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悪夢


ーーー冬島雪side


 私-ー冬島雪は困惑していた。


 私達は強者、だからダンジョンで弱者であるユウ君をキマイラの囮にして、私達は無事生還することができたのだ。その行動に何の違和感もない、なぜならこの世界ではそれが当たり前のことだからだ。

 

 それなのにどうして正人君は、


「どういう意味だ!」


 このように私が言っていることを理解してくれない。私は噓偽りなく正直に話した、ユウ君を囮にして私達だけ何とか生き残ることができたのだと。

 

 それは仕方ないことなのだ、「この世界では弱者が強者の糧になる、自然の摂理」なのだから。その考えに則って考えるならば、ユウ君は弱者、そして私達は強者、そんな構図が出来上がるのは必然だ。ユウ君の天職はこの国の人誰一人として分からなかったと本人から聞いた、だからそんな意味の分からない天職を持つ彼を囮することは何ら不思議なことではない。


 そんなこの世界では当たり前なことなのに......どうして私達が怒られなければならないのか意味が分からないのだ。


 その後も正人君は、


 「ふざけるな! それでなんで悠斗を囮にすることになるんだよ!」


 だからそれが自然の摂理なの! 私達だってそうやって自分達よりも弱い家畜といった者達を殺し、食べているじゃない! それなのになんで理解してくれないの......まったくもって意味が分からない。

 

 たしかに彼の言う通り、恋人であるユウ君を囮にして逃げたのは少し悪いとは思うけど、それで私達が生き残ったからそれでいいじゃない! それ以上何を求めるの!?


 その考えを理解しているダニエルさんも、

 

「弱者が強者の糧になるのは、自然の摂理です」


「あんた、本気で言っているのか!?」


 まだ言ってる......本気じゃないとこんなこと言えないでしょ。


「当たり前じゃないですか。この世界じゃ常識ですよ」


 そうそう、ダニエルさんの言う通り。


「あんたら、狂ってる」


 はぁ~、まったくイライラさせる。狂っているのはどっちだって話だ。

 

 そんなこと考えていると、突然団長と正人君がコソコソ話し始めた。


「団長、犯人は誰なのですか?」


「可能性として高いのは魔族だろう。奴らはこの手の魔法を得意とするからな」


 犯人? 魔族? 魔法? 何の話をしているのかしら。


 少しして魔法の解呪を得意とするという青いローブを来た一人の人物が私達の目の前まで来ると、これから私達に掛かっている魔法を解呪すると言ってきた。

 

 私たちに魔法が掛かってる? どういうこと、そんな攻撃受けた覚えがない。

 

 そんなことを考えていると地面に青い魔法陣が現れ、その上に立っていた私達全員を包み込んだところで、突然の眠気に襲われた。それに抵抗する気力もなくそのまま......。







 私ーー冬島雪は悪夢を見た。

 

 ダンジョンで私達はユウ君にひどいことを言った上に、生き残るためにその場にいたキマイラと呼ばれる強力なモンスターの囮にして逃げてきたのだ。そして帰ってきてからは、正人君や団長さんとも言い争った。本来私は、あんな風な表情をするはずないし、加えてそんなこと言うはずない。


 だってユウ君は私の恋人でありそして何より、ヒーローなんだから......そんな彼を裏切るような真似をするなんてあり得ないことだ。


 そんな悪夢を見て私は目が覚めると同時に、あるおかしなことに気が付いた。私は柔らかいものの上に横になっている。そんなのあり得ない。だって私の記憶では実戦訓練をするためにダンジョンに入り、それで何とか50階まで進むことができたというところまでは覚えている。そしてボス部屋に入ると同時に地面が紫色に光り、それが収まると記憶でもあったキマイラが転移させられてきたのだ。ダニエルさんの判断で撤退することになった時に、ユウ君が時間を稼ぐと言ったのでそれを止めようとしたけど、それ言う前にダニエルさんに説得させられたんだっけ。その後は......よく思い出せない。でもその流れで考えると私達は、ダンジョン内部またはダンジョンの外にある簡易用の救護室にいるはずだ。


 だが現状は違った、私は起き上がって周りを見回した。

 

 この光景はおかしい、本来ここは実戦訓練が終了して帰って来た時に、その疲れを取るために場所だからだ。

 

 「なんでお城の......それも自室にいるの?」


 どこまでの記憶が正しいのか判断できない。

 

 そんなことを考えていると突然ドアが開いたので、そちらに目を向けると私のよく知った二人の人物が、この部屋に入って来た。


「あっ、良かった~。心配したんだよ」


「......」


 親友の鳩羽由衣と幼馴染の成田正人である。たしか二人は同じチームだったはず、だから行動を共しているのだろう、この時はそう思っていた。


「あっ、二人ともおはよう? こんにちは? かな?」


「いや、こんにちはが正しいな」


 窓を見ても外の明るさからは判断することができなかったので、二人に尋ねてみたところ正人くんがどこか寂しそうな表情をしながらそう言い、突然由衣が私の手を優しく握ると私の目を見つめながら、


「雪、落ち着いて聞いてね」


 起きたばかりに加え、いきなり由衣から手を握られたので私は少し戸惑いながらも、それに頷くと彼女は何かを決意した様子で、


「あなたはダンジョンの実戦訓練の日から一か月間寝てたの」


「......えっ? どういうこと?」


 寝起きだからなのか、由衣の言っていることがあまり理解できない。もしかすると理解したくないからなのかもしれない......あの悪夢のことが、関係しているような気がするから。


「とにかく落ち着いて。ちゃんと話すから」


 そう由衣は私を宥めて、言うべきか迷っているのか難しい顔をすると、


「あのね......あの日雪は、魔族にかなり強い精神魔法を掛けられて、その影響のせいであの日から一か月間眠っていたの」


「......ちょっと待って......ならあれは夢じゃなかったの?」


 そうじゃなかったら、もし眠っていた時に見ていたあの夢が夢じゃなく現実だったら、私は本当にユウ君を......。


「そうか......思い出したのか」

 

 私の言葉を聞いて正人君は、先ほどからの表情を一変させてそのことに驚いていたが、すぐにどこか寂しそうな表情になると、

 

「それは夢じゃなく現実だ......」

......

そして私ではなくここにいない、どこか遠くにいる彼を見るかのような遠い目をしながら、


「あの日、お前たちのチームは魔族に操られた。そのせいでダンジョンで悠斗を囮にして......逃げてきたんだ」


 


 その日、私は自分の手でヒーローである彼を殺したこと知ったのだ。

 

 


 それと同時に抱いたこの感情は......一生忘れはしないだろう。





 


 

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