平定の乱⑥
フェニックスが城を飛び立ったのと同時刻、それよりも上階の大広間にて、ある男がわなわなと肩を震わせていた。
「クソがあああぁぁぁ!! どいつもこいつも! 役に立たぬ、虫けら以下の存在のくせにいいぃぃぃ!!」
血が滲み出そうなほどまでに自身の手を握り締める男の正体は、今の『ナゴシ』を治める領主であり、数か月前に代領主であったリュウを裏切った反逆の臣下、アキヒデだ。彼の近くには、齢七十に迫ろうする老人アサエモンが控え、その傍らには数時間前に彼らによって捕らえられた少女ツボミが横になっていた。
しかしながらこの時にはすでに、アキヒデの中にはツボミという少女のことなど少しも残っていなかった。ただ己の思い描いた結果にならなかった。その一つのことが今までに感じたことのない焦燥に、より一層苛まれていたからだ。
苛立ちのためか荒く立ち上がるアキヒデ。畳の上をドスドスと音を立て部屋から出ようとしたがその間際、振り返りアサエモンを見て大声で言った。
「余がいいというまで決して誰一人通すでないぞ! 分かったな!?」
それを受けたアサエモンは眉をぴくりと動かすも、必要以上の感情を見せずただ一言。
「......分かりました」
しかしアキヒデは最後まで聞かずに荒々しい足音を立てながら部屋の外で出た。彼の足音が聞こえなくなったところで、部屋に取り残されたアサエモンは小さく溜息をし、傍らで眠るツボミを見た。
「あなたは可哀そうな御人だ。彼の欲望のためだけに、このような意味のない戦いに巻き込まれてしまうのだから」
その時、アキヒデが開けっ放しで出て行った襖から一陣の風が舞い込んできた。するとアサエモンは、ツボミを抱き上げ部屋の隅に向かった。
「あなたを逃がすことは簡単ですが、どうやらそれは私の役目ではないようです」
ツボミを部屋の隅に横にならせた後、彼はまたもといた場所に戻り座った。
それから間もなくして、部屋の襖がゆっくりと開こうとした。彼は心の中であることを思った。
ーー藪から出て来たのは、蛇などではないようですね......
襖を開けたその部屋の中央にはアサエモンが一人で座っていた。よく見ると部屋の隅にはツボミが寝かせられていた。遠目から見ても分かるが無事な様子だ。心の中に少しの余裕ができたように感じた俺だったが、それは目の前のこの老人の姿をした怪物をどうにかしないといけないのだと再度思い知らされた。
多分こいつは、海神ディランと同等かまたはそれ以上だ。だが堕ちた神などではない。俺と同じただの人間のはず。ならこの異常性は名刀、つまりは妖刀を持っているからなのだろうか。しかし同じ妖刀持ちであったおやっさん達の比ではないほどの強さを持っている。妖刀一つ一つで何か違うのだろうか。そう考えれば楽だが、何か違うような気もする。
このように憶測はいくらでも出て来るのだが、これといった結論はどうやっても出てこようとしない。対するアサエモンは、どこか優し気な瞳をしながら口を開いた。
「数時間ぶりですね、リンドウ殿。あなたが来るのを今か今かとお待ちしていましたよ」
こいつの前で名乗った覚えなんてないはずなのに、なぜかアサエモンは俺の名前を知っていた。そのことに少しの違和感を抱きつつも俺は言った。
「すまないが、ツボミを返してもらうぞ」
「ええ、分かっていますとも。しかし、タダで返すとなると話は変わってきますね」
だよな。俺は黒刀を構え、奴の出方を伺おうとした。対して俺の行動を見たアサエモンは、なぜか申し訳なさそうに微笑んだ。
「あなたは少し勘違いしているようだ。別に私は立ち合いなどを望んでいるわけではないのですよ」
なぜだろう、俺はその言葉に嘘偽りがないと直感的に思ってしまった。
「なら、どうしたらツボミを返してくれるんだ?」
戦いの場でこういうことを訊くのはおかしなことであるだろうが、そもそもこのアサエモン自体がよく分からない存在だ。しかし、アサエモンは特段気にしている様子などなく、そうですねと斜め上を見た。
「そうですね......では一つ、腕比べのようなものをしましょう。内容としては、これから私はあなたに一度攻撃をしますので、あなたはそれを防ぐだけというものです」
「それで他には?」
「以上です。どうです、簡単でしょう?」
妙に少ないな。真意を知ろうとアサエモンを見るも、そんなことなどお見通しとばかりに彼は微笑んだ。
「深く考え込む意味はありませんよ。ただ私は、あなたがどういう御人なのかを知りたいそれだけなのですから」
彼の言葉が何を意味するのか分からないが、内容がシンプルであるので願ったり叶ったりだ。分かったと俺が頷くと、アサエモンはよいしょっと言って立ち上がった。ここまではどこにでもいる普通の老人なのだが。
ゆっくりと刀を抜くアサエモン。知らず知らずのうちに体が強張るのを感じた。あの処刑場の時以上に空気が圧迫されているように思えたからだ。
刀を構える彼同様に俺も黒刀を構えた。妙案と呼べるものなど何一つ思いついていない。だがやるしかない。そうしないとすべて終わってしまうから。
すべての神経を目にだけ集めた。アキヒデの攻撃を見極めなければ、待つのは『死』のみだ。次第に心の中に広がっていた波紋はなくなり、今から来る瞬きすら許されない一撃だけのためだけに俺は神経を集中させ、その対象となるアサエモンを見た。
その時にはすでに、彼は刀を頭上まで持ち上げており、自身から見て直線状に立つ俺をそのまま斬るようにして刀を振り下ろした。
この時俺は安心してしまった。あの時は見えなかったが、それによって発生した斬撃を確実に捉えることができたからだ。それはまるで陽炎のようにその空間だけを歪めているよう俺には見えた。
見た感じ防ぐだけであれば黒壁を出すだけで問題ないはずだ。
迫りくるそれを防ぐため俺は、目の前に黒壁を出そうと構えたその一瞬、俺を取り囲む周囲の空間すべてがぐにゃりと歪んだ。あまりにも突然の変化に俺の脳裏には、どこか別の場所に飛ばされたのかという考えが過ったが、床は元いた畳のままであるのでその線はないことに気付いた。俺は改めて今以上に目を凝らして目の前のそれらを見た。
俺の目に映ったそれらは、一つ一つが何重にも重なった斬撃。数は空間が歪んで見えてしまうほど膨大。前からも後ろからもそれらは迫っていた。
あれほど研ぎ澄ませていた心に幾重もの波紋が広がり、背中を冷たい汗が伝った。頭をよぎった最悪を振りほどくために俺は考えに考え抜いた。思考回路が焼き尽くすほどにだ。だが、動揺のためか現状打破のための一手を思いつくことはできなかった。
この世界に来てから何度こう思ったか......完全に詰んだ......。
そう以前の、あの時死にかけた俺ならそう思ったはずだ。
だが......今の俺は一人じゃない。
「『フレイム』」
その声と共に、俺を取り囲むようにして炎が駆け上って来た。そして炎が俺を完全に覆いつくしたと同時に、俺を取り囲む火柱と無数の斬撃が衝突し、目の前にある炎の表面が大きく揺らいだ。
ついさっき感じた肩の重みが再度訪れた。見るとそこには、やはりと言うべきか馬鹿を見るかのようにしてこちらを見るイフリートが居座っていた。
「ちょっとは成長したと思ったらこのざまかよ、ユウト。ホントこんな短期間死にかけるとか、お前死神様に愛されているんじゃねえのか?」
イフリートの口調からは緊迫感など微塵も感じられず、俺に対する呆れの方が大きように思えた。とにかくは、今は大丈夫だっていうことか。強張っていた方の力が抜け、俺は大きな溜息と共に呟いていた。
「はあー! マジで死ぬかと思った......」
死んでいないと思っても、死にかけことには変わりない。今だに脳裏には『死』という存在が見え隠れしている。そんな俺の様子を見たイフリートはニヤニヤしながら言う。
「だろうな。あのままだったらお前、細胞一つ残らないほどまでに斬り刻まれていただろうな」
「ならどうしろっていうんだよ。あんなのもう一回来てもどうしようもねえよ」
見えてもあれを一つ一つ捌けるほどまでに俺は強くなどない。戦闘経験なんてたかが数か月なのだから。イフリートもそのことは重々承知な様子だ。
「まあ今のお前じゃあどうしようもねえな。犬死するだけだ」
「マジかよ。なんであんなヤバい奴がいんだよ。あんなに強いならあいつも堕ちた神討伐戦に参加させればいいだろうが」
ここにはいないオーブリー達のことを頭の片隅に思い浮かべながら俺は言うが、イフリートは微かに頭を横に振る。
「そりゃあ無理な話だな。あの爺さんにはそういう才能がねえ。ただ強いだけだ。強さだけじゃあどうしようもない時が必ず訪れるだろうさ。まあ今のところあの爺さんに、その心配はねえだろうがな」
「どういうことだ?」
「まあ見てれば分かるさ。そろそろ斬撃の嵐も止むだろうからな」
イフリートの言った通り、先ほどから鳴りやまなかった轟音が徐々に聞こえなくなった。完全に消え去ったところでイフリートの炎は、空中に霧散した。
すると突然、俺の耳に拍手の音が届いた。自然とそちらを目を遣ると、戦う前と寸分違わずの位置に立つアサエモンだった。彼は嬉しそうに微笑み言った。
「どうやら勝負は、あなた達の勝ちのようだ」
あっ、そっか。死にかけたせいでついさっきの約束を忘れていたが、俺達勝負をしていたんだ。今のセリフ通りこの勝負は、アサエモンの一撃を防いだ俺の勝ちっていうことか。ならこれ以上戦う必要ない。
しかし、俺の肩に座るイフリートはそれに納得していなかった。なぜなら彼の手にはあるもの浮遊していたからだ。それはディランとの戦いの時に用いた疑似太陽。仮にここでそれを放てばこの国は消し炭なることは必須。本末転倒もいいところだ。
「おい爺さん」
「ちょっとまーー」
「次はこっちの番だぜ」
止めようと口を開くも、その時にはセリフと共に放たれた後だった。止められるはずがない、そう思っていた......この時までは。
突然すべての襖が全開となった。そこから入って来たのは人などではなく、息をすることさえ困難なほど強い風だった。それはイフリートから放たれた疑似太陽を取り込むような流動をし、徐々に炎を空中に分散させているように見えた。そして最後の一つまで消え去ったところで、イフリートは大きく笑った。
「ガハハハッ! やっぱりそうか」
彼が何に納得しているのか分からない俺だが、今の俺達は以心伝心。ある程度思考が共有されているので。イフリートはそのわけを教えてくれた。
「いいかユウト。あれは今のお前じゃあ勝てねえぜ。なんせ俺様と同じ存在なんだからなあ」
「は? ......なら、アサエモンは大精霊なのか?」
まさかアサエモンがそうなのだとは夢にも思わなかった。だが、俺の言葉を聞いたイフリートは馬鹿かと俺の頭を叩いた。
「馬鹿かお前! あの爺さんなわけないだろ! よく見てみろ、俺様みたいに爺さんの肩の上に普通にいるだろが!」
言われた通りによく見てみた。するとたしかにアサエモンの肩の上に何かがいた。イフリートとは似ても似つかない完全な人の姿で、黄緑色の髪をした小さな少女。俺やアサエモンと違う点を挙げるなら、その少女の背中からはそれに見合った小さな羽が生えていることだろう。その姿はまるで小さい頃に絵本などで目にしたことのある妖精の姿に酷似していた。
「あいつは名はシルフ。風を司る大精霊シルフだ。さっきの風もあいつの仕業だろうな」
「やっぱお前と同じ感じで、強制的にこの世界に連れて来られたのか?」
「だろうな。もしかすると、俺様達以外にもいるかもしれないが、今はどうでもいいか。おい、シルフ! てめえなんでこんなとこいるんだ?」
そうイフリートから呼びかけられた大精霊シルフは、今になって気づきましたよと言わんばかりにつまらなそうな顔をしてイフリートを見た。
「あらあら、誰かと思ったら『称号奪いのイフリート』じゃない。随分元気そうね」
その瞬間、イフリートから発せられる熱が上がった。
「ああ? 人聞きの悪いこと言ってんじゃねえぞこのブス女。いつもみたく泣かしてやろうか?」
「ほんとあなたって成長しないわね。先代のサラマンダーが気の毒で仕方ないわ」
「何言ってんだ、てめえ? あの時正々堂々戦っただろうが。サラマンダーも納得してたんだから問題ねえじゃねえか」
「あなたのような狂犬より、彼の方がその称号にふさわしいといいたいのよ。まったく......」
内輪の話題でありその内容がどういうものなのか俺は知る由もないので黙って会話を聞いていたが、最後心底呆れた雰囲気のシルフはそう吐き捨てると、自身の宿主であるアサエモンに視線を向けた。
「おじ様、これ以上ここにいても意味はないわ」
「では、後のことは彼らに任せるということですね」
彼の言葉にちらりと俺の方を見たシルフ。そこからは少しの感情を読み取ることができない。
「ええ。これは使徒の仕事なのだし、その使徒が現れたのであればそちらに任せた方が手っ取り早いはず」
「......あなたがそう言うのであれば、従いましょう」
さも当たり前のように部屋から退出しようと入り口の方へ足を向けるアサエモンだったが、そうそうと思い出したかのように言い、急激な展開に戸惑い固まる俺の方を見ると。
「あなた達がここに来るまでの間に、各国に散らばる大体の悪い神達は一掃しました。残すは、『ハクテイ』、『キトウ』、『シュンギョウ』、そしてここだけです」
その国名は、この大陸に上陸したあの日、セイキチ達の口から聞いたものだった。あまり詳しい内容でなかったのでよく覚えてはいないが、たしか......。
「......要はこの国の隣国達っていうことか?」
「ええ、そうです。そしていつものように、彼女のいう悪い神を倒すために訪れたのがここ『ナゴシ』であり、その時出会ったのがリンドウ殿あなただったのです」
「そうだったのか」
今の話が本当なら、思いの外早くこの大陸は制覇できるかもしれない。心の中で一人そう思った俺の頭にはある良いアイディアが浮かんだ。
それは、アサエモンも仲間にできる可能性だ。『昨日の敵は明日の友』という言葉がある通り、イフリートを信じれば今のアサエモンは敵ではない。それに今の彼には、大精霊が宿っているので簡単に堕ちた神を倒すことができるはずだろう。後オーブリーも、妖刀持ちはできる限り仲間に加えろと言っていたしな。そう思った俺は、ここは一つアサエモンを旅の仲間にと思い勧誘しようとしたが、その前に。
「寂しいけど、おじ様とはそろそろお別れね。ありがとう、そしてごめんなさい。私のわがままに付き合ってくれて」
申し訳なさそうにしてそう言うシルフに、気にしていないと首を振るアサエモンは言う。
「いえいえ、気にしないでください。むしろ私が礼をいうべきなのです。残り少ない人生の中で、誰かの為に生きることができたのですから」
「そう言ってもらえると嬉しいわ......」
恥ずかしそうに顔を赤らめるシルフとそんな彼女を優しく温かく見守るアサエモン。そう、それはまるで恋人同士.......などではなく孫と祖父のような、とても和やかなものだった。蚊帳の外である俺でさえ、目が麦の目で心がポカポカと感じてしまったほどだ。
まあそういう冗談は置いといて、俺の勘が当たればシルフは元いた世界に帰るのだろう。なら悪いけど、アサエモンの勧誘はなしということで。我ながら素早い脳の身のこなしだな......。
若干肩を落とすもこういう風に、そうそうに諦めることが大事な時もあるので、俺は落ちた視線を前に戻した。それによって俺はあることも思い出すことに成功した。すぐさま俺は収納ボックスからあるものを取り出し、その中にあった一つを軽く投げアサエモンに渡した。
アサエモンと彼の肩に座るシルフは、その虹色に煌めく石を不思議そうに見た。
「これは?」
「それは、月虹石というらしい。あんたのその刀、妖刀なんだろう?」
名刀、妖刀、どちらかが通り名であると俺は思っていたのだが、それを聞いたアサエモンは少し困ったような顔をした。
「妖刀? 私の持つこれは、『カメワリトウ』という名の名刀で、その妖刀というものが一体何なのか分からないのですが......」
つまりは名刀と妖刀は別物ということなのか? でもならどうして、あのような普通ではない力を宿しているんだ? そんな一人悩む俺に、二人の大精霊はその答えを教えてくれた。
「ユウト、お前の考えは間違っていねえぜ。呼び名は違うが、名刀と妖刀は同一のものだ」
「彼の言う通りよ。名刀というのは、この大陸独自の呼び名なの。あなた達が来た大陸であれば、創造級が適切でしょうね。そして神や私達といった存在が、それらを総称して妖刀と呼ぶの」
「へー、初めて聞いたな。なら、パンゲアの方だと何て言うんだ?」
「たしか魔剣と呼ばれていたわ。どちらにせよ、呼び名は違えど中身は同じ。そして作り手もまた同じよ。どうして今更そんなものを集めているのかは知らないけど、悲しいものね......」
俺はシフルの最後の言葉に引っかかりを覚えた。
「悲しいってどういう意味だ? この妖刀がか?」
「そちらではなくて作り手の方よ。私も風の噂でしかその内容を聞くことができなかったけど、なんとも不憫な話だったわ。今はこれだけ人々に認知され、崇拝されているっていうのに......」
イフリートに目を遣ると、彼は首を捻っており、この場にその話を知るのはシルフだけのようだ。オーブリー達からは妖刀について詳しい話を聞くことができなかったので、少しだけだろうがここでシルフの話を聞くのも悪くはないかもしれない。ツボミの命を脅かす存在はもういなーー
「あれ、そういえばアキヒデはどこに行ったんだ? ここにいないなら、もう国外逃亡した後とかか?」
「彼ならあなたが来る少し前に、上階に向かいましたよ」
なら逃亡の線は消えたな。アサエモンが親切に教えてくれたその瞬間、今まで微かに感じていたその存在が大きくなった。
「......近いな。真上からか?」
「多分そうだ」
イフリートのその問いに、俺は簡潔に答えた。
嫌な存在は、アキヒデが逃げたというここより上の方、城の天辺である天守閣から来ていた。
その時嫌な衝動に駆られた俺は、ここから見える外に目を向けた。たしかに今の時間は明け方だったはず。しかしここから見える空の色は、濃い青色などではなく黒いほどの赤色。
あの時アキヒデが指定したタイムリミットは一つだけではなかったのか......。
その光景が最悪の予兆であるように思えた俺は、すぐにアキヒデがいるであろう天守閣に向かおうと思うも、あることによりその場に足が留まりかけたが、アサエモンの一言が俺を突き動かした。
「彼女のことなら心配しなくても大丈夫です。必ずや彼女の御両親と再会させますので」
「......ありがとう。恩に着る」
振り向かずにそう言って、俺は走り出した。