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彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
第三章:堕落した神々との戦い:アルタイル編
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虚心坦懐

「おいてめえ。死ね」


 ユウトから主導権を奪ったイフリートが、乱入者の目の前にいくつかの疑似太陽を飛ばした。それらがエネルギーを発散しようとする直前。


「『消えろ』」


 疑似太陽は突如、空中でその存在を消す。


「......てめえ、今何しやがった?」


 『メテオラ』を用いて、乱入者存在そのものを消そうと、イフリートが疑似太陽を作りながら睨みを利かせ問う。彼を除く三人は、黙って二人のやり取りを見ていることしかできない。


「すまないが......」


 イフリートの質問に答える代わりに、乱入者は断りを入れて言う。


「ネタバレはなしだ。『静止しろ』」


 乱入者を除く四人の体は、金縛りに遭ったかのように微動だにしない。それに気づいたイフリートは、言うまでもなく叫ぼうとするが。


「あ!? おいてめえーー」


「お前はうるさい。『口を閉じろ』」


「......」


「やっと静かになった」


 イフリートは懸命に口を動かし喋ろうとしているが、まったくもって喋ることができない。それを確認した乱入者は、もう一度その場にいる四人を見回す。


「あり得ない量の魔力が発散するのを感じて来てみれば、どうやら精霊、それも大精霊とは驚いた。加えて上級神、名はたしか......オーブリーだな」


 そう言う乱入者の仮面の下の瞳に、懐かしさが含まれていることに気づく者はいない。今現在において、イフリートに次いで実力があり上級神のオーブリーは、臆さず冷静に努めて言った。


「これは『言霊魔法』じゃな? 現上級神である儂にまで適応することができるほどの力量を持つ、お主は一体何者じゃ?」


「それは自分で考えるんだ。いつでも誰かが答えを教えてくれるとは限らないのだから」


 対して乱入者は、まるで教え子のその行動を諫める教師のような雰囲気をしていたが、言い終えると、手の平に水を集め始めた。


「話は変わるが、俺は桁外れの魔法を扱える。だから、すべてを試したことがない」


 水が集まり、それは凝固し始める。


「最近気になる魔法を一つ見つけた」


 言い終えた時、その手の平には、冷気を放出しながら光を反射する氷の球があった。


「これは『ダイヤモンドダスト』。記憶通りであれば、これは万物が完全に停止するマイナス273度、絶対零度の効果を持つ」


 それを空中に浮かべ、部屋の中心に位置する場所に移動させる。


「人体への影響は興味はないが、落ちた神や現上級神にどのように作用するか気になる」


「私はともかくしても、彼らまで消すつもりか」


 今まで黙っていたディランは、申し訳なさそうにして三人を見た後に乱入者に訊く。だが、乱入者は感情を感じさない声で、無残にも言った。


「端からそのつもりだ。将来的に考えても、その使徒達が彼の目的の邪魔になる可能性が高いからな。それにお前達は弱者。つまりは、強者である我々の糧にならなければならない」


 言い終えた乱入者の体を、黒い稲光が光り始める。


「それで死ななかった場合、我々が相手をしよう。それには彼も賛成するだろうからな」


 そう言い残すと黒い閃光を残し、乱入者は姿を消した。後に残ったのは、動くことができない四人と乱入者の置き土産である『ダイヤモンドダスト』だけだ。このままでは、『ダイヤモンドダスト』が展開し、四人とも氷漬けになるのは必須。それをどうにかしようと思っても、イフリートは口を塞がれ魔法を使用できず、オーブリーは決まりに縛られているのでそれを犯すことはできない。魔力が尽きているディランは、何か考えている様子だが、行動に移そうとしない。そんな中、アスナが一言呟く。


「『動け』」


 アスナが使用したのは、乱入者と同じ『言霊魔法』である。そのおかげで、四人の体は自由になったが、イフリートだけは今だ口が閉じたままだ。それに気づいたアスナは、『開け』と言ってそれを解除した。それと同時に、イフリートの体は、すべてのものを瞬時に灰にするほどの炎が包んだ。


「あんの野郎......ぜってーぶっ殺す!」


「落ち着けイフリート。奴はもうここにはいない」


「そんなん分かってんだよ! てかてめえとの戦いはまだ終わってねえ! 殺すぞ!?」


「二人とも落ち着くのじゃ。ここで争っても無意味なのは分かるじゃろ」


 見かねたオーブリーが仲裁に入るが、それが返ってイフリートの怒りの炎に油をさした。


「おいてめえ! ことわざジジイ! てめえも後でしっかり可愛がってやんよ」


「ま、まさか、ユウト君はまだ謝ってくれていなかったのか!?」


 喧しく騒ぐイフリート。そんな彼の傍に、いつの間にか拳を振りかざして立つアスナ。


「いいかげんにしてくだ、さい!」


「ごふっ!」


 数値以上の何かが働いたのか、アスナから殴られたイフリートは地面に顔をめり込ませた。この時アスナは、イフリートがユウトの体を操っていることを完全に忘れていた。そのことに気づく前に、ぴょんっと起き上がったイフリートは、情けない顔をしてアスナに訴える。


「おい嬢ちゃんまでひでえじゃねか! 俺様が一体何をしたって言うんだ!?」


「今はそんなことしている場合ではないわ。このままだとあれが発動してしまう、どうするか考える方が先決よ」


「そうそう」


「そうじゃそうじゃ」


「おいそこ二体! てめえらガチで覚えてろよ、後で泣かしてやるからよ」


 アスナに同調する二人の様子を見たイフリートは、脳内で二人と仲良く遊ぶ風景思い描きながら、空中に浮かぶ『ダイヤモンドダスト』に対して、疑似太陽を一発放とうとする。それにいち早く気づいたアスナから再度、鉄拳を貰った。


「いってえー! ちょっと待って嬢ちゃん。なんでまた俺様を殴った!? 殴る前に一言ぐらい何か言ってもいいんじゃねえのか!? ついでかなり痛いぜ、君の拳!」


「あなた馬鹿なの!? あれがどんな魔法かも知らずに、それをぶつけて何が起こるか予想できるの!? 返って逆効果よ! そのやり方は!」


「へいへい俺様は馬鹿ですよ! だから単純なこと以外できないんです!」


 さながら母と子のようなやり取りをする二人を、オーブリーは呆れる様子で見ているが、ディランだけは何か考え込んでいる様子だ。そして唐突に、ディランはイフリートに尋ねた。


「イフリート。お前ならあれから二人を守ること可能か?」


「あ? ......ああ可能だが、100パーセントとは言い切れねえ。あれは少なくとも、俺様と同じ大精霊クラスが使用する魔法っていう認識をしたほうがいい」


 何かを感じ取ったのか、イフリートはデュランに噛みつこうとはせず、ありのままの言葉で言う。それを聞いたデュランは、先の戦闘で結んでいたはずの髪が解けていることに気づき、それを結ぶ。


「わかった。では、私があれをどうにかする。だからイフリート、お前は二人とその彼の体を守れ」


「あ? てめえ今の聞いてたか? あれはてめえに止めを刺そうとさっき使った『メテオラ』と同等の威力があんだぞ。今のてめえは満身創痍、加えて魔力も底を尽きてる。お前救いようのない馬鹿だぞ?」


「馬鹿なのは承知の上だ。だからこのような事態を招いてしまった。お前の言うように私に残されたのものは、ほとんどない」


 自身の手を握り締めるディラン。


「ならーー」


「だが、そんな私にも一つだけ賭けることができるものがある。それはーー」


 瞬間、デュランの体が輝き始めた。


「命だ」


 対してイフリートとオーブリーはどこか納得しているが、二人と違いアスナは頭を捻っている。


「なるほどな、生命力を魔力に還元しようってわけか。なんだお前頭いいじゃねえか」


「だが、その場合君は......」


「どちらにせよ、来る未来は変わらない。この私欲で汚れてしまった私の命で、その青年の命を救えるなら本望だ」


 そう言ってデュランは歩き始めようとしたが、一度立ち止まりイフリートに光る何かを投げた。


「これを彼に」


「あ? って何だこりゃ? 消えたぞ」


 イフリートが取ろうとしたと同時に、それは消えるようにして彼の体に溶け込んだ。


「それでいい。いつかの戦いの際、それは彼の手助けをしてくれる」


 では後は頼んだぞ、イフリート、そう言ってデュランは歩き始めた。今の彼の心は、殺伐としたものではなく、安穏としたものに変わっている。瞳も透き通るほど澄んでおり、以前の濁った彼の瞳とはまったくの別物であった。


 次第に近づく彼岸、離れる此岸。『ダイヤモンドダスト』の影響からか、距離を縮まる度に凍り始める彼の体。初めは軽い凍傷だったが、そこに辿り着いた時にはすでに全身に回り、皮膚が黒く変色している。だが、デュランは何の反応を示さない。


 目の前にあるそれは、絶対零度には及ばないものの、それに匹敵するほどの冷気を放出している。デュランはゆっくりと、それに手に伸ばす。その時の彼に、すでに痛覚が存在していなかった。


 それに触れようとする直前に、デュランは思った。


 彼であれば、もしかすると、彼らを救えるのではないか......と。


 そして、願った。


 未来があるのであれば、またもう一度、ジュードと......。









 この日の出来事は、これまでこの世界で起こった戦いの中で五本の指に入るほど大規模なものであった。その戦闘の際に、ある落ちた神の乱入によってその場にいた者すべてが死の瀬戸際に立たされた。本来なら生き残ることが不可能なほどの事態であったが、ある一人の落ちた神が自分自身を犠牲にしたおかげで残りの者達は生き残ることができた。その神の名は、デュラン。かつてはオケアヌスを守るためだけに、『滅亡級』の災害を起こそうとしていた上級神。だが、彼が最期に守ったものは、その場にいた『たった三人』だけであった。そして彼が、最期に願った願いがどうなったかを知る者は、今はいない。

 


 



 

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