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彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
第五章:堕落した神々との戦い:パンゲア編
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値する人






 二国間会談、というものの規模の大きさを承知しているケイリーにとって、この場にいるのはある程度名が通った人物でなければ務まらないと無自覚に思っていた。

 だから彼は、自身の記憶にないその二人がどうにも気になっていたのだ。


「異世界人、ですか......」


 平常時よりもさらに目を細めるケイリーに、うむとグラムは頷く。


「事前に伝えてしまうと、バージルが警戒すると思っていたのでな。しかしこの様子だと、それもあまり意味がなかったようだ」


 この場に国の代表として出席したのはケイリーを含め、二人しか来ていない。それは、この会談に出席する人数と護衛を含めたもので、実質的に帝国側の人族は二人しかいないということを意味している。


「いやー申し訳ないっす。ホントうちの皇帝、心配性なもんでオレに行け行けってうるさいっすよね」


 またそれと同時に、敵地での護衛は、その一人だけで十分だという意味でもあった。そしてケイリーは、その護衛に鋭い眼光を向ける。


「グリシャさん、それをバージル様が聞いたら侮辱罪で死刑になりますよ。というか報告していいですか?」


「ちょ、なにマジになってんすか。ここだけの話っすよ、ここだけの。それにそれだけで出世なんかできないんすから、やっただけ皇帝を怒らせるだけなんじゃないっすかね」


 ケイリーの冗談とも取れない言葉に、グリシャはおどけてみせた。不思議と部屋の空気が少し弛緩したものになる。それを肌に感じたケイリーも張り合っても仕方ないと溜息を一つ零し、意識を本来の目的に据え直した。


「お見苦しいものを見せて申し訳ないです。会談の続きを始めましょうか」


「ではこちらが先手を打たせてもらう。アレックス、頼んだ」


「分かりました」


 それを引き受け、アレックスは手元にある書類を読み上げる。そこには、簡潔に三つのことが書かれてあった。


「ユーリシア国からアスラン帝国への提案として、落としどころのある妥協案の模索、フリーデン共和国を含めた複数国での会談、皇帝の首の挿げ替え、の三つとします」


 グリシャとケイリーの二人が、それを完全に理解するのにはさほど時間はかからなかった。そして理解後の両者の表情は太陽と月のように相反していた。


「これは、何と反応を示せばいいものか......」


「いやー、シンプルでいいっすね。特に最後のやつが一番。ケイリーもそう思わないっすか?」


「グリシャさん、余計な口は叩かないでください......言うまでもなく、順次説明をお願いします」


 もちろん、とアレックスは言い書類の続きを読み始めた。


「まず一つ目の妥協案は、今回の会談のことだと取って大丈夫です。ただし、残り二つの提案とは別物として扱います。また、妥協案の具体性について前もってこちらが妥協できる最大範囲を示すと、それはアスラン帝国の不干渉によるユーリシア国の統治までで、それ以外の場合なら何でも構いません」


「......次、お願いします」


「二つ目の複数国での会談は、ユーリシア国、アスラン帝国、そしてフリーデン共和国の三カ国含めた最低七カ国以上で行うものとします。これを実施する理由として、事後での周辺の国々への影響の規模が予測できないので、事前に関連する国の意見、賛同、反対などを得る機会を作るためです。あと、出席する国の決定については、前もって根回しできないよう公平性を保つため、フリーデン共和国の判断に依拠することにします」


「......わかりました」


「では最後の」


「少し待ってもらってもいいですか、アレックスさん」


 ユーリシア国側の視線が一斉にケイリーに集まった。手短にアレックスの話をメモしていた紙にちらりと目をやり、一つ目についてですが、と続ける。


「不干渉というのは、要はこれまで通りの関係性ということでいいんですよね? それと関連することで、私達と繋がりのある国も同様という認識でいいんですよね?」


「はい」


「肯定、ですか。そうですか......」


 紙にさらさらとペンを動かすと、二つ目についでですが、と再度続ける。


「複数国での会談の意図は分かりましたが、最低7か国というのはどういった根拠からですか?」


「それが、適正人数だと感じたからです」


 その声は、アレックスの隣から上がった。ケイリーの視線はアレックスからそちらに動く。


「カミタニさん、でしたよね? 何を根拠に適正だと」


「個人的な経験からです。例えば三人で行う場合、それを取りまとめる人が一人で残り二人なので、もし一人が外れたり、一人が請け負ったりするとその際のフォローが難しくなります。対して十人以上で行う場合では、たしかに単純的には人数が多いので情報がたくさん得ることが可能になります。しかしその反面、一人一人の発言の減少、会談への参加意識や責任感の低下が顕著になることが多かった気がしました。なので、その中央値をとって七人が適切だと思います」


「つまり根拠は、自らの経験談だけ、ということですね?」


「......はい」


 『だけ』という部分に、しゅんと萎むカミタニ。そんな彼に助け舟を出す人物がいた。


「一般論だ」


「はい?」


「巨大なコミュニティの中で無駄に人数が多ければ、情報の発信は難しい。人とはそういう生き物だ。手を挙げづらいそんな会談は、非効率でやっても意味はない。参加していないのと同じことだ。それなら人数が少ない方がまだましだ」


「たしかオガワラさん、でしたか。全員が全員、あなたが思うほど消極的ではないと思いますよ。少なくとも一定数は真逆の人もいるでしょう」


「『船頭多くして船山に登る』だ。なら反対に、全員が思い思いに発言する状況を考えればいい。結局のところ、話をまとめるのは人だ。すべての意見がまとまればいいが、その可能性は分母の数と比例するとは思えない。無益な会談をダラダラするだけで、会談はあらぬ方向に向かう。そしてもともとの目的を見失って、中途半端に会談は終了するのは目に見えている」


「極端な人ですね......。では人数が少ないがいいと言いましたが、その場合、多様な意見や新しい提案などが逆に出にくくなると思いますけど」


 ケイリーの言葉を聞いたオガワラは、あえて聞こえるぐらいの溜息をわざとらしく吐く。


「だから人数が少ない場合と多い場合の弊害を考慮して、この子は自らの経験を基に適正人数をそれにしたんだ」


 一瞬、ん? という顔をするケイリーだったが、すぐに細目だったが目が常より開く。これまでの成り行きを見ていたアレックス達は、ケイリーのその反応に安堵する。


「好奇心で質問してみましたが、正解だったみたいですね」


「好奇心......?」


 訝しそうに訊くオガワラに、ケイリーはこれまで対照的な感じで答える。


「ええ、個人的なものです。実を言うと、参加する国の数はどうでもいいと思っています。それよりも私としては、あなた方異世界人がこの会談に出席に値する人物かどうか見極めたかったので。私の性格上、知能の低い低レベルの人と話すと拒絶反応が出てしまうです。ですが少なくともあなた方は、それには当てはまらないみたいです。実体験という信憑性の高いものや論理的に話す口調のおかげ、ですかね」


 名が通っていれば、必然的に中身のある人物だと予想できる。もちろん、悪い意味で名が知れている者もいるだろうが、そんな人物はこういった会談に出る可能性は低い。それを出す側のメリットがないからだ。そのため今回は、異世界人という肩書を利用した、ある種の虎の威を借りる狐ではないかとケイリーは思っていた。それを見極めるためにしたが先の質問で、一連の二人との受け答えが総評で自分の満足するものだったので、ケイリーは二人が肩書きだけの無能ではないと判断したのだ。


「ケイリー、それ褒めてるのか貶しているのか分かんないっすよ」


「前後の文脈を考慮すれば、褒めていると分かるでしょう。ああ、ちなみにあなたと話していると時々、拒絶反応が出ることがあります。やはりバージル様に報告してもいいですよね?」


「オレ、一応主席で卒業してるんっすけど......」


 あなたは実技、私は座学で卒業しましたよ、と言いながら再度メモを取る。そして書き終えたのか顔を上げたケイリーは、面倒なので初めに言っておきますと断り言った。


「すでに理解しているでしょうが、一つ目については論外です。バージル様の意見と180度真逆なので、無理にでも納得してください。仮に異論があるならこの時点を持って会談は打ち切りにしますが......」


 ユーリシア国側から反論の声が上がらないことを確認して、ケイリーは続けた。


「さて......二つ目については、論外とまでは言えませんが実現の可能性はあまり高くないかなと、個人的に思います。私個人としてはそのワンクッションがあってもいいと思いますが、バージル様は今回の会談が最初で最後の話し合いの場だと考えているでしょうから。なのでこれは現時点で保留ということにしておきます。それで構いませんよね?」


「......うむ。私もバージルの性格は知っているつもりだ。それで構わない」


「ご了承ありがとうございます。これで三つあるうちの二つは片付きました」


 とケイリーが言い終えた時点で、予期していたユーリシア国の面々は全員居住まいを正した。


「それでは、最後の案に行きましょうか」

 


 

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