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彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
第四章;堕落した神々との戦い・和の国編
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新天地


 林の中を走る一人の少女。


「はぁはぁーー!」


『マヤ、アマネ、ツボミ......すまない。私が、あやつの本性に気づけなかったせいで、お前達をこのような目に合わせてしまってーー」


 少女の脳裏に、一人の着物姿の男性が、彼女自身を含めた三人の着物姿の女性達にそう謝る情景が浮かんでは消える。


「はぁはぁーー!」


『追っ手は私達だけで撒くから、アマネとツボミはあの者の手の届かないどこか遠くにーー!』


 先ほどの男性とその男性の妻と思われる女性が、少女ともう一人その少女の姉と思われる女性にそう別れを告げ、走り去る情景が浮かんでは、そして消える。


「はぁはぁーー!」


『ツボミ! 私があの人達の囮になるから、あなた一人だけも逃げて!」


 後ろから迫ってくる光に気づいた少女の姉が、そう妹である少女に告げ、彼女とは別の方向に走り出す情景が浮かび、またしても消える。その際、姉が、たとえあの人達が忘れてしまったとしても、私達は家族だから! と言っていたような気がするがーー


「はぁはぁはぁはぁーー! この人達は、誰なの!?」


 少女の中で完成していたはずのジグソーパズルは、音もたてずにバラバラに崩れ去った。それと同時に走り疲れた少女は、その場で膝に手を着き、肩で息をする。その直後、少女が後ろに広がる茂みの中から数人の柄の悪い男達が姿を現す。それに気づいた少女は身構えた。


「やっと追い詰めたぜ~、ガキ。お前を捕まえれば、殿様から百両も貰えるんだから役得だぜ」


「それに百両もあれば、当分の間は遊郭通いもできるしな」


「よし。そうと決まれば、さっさとこのガキを捕まえるぞ、お前ら!」


「「「おおおぉぉぉ!!」」」


 そう言ってリーダー格だと思われる男が、仲間たちを引き連れ、縄を手に携えて少女を取り囲む。走り疲れている少女は、自分の置かれている状況すら分からず、ただ怯えた様子で男達を見るしかない。助けを呼ぼうにも、この場所は少女と男達以外誰もいない、目の前に海が広がる砂浜であるからだ。そして、男の手が少女の体に触れようとした、まさにその時。


「ん? 空からなにか叫び声がーー」


 爆音が辺りを支配した。その原因は、空から落下してきた何者かである。突然の出来事に、その場にいる者達全員がその原因が何であるかを確かめようと、落下地点に目を向ける。


「足が地味にジンジンするな」


 砂ぼこりが舞う中、一人の若い男性と思われる声がした。


「まあいいや。おいアスナ、お前も大丈夫かって気絶してんな。なら大丈夫か」


 一陣の風が吹き、辺りを舞っていて砂ぼこりを鎮めた。彼らが見た、この惨事の原因はーー


「あ? 何だお前ら......ああ、盗賊か」













「カミラさん。今俺達、どの辺にいるんだ?」


「今は丁度、中間地点ってところかしらね」


「マジかよ。あんた速すぎだろ......」


 魚人族の村を出てから、約二時間が過ぎたような気がする。今俺とアスナは、竜化したカミラさんの頭付近に世話になっているのだが、下を見るの一面青以外の景色しか見えず、正面は遥か彼方まで水色、上は白い雲が控えている。青と水色以外は彼女のスピードによって、すぐさま半強制的にその見える風景を変化させられている。そんな環境の中、俺達が普通に喋ることができるのは、カミラさんの保護圏内入っているからだそうだ。よく分からん。


「私なんてまだまだよ。この世界には、それ以上に速い存在がいるわね」


 当たり前のようにさらりと言うカミラさん。これよりも早いってどんな生き物なんだ? 神獣とかそんなところか。というか、さっきから俺の裾を引っ張んな。


「アスナ。あんま引っ張ると、裾が伸びる」


「ユウト様怖くないんですか!? ここから落下してしまったら、溺死確定なんですよ!」


「んなわけねえだろ。そう簡単に人は死なねえよ」


 眼下をそっと覗き込んでは、体を震わしては俺の裾を握るアスナに俺はそう説得するが、アスナは全然に納得していない。


「この前、溺死しかけたのは誰でしたかねー?」


「あれは俺が馬鹿だったからだ。もうあんなへまはしねえよ」


 ディランの時はというかそれ以前までの俺は、まだ完全に学生気分が抜けきっていなかった。そのせいで、毎度あんな事態に陥ってしまった。だが今はイフリートのせいでもあると思うが、以前よりも脳がクリアになっている気がする。だから、もうあんな馬鹿な俺にはならない。それに口ではこう言っているがアスナ自身、一番そのことで気に病んでいる。そのためにも、これからの戦いはーー


「カミラさん、あれは何だ?」


 視線の端に何かが留まった俺は、それを見て、カミラさんに尋ねる。アスナも俺同様にそれを見た。


「あれ? ......ああ、使徒になったから見えるのね。あれは『世界樹ユグドラシル』という樹よ」


 一本の樹なのか、それとも複数の巨大すぎる樹が絡んでいるようにも思える、口では言い表せないほどの大きさを持つ樹。それは遥か霞の中佇み、雲を突き抜けその一部分しか見えない、それほどのものであった。よくファンタジーの世界に出て来る名前だが、俺も詳しくは知らん。


「その世界樹って一体何なんだ?」


「そうね......一言で言うなら、すべての世界を支える役目をもつってところかしら。オーブリー様達から聞いたと思うけど、神界という私達が生きる世界があるのを知っているわね?」


 それに無言で頷く俺とアスナ。


「そういう世界すべてを支える役目を与えられたのが、この世界樹なの。ちなみにその世界の一つに、今のあなたの中にいる精霊の住む世界もあるわね」


 あの時ディランも、そんなこと言ってたな。後何か言っていたような気がする......。


「自由に行き来とかはできるのか?」


「基本的に、行き来を無理ね。『精霊魔法』っていう魔法があるのは知っていると思うけど、あれは別の世界にいる精霊の力を使役するもの。世界を越え、存在そのものを引っ張ってくるなんて不可能。まあすべてのおいて例外はあるし、今のあなた達にはあまり関係のない話よ」


「なら、俺達の元いた世界もこの世界樹に支えられているのか?」


「うーん、それはどうかしら。聞いたところの話だと、あなた達は別次元から来たって聞いたし、その世界にもこの世界樹があるどうかは、私にも分からないわ」


 ごめんなさいね、というカミラさんの言葉に頭を振った俺は、その世界樹の姿が見えなくなるまで眺めていた。


 それから数時間後、カミラさんが徐々に高度を上げはじめた。理由は単純、和の国の人々に姿が見られたらまずいからだ。そういうわけで今俺達は、雲を突き抜け、雲海の中を飛行している。


「そろそろ和の国に着くけど、到着場所は砂浜でいいかしら?」


「ああ、そっちの方があんまし人もいないだろうし」


 アスナを促し、俺も立ち上がった。到着よ、とカミラさんがいい、その場に佇むため翼をはためかせている。それを受け俺は、アスナを見て言った。


「アスナ、飛び降りるぞ」


 俺の声を受け、アスナは大袈裟に深呼吸をする。


「スーーハーー、もちろんです。心構えはもうできています」


「言っとくが、直で落ちるからな。以前みたく、『黒穴』はなしだ。ああ、お前の言いたいことは分かってる。安心しろ、俺達のステータス的に落下死はしねえよ。それにあれって結構目立つからな。現地住民が気付かれるといろいろ面倒だから諦めろ」


 アスナが何を言う前に俺はそう訂正してたが、彼女の顔から色が抜け落ちていくのが分かった。どうやら諦めたようだ。すると、カミラさんが気を使うようにして言う。


「彼の言う通り、この和の国では魔法はあまり使ってほしくないわね。堕落した神々との戦闘の際は仕方ないけど......。それにあなた達ってたしか、チキュウでいうところから来たのよね?」


 燃え尽きたアスナに代わって俺が答えることにした。


「ああ、そうだけど」


「なら、この和の国はあなた達にとって、ある意味身近な国かもね」


 なんとなくその意味を分かる。


「やっぱこの和の国って、俺達の住んでいた国がモチーフになっているのか」


「まあ認識としては、それで間違っていないわね。他にもいろいろあるけれど、実際に自分の目と耳で確認することが大事だから、残りのことは自分達で現地調査することをオススメするわ」


「たしかにそうだな......。なあカミラさん、一つだけ訊いてもいいか?」


「? 別に構わないけど」


 これまでの堕落した神々との戦いの中で、どうしても俺はオーブリーやカミラさんといった神達に訊きたいことがあった。


「堕落した神々って......本当に悪い神ばかりなのか?」


 その言葉の意味に気づいたアスナは、心配そうにこちらを見る。大方俺の意思が完全に固まり切っていないのか、と思っているのだろう。だが俺の中では、『戦う』という答えが出ている。それでも、以前戦った海神達の胸の内を知ってしまった。彼らにも明確な意思がある。それらが間違っているとは完璧に否定することができない。それにディランの問題は、完璧に解決したわけじゃないしな......。


 少しの間を置いて、それにカミラさんは答えてくれた。


「私はまだ神になってから、他の神達よりも日が浅いということを踏まえて覚えておいて」


 それに俺は頷くのを確認したカミラさんは続ける。


「あなたがこれまで戦ってきた二人は、はっきり言って悪い神ではない。なぜなら、父はリアムのため、ディラン様は自分自身でもあるオケアヌスを守るため。ここにおいて重要なのは、悪いという意味が広いということ。だから二人がしたことは、私達の住む世界において悪として判定された。決まりが記載されている禁忌黙示録では、それらの行為が禁忌に抵触するから」


 俺もカミラさんの意見に同意見だ。そもそも悪いという意味の範囲がイマイチ。オスカーは兄殺し、だが二人はそれとは明らかに違う。だが、それら一色単にして『堕落した神々』と呼ぶ。以前オーブリーが言っていた、堕落した神々にもそれぞれ理由がある。彼が伝えたかったのは、このことなんだろう。


「でも、二人のような存在は稀よ、あまり気にする必要はないわ。あなた達は、これから先も堕落した神々と戦っていくのだから、彼らが経験した過去と必然的に向き合うことになるだろうし、それに気にし過ぎると返って、自分自身を滅ぼすことに繋がる。だから、考えるのはそこまでにしておいて、そろそろ向かった方がいいんじゃない」


「そうだな......ありがとう、カミラさん」


 気遣うカミラさんに俺は一言礼を言い、この後の展開を予測したのか逃げ出そうとするアスナを担ぎ上げ、最後にカミラさんに一言。


「そんじゃカミラさん、ここまでありがとう。リアムによろしく伝えておいてくれ」


「降ろしてくださあああああぁぁぁぁぁい!!」







      堕落した神々との戦い・和の国編


           開幕 




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