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邂逅1



 四年三組の教室......これはいつもの放課後の日常風景であった。



 

「やーい貞子!」


 それが私の日常......だから気にしない。


「なんで来んだよ、この根暗」


 なぜなら、私にとってそれが当たり前だったからだ。


「おい、無視してんじゃねえ!」


 だから何もかも諦めかけていた......君が来るまでは。


「こらー! いじめはやめないか!」


「やべぇ! 海老沢の声だ! お前ら逃げるぞ!」


 突然後ろの扉からこのクラスの担任、つまり私の担任教師である海老沢先生の叱りつけるかのような怒号が聞こえ、それに気づいていじめっ子達は、その瞬間オオカミから逃げるウサギのようなスピードで前の扉に向かって大急ぎで逃げて行った。


 それが突然の出来事だったので私は呆然とするしかなかったのだ。すると後ろの扉の開く音が聞こえ、先生が入ってきたものだ思っていた私は、その人物達を見て少し驚いてしまった。


「どうやら成功したようだな。一年修行したかいがある」


「10点中8点だな。てか何に時間掛けてんだよ(笑)。この前本人に聞こえてて『儂がもう一人いる!?』って驚いてたぞ」


「あーそれなら知ってる。その後『ドッペルゲンガーじゃー!』とか言って神社に走って行ったもんな(笑)。実際に行ったからマジで爆笑したわ」


 なぜなら入ってきた人物は海老沢先生ではなく、二人の男子生徒だったからだ。

 

 たしか......同じクラスで名前は竜胆悠斗君と成田正人君だったはず。私は彼らに何てお礼を言おうか考えているとそれを気づいてのか、多分竜胆君が気遣うような顔をしながら、


「大丈夫だったか? いじめられてたみたいだけど」


「あ、うん。竜胆君が海老沢先生のモノマネしてくれたから。だから、その、ありがとう!」


 考え事をしている最中に突然、私のそばまで近づいて来いてそう話しかけてきたので、なんか声が高くなった状態で答えてしまった。かなり恥ずかしい、それに顔が少し火照っているような気がする。それはともかく竜胆君気にしてないかな?


 私の返事に少し驚いたのか竜胆君は少し動揺しながらも、


「あ、あぁだが別に気にすることじゃない、それに困ったときはお互い様だ。それと悠斗で良い、であっちが正人」


「でも......」


 助けてもらった恩人にといよりも、初めて話した人を呼び捨てにしてもいいのかと悩んでいると竜胆君が突然喉の調子を整えるかのように、そして右手で顎をさするようなポーズをすると、


「若い者が気にするんじゃない。気にするのは年長者の役目だ」


「ぶっ!」


 以前もそれを竜胆君ではなく、本人が教卓の上でやっていた光景を思い出すと同時につい吹き出してしまった。


「おいおい悠斗、お前とうとう先生のその口癖を会得したのかよ。行動も完コピだしよ」


「ふっ、まあな。毎日風呂上りに鏡に前で顎をさすりながら練習したわ。しかし妹に見られたのは不覚だった......」


 成田君がその先生のモノマネを採点するのも忘れるほどの完成度の高さに驚嘆の表情を作っているのを見て、初めは竜胆君も誇らしそうにしていたが、後半ではその表情と声がまるで一世一代の婚期を逃した30代女性のように見えた。......しかし我ながら例えを酷いなと思いながらも再度先ほどのモノマネを思い出す。


「フフフフ、アハハハハ!」


 私は盛大に、学校全体に響くほどの声量でお腹を抱えて笑ってしまった。


 これにはさすがに引くだろう、そう思いビクビクしながらゆっくりと竜胆君を見ると、ジーと目を細めて私の顔を見つめてくる。何か顔に付いているのかと思い手で顔を触っているとそれに気づいた竜胆君が、


「あぁごめん、顔になんか付いているとかそんなんじゃないよ」


 そう言われ、私は納得すると同時にでは何故私の顔を見ていたのかと思っているとその答えを竜胆君が答えてくれた。


「冬島......前髪切った方がかわいいと思うぞ」


 一瞬何を言われたか理解できなかった......なぜならこの髪型になってから両親以外からそんなことを言われたことがなかったからだ。私は気づかれないように小さく深呼吸をし、上がった体温を下げることにした。


「ふー......わ、分かった。ありがとう、りんどーー」


「悠斗」


 再度胡乱げな目つきで私の目を見つめながらそう言ってきた。なので私は声が高くならないように気をつけて、


「ゆ、悠斗君、それと正人君。二人ともありがとう!」


 それに対して悠斗君はニッと笑い、正人君は今の会話を微笑ましいものを見るかのようにしていたが、すぐに何かに気づいたのか、私に微笑んでくれた。


 その日......私に初めて友達ができたのだ。




 その日の内に、私はお母さんに美容室に連れて行ってもらうように頼んだ。当初はいままでこの髪型で通していたのに、突然髪を切りだすと言った娘に少し驚きつつもその理由を訊いてきた。流石に理由を言うのは恥ずかしかったので適当に流行がなんちゃらと言って誤魔化すことに成功する。その後無事美容室に行けたのだが、美容師の若い女性の方がどのような髪型にするのかと聞いてきた時、久々にここに来たのでかなり迷っていると、


「なるほどね......お嬢ちゃん、私にすべてを任せなさい。あなたの思い通りの髪型にしてあげるわ」


その女性が私の耳元でそう言ってきたので、何とか私は頷く。その様子をその女性はまるで過去の自分を見るかのようなどこか遠いところを見ている様子だったが、すぐに微笑ましい表情で私のことを見つめる。そして何かを決心したのか、すごいスピードで動き出したのだ。気が付いて時にはすべてが終わっており、私の髪型はよくテレビに出ている女優の方と同じようなものになっていた。そのあまり素晴らしく可愛らしい髪型を見て、私はその女性にお礼を言おうと思ったのだが、


「後はすべて任せたわ......私のできなかったけど、あなたならきっとできるはずよ」


そう言いながら私にあるものを手渡してきたので、私はそれを見てみるとそれは......?


「......キットカット」


 私は意味が分からずにその商品名を呟き、次にその女性の顔に疑問の表情で見る。すると彼女は麦の目をしながら、


「キットカット......きっと勝てる」


「あ、はい......あの......髪ありがとうございました」


 どうにかそう答えることに成功すると彼女は「頑張りなさい、人生はあまり長くないのだから......」そう言って奥の扉に消えて行ったのだ。よく分からなかったが、すぐに思考復活すると同時に私はお母さんの待っているソファーまで行き、会計を済ませて家に帰ったのだ。


 

 そして次の日......。


「あ、おはよう。悠斗君、正人君」


 私は自分の教室に着くと同時に昨日助けてくれた二人の元に足を運んでそう挨拶をした。すると正人君は、


「うん? ......あぁおはよう」


 一瞬誰か分からなかったのか、目を大きく開いていたがすぐに納得していたのだが......肝心の竜胆君は、


「......お前......誰だ?」 


初めて会った人を見るかのような訝し気な目をしながら、私に対してそう言ってきたのだ。流石にここまで言われるとは思っていなかった......つい涙が出そうになるとそれに気づいて正人君が、


「おいおいマジかよ悠斗......お前自分で昨日言ったこと忘れのか? まあ実際俺も目にした時は驚いたが......」


「昨日? ......君って......冬島さんですか?」


 正人君にそう言われて悠斗君は一瞬考えて、その後ゆっくり私の方を向きながら丁寧口調でそう言ってきたのだ。だから私は無言でそれに頷き返したところ、


「なるほどなるほど......これがイマドキガールっていうことか、俺もやるしかねえな......」


 初めの方は聞こえていたのだが、後半は小声でよく聞こえなかったので再度訊き返そうと思ったのだが、その前に竜胆君がこちらを見る。


「分かりました冬島さん。よろしくお願いします」


「あっこいつダメな奴だわ」


 突然丁寧口調になった悠斗君、それを見てどこか馬鹿にするかのような目で見ている正人君、その二人の様子をよく分からない様子で見ている私。それが彼らを友達になったから私との初会話だったのだ。

 

 そんなことがあった次の日から......悠斗君が髪型を変えてきたのだ。


「悠斗君......それってアップバンクだよね?」


「ん? あぁそうだよ」


 昨日の丁寧口調は治っていたが、その代わりに髪型がかなり変わってしまった。その様子を見て正人君は俺は何も知らないといった様子で見ていた。悠斗君と付き合いの長い彼がそう判断するのだから、それが正しいのだろう。私もそれに倣ってそれ以上は訊かないことにした。




 そんなことがあってから数ヶ月が過ぎた......その日を境として私達は教室では一つの席に集まって話すようになり、そうじゃない時、つまり昼休みは三人で外で時間一杯遊び、放課後はさまざまなところにいったものだ。


 そんなある日の昼休み......。


「おい、聞いたか?」


 悠斗君が顔をこちらに近づけて小声でそう訊いてきたが、何を言っているか分からない私と正人君は首を傾けることしかできなかった。その様子を見て一瞬悠斗君も首を傾げていたがすぐに、


「学校から出て西に行ったところに、神社があるだろう」


 彼が言うのは最近私達の学校で流行になっている場所の一つである。私はそういうはあまり興味がないので聞いたことがなかったが、正人君はそれに納得するように頷いている。


 まだ理解できていない私はその場所について詳しく訊いてみることにしたのだが、これが間違いだったと後になって分かるのだが、今の私はそれを知る由もない。


「うん、あるけど。それがどうかしたの?」


「なんでもその神社の裏に廃墟があって、年寄り老婆の幽霊が出るらしいんだ」


 悠斗君が言っているのは、心霊スポットといったもののことだろう。あまりというよりもかなり興味がない。だがそれを知らない彼は私と正人君を交互に確かめるようにして見て、悪巧みを考えたかのようににやけながら、


「放課後行くぞ」





 というわけで放課後私達三人はその廃墟の近くまで来ていたるのだが、その場廃墟は竹藪の中に建っているらしい。だから私達は所々からタケノコが生えている竹藪を歩いている。しかしそんな私の心境は、


「やっぱり怖いから帰ろうよ~」


 すでに言葉に出るぐらいの怖さだ。今は午後3時でそれなりに太陽も高い位置にあるはずなのに、太陽光がこの竹藪の中まで照らしていないのか、普通に薄暗い雰囲気になっている。


 そんな私を見て竜胆君が、


「ここまで来たんだ、もう後戻りはできない、諦めろ。それに何かあったら『助けて悠斗くーん!』って言えば助けに行くから安心しろ」


「おい今の冬島のモノマネなのか? 似てねえぞ。それとウルトラマンなのか?」


「えっ? ウソ、似てねえの? それとウルトラマンメビウスの間違いだ」


 妙にきっちりした様子でそう訂正していた。そこで初めて悠斗君の好きなものが分かった......ウルトラマン......好きなんだ。


 そんなことを考えながらその会話に付き合っているうちにその廃墟の前まで来た。その廃墟の見た印象としては、『日本昔ばなし』で出て来るような外観をしている。はっきり言って人は住んでいるとは思わない。悠斗君達もそう思ったのかドアに近づいて行くと、


「よし! 開けるぞ」


 悠斗君は緊張しながらもドアノブに手を掛け、そしてゆっくりドアノブを回した。隙間からまったくと言っていいほどホコリと出ない。それはおかしい、廃墟にはホコリが積もっているとうのは定番である。つまりこの家は......。


「キィー......」


 そして開けた先にそれは立っていた......ボロボロの服を着た老婆が......。


「「「で、で、出たーーー!」」」


 その光景を見て私達三人の声を重なってしまったが、その様子を見ていたその家に住人であると思われるそのおばあさんが呆れるかのような様子で、


「はぁ~またガ共か。何度言ったら分かる、ここは廃墟ではなく私の家だ」


 案の定このおばあさんは幽霊ではなく生きている人だったようだ。彼女の後ろ、つまり家の中を見てみると普通に綺麗である。見た目はあれだが、中身はしっかりしているということだろう。私はかなり失礼なこと考えてしまうほど安心していたのだ......幽霊がいなかったことに。

 

 次第に状況を飲み込み始めた私を除く二人は、安心とも落胆とも思える気分が表情に出ていたが、すぐに三人とも考えていることは同じだったようだ。


「「「ごめんなさい!」」」


 頭を三人同時に下げて謝る。まるで取引先の会社に謝る新人社員のようであったと、もし俯瞰してその光景を見ればそう思うだろう。


「もうこんなことしなさんなよ」


 それを見たおばあさんはそう言うと、笑って私達のことを許してくれた。

 

 その後、この家は廃墟ではなく普通の人が住んでいるという話を学校で広める、とおばあさんと約束して私達は帰路に着いたのだ。

  

 

 そんなことがあった帰り道で......。


「はぁ~、やっぱ廃墟じゃなかったのか~」


「だから言ったじゃない、根も葉もない噂を信じない方がいいって」


 と言いながらも私も初めは信じていたなんて口が裂けても言えない。それを知らない二人はそのまま会話を続けいる。


「まあ悠斗の場合は実際に行かないと気が済まないからな」


 長年の友である正人君のその言葉を聞いた悠斗君は、さも当然のような顔をしている。


「当たり前だ。気になることはちゃんと実験しないと気が済まないだろう」


 そんなたわいのない会話しながら帰っていたが、時刻は夕時、帰り道には夕飯を買いに行っていたと思われる主婦の女性や、私達のようにどこかで遊んでいた小学生、そして今から遊びに出掛ける大学生、そんな中を私達は歩いている。少しノスタルジーな気持ちになってしまう、ここ数ヶ月は笑いっぱなしの連続であったからだ。だからこんな時間がまだ続きますように......そして、あの時間がもう来ませんように......。


 今までの私ではあり得ない願いだが、今の私には彼らがいるだからそう願うことにしたのだ。すると、


「ところで知っているか?」

 

 突然なんとなく聞いたセリフを悠斗君は口にした、というかこれは今日の昼休みにも聞いたセリフである。


 私は考え事を一旦放棄してそれに付き合うことしたのだが、


「何を?」


 この後の展開を理解できているので面倒くさそうに、そして確信するかのような感じで訊き返してみると、悠斗君は昼休み時のようにニヤニヤしながら、


「実はな駅の近くの山に廃トンネルがあるんだ。それでそこに兵士の恰好した幽霊が出るらしいんだ」


 そして案の定、


「明日の放課後、行ってみないか?」


 はぁ~、どうやら明日もゆっくりできないようだ。

 

 そう思いながらも私は内心楽しみにしていたので、先ほど考えていたことなどどこかに行ってしまった。




 こんななんてことない、楽しい学校生活が続くと私は信じていたのだ。


 



 あの日までは......。



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