幕間
これはまだ、悠斗達がダンジョンでの実戦をする二週間程前の話である。
現在真夜中の、誰もが寝静まった王都近くの森の真っ暗な暗闇中、あるローブを羽織った男が一人の魔族を捕まえていた。
「くそっ! 放しやがれ!」
「馬鹿かお前、逃がす訳ねぇだろ。大事な実験体なんだから」
「は? 何だよ、実験体って?」
「気にするな、時期に分かる。いや、忘れるか」
そう言って男は、その魔族に対してある魔法を使用する。
「精神魔法」
すると魔族の目がどんどん虚ろな目に変わっていく。それはまるでユウトを囮にした時のユキ達の目を同じである。そしてとうとうその目から光が消え、残ったのは何もない闇だけだ。
「実験成功だ」
男はその結果に満足するかのようにニヤニヤしながら、魔法に掛かっている魔族にあること命じた。
「お前に命ずる。約二週間後、ダンジョン付近に潜伏し、俺達のダンジョンでの実戦訓練が終わったら、わざと姿を見せて、捕まれ。そしてそのとき、自身で魔法を解き、俺のことは忘れろ......いいな?」
「分かりました。命令を遂行いたします」
その命令に跪き恭しくそう答えた魔族は、立ち上がるとそのまま踵を返して暗闇の中に歩いて行って姿を消した。
後に残ったのは、ローブの男だけだ。
「これでやっと、あのオタク野郎を消すことができる......」
酷く歪んだ笑顔で、そう呟いた男の独白を聞いたものは誰もいなかった。
その男の名前は須藤剛。
ユーリシア国に召喚された勇者の一人、そんな彼はどこまでも自分の欲求に忠実な男だったのだ。
彼は数日前、レベルが上がると同時に新しく『精神魔法』を覚えたのだ。
これは現段階、召喚された勇者達や王宮騎士団の隊長クラスでも抵抗することができない。
そこで彼は王宮騎士団の団長に何かしらの理由を言い、ユウトと同じチームにしてもらうように頼んだのだ......彼を亡き者にするために。
それほどまでして願う、彼の願いは......。
「待っててくれ、冬島。すぐ俺のものにしてやるからな」
この日から約二週間後、彼の作戦は成功して彼のチームが帰って来たとき、その中に竜胆悠斗の姿はなかった。