果、それが因果。


 その因果を司るシャノンの神力は、このうちの結果の方を捻じ曲げるというものだ。


「......(怒号に鳴け鳴神)」


 今の状況で言うならば、自身に受けるこの攻撃について、無効もしくは反射など、ダメージにならないようにその結果を事実とは別のものに変えることができる。原因は相手由来であるが、結果は自己次第というのがシャノンの神力であった。


「反射だ、いくぞ」


 ここで反射されたセツナの攻撃は、ツクヨミの方に向かう。それを『衆合地獄』により受けると、天へと向かってワープさせた。

 雲全体に、陽よりも強い雷光が走った。それにきをとられているシャノンの背後へ、アスナは回った。彼女の攻撃が当たる間際、シャノンは軽く呟く。


「回復だな」


 たしかな手ごたえを感じつつも、セレーネが触れた箇所には傷は見当たらなかった。むしろその逆の現象がシャノンには起こっていると、すぐに3人は気が付く。


「これ、勝てますか......?」


「......(無理じゃない?)」


「弱音を吐くな、とは言えんのお......」


 三者三様ではなく、3人とも同意見だった。シャノンの言動の通りに、シャノンの体は回復しているように見えていた。それと同時にシャノンに伝わる定説は、このことから来ているのだと身に染みて理解した。


「やはり、この傷は癒えないか......まあいい」


 独り言のように呟くと。


「勝てなくはない。現に俺は、負けて堕落したのだから」


「励ましのつもりか?」


「事実だ。しかしお前達では、俺を倒せるだけの力を持ち合わせていない」


 その言葉にツクヨミは閉口した。すると意図したようにシャノンは、アスナへと目を向けた。


「触れて思い出した。お前は、あの時の勇者か」


 あの時、というのがいつのことを言っているのかアスナには分からなかった。それを察したか、シャノンは自身の隣にあるものを生み出した。

 怪訝な目をするツクヨミとセツナとは対照的に、アスナだけはそれが何なのか分かった。過去の光景が、彼女の中で蘇った。


「あの時の、人型のモンスター......」


 忘れるはずがない。それはかつて、自分と自身の師匠であるルイを襲った、人型のモンスターだった。

 脳裏に当時の映像が流れた。すぐにでも駆けだして、すべての原因であるシャノンを殺したいという衝動に駆られた。だがそれを、セレーネが諫めているような感じがして、アスナはなんとか思いとどまる。


「分かっています、ルイ師匠......」


「......」


 アスナの様子と、セレーネから感じ取った気配から、シャノンの心の中にあった、ずっと分からなかった疑問が雪解けのように溶けた。


(2度目の戦いの場......リーバイが負けた理由はこれか)


 シャノンはもう一度わき腹をさすった。


(あまり、時間が残されていないな......勝ってみろ、神の使徒)







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