平定の乱⑤
「もしもし、おやっさん。うん......そうそう、俺の方も終わったよ。......あー、今いるところは『空の間』......んー、了解。それじゃそっちが来るまで待ってるよ」
言い終えた俺は通話終了ボタンを押し、大きく息を吸い吐いた。
どうやら俺とジュウベエの戦いが終わる数十分前ぐらいにはすでに、おやっさんとハンゾウの戦いは終わっていたようだ。少ない会話だったが、おやっさんはかなり俺の安否を心配していた様子だった。そんな彼にスペシャルサンクス思いつつ、二人が来るのを待つことにした。
何気なしにジュウベエの方に目を遣った。さっきあれだけ喚き散らしていたジュウベエであったが、今は精神統一のつもりか目を閉じジッとしている。あの時の彼の様子を動画に撮って、見せたらどうなるのかなと思ったが、俺はサディストではないのでそんなことはしなかった。
そんなこんなで待つこと数分。俺が来た道からおやっさんともう一人誰かが男性と思しき姿の人が現れた。
なんとなく服装から予想は付く。
「おお、おやっさんと......くっくっ、ハンゾウ君だよね?」
「あー! やっぱ自分笑うと思った! ジロちゃんさっき全然変じゃないって言ってたけん、大丈夫だと思ってたのに!」
おやっさんそんな酷いこと言ってたのか。これを見て全然変じゃないとかありえねえだろ。『マムシに噛まれた柴犬ラッキー』並みに顔が腫れあがってるぞ。
対するおやっさんはさも当たり前のことのように言った。
「俺からすれば、 ”普通” だ。だが世間からすれば、土左衛門だなあ。まあ......気にするほどでけえ話じゃねえ。そう思わねえか、ジュウベエ」
一瞬顔を絶望色に染めたが、親友であるジュウベエならもしかするとという期待の眼差しを彼を見る忍犬ハッキーであったが、彼の顔をチラリと見たジュウベエは考えるように口を隠した。
「ジロ殿の言うように、それほど大きい話ではないだろう。時期に腫れも引く。それまで待つほかあるまい」
「どうしてジュウちゃんは口元を隠す必要があるのかなあ? もしかして......?」
ジュウベエの顔を下から覗き込んでその真意を探ろうとするハンゾウであるが、今俺達がすべきことが別にある。収納ボックスから以前マヤさんに服用した薬が入った小瓶を取り出した俺は、それをハンゾウの顔に無造作にかけた。運悪く鼻に入ったのだろう、ゴホッゴホッと鼻を抑えながら俺を睨むハンゾウ。
「ちょっ、自分いきなり何するん!? むっちゃ鼻の中に入ったよ、その黄緑色の液体! ......え、ちょっと待ってこの液体何なの?」
若干最後の方は心配そうにしているが、口で説明するより実際に見た方が納得するだろう。俺は手鏡を創造し、ハンゾウに手渡した。俺が何をしたいのか分からないように首を捻ったが、鏡を渡されたからにはそれで自分の顔を見ろと言っているのだろうと当たり前に解釈し、素直に自身の腫れているはずの顔を見、そして驚愕した。
「! な、治ってる......! ま、まさかそれのおかげ!?」
「まあそうだな」
といいつつも、これって外傷でもちゃんと効果があるんだな。てっきり病気にしか効果を示さないと思っていた。まあこういうのを結果オーライというのだろう。治験の被験者になったハンゾウには心の中で感謝
「俺もこれのおかげで死なずに済んだしな」
空の小瓶を振りながらおやっさんは言った。やっべーこれで効果なかったらおやっさん死んでたんじゃね? まあこれも結果オーライというのさ。つまりはおやっさんも被験者の一人。ハンゾウだけじゃなかったのか......。
と、とにかく今はさっさと行動に移すべきだな。ゴホンとわざとらしく咳をして三人の意識を集めた。視線がこちらに向いたのを確認して俺は言った。
「それじゃあこの後のことなんだが、俺と今ここにはいないけどアスナだけでこのままアキヒデのところまで行くけど、問題ないよな」
「「「......は!?」」」
一拍置いて三人の声が揃った。それからは俺の意見に否応なし反対であると、発案者の俺でなくとも理解することができるだろう。というかこうなると知った上で言ったんだけどな。
三人の中ですぐに詰め寄って来たのはおやっさんであった。左手に縄は持っていないが右手には刀を持ち、その顔は不動明王以外例えようがなかった。
「おい、ユウト。お前さんのことだから、何かしらの考えがあるからそんな馬鹿げたことを言ってるつもりだろうが、何の説明もなしじゃ俺達は納得できねえな」
後ろの控える二人の思いも代弁するかのように彼はそう言う。今の俺達にはタイムリミットがある。そのせいで結論だけ言ってその過程をすっ飛ばしていた。
「ああそうだった。ごめん、ツボミの救出で頭が一杯だったからつい」
「俺もそうだ。お嬢を救出するためにここに戻って来た。なのにお前さんが俺達は留守番とかそんな意味の分からないことを言うもんだから責めちまったんだ」
「うん、分かってる。だから今から説明するよ」
ジュウベエ、ハンゾウ、そしておやっさん。三人の顔を見回して俺はそのわけを言った。
「今の結論に至った理由を幾つか上げるなら、『力』、『危険性』、そして『私情』の三つ。まず『力』について。これは単純な話、この中で俺が一番強いから。というわけで悪いけどおやっさん、殺すつもりで俺を斬ってくれ」
何の躊躇いもなくおやっさんは俺の脳天目掛けて刀を振り下ろす。少しぐらい躊躇ってほしかったが、まあこの際どうでもいい。頭に魔力を集中させてそれを先の戦いで出した黒壁に変換させた。予想した通り難なくそれを防げた。よし、これにて立証できたと思ったのも束の間、おやっさんは拳を光らせ、それで一発だけだったが黒壁を殴った。この時黒壁と俺の頭との距離がゼロだったら、『頚椎捻挫』になってしまう可能性があった。黒壁の断面積Sはそれほど大きくはなかったので仮にそれに大きな力Fが働けば、『P=F/S』の関係性により結果としては黒壁と接している俺の頭に巨大な圧力Pが働くことになってしまうからだ。っとまあ俺の頭が良いアピールはこのへんにしておくとしよう。おやっさんも渋々ながら納得しているようだし、俺の頭も無事だったんだし。
「見て分かる通り、おやっさんより俺の方が強い。そして、ハンゾウはおやっさんに敗れたので俺よりも弱く、ジュウベエの方は言うまでもない。要は実力が備わっていなければ犬死する可能性があるというのを考慮したから。それが一つ目の理由だ。」
一旦そこで話を切ったが三人の声を異見を待ったが、特に何も言わなかったので続きを再開した。
「次に『危険性』について。これも単純と言えば単純だ。ジュウベエとハンゾウどっちでもいいけど、アキヒデ側でお前達以外で要注意人物とはいなかったか? ちなみにアサエモン抜きでだ」
「そうだな......。私は大抵の場合、常にアキヒデの近くに控えていたがそういう人物はあまり見かけなかった」
「ならハンゾウはどうだ?」
ジュウベエと同じ様にハンゾウは考え込んだ。
「うーん......自分のジュウちゃんと同じかな、あ! そう言えばアキヒデ君いつもどこか行ってなかったけ? お前達はこなくてもよい、とか言って自分達は大広間で待たされたこととかあったじゃん」
「そういえばそんなこともあったな。あの時は仕える主君を疑うのは万死に値すると考えていたからあまり違和感はなかったが、今となっては確かに不自然だったような気がする」
よし、いうならここだな。
「ならお前達が知らない間に手駒を増やしていた可能性も無視できないというわけだ。俺が言いたいのそれなんだ。現状分からないことが多すぎる。今認識している戦力がすべてなのかそうじゃないのか把握できていない。つまり新たな敵が乱入する可能性もあるということ。仮にその敵に俺達が対処できたとしても、今も戦っているイシマツ達や俺達の大将であるリュウさんが対処できるとは言い切れない。未知である限り絶対はありえないし、最悪の場合も想定していないといけないんだ」
「お前さんのいう『危険性』は分かった」
もういいとばかりに手を突き出しおやっさんは言う。
「俺達が全員でアキヒデのところに乗り込んだとしても、その間にリュウやイシマツ達に危険が迫る可能性がある、猪突猛進はよくないと言いたいんだな」
「ああ。後付け加えるなら、今回みたく記憶を捏造させられる可能性も高いからかな。そうなったらもうお手上げ状態、すべてがアキヒデの思うがままになってしまうと思ったからかな」
「捏造......。そうだ、仮にユウト殿がアキヒデのところに単身で乗り込んだ場合、今度はユウト殿が先の私達のようになる可能性もあるが、それはどう考えているのだ?」
ジュウベエの疑問ももっともだ。
「それの理由が最後の『私情』だ。時間の関係上詳しくは言えないけど、そうならないようの予防線を一応は持っている。実際に使わないと分からないが、まあ気休めにならないように願うしかないな」
ポケットに入れている予防策を、服の上から撫でながら俺は言った。俺の出せる手札はこれだけなので、それで納得できなかったら他の手札を生み出さなければならなくなるんだが......。
数秒後、俺の言葉を聞いた三人のうち初めに口を開いたのはハンゾウだった。彼は頭の後ろで腕を組み言った。
「まあいいんじゃない? 彼の方が自分達より実力、加えて対策も持っているんだし。自分は彼に任せるべきだと思うね」
「だな。先の戦いで一戦交えたが、ユウト殿であれば必ずツボミ様を救えると私も思う」
ジュウベエもハンゾウと同意見のようだ。てか思うって曖昧だな......。断定してくれねえとこっちも怖いんだけど......。
しかしながら二人は納得してくれたが、問題のおやっさんの返事は聞いていない。二人の答えを聞いたおやっさんは、わざとらしく大きなため息を一つ吐いた。
「はあー。昔の俺なら実力行使をしてでもお前さんを止めただろうが、それができなくて残念だ」
そう言っておやっさんは拳を俺の胸に当てた。
「無事、お嬢を救って戻ってこい!」
「たしかここを右だっけか」
三人と別れた俺は、アキヒデがいると思われる城の最上階を目指し蝋燭の明かりだけを頼りに進んでいる。道なき道ではなく必ず目的地が約束されている廊下であるので、そのうちアキヒデのところに着くはずだ。現段階での段取りだと、おやっさんはイシマツ達、ジュウベエとハンゾウはリュウさん達のところへ向かうことになっているので、時期にそれぞれの場所に到着するだろう。
その時ふと誰かの気配を感じ取った。それは進行方向にある二つあるうちの左の曲がり角からだ。空間を暗闇が支配している率が高いので、いやでも他の感覚が冴えてしまいそういう気配にも敏感になるのかもしれない。いつでも対応できるよう刀を構えたまま、やや走るスピードを弱め気配を消し、臨戦態勢のまま曲がり角に近づいた。そして角から人影が見えた瞬間、その人物の首に刀を押さえつけようと試みるが、相手の剣によって弾かれてしまう。
「なんだ、アスナか」
人影の正体はアスナだった。彼女の手には久しぶりに見る剣が握られており、相手が俺だと目視するまで刃先をこちらに向けていた。
「誰かと思ったらユウト様でしたか」
「そうそう俺俺。分かったなら、さっさとその~......セレールだっけ? 下ろしてくれ」
「あ、すみません」
ペコっと頭を下げ剣を下ろすアスナ。それを確認して俺は、彼女を引き連れ再度最上階を目指した。その間に俺がジュウベエと、おやっさんがハンゾウと戦ったことだけを話した。
その話を聞いたアスナは不思議そうに顔を傾けている。
「どこかおかしなところでもあったか?」
普段通りを意識しながら俺は彼女に問い掛けた。すると彼女は抱いていた疑問を口にした。
「何故ユウト様だけこちらに来て、残りの三人は他へ遣ったのですか?」
そういえば似たようなことをおやっさんも口にしていたな。
「うん? ああそれは、戦力を分散しておいた方が何かといいと思ってな」
「なるほど。だからこの場に彼らはいないんですね」
「そういうこと。ところでさあ、俺も一つ気になっていることがあるんだけどいいか?」
「え? ええ、別に構いませんが」
了承を得たので俺は前を見たまま訊いた。
「お前さあ......誰?」
「は? ちょ、いきなりどうしたのですか!? どこか頭でも打ったんじゃないんですか!?」
「さっき俺が話したこと覚えているか?」
唐突に話題が変化したせいで一瞬だけ止まったが、俺の言っている話が何であるか思い至った彼女は答えた。
「ユウト様がジュウベエさんと、ジロチョウさんがハンゾウさんと戦ったという話ですよね? それがどうかしたんですか?」
「うん、その通り。でさあ、俺いつ三人の話したっけ? した覚えないんだけど」
「え......いやだって、この場にいないならどこか別のところに向かわせたと思うでしょう!?」
いやいや俺が言いたいのはそういうことじゃない。
「どうしてあの時あの場にいないお前が、あいつら全員が生きているって知ってんの? って俺は言いたいの」
「だってユウト様、堕落した神々は倒すけど人は殺さないと以前言っていたではありませんか! 覚えていらっしゃらないのですか!?」
「口に出したかどうかまでは覚えていないが、確かにそう考えてはいるな」
「な、ならーー」
彼女が更に言い募ろうとする前に俺は現実を伝えた。
「でも、たまたま運悪く死ぬっていう可能性もあるんだぜ」
出し抜けに言われた言葉の意味を飲み込めないのか彼女は何も言わなかった。だから俺続けて言った。
「俺は完璧な人間じゃなく、ただ他よりも強い力を持つ人間だ。守り事すべて守り通すほど信頼できる人間じゃない。殺さないと決めていても、イレギュラーなことが起きればそうならないと言い切れない。ディランとの戦いの時あっさり死にかけたように俺が戦ったジュウベエだってそうならないと言えないだろう? おやっさんに至ってはどういう考えの人かなんて会って数週間で理解することなんて不可能だ。かつて仲間であったとしても、今敵であれば何の躊躇いもなく殺さないとお前は分かるか? ちなみに俺はわからないぞ。今お前が考えていることも、な」
思ったことすべてを吐き出したところで彼女はか細い声で言う。
「だからって私を疑う理由には......」
それを受けた俺はゆっくりと彼女が手に持つ剣を指差しある事実を言った。
「それ、”セレール” じゃなくて ”セレーネ” な」
「!?」
聞いたアスナは目を限りなく大きく広げた。鎌掛け大成功! 咄嗟に思いついたセレールは、セネガル共和国の民族のことである。ここに来て地理の内容が役に立つとか、地理担当の松本先生に心の中で合掌しつつ、俺は雰囲気を変えたアスナに視線を移した。
「あいつにとってそれは一番の剣らしい。俺の言い間違いに気づかないなんてことあり得ないと思わないか?」
「......」
たった今まで人間らしい表情をしていたのだが、今の彼女の顔にへばりついているのは無、だけであった。
思わず舌打ちをしてしまう。運がいいのか悪いのか、どうやら嫌な勘が当たってしまったようだ。
それに加えて最悪なことに、中身が彼女でなくてもその肉体は彼女のものだ。そのことを重々承知しているソイツは、ただ俺を殺すためだけにすぐさま彼女の体を操り、剣を振るい襲い掛かってきた。俺は黒刀を構え、それを受け流そうと考えたが、如何せん思った以上にその一撃が重く、結果吹き飛ばされてしまい、廊下沿いにあった一室の障子を突き破った。コンマ一秒掛からず俺は飛び上がり、追撃を受け止めた。鍔迫り合いの最中、確かな意思を持ってソイツにあることを投げかけた。
「お前、堕ちた神だろ。とっととその体、持ち主に返せくそ野郎」
直後、彼女は顔色を変え、馬鹿を見るかのように俺を見て言った。
「あ~? 返してくださいだろ? っばーか! ひゃっひゃっひゃっひゃ!」
冗談抜きで、脳の毛細血管が切れた音がした。アスナには悪いが、俺は黒刀を手放し手が斬れることなど無視して、左手で彼女の剣を鷲掴み、空いた右手で彼女のみぞおちを手加減なしに殴ろうした。
もちろんソイツは俺がしようとしていることに気が付き、すぐに剣を捨て逃げようした。だが自身の操るアスナの体が自分の命令を聞かなかったのだろう。俺の渾身の一撃を狙い通りみぞおちに受け崩れ落ちた。
「く、そ、が......! この、女......いうことを、ききや......」
その言葉を最後に、彼女の中から感じていた嫌な存在はなくなった。
彼女が彼女でなくなっていたことに俺が気が付いたのはたまたまだった。洗脳されていた時のおやっさんの目とここに来る前に見たアスナの目がどことなく似ていたので、もしや? と思ったのがきっかけだったからだ。
倒れ込んだアスナに近づき、頭を膝の上に置いて軽くその頬を叩いた。微かに呻き声をあげるが、目を開ける気配はしない。
「あー、こりゃあダメだな。このままじゃあ嬢ちゃん、一生目を覚まさねえぜ」
その声は肩の上から聞こえた。見るとそこには、炎の体に頭から角を生やした小さな生き物がいた。声からしてイフリートか。
「なら、さっきのヤツを殺せばいいのか?」
するりと出たその言葉が意外だったのか、イフリートは一瞬固まったがすぐ破顔した。
「ガハハハッその通り! だからさっさとぶち殺しに行こうぜ、あのくそ野郎をよお!」
「ああ分かってる。だけどこのままじゃ、またさっきみたいなことになるかもしれない」
今は安全かもしれないが、またあのくそ野郎に体を乗っ取られる可能性がある。それにそのまま放置だとアスナに悪い。そんな俺の気持ちをイフリートは汲み取ったのだろう。
「なら嬢ちゃんには、安全なところに避難してもらっていた方がいいな」
そう言った後、ぼそぼそと小さな声で何かを呟いた。常時言語理解が発動されているはずなのだが、うまくその意味を理解できなかった。そして言い終えるや否や部屋の外から突如として何者かの存在が現れた。それは神獣に近いものだったが、今のイフリートの言葉から彼の仲間か何かだろうと察知した俺はアスナを背負い、たまたまその部屋に備え付けられていたバルコニー仕様の露台へ向かった。閉め切った障子をゆっくりと開けるとそこには、一匹の鳥がいた。ただし、そこら辺を飛んでいる普通の鳥と違い点を挙げるとするならば、規格外の大きさと炎を纏っているという点だろう。
「俺様の愛しい相棒の神獣フェニックス! こいつなら嬢ちゃんを無事にお前の仲間のところのまで届けてくれるぜ! だがこのままだとかなり目立つな。仕方ない、フェニックス! 人間サイズになれ!」
イフリートの言葉に従いフェニックスは、体に纏う炎を放出させていき、徐々に人一人を乗せれるサイズになった。
いきなりの出来事でどうしたものかと思った俺であったが、知性を感じさせる眼差しのフェニックスの瞳を見た瞬間、少しの疑念の心を抱かずにその背中にアスナを横にならせた。と同時に、フェニックスは炎の翼をはためかせ、アスナと共に飛び立った。緩やかなスピードではあるが、あれならすぐにリュウさん達のところで彼女を届けてくれるはずだ。
少しして、露台の真下から一陣の風が走った。俺には単なる風に思えた。だがイフリートは、嬉しそうに笑い言った。
「ガハハハッ! 予測できない戦いほど面白い戦いはねえと思わねえか? ユウト」