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彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
第四章;堕落した神々との戦い・和の国編
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死屍累々②


 局長と別れ俺達が向かったのは、オキタのところだ。到着すると彼は先陣を切って、迫りくる大量の死人を倒している真っ最中であった。よく見ると彼が死人を倒し、そのすきを狙って他の隊士達が救助に専念するという構図だった。


「オキタ!」


 俺の呼びかけにオキタは振り返った。


「やあ、遅かったね」


 彼の水色と白を基調としたその羽織は、俺達以上に死人からの返り血を浴び、もう元の色がどういった色であったのか想像できないほどまでに変貌していた。


「コンドウさんから聞いたと思うけど、その場所まで僕が案内するよ。でもその前に、ちょっと僕から離れてて」


 オキタの指示に周りにいた隊士達が従った。何かやるのだろうと思い俺達もまたそれに倣うことにした。


 その時、俺達のいる通りの向こうの方から数え切れないほどの死人が迫ってくるのが目に入った。優に二百を超す死人の波は、道だけでなく屋根の上までも駆けながらこちらに迫っていた。オキタを見ると、刀を横に構え目を閉じていた。おそらく妖刀だと思われるその刀は、金色の光を帯びていた。


霊魂ソウル三十  山紫水明サンシスイメイ


 迫りくる死者の大群に、妖刀から放たれた金色の斬撃が飛来する。まず手前にいた死人およそ四十がその余波によって、四肢がバラバラになる。次に後ろにいた死人の中でそれ耐えられた者は、一切の抵抗すら出来ずに、更に後ろにいたすべての死人を巻き込み、その斬撃は光の軌跡を残しながら夜空の彼方へ消えていった。目に見える範囲内で、死人の姿は消え失せていた。


「僕達は先に行くから、後のことはコンドウさんの指示に従って」


「「「了解!」」」


 オキタの指示に、隊士達は怪我人を背負い局長達のいる救護施設の方へ走り去っていた。


「それじゃ僕達も行こう」


「ああ」


「はい」


 俺達もまた、すべての元凶のある場所に向かって走り始めた。











「これはこれは、思っていたより随分と早い再会になりそうですね」


 親指と人差し指で作った穴からユウト達三人を見つめるのは、アマツミカボシであった。彼は三人が自分達のいるところに来ようとしているのを確認し、虚空から一本の刀を取り出した。


「流石の仮想神といえども、使徒二人に妖刀一本では心許ないでしょう。受け取りなさい」


 そう言って新たに出したその妖刀を放り投げた。地面に落ちるその間際、それを手にした者がいた。背丈はおよそ二メートル、瞳は八つ。異形の姿に変わってしまった人斬り達の成れの果て、トコヤミノオウであった。


「斬って、斬って、斬り殺す。一匹残らず......」


 右手に妖刀ネネキリマル、そして左手に新たな妖刀マサムネを持ち、すでに元の記憶など無くしたトコヤミノオウは、紅月の下で自分に仇名す者を待ち続けた。










「多分だけど死屍の多くは、死刑になった元罪人」


 目的地へと向かっている最中、前触れもなくオキタは言った。


「罪人って、さっきいた奴ら全員がか?」


「うん、そうだよ」


 道脇から飛び出してきた二人の死人の方を見ずに斬り殺し、そう肯定するオキタ。


「実際に見覚えのある罪人も結構いたし、コンドウさんもおそらくそうだろうって言っていたから合ってると思う」


「ざっと見積もってみても奴ら、まだいるだろ。そんなにこの国では死刑しまくっていたのか?」


 ここまでの道中以前から数えてみても、その総数は千は下らないだろう。それがこの世界では普通なのかどうか知らない俺からすれば、何とも恐ろしい事実に思えてしまう。だが俺の言葉に、まさかとオキタは言う。


「たしかに見覚えのある罪人がいるとは言ったけど全員じゃないよ。昔の調査書とかで見た顔も含めて、そう結論付けたんだ。言ったと思うけど、前の統治者の人は結構頭がぶっ飛んだ人だったらしい。調査書には、悪政を行ったりとか小さい大きい関係なくすべての罪人を死刑にしていたっていう話があったから、まだまだ死屍はいると思っていた方がいいだろうね」


「まったく恐ろしい話だ」


 『苛政は虎よりも猛し』っていう言葉がしっくりくる人物だったのだろう。そんな話をしていると、第二波の死人の大群が前から来るのが見えた。先ほどはオキタの任せたので、今度は俺が相手にしようという前に、オキタが手で制してきた。


「相手は僕がする。二人はそのまま走り続けて」


 そういうとオキタは俺の返事を聞かずに、道沿いにあった屋根に飛び乗り、その上を駆けていく。そして死人の大群との距離が十メートルを切ったところで、自身の刀を青く輝かせ、大きく飛躍した。


「霊魂五十  星河一天セイガイッテン


 青く輝く刀から、幾千もの青い光線があたかも流れ星のように対象に向かって降り注いだ。それはオキタが地面に着地するまでの間、絶え間なく降り注ぎ、死人の大群を一掃し、丁度オキタが着地した時、初めと同じように俺達の隣を走っている状態になった。


「イェーイ、計算通り綺麗に決まった」


「......やっぱそれって妖刀じゃなかった、名刀か」


 一人喜ぶオキタに俺は開口一番そう訊いた。一瞬オキタは微かに目を見開き驚く仕草を取るが、すぐに納得した。


「彼らと戦ったなら知っていた当然だったね。君の言うように、これは名刀。キクイチモンジっていう銘柄で、敵を殺せば殺すほどその魂っていうのかな? それがこの刀に宿るんだ。宿った魂はさっき見せたように刀を通して使用することができる。ちなみに、鞘に戻したら一からやり直しになる。そういうことだから死屍が現れた時は、僕に任せてほしい」


 実をいうと、ここまでの道中何度も死人に襲われることがあったのだが、俺達が手を出す前に率先してオキタがそれらを捌いてきたのだ。今の彼の言葉を聞き、今まで自分一人で対処する理由はそれなのかと俺もまた納得することができた。


「分かった。ところで俺達は一体どこに向かっているんだ?」


「ああ、たしかにまだ目的地まで言ってなかったね。今僕達が向かっているのは、これまで死刑になってきた罪人達が埋葬されている墓場だよ。だけど墓場と言っても、それほど大層なところじゃないけどね。多分そろそろ見えてくると、あっ見えてきた。あれがそうだよ」


 言われて前に目を遣ると、何やら陰鬱な霧が立ち込める墓地らしき場所が見えてきた。ある程度近づいたところで、俺は二人に合図を送り、墓地内に足を踏み入れた。


 オキタ曰く、墓地内部はだいぶ開けているそうだ。道すがらところどころに墓標の代わりなのか棒切れが地面に刺さっているのが目に入る。また地面は至る所人が通れるぐらいの大きさの穴が開いており、そこから死人達が這い出してきたと暗に示しているようにも見えた。


 けれど、肝心の人斬り達の姿が見えない。というか前が見えない。


「うーん。霧のせいで前が見えないから、いるのかいないのか分からないな」


「急に濃霧になるなんて異常ですね」


「まったくだ」


 アスナの言葉に俺は同調した。ここに入ってから明らかに霧が濃くなったからである。そのため少し先の地面以外見えず、今仮にここで攻撃されたら避けるのは難しいかもしれない。なるべく三人固まって動いている時、突然オキタが叫んだ。


「避けて!」


 それを聞き俺は反射的に避けることに成功した。それと同時に、空中を斬る音が、そして続けざまに何かと何かがぶつかり合う甲高い音が聞こえ始めた。間違いなく戦っている音だ。オキタかアスナ、どちらかが戦う音。


 数秒した後、一度その音は止み、また別のところから聞こえ始めた。自然と俺は黒刀を構える。この音が止んだ時、次にその矛先が向かうのは間違いなく俺だと、直感がそう告げていた。例のごとく数秒経過した後、音は止み、一瞬の静寂がその場を包む。


 俺は気配を探ろうと考えるもすぐにやめた。相手が死人であるのを思い出したからだ。ならば、それが以外の方法で敵の出方を探るしかない。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感のうち、俺は視覚と聴覚、そして嗅覚の三つに全集中を行う。


 まずは嗅覚だ。死人特有の腐敗臭は先の戦いで嗅いだので分かる。微かにだがその匂いが鼻に届いた。


 それと並行して聴覚。神経を研ぎ澄ませると、こちらににじり寄る音が耳に届いた。


 最後に視覚。人が視覚から得る情報量はおおよそ八割らしい。それについて実感があるかは個人によって違いがあるかもしれないが、重要な器官であることは間違いないだろう。


 濃霧のせいで視界は不明瞭だがさして問題ない。空気の揺らぎからでも十分その位置を特定することができる。視線だけに集中を傾けると......見えた、霧を巻き込みながらこちらに迫る紅い刀が!


 迫るそれに俺は迎え撃つ。黒刀でその刀を弾き、敵がいるとおぼしき辺りに一太刀浴びせた。黒刀を通して肉を断つ感触が俺の手に伝わってくる。


「っとあぶねえ!」


 おそらく二刀流なのか紫の刀が霧だけでなく、俺もろとも切り裂こうとしてきたが間一髪のところで避けることができた。


「ユウト様、大丈夫ですか!?」


 アスナの声だ。俺がいる場所からそれほど離れていないところから聞こえた。


「大丈夫だが濃霧で前がまったく見えん! どうにかしてくれ!」


「それなら僕がやるよ! 霊魂はまだまだあるから気にしないでいい!」


「オキタか! 頼んだ!」


「それじゃ二人ともしゃかんで、絶対に吹き飛ばされないでね! 霊魂二百 快刀乱麻カイトウランマ


 オキタの指示に従い飛ばされないよう地面に黒刀を突きさした。その直後、頭上すれすれを一線の何かが過ぎた瞬間、暴風の中に投げ出されたと錯覚してしまうほどの強烈な風が全身を襲う。


 オキタの指示に従っていなかったらどうなっていたか分からない。だがこれだったらあの濃霧を消し去ることができるはず。


 次第に風も止みもう大丈夫だろうと思い黒刀を抜いた。案の定あれほど濃かった霧はその姿を消し、風の影響で地面に刺さっていた棒切れなどもまた無くなっていた。そのような状況の中で唯一二本の妖刀をクロスさせ、オキタの攻撃を防いだ異質な雰囲気を纏う人ならざる者。


「えー、結構本気で殺すつもりでやったのに......」


「何なんですか、あれは......」


 いつの間にか二人が近くに来ていた。二人の視線もまたそいつに釘付けだった。


「分からん。だが、一筋縄にいかない相手なのは確かだ」



 


  

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