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彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
第四章;堕落した神々との戦い・和の国編
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亡者の行進⑦


「この壁は何なの!?」


「落ち着きな、嬢ちゃん。これはこいつお得意の神力だろうさ。ご丁寧に互いに見えない仕様とはな」


 直前までユウトとツクヨミ、そしてイザナミがいた場所には仕切りとなる壁が作られており、今三人がどうなっているのかイフリートとアスナには分からない。取り乱すアスナに冷静を装いながらもそう言うイフリートの視線はずっとその対象となる人物しか捉えていなかった。


「『我が名の下に平等(ゼロ・カロン)』......聞いたことあるぜ。その領域内にいる奴は、使用者を含め力の制限があるっていうやつだろ? その環境下で、お前に勝てる奴は一人もいない。だからこれが発動した瞬間、勝敗が決する」


「精霊、いや今は大精霊イフリートか。封印の時以来だな。よもや貴様がそこまで知っているとは驚きだ」


「その節はどうも。今度はお前がそうなる番だぜ」


「フン。世界の広さを知らぬ井の中の蛙とはまさにこのことだな」


 イフリートの態度に呆れを抱きつつも黒の革製の手袋をはめるリーバイ。だがその直後、彼は顔色を変えると体の調子を悪いのか肩を回す仕草をした。


「......しかしだ、そんな貴様らに朗報をやろう。どういうわけか俺の神力は半分使用不可だ。壁としての強度はもとのままだが、この中であらゆる力の制限が存在しない。それに元の体とは違いこの体の器は、脆く小さすぎる。今なら貴様らでも勝てる可能性もあるかもしれない」


「かもじゃねえ、俺様達が勝つんだよバーカ!」


 そう言うと今度は素早くリーバイには聞こえないようアスナにだけ伝えた。


「いいか嬢ちゃん、よく聞くんだ。これから嬢ちゃんには俺様の炎を纏ってもらう。生半可な攻撃はほぼノーダメージで、むしろ相手にダメージを与えることができる代物だ。宿主のユウトだったらさっさと体を貸してもらって即終了なんだが、嬢ちゃんは宿主じゃねえから俺様ができるのはこれぐらいだ」


「ありがとう。それだけで十分よ」


 すでにアスナの手には、剣神の力が宿り堕落した神々にだけ特化した、新たな姿となったセレーネが握られていた。そして着る服は、イフリートが作りだした燃え盛る炎のドレスへと姿を変えた。


 『不死鳥フェニックスの羽衣』。それはイフリートの使い魔である神獣フェニックスの別の姿。攻防どちらもでき、その上で受けたダメージも瞬時に回復できるというものである。フェニックス自体、上級神ほどの実力しか有していないが、この戦いにおいてはそれで十分だろうというのがイフリートの下した見解だった。


「小細工はもう済んだか? では、始めるぞ」


 戦いの火蓋を切ったのは、リーバイの一撃であった。初手は受け流すべきだと考えたアスナは、リーバイの拳を避けようと右に動いた。それを知っていたかリーバイは、普通ではできない動きを見せ、アスナへの攻撃を拳から脚へと変えた。


 これは避けられない。即座にそう決断したアスナは、セレーネでそれを受け止めようとした。


「!?」


 山、それがセレーネ越しに感じたリーバイという堕ちた神に対する印象だった。以前対峙した人型モンスターや、海神戦で現れた仮面の男は、得体の知れない実力を持っているように感じた。だが今回、アスナにとってリーバイは、今だかつてない圧倒的強者。この敵に勝てるのか? そもそも勝てる見込みはあるのか? そうと考えようとした。だが、彼女はそうはしなかった。


 なぜなら敵は堕ちた神だ。唯一の望みである、『神々の祝福』の効果が発揮する条件には、そういった思考が影響する。ここで敗北するなど考えようものなら、本当にそれが現実となってしまうからだ。


 そのため勝敗のことなど一切考えずに、アスナは繰り出される攻撃を一撃一撃丁寧に捌いていく。直感で分かった。たとえ『不死鳥の羽衣』があったとしても、これを受けてしまえばただでは済まないと。


「ありえない、いや信じられないの方が適切か......」


 攻撃を止めずに唐突にリーバイは口を開けそう言った。


「この感じからして、おそらく剣神か。強化した俺の拳と脚に傷をつけるとは......。女、その力を与えた剣神の名は何という?」


「......ルイ・シルバ」


「ルイ......似てはいるが、単なる偶然か。世代交代......どうやら俺の知る剣神ルカではないようだ」


 その時、リーバイの周りをいくつもの火の玉が飛び交った。反射的にそれがなんであるのか理解したアスナは、飛ぶようにしてリーバイの攻撃を避け距離を取った、その直後だ。


「灼熱に晒せ 炎帝エンテイ


 浮遊していた火の玉がリーバイの体へと一斉に張り付いた。見ればそれは凝縮された疑似太陽だ。一切の抵抗を許さずに、それらはリーバイを包んで爆発、爆炎を上げた。アスナの肩に座り、その様子を見るのは言うまでもなくイフリートである。


「俺様の存在を忘れてもらっちゃあ困るぜ。手出しはしないなんて一言も言ってねえからな」


「にしてはぬるい炎だ」


 盛んに渦を巻く炎の中から、火の粉を払い落とす仕草を見せながらリーバイは現れた。身に付けている服が少し燃えた程度で、彼自身にダメージと取れる傷は受けていないようであった。それを見て、イフリートは口笛を吹いた。


「上級神なら一発で消し炭なんだがなあ。流石は元序列一位、その名は伊達じゃねえか」


「一位か......。まあどちらにせ、この後の世界がどうなろうとも今の俺には関係ないな」


 イフリートの言葉にリーバイは一瞬何かを言いかけたが、それ以上は零さなかった。その代わりに馴染ませるように手袋をはめ直し、構える。


「これが俺にとっての最期の戦い。この器の崩壊が先か、それともお前達が敗北するのが先か。最期にどちらを引くか賭けてみるのも、案外悪くはないのかもしれない」









「発散 八咫鏡ヤタノカガミ


 俺達を大きく取り囲む百を超す銅鏡の鏡部から、一斉に収束した光が放たれた。威力はさることながら一番厄介なのは、壁や地面などと触れた際に消えるのではなくそこから反射し、またこちらに向かってくることだ。触れる面での凹凸に左右されるのか、反射する光は不規則で予測しづらい。


 そうならないためには、反射する前に止めるしかない。そう思い俺は、光を分断させようと黒刀を振るったのだが。


「分裂か!」


 それすらも例外なく反射するものとして扱われた。分断された光は一つから二つへと分裂し、そのまま地面に当たると他の光同様反射してくる。


 このままじゃジリ貧だ。やはり一番に狙うのはイザナミ本体か。


「疑似太陽」


 現状作る出すことできた疑似太陽は最大で二十。作り出された疑似太陽を、反射する光に当たらないようその隙間からイザナミ目掛けて打ち込んだ。見事すべての疑似太陽はその中を通り抜けることに成功したのだが、それらがイザナミに当たることはなかった。


「収斂 八咫鏡」


 取り囲んでいた銅鏡すべてが疑似太陽がイザナミに当たるよりも先に彼女の正面へと集まる。そしてそれは一つの巨大な銅鏡へと姿を変えた。一瞬だが、銅鏡の表面が揺らいだような気がしたが、見間違えなどではなさそうだ。


「飲みこめ」


 イザナミの言葉により、二十あった疑似太陽全部、銅鏡の鏡の中へ吸い込まれるようにして消えていった。そのことに驚いている俺のことなど他所に、イザナミは意味ありげに笑みを浮かべた。


「返すぞ」


 膨張する銅鏡の表面が赤い光を帯びた。まさかと思った時には、そこから何十倍にも膨れ上がった疑似太陽二十すべてが吐き出されると、そのままこちらの方に飛んでくる。だが問題なく対処できる。


等活地獄とうかつじごく


 目の前に展開された『等活地獄』。今のような攻撃はほぼすべて無効にできる、八つある地獄を行使するツクヨミの神力だ。反射し続けていた光も例外なく、疑似太陽と共に『等活地獄』の中へと消えていく。

 今のだけ見れば、ほぼ互角に近いと勘違いするかもしれないが、現実はまったく違う。


 ツクヨミの神力は、俺の魔力に依存するため無限に使用できるものではない。

 

 それに引き換えイザナミは無制限に使用できる。それはこの場所自体が、イザナミの神力で形成されているからだ。

 三種の神器の一つ、『八咫鏡』。攻撃だけに限らず防御どちらにも対応でき、現環境下においては欠点と呼べるものなど一切なく、万能神器と評してもいささか問題ないものだ。


「展開 八咫鏡」


 またさっきの奴が来るか。防御行為はほぼ無意味。遠距離攻撃も同じく。ならばやることは一つしかない。黒刀を握り締め、俺はツクヨミに言った。


「ツクヨミ、バックアップよろしく」


「妾を誰だと思っておる。そんなの朝飯前じゃ」


 俺が駆けだしたのと、それが降り注いだのは丁度だった。


「開展 八咫鏡」


 乱反射する死の光。さながら豪雨の中を傘を差さずに走り抜けている感覚に近い。ツクヨミの援護がなければ体中穴だらけで原型も留めることすら許されない。ホント出鱈目すぎる攻撃に嫌気がさしてしまう。


 それでも突き進む自分がいた。まさに無我夢中で、何かを考える暇などないに等しい。ただひたすらに俺は、あぶれた光を避け続けた。そして光雨を抜けた先で、俺を迎え撃つイザナミだけだ。


 互いの武器が触れ火花が散った。鍔迫り合いで押すのは俺ではなくイザナミ。単純な力量でもあちらが上か。


「小僧。お前に私を止められるか?」


 イザナミの目は、狩る側のそれだった。


 だがそれ以上に俺は、ツクヨミの言葉が本当だったのだと、そちらの方に意識が向いていた。間近で相対している今だからこそ、俺はそれが事実だったのだと知ってしまったのだ。

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