ベルママ
あの後、会談所を出た俺達はベルの家に向かって歩いている。
その最中村の中の様子をざっと見てみたのだが、各家庭ごとに魚やイカ、カニ、貝といった魚介類が吊るされたり、樽の上に置かれてして、多分だが乾燥させている光景を見ることができた。
その他にも店のようなものはちらほらあり、あまり警戒されないよう遠目で品揃えを詳しく見てみると、魚を捕まえるの使用する銛や捕まえた獲物を入れる網目上の袋を売っている店から、野菜や果物、肉製品などまで取り扱っている店まであった。
「なあベル。魚人族の人達は野菜とか果物、肉の調達って自分達でするのか?」
てっきり魚人族の皆さんは海鮮物しか食べないペスカタリアンと思っていたのだが、当たり前のようにそこいらにあるので、魚人族のアイドル(公式)であるベルに気になり尋ねてみた。
「う~んとね~、大体の野菜と果物はこの近くで取ってくるけど、近くにないなら獣人族の人達からお肉と一緒にもらってくるんだよ~」
「そうなのか、魚人族も肉を食べるってのは意外だったな」
「でもホエールとも食べたりするよ~」
ホエール?......あぁクジラのことか。てかなんで英語なのかは知らないが、クジラの肉ってうまいのか? たしか去年ぐらいに国際捕鯨委員会とかいう組織から脱退したってニュースでやっていたから、そのうち食卓にでも並ぶのかなあと思っていたが、結局異世界召喚されたからまだ食えてないな。
「そのホエールって旨いのか?」
「なんかね~、固くて柔くて美味しいよ~」
固くて柔らかいってどっちだ? 妹検定一級を持っている俺でも、今のどこに美味しいポイントがあるのかまったく分からないぞ。
「私はホエール、クジラの料理を食べたことがありますが、あれは好き好きですね」
今まで終始聞き手に回っていたアスナが、独り言のように言った。どうやら食べたことがあるっぽいし、これなら好都合だな。
「ふーん、でそれで美味いのかそれ?」
「きちんと料理したものではあれば美味しいですよ。ただし、食べるなら焼いたものや揚げ物の方をオススメします。刺身のままだとかなり独特な味を堪能してしまう危険性がありますから」
なんか最後の方だけを伝えたいようなどんよりとした顔になってるなおい。そんなこと聞いたら返ってどんな味か気になって食べたくなってしまった、大丈夫か俺。
「そ、そうか。ところでベル、今日の夕飯でそのホエールの肉って出るのか?」
「今日はホエールを取って来るってママは言ってたね~」
オーイェス! これなら今日のうちに、ホエールさんの刺身と揚げ物とステーキを食べれるかもしれない。ベルママに届け! 俺の願い! ホント大丈夫か俺。
「もう夕時ですし、そろそろベルちゃんのお母さんも戻ってくるでしょうね」
まだお会いしたことがないベルママに対して、大丈夫じゃない俺は心から願っていると、アスナが零すかのようそう言ったので、オケアヌスの方を見るとそこには、蜃気楼のようにゆらゆらと揺れ動く綺麗なヘーリオスがあった。空には金色に染まった雲があり、それによって幻想的な雰囲気を醸し出している。
ふと目の端に何かが映ったことに気が付き、その方向を見ると、水の中から次々と人が出て来ている光景が見えた。どうやら漁から帰って来た魚人族の人達だろう。彼らは砂浜に上がると何かを話しているようだ。
「あっ! お母さんだ~!」
突然ベルがそう叫ぶと、そのまま砂浜に走って行った。すぐに追いかけようと思ったのだが、この村に入った時の二の舞になると予想できたので、その場に待機していることにした。
走っていたベルがその魚人族の集団に特攻していくと、いきなり彼女が登場したことに彼らは驚いていたが、すぐに笑顔でベルのことを迎え入れた。そんな集団の中で一人だけ鮮やかな青い髪をしている綺麗な女性が目についた。多分あの人がベルの母親だろう、案の定ベルはその女性のところにいの一番に行き、何か話している様子だ。
その様子を俺とアスナは見ていたが、時折その集団の中から視線のようなものを感じたが、アイドルになったこんな感じなのかなあと思うことにより、何とか回避することに成功した。
次第に周囲が暗くなるにつれ、一人また一人と魚人族の人達がいなくなり、とうとうベルとその女性だけとなった。そして、二人で手を繋ぎながらこちらに来ると、
「ユウトさんとアスナさんですよね、私はこの子の母親のジュリアといいます。先ほど、この子から大体の事情は聞きました。私達の家でよければ泊まってもらっても構いません」
あれ? おかしいな、なんか他の村の人達と違ってジュリアさんがディフェンスが緩いような気がする。だからなのか、返ってその理由が気になる。
「あっご丁寧にどうも。ですが、いいんですか? いきなり見ず知らずのよそ者がご自宅をお尋ねしても......」
俺の言いたいことを理解したのか、ジュリアさんは納得顔になると、隣にいるベルの頭を優しく撫でる。
「それなら大丈夫です。この子があなた達といることがそれを証明しているので」
「そういえばゾルさんもそんなこと言っていましたが、どういうことですか?」
「多分族長さんも私と同じ考えだと思いますが、この子にはその人がどのような人物であるかを判断することができる力のようなものがあるんです。なので、この子があなた方といるということは、危険な人達ではないと言っているようなものだからですかね」
マジかよ、ベルってそんな力持ってたのか......。地球でいうところのシックスセンスや霊感と同じ括りと考えてもいいかもな。まあ俺も! 持ってけどな、妖怪アンテナを。だが今更になってよく考えてみた......これは単なる勘だったな、あべし!
「へ~、ベルはそんなすごい力が持っているんですね」
俺の感嘆とも取れる感想を聞いたベルは、こちらにピースサインをしている。
「すごいでしょ~ベルの力」
ほんとすごいわ......主にその笑顔。これはあれだな、俺の愛ではなくベルの笑顔が世界を救うんじゃないのか? なら俺は日陰者かもしれないが、妹(非公式)が立派なら兄(妄想犯)は縁の下でも、マンホールの下からでも支えていこうではないか!
「あぁベルはすごい! それならてっぺん(アイドル)でも、なんならIPPON(お笑い)でも取れるぞ!」」
妹に会えないフラストレーションを、年下であるベルに向けて褒めようとした結果、番組紹介をしてしまっているが気にしない。こんな小さなことで気にしていたら禿げる可能性が高いからだ。それに加えて今更よく考えると、この世界に来てこんなに誰かを褒めたことは初めてだな。
「ユウトさんは、いつもあのような感じなんですか?」
「はい、大体いつもあのような感じだと思ってもらって結構です」
デジャブ! 傍から俺の様子を見ていた二人の会話に若干の不穏を抱きながらも、新たにベルの母親のジュリアさんを加えつつ、彼女達の家に向かって歩みを進めることにした。
「それでな、そのギルっていう奴がヤバイかったんだよ」
「どうやばかったの~?」
「シスコンっていってな。簡単にいえば、ベルみたいな子に対して危険な思想を持った奴らのことだ」
俺はベルとの約束通り、楽しい話はないかなあと考えた結果、これから先ベルに降りかかる可能性のある災いを防ぐために、ギルの代名詞であるシスコン野郎を教育材料に置き換えて話すことにした。
それにこれは、シスコン野郎への恩返しを含めてのものだ。なぜならあいつからは、氷柱野郎という立派な蔑称を貰い受けたからな、その恩返しを忘れずにしないといけない。こういうのを、『ペイフォワードの精神』といい、誰かに受けた親切(氷柱野郎)を、また別の人にその親切(シスコン野郎)を繋いでいこうという考え方だ。その考えに則た模範生の俺は、シスコン野郎をこの世界中に広めていき、それが世界中の人の脳裏に焼き付いてくれれば、シスコン野郎への恩返し(一生の傷)になるのではないかと考えたからだ。
改めて考えてこれなら、ラモン・マグサイサイ賞”ぐらい”なら取れるんじゃないのか? 部門は創造的情報伝達だから、一応当てはまっているし、そんなことを考えていたら外野から疑問が投げかけられた。
「ユウト様、それはブーメラン発言なのでは?」
ブーメランハツゲンッテナンデスカ? ワタシブーメランナゲタコトアッテモ、ブーメランハツゲンナンテシラナイヨ。
「とにかく、そんな危険な奴がいたらすぐに俺のことを呼ぶんだ。すぐに駆け付けるから」
「うん分かった~。ところでお兄ちゃん」
そう言うとベルは、俺とつないだ手を不思議そうに見ている。
「何だいベル? なんかおかしいところでもあるのかい?」
「なんでさっきから手を繋いでいるの~?」
「それは変な奴に連れて行かれないようにするためだよ」
「なるほど、そのためにご自身で実践しているのですね。さすがです」
そういうことだよ、アスナ君。君、分かってるじゃないか。だからこれからは、俺のことを敬ってあれ? 距離が開いてる、なんで褒めたはずじゃないですよねー。分かってましたよ僕。
「でもここの人達は、そんな悪い人はいないよ~」
まったくベルは優しい子なんだから。しかし、だからこそしっかりと注意しておかないといけない。
「いいかいベル。種族問わず人の姿をした生き物は感情を隠すことが得意なんだ。だから案外近くに潜んでいる可能性が高いんだ」
「なるほど~。だからお兄ちゃんから変な雰囲気がするのか~」
分かってるじゃないかベル。
「そうそう、俺からも変な雰囲気がするかもしれないけど、気にすることじゃない」
まだ出会ってそれほど経っていないが、俺はベルの守護霊みたいなものだからな、少し変な雰囲気がするのも不思議ではないのだ。
そんなインスタント守護霊を見て、アスナはラノベを教室で読んで、そして一人で笑っている奴(俺)を見た大半の女子生徒の中の一人のような視線でこちらを見ている。
「うわぁ~、自覚あったんですね」
アスナが俺のことをそんな風に見るのも不思議ではないのだ......大体いつもこんな感じだからな。
そんな会話を道中ずっとしていた......ジュリアさんはずっと微笑ましそうに見ていた......。




