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怒り




 

 俺、成田正人は困惑していた。

 

 今俺達は、ダンジョンでの実戦訓練を終えて残る悠斗達のチームが返ってくるのダンジョンの入り口で待っている。


そんな俺は、先ほどから隣に立つ団長から先ほどのダンジョン内での訓練の反省をいくつか挙げられ、それら一つ一つを今後の戦闘に生かすために注意深く聞くと同時に手に持つメモ帳に書き加えていく。分かると思うが俺のチームの護衛は団長だ、そんな彼の戦いっぷりは凄まじいものだであった。


一応俺達はこの国でも強い部類に入るだろうが、団長の強さは一線を画していた。なぜならほとんどのモンスターが、自身が切られたことに気づく前にその命を散らし、その後に切り跡から鮮血が舞っていたからだ。そしてその剣技に負けず劣らず使用する魔法も、賢者である鳩羽さんが訓練中に使用していたものより格段に強力なものであった。それに受けたモンスターのほとんどが以前の原型を留めずに死んでいったからだ。


 そんな光景を見て初めはへっぴり腰になってしまっていたが、団長から「私達が彼らを殺そうとするのに何か意味があるように、彼らが私達を殺そうとするのに何かしらの意味があるのだと私は思う。だから君達はその意味を見出すためにも彼らと命を賭けた戦いをしないといけない」そう言われてからだ。


そして最後に「そうは言ってもやはり、君達をこの世界に召喚した私達が言える立場ではないがな......」消え入るようにそう呟いていたのを俺だけが聞き取っていた。他の奴らは、初めの方は聞いていたが最後の方は緊張していたからか、あまり耳には入っていないように見えた。


 思い出すように俺は考える。俺達がこの世界で戦う理由それはーー。


「どうやらダニーのチームも帰って来たみたいだな」


 そんなことを考えていると突然団長がそう言ったので、彼の視線の先を見てみると冬島達が帰って来たようだ。

 

 だが遠目からでも明らかにおかしいことに気が付く......それは、俺は親友である竜胆悠斗の姿を探したが、一向に見つからないからだ。ここで焦っても仕方がないので、俺ははやる気持ちを抑えて冬島達が来るのを待った。


「おい冬島! 悠斗はどこにいるんだ!?」


 彼女のチームが俺達が待機している近くに来たと同時に、俺は努めて冷静にそのことを訊こうとしたのだが、気持ちが抑えれずつい大きな声を出した。

 

 その声に気が付いてのか他の王宮騎士団の騎士達に何か指示するため、少し離れたところにいた団長も何か感じ取った様子でこちらに近付いて来た。

 

 そんな俺の様子をどこ吹く風のように感じているのか、冬島はすまし顔をしながらさも同然のようにこう言ったのだ。


「ユウ君なら私達の囮になってくれたわ」


「......は? どういう意味だ!?」


 一瞬何を言っているか理解できなかった。なぜなら彼と彼女の関係は理解しているつもりだったからだ。それはクラスの連中が理解している表面だけでの関係性ではなく、もっと前から俺達三人だけが知っている深層での関係性からである。だからこそ理解できなかったのだ、彼女のその言葉が。


 思考が復活すると同時に俺は冬島に掴みかかろうとしたが、すぐに団長に抑えらてしまう。


「団長! 放してください!」


「一旦落ち着くんだ」


 俺は彼の手を振りほどこうとしたのだが、やはりレベル的差が一番大きいのかまったく振りほどくことができなかった。すると彼が俺の目を見つめるようにし始める、どうやら落ち着かせようとしているのだろう。


 そんな団長の冷静な声とその行動のおかげで、なんとか落ち着くことができた。


「すみません。取り乱してしまいました」


「気にするな」

 

 団長は気遣うようにそう言うと、悠斗達の護衛を務めていた王宮騎士団で隊長を務める男性と向かい合う。その男性は、団長よりも背が高く体格もいいはずなのに何故か団長もそれに劣らずの存在感を放っている。これが力ではない、上に立つものとしての『覇気』というものだろう。


 俺が再度団長である彼という存在に畏敬の念を抱いていると、彼は目の前に立つ自身の部下であるその男性を審議するかのような目つきで見つめると、


「それでダニエル、どういうことか説明してもらおうか」


 どうやら団長も状況が掴めないらしい。


「どうもこうもユキ殿の言っていることが真実なのですが?」


 しかし団長の言葉が聞こえていないのか、彼は目の前に立つ団長ではなく少し顔を上げて空を眺めながらそう答えている。


「私が聞きたいのは結果ではなく経過だ!」


 その態度とやる気のない返事に団長も堪らず声を荒げる。そこでようやく彼は、空から団長にそのやる気のない目を向ける。


 この時俺は無意識のうちに手から血が滲み出そうなぐらい固く握りしめていたことに気が付く、それほど彼、いや彼らのチーム全体に怒りを抱いていたからだ。


「はぁ~、我々ボス部屋で多分ですがキマイラと遭遇していまい、仕方がないので彼、ユウト殿を囮にして逃げてきたんです」


 俺はそんな感情を抱いているとも露知らず、彼が溜息をしながら言ったところで、俺は今まで黙っていたが我慢できずに団長の前に出るかたちで彼と向かい合うと同時に、


「ふざけるな! それでなんで悠斗を囮にすることに繋がるんだよ!」


 俺と団長の一番の疑問であるそれについて叫ぶように問いただした。これが一番理解できない、彼の任務は悠斗達のチームの護衛である。それにもかかわらず彼はそれを放棄し、悠斗一人だけを犠牲にして自分達だけ助かったからだ。


 団長も俺の気持ちを理解したからなのか、何も言わずに状況を静観することにしたようだ。


 そして俺のその糾弾に彼は、冬島と同じように当たり前のような顔をすると、


「弱者が強者の糧になる、自然の摂理です」


 その言葉の意味が理解できなかった。たしかに地球でもこれに似た言葉で『マイノリティー』といものがある。これは少数派という意味で、これに該当する者は弱者とみなされ、同情や関心といったものを引きやすい傾向にある。他にもある漫画に載っていたセリフだが『所詮この世は弱肉強食である。強ければ生き弱ければ死ぬ。だから弱者は強者の糧となる責務があり、糧にもならないそんな命は存在そのものに価値がない』というものがある。これら二つとも言葉上では理解できる。前者は現代的考えにおいてはあてはまる、後者は現代ではなくもっと昔の時代ならある意味では、真理のようなものであったかもしれない。


 だがこれらは二つとも言葉上の意味であり、実際に使うのは間違いだと俺は思う......というよりも俺の体全体が否定しているんだ。


 だからこそ、


「あんた本気で言っているのか!?」


 俺は彼だけではなく後ろでぼんやりとしている彼が任されていたチームの面々を見ながらそう声を荒げて再度問いただす。


 彼だけでなく、そのチーム全体は明らかに異様な雰囲気を出していたからだ。理由は説明できない、直観での感想だから、ただそれだけは確信することができたからだ。


「当たり前じゃないですか。この世界じゃ常識ですよ」


 それでも彼は自分の意見を変えるどころか、自身の考え方が世界の常識であるとまで言っている。ここまで聞いてやっと俺はあることに気が付く。


「......あんたら、狂ってる」

 

 多分今ではなく、彼らが帰還する姿を見た瞬間からそう感じていたのだろう。俺は恐怖というよりも何か狂気的なものを感じ取ると堪らず後ろに引き下がった。


 それでも彼らの表情は一貫して無表情であったが、一人だけ違う表情をしている者がいた。


 それは冬島であり、彼女に至っては少しイラついているように見える。


 俺はこんな彼女を今までの付き合いの中で見たことがなかった......多分付き合っている悠斗でさえ見たことがないだろう、そう考えさせるほどの顔付きだったからだ。


「落ち着くんだマサト殿。どうやら全員正気じゃないようだ」


「えっ?」


 俺の後ろに控えていた団長が俺の肩に手を優しく置くと同に、耳元でそう呟いたので俺は一瞬その意味が理解できなかった。それを察したのか団長は前方にいる冬島達のチームを見えないように目線だけで合図するかのようにしながら、


「目を見れば分かる」


 その指示に従って俺は彼らの目を見ていると......全員虚ろな目をしているように見える。ここで俺はあることを思い出したのだ......以前もこの表情を見たことがあり、それは自分自身であると......。


 俺が少し過去を思い出していると、団長が彼らの起きている原因について小声で説明を始めた。


「多分だが、精神魔法を使われている可能性が高い」


 団長曰く、精神魔法は相手の思考を操って命令することできる、なので全員自分の意思で行動したわけではないそうだ。

 

 俺はそれを聞いて安堵すると同時にそんな魔法を使った奴に怒りを向けた。


「団長! 犯人は誰なのですか!?」


「可能性として高いのは魔族だろう。奴らはこの手の魔法を得意とするからな」


 団長は一瞬考えて解決策を思いついたかのように顔を上げた。


「とりあえず彼らに掛かっている魔法を解くのが先決だな」


 そう言って解呪を得意とする『解呪魔法師』を連れて来た。その人物の服装は時々城でも見かける青いローブを上から羽織っているというものである。その人物は、冬島達を見ると何か納得するかのように少し頷くと、すぐに解呪の魔法を使用したのだろう彼らの地面が突然青い魔法陣を形成すると同時にその上に立っていた全員をその青い光で包み込む。


 そしてその光が徐々に収縮するように消えていくとそのには気絶しているのだろう、冬島達だけが倒れている光景だけしかなった。ここまでの一連の光景を見ていた俺のクラスメイト達は、皆怒涛の勢いで事が運んで行ったので誰も反応するのができなかったのか、全員呆然としている。


 解呪が完了したのか俺と団長の近くに寄って来た年寄りのお爺さんである解呪魔法師が、


「やはり団長殿の言う通り、彼らの掛けられていたのは精神魔法で間違えありません」


「そうか......それでどのくらい強力だったのだ? 隊長であるダニエルにもその効果が影響していたのだからな」


「おそらくですが......団長を除くこの場にいる者全員がその影響を受けるでしょうね」


「......つまりそれほどの使い手ということだな。ではやはり......」


「えぇ、魔族で間違いないでしょうね」



 今の会話から推測すると、どうやら今回の精神魔法は団長以外は耐えることが難しい。つまり俺達異世界人や王宮騎士団の隊長クラスはその魔法に掛かってしまうということだ。

 

 解呪が完了して倒れこんでいる彼らの元に救護班なのか、白い白衣を着た数人の男女が近づくすぐに担架に乗せて簡易用の救護室に運んで行ってしまった。


 俺がその光景を眺めていると、


「こっちに魔族がいたぞー!」


 突然そんな声が聞こえて俺は、何の躊躇いもなく声のした方に走って行く。この声の先に今回の黒幕がいるからだ。その場所に近づくにつれて騎士達の顔にも動揺が走っているように見えた。


 無理もないだろう。なぜなら今ま停戦中である、つまりはそれを破るということがどれだけ重大なことであるのかを......。

 

 そんなことを考えているとようやく人混みが形成されている場所にたどり着けた。周りを見るともうすでに団長も来ており、他の騎士に何か指示しているように見える。それが済んだのか、次にその視線を俺の方に向けたので俺は彼の元に駆け付ると同時に、


「団長! 魔族はどこにいるんですか!?」


「......あれが魔族だ」


 団長がそう言いながら指先をある方向に向けたので、俺もそれに倣って視線を団長の指先に移すと、そこには......頭から黒い光沢を放つ二本の角が生え、目は爛々としているのか充血しているかのように赤く染まり、全身の皮膚が紫がかっているという地球では見ることなど不可能である生き物......魔族がそこにいた。

 

 俺の頭の中が怒りに染まり、剣抜いて切り掛かろうとした。


「今殺してはダメだ。こいつからは情報を聞き出さないといけない」


 団長にそう言われ、俺はなんとか剣を収めることができた。彼の言う通りここで奴を殺してもそれはあまり意味がない。それどころか更に今回の事件の謎が深まっていくだけだ、そう納得することで俺は気持ちの高ぶりを抑えることができたのだ。


「ありがとう」


 その様子を見ていた団長が申し訳なさそうにしながら俺にそう感謝するかのように言っていたが、すぐに顔を引き締めて周囲にいる他の騎士達に聞こえるような大声を出した。


「今から魔族を捕らえる! 全員後ろに下がれ!」


 全員が下がったのを確認すると団長の足に魔力の流れを感じた。この感じは以前他の人物が使っていたのを見たことがあるが、それよりも遥かに魔力量が歴然としていたのだ。


「瞬歩!」


 その瞬間団長は一瞬で魔族との間合いを詰める。そのスピードは俺達の中で最もレベルの高いと思われる神谷以上であった。そんな感想を抱いた時にはすべてのことが完了していた。


 先ほどのその速さに対応できなかった魔族は、団長の握る剣の腹で殴れ、その勢い相まって近くにある木まで吹き飛ぶとそのまま衝突し気絶していたので、近くで控えていた他の騎士が魔族を特殊な紐で縛り上げていた。


 後で聞いた話では、この紐は魔力を打ち消すことができる力を持っており、それはまだ完成していないのだが今回はその練習と実戦を含めて使用したらしい。


 その効果が発揮したからなのか、その魔族はまったくの抵抗を見せずに数人に騎士に牢屋付きの馬車に乗せられていた。


 すべてが完了したのを見て、団長が俺達の目の前に立つと


「ではこれでダンジョンでの実戦訓練を終了する! 何か思うところがある者もいると思うが、一旦は帰還する!」

 

 話の途中で一瞬俺の方と見たのに気が付いた。彼が言っているのは悠斗のことだろう。俺は歯軋りがなるほどの力を全身に篭めながらも、親友を探しに行きたいという気持ちをなんとか抑えると、団長達に従い城に向かって歩き出したのだった。

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