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彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
第四章;堕落した神々との戦い・和の国編
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雷神の子②





「風呂は部屋を出て左奥に進めばある。雨風で体が冷えているだろうからゆっくり温まるといい。その間に夕食の支度をしておくからそれが済み次第居間に来なさい」


「何から何まで本当にありがとうございます」


 この場を代表してお礼を言うと、タチバナさんはうむと頷き部屋から出て行った。

 それを確認して俺は持っていた手荷物を部屋の隅の方に置き、改めて部屋をぐるりと見回した。


「にしてもでかい仏像だな。こんなサイズの仏像、それこそ寺とかに行かないと目にできないだろ」


 真っ先に目に付くのは見上げるほどの仏像。光沢があり神々しいその仏像を見て、思わず拝みたいと思えるほど素晴らしいものだ。

 かく言う俺達が通されたのは、本堂で仏像が安置されている場所であった。床から天井に至るまで施された内装。一見煌びやかで派手に見えるが、それをうまく調和させている色調。それら荘厳な造りを前に、思わず感嘆の声を漏らす。そのすべてがこの仏像に収束しているのは言うまでもなかった。


「俗にいう観音菩薩像ですね。私もこれほど大きなものは初めてです」


「だよな。田舎のばあちゃんちにある、口から何か飛び出ている仏像よりはるかにでかい」


「それって空也像じゃないですか? もしそれなら口から飛び出しているのは六体の阿弥陀像で、それら一体一体が『南無阿弥陀仏』を体現しているらしいですよ。というかこのサイズともなると、個人で所有できるのは難しいでしょうしそれが普通かと」


 内心アスナの知識量に恐れおののきながら、へーとかふーんとかほーんとか適当に返しつつ、じゃんけんの後に俺が先に風呂に入ることとなった。前もってタチバナさんから風呂は位置は聞いていたので、代えの着替えを持って風呂場へと向かった。

 

 そして脱衣所で服を脱いだ俺を待っていたのは、大きな釜の風呂。いわゆる『五右衛門風呂』である。現代で見かけることはまずないだろう五右衛門風呂には、お湯がたっぷり入っていた。見る限りでは俺が一番風呂らしい。

 どうでもいい知識だが、一番風呂は体に良くないそうだ。水道水には微量ながら塩素が含まれており、それが特に一番風呂をした奴によく付着するからだそうだ。そう、この場合俺が一番風呂をした奴で、俺はビクティニとなる。ただしプラチナまでしかしてないので実際にはゲットはしていない。

 まあいずれにせよこれは現代の水道水の話で合って、この世界だとそういうものはない。先ほど目にしたが、風呂の水は井戸の水を使用しているからである。いや待てよ、たしか井戸ってピロリ菌入ってなかったけ。......念のため後で浅井戸か深井戸か確認しておくか。


 体を洗い覚悟を決め、俺は殺菌済みの風呂に浸かった。


「う゛あぁ~」


 あまりの気持ちのよさに年寄りのようなしわがれた声が漏れ出した。気分だけなら多分ジジイのそれになっている。

 にしても雨に打たれた体には、心地良い湯加減だ。風呂の構造上足を伸ばせれないのは残念だが、それでも思う存分満喫できた。

 

 あまり入っていてのぼせたら大変なのでそろそろ上がろうかなと考えていると、脱衣所の方から音が聞こえてきた。アスナなら何か一言言うだろうから、タチバナさんが来たのだろう。

 だからてっきり俺は湯加減はどうだと訊きに来たと思っていたのだが、一向にそのアクションは取られない。というか妙な音が聞こえてくる。

 俺には服を脱いでいる音に聞こえた。まさか無料で泊めるやる代わりに、慰み者になれとかいうつもりか? いやこれはマジでシャレにならないぞ。思わず素に戻るくらいに。どうやらビクティニはフラグじゃなかったようだ。

 お湯に浸かっているはずなのに、体温が徐々に下がりつつあるのを感じながら俺は扉を凝視した。震える体を抱く俺をよそに、ゆっくりと扉は開いてゆき全開となった。




「んー.....あ?」


 目を覚ますと知らない天井を入った。見れば毛布が掛けられており、今の今まで俺は寝ていたようだ。起き上がろうすると少しの痺れを感じた。

 前後の記憶が曖昧で、ここがどこなのか思い出せない。一時してから、ばらばらになったピースが嵌るようにして思い出してきた。

 

「あ、ユウト様起きたんですか」


 扉が開くと、アスナが入ってきた。


「おお、起きたぞ」


 今度は難なく立ち上がることができた。だが貧血か、眩暈を感じぐらりと体が傾く。アスナは支えてくれなければ倒れていたところだ。


「まだ横になっていた方がいいんじゃないんですか? あれだけ長時間お風呂に浸かっていたのですし」


「もしかして俺、風呂でのぼせていたとかそんな感じだったか?」


 それにアスナは頷いた。

 風呂に入っていたところまでは覚えているのだが、風呂から上がった後の記憶が一切なかった。つまりは俺の記憶はそこからないわけで、言い換えれば俺の意識は風呂場で流されたということだろう。そういうわけでどうしてそうなったのか記憶にないので、原因は分からないが一つだけ覚えていることがある。


「まあいいや。とにかく飯にしよーぜ、タチバナさんを待たせるのは失礼だし」


「いや今、朝なんですけど......」


「マジで?」


 言われて腹時計を確認すると、たしかにあれから十時間以上が経っているようだ。


「うん、まあいいや。なら朝飯にしよーぜ、タチバナさんを待たせるのは失礼だし」


「順応力がえげつないですね......」


 引くアスナにのぼせた俺にどうやって服着せたんだ、など適当に質問を投げかけ頬に一発ビンタを受け、俺達は急いで居間へと急いだ。

 居間に付くと、もう朝食の準備は済まされており、正座をして待つタチバナさんに一言挨拶をして俺も自身の料理の前に腰を下ろした。

 

 ふと見れば、一つ余った料理があることに気が付いた。ここは寺なので仏様にお供えするものだろうと思っていたが、一向にタチバナさんは合掌をしない。あくまでも俺は食客ではなく彼の親切でこの場所にいさせてもらっているので、先に箸に手を伸ばすのは憚られる。

 またアスナも特に気にした様子ではなかったので、俺は二人に倣いその時が来るまで待つことした。


 すると、誰が廊下が歩く音が聞こえてきた。余った料理は、仏様へのお供え物ではなかったようだ。

 足音が居間の前まで来ると、ゆっくりと襖が開き、足音の人物が入ってきた。妙なことに挨拶をする様子もなく、またそのことをタチバナさんが責める素振りもなく、その人物が自身の料理の前へ来ると音もなく座った。

 その時点でタチバナさんが両手を合わせた。それに合わせ俺達も合掌をする。


「では朝食としよう。いただきます」




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