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彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
第三章:堕落した神々との戦い:アルタイル編
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メビウスの輪


「はあはあ......」


「やはり君の方が強いか。流石の私も二人同時だとキツイが、君一人なら問題ない」


 ディランの使用した『無窮水牢』から、なんとか脱出したアスナ。本来、この魔法から脱出する方法は不可能だが、アスナは堕落した神々との戦闘の際に発動する『神々の祝福』と、自身の剣技を用いることにより、窒息寸前でその脱出不可能な水の檻から脱出することに成功した。


 すぐに自分にとって相棒であり、大切な人であるユウトを助け出そうと行動しようとするが、その前にディランが無情にも告げた。


「彼はもう手遅れだ。君には悪いが、これが戦闘だ。そのことを一番君が分かっているんじゃないのか?」


 そんなの言われるまでもない。戦闘の際の一瞬の隙が戦況を大きく左右する、それこれまでの魔王との戦いだけでなく、それ以外の戦いの中において理解しているつもりだ。そのこと実際に体験した自分だからこそ、それを生かせず大切な人を守れなかった自分が憎かったのだ。


 それを言われたアスナは、唇を強く噛む。


「仮に二人とも脱出したとしても、軍配は変わらない。先日君達は戦ったジュードは、下級神だ。下位の神と上位の神では、戦闘能力に限らず、すべての能力が段違いだ」


 アスナの無言を肯定と取ったのか、ディランは仮の話でさえも当たり前のように否定する。


「オーブリー達から頼まれたのか知らないが、君達も不運だ」


 そう言う彼の顔は実際に気の毒そうに見えた。


「使徒にならなければ、後少し生き永らえたかもしれないのに」


「は? どういう意味?」


 苛立ちを抑えながらもアスナは、ディランのセリフの意味が分からず糾弾するかのように言う。


「後数日で、この大陸の清掃を開始しようと思っていたからだ」


「掃除?」


「どうやら分からないようだな。ふむ、そうだな......君達でいうところの『滅亡級』の災害と言えばいいか」


 『滅亡級』......それは全種族の滅亡の危機を表している。ここで言う全種族とは、竜人族や魚人族などといった小さな種族ではなく、亜人族といった大きなカテゴリーを意味する。つまり、全種族とは、人族、亜人族、魔族ということだ。これまでの歴史を振り返ってみても、それが発令されたことは一度もない。それが発令される時は、この中の二種族が完全に滅亡した時に初めて発令される。これらの災害レベルは、三種族間共通のものであり、それは遥か昔から取り決めれらたものである。


 それを聞いたアスナは、ディランを殺すつもりで睨む。


「何故そんな意味のないことをするの!? 無益な人を殺して何も生まれるわけがない!」


 それにユウトも含まれているのは言うまでもない。


「君が怒る理由も分かる。だが、これには理由がある」


 ディランはユウトがいたことさえ忘れたか、部屋から見ることができる水中を見た。


「今というよりも遥か昔から、このオケアヌスは危機に瀕している。それは主に、人族と魔族から出たごみがほとんどだ。私はそれに耐えきれず、決まりを犯し、落ちてきた」


 さながら、メビウスの輪と言ったところか、と揶揄するように付け足すディラン。すぐにアスナは、反例を出した。


「なら魚人族は関係ない! 彼らはこのオケアヌスを元の姿に戻すために活動しているのよ!」


 だが、アスナのそれは、かつてディランが考え、そして諦めた考えの一つだ。


「それは邪論であり、正論ではない。私もその考えに行きついた。だが、それが間違いだと、ある日気が付いたんだ。すべての魚人族が聖人君子ではない。どこかしらに欠陥が存在する。だから、君の考えには賛同できない」


「そんな人物存在するわけがない! すべての人が、あなたの理想に当てはまるなんてありえないわ!」


 やはり分かり合えないか、残念そうに彼は呟いた。


「それでも私は実行する。それが私にとってすべきことだからな」


「私はあなたを倒す! 彼が守ろうとしていた人達のために!」


 三叉槍を構えるディランに対し、アスナは涙を流しながらもセレーネを構えた。


 ディランがアスナを殺そうと、三叉槍を彼女に向かって投げようと構えたその瞬間、彼の動きがピタッと止まる。


「......ありえない、たしかに死んだはずだ」


 ユウトを覆っていた『無窮水牢』が消えたことに気づいたディランは、何があったか確認するため目線を向けた。それと同時に、空間に存在する水蒸気が蒸発して水になるほどの熱を持った熱線が、ディラン目掛けで飛んでくる。それを難なく躱すディランは、蒸気が発生して不明瞭だが、先ほどまでユウトを捕えていた場所に向けて、ある攻撃を放つ。それは『アクアパルソ』といい、その速度は光速には及ばない亜光速。その威力は、半径二キロのクレーターを作るほどのエネルギーを持つ。


 それほど強力な魔法を何の躊躇いもなく、ディランはその場で放った。この時彼は、それが止められると確信した上で放ったのだ。その瞬きも許されない世界で、アスナはなんとか現状を理解しようと努めたが、それは爆音と共に現れた、死んだと思っていた大事な人の登場によって、その意識は霧散した。


「ユウト、様......?」


 そこに立っていたのは、先ほどたしかに溺死したはずのユウトだ。だが、今の彼の様子は先ほどまでの彼とは明らかに違う。


「あー、だりーなおい。おいてめぇ、今止めれると思って放ったろ。まったく俺様じゃなかったら消し飛んでたぞ、この体」


「お前は誰だ? 先ほどの青年ではないな」


 武器を向け、ディランは復活したユウトと思われる彼に問う。


「あ? 何言ってんだ、俺様はユウトだぜ。この体が証拠だ。さてはお前馬鹿だな、ガハハハッ!」


「体は青年のものだが、髪色が、そしてそれ以上に中身が明らかに違う。どこのどいつだ、名を名乗れ」


 殺気を今のユウトに向かって飛ばすが、それを受けた彼は飄々としている。実力のある者がこの殺気を受けた場合、大抵は発狂し、死に至る。数分前のユウトが受けた場合は失神し、アスナが受けた場合は意識を保っているだけで精一杯。それほどの威力を持つ、精神に干渉する魔法の一種だ


「あー? まず自分から名乗れよ、くそ野郎が。やっぱお前馬鹿か?」


 冷静だったはずのディランは、一度舌打ちをし、それに応えることにした。


「私はディランだ。これでいいだろ。お前の番だ」


「ディラン......どっかで聞いたことあるな。てめえ、落ちた神か?」


「そうだ。とにかくさっさと名を名乗れ、貴様は一体誰だ」


 それを確認した、ユウトだと思われる彼は、嬉しそうに顔を綻ばせる。それはいつものユウトの笑顔とは、まったくの別物だった。


「そうかい、そうかい。やっぱ竜神サマの記憶とぴったしだ」


「何故貴様がジュードの記憶を知っている?」


「その前に、さっきの質問に答えてやるよ」


 その直後、ディランは自身が拘束されているのに気づいた。それはあり得ないほどの熱量を含んでおり、それが接している彼の皮膚はすぐに溶けようとしている。だが、彼の体は水で出来ているおり、すぐに再生する。だからその攻撃はあまり意味がない。それをユウトだった者とディランは理解しているが、ディランは敢えてそのままでいることを選んだ。


 すると、ユウトの皮を被った者は、自身の紅色に染まった髪を掻きながら言った。


「俺様の名前は、イフリートだ。よろしくな、ディランさん。そんでもってサヨナラ」




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