ベル
「ねえねえどうやったの~! 教えて~!」
俺の裾を引っ張りながらキラキラした瞳で、水の中から顔を出しこちらを見ている、一人の可愛らしい幼女。見た目は小3ぐらい、つまりギリギリ幼女判定。髪色は綺麗なブルー、普通髪には青の色素やエレナの髪色でもある桃色の色素なんて入ってないんだけどな。だが異世界なら何でもオーケー! 魔法なんてものもあるんだからな。
「俺は初めから死んでいないので、生き返ってはいません」
「何だ~残念だな~。すごい魔法かなって思ったのに~」
それを聞いた幼女は実際に残念がる様子をしているが、そんな魔法があったらこの世の末だ、世紀末だ。ヒャッハー世界になってしまうぞ。だがまあ俺は『英霊召喚』っていう魔法を持ってはいるから完全に否定できないが、あれはいろいろ制限があるからな。
「それで君誰?」
「うん? ベルの名前はベルだよ~」
自分のことを名前で呼ぶのを許せるのは幼女までだ。それを過ぎるとかなり痛い奴、つまりはギルティー!
「よしベルだな。それでベル、君こんなとこで何してんの?」
「う~んとね、今はここら辺のごみ掃除をしてるの~」
そう言われたので辺りを見回してみると、ごみ一つも見当たらない。この年で奉仕活動に目覚めるとか感心してしまう。そしてごみ掃除を完了し終えた時、運よく漂流物改め土左衛門の俺に出会ったのか。
というか今更だがここって陸からかなり離れているから水深も深いし、こんな子供じゃ危ないだろ。だが周囲に彼女の親の姿を見当たらない。まったく親はこんな幼気な女の子を置いてどこに行ったんだ。
「ごみ掃除は偉いと思うが、ベルのお父さんかお母さんはどこにいるだ?」
するとベルは、海の水平線の方向を指差した。そこには、水平線から雲が湧き出ているそんな風景以外何もない。
「パパは仕事で海の中~、ママは魚を取りに海の中にいるよ~」
どっちも海の中にいんのかーい! 魚取りは普通に素潜りだろうけど、海の仕事って何だ? ベルと同じ感じなら水質調査とかそんな感じか?
「それで『お兄ちゃん』の名前は何て言うの~?」
......なるほど。
「あー、俺の名前はユウトっていうんだ。それとベル、『お兄ちゃん』っていうの後三回ぐらい言ってみて」
「え~何で~?」
「特に理由はないけど、耳の調子が悪いんだ。だから、『お兄ちゃん』のところを強調して言ってくれないか」
お兄ちゃんはここ最近老化現象が進んでいてね、だからしっかりその言葉をここお耳に届けてあげなくちゃいけないんだ。『耳の届け』の上演の時間でーす。
「よく分かんないけど言うね~......」
ゴクリ、ついこの時が......幼い時の妹に呼ばれていた、あの夢の呼び名がつい復活する!
「お兄ちゃん」
こちらをじっと見て言うベル。『シスコンエナジー40%供給』
「お兄ちゃん?」
どこかキョトンとした様子でそう言うベルちゃん。『シスコンエナジー70%供給』
「お兄ちゃん!」
どこかムカ着火ファイヤーな感じで怒っている我が妹。『シスコンエナジー100%を大きく超えました』
若干シスコンエナジーを取り過ぎてしまったような気がするが、これぐらいが適正量だ。元気100倍シスパンマン!
「何だいベルちゃん、お兄ちゃん何かしたかい?」
「も~う聞いてなかったの~?」
頬をフグのように膨らませているベル。そのほっぺを突きたくなる衝動に駆られるが、これ以上変なことをすると、「お巡りさーん! ここに幼女を誑かすロリコンがいまーす!」といった感じで通報されるって俺ってシスコンじゃなくてロリコンなんかーい!
「お兄ちゃんはここで何してたのって訊いたんだよ~。もしかして聞こえてなかったの~?」
疑い深い奴は死ね、という感じでこちらを見るベル。恐ろしい子やな、このままでは俺のスピリチュアル体がガチで死んでしまう。ここは冷静に場を整えていこう。
「いやしっかりとこの耳に届いていたよ。ちょっぴり感動していたから、それに浸っていただけだから気にしなくてもいい。それと何だっけ......ああここで何をしていたかだな。俺がここにいた理由は、漂流物ごっこをしていたからだ」
「何それ~? 聞いたことない遊びだけど~」
そりゃそうだ、たった数十分前に今頃砂浜で呑気にくつろいでるアスナが命名した名だからな。まだ拡散してないが、そのうちハッシュタグとか付いて一気に拡散していくだろうけどな。ホント、ツイッターって恐ろしいぜ。
「簡単に言うとその身を自然の波に委ね、自然のままに漂流する遊びだな」
「へ~、それって楽しいの~?」
「楽しい楽しくないの問題ではない。これは徳の高い者が密かにする修行の一貫のようなものだ」
魚の気持ちがいつの間にか人徳者になる訓練に変化している。だがこれは俺を不審者にしないためには仕方のないことだ。
「ふ~ん、それでそれって楽しいの~?」
あれ? おかしいぞ、ちゃんと説明したのになんか同じこと訊かれる。それに波音が強くなっているようだし。
「いやだからこれは感情を求めるものではーー」
「ふ~ん、それでそれって楽しいの~?」
どうやらこれは、ドラクエ5で有名なレヌール城の城主の雷無限ループ、又はドラクエ11のサーカス場のファーリス王子のざわめき無限ループと同じ括りのようだな。その名は、波打ちオンザビーチの無限ループ!
「まだベルには早いだろうから楽しくはないな」
まあ俺にも早すぎたけどな。
「へ~、ならベルいいや~」
それを聞いたベルは、一瞬でそのことに対しての興味が失せたかのような表情をしている。むっちゃ気分屋だな......。だがこのお年頃だ、頻繁にいろいろなものに興味が湧くが、目移りするのも頻繁といった感じか。
「なら最後の問題で~す」
いきなりクイズ大会が始まったなってか初めらかクライマックスのクイズ大会あんのか?
「お兄ちゃんはこのオケアヌスまで何しに来たんですか~?」
「ピンポーン! ある種族に会いに来ました」
年下には優しいで有名な俺は、ベルのノリに乗ってあげるのだ。ホントノリ心地最高だぜ!
「な~るほど~。では次の問題です」
ってあれ? さっきのが最後の質問だったんじゃないの? まあこの年頃だ、いきなり記憶が飛んだりすることもあるだろう。それに年寄りなんて頻繁にポンポンポンポン宇宙空間に飛んで行くし、最近は物理的にじゃんじゃんじゃんじゃん刑務所とかに飛んで行ったりするしな。
「その種族とは何ですか~?」
そんなの決まっている。
「オケアヌスといえば、この塩水だ。そこで生きていける生き物は魚、そして......?」
それを言い切る前に俺はあることに気が付いた。ベルの下半身が何かおかしい。かなーりおかしいのだ。人族的じゃなくて、これはむしろーー
「ところでベル、君の種族は何ですか?」
「ん~、魚人族だよ~」
当たり前のことのようにベルはそう言う。なのでもう一度揺れる海面越しに、まるで人魚のようなベルの下半身を見ながら、俺はゆっくりと口を開く。
「どうやら俺達は、ベル......魚人族である君に会いに来たようだ」
「......ほへ?」
それを聞いた当の本人であるベルは、素っ頓狂な声を上げ目をパチクリしていた




