表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女とクラスメイト達に裏切られた絶望者は異世界を夢想する  作者: 滝 清幹
第三章:堕落した神々との戦い:アルタイル編
102/268

漂流物


「......」


今、俺は漂流物という設定。ただ波に誘われ当てもなく彷徨う、この巨大なオケアノスのどこかに浮かぶ無口な漂流物。


 気になる現在の俺の状態は、うまい具合に服の中に空気が入っているおかげで仰向けの状態のまま浮かんでいる、そんな感じだ。

 

それにここ最近というよりもこの世界に来て水遊びとかしたことないからな、たまにはこういうのもありだと僕思いますえぇ。


 はいというわけで漂流物という設定することにしたのだって設定雑ッ!


 アスナは突然相棒が漂流物になったことに呆れるかのように砂浜に座ってこちらを見ている。なんか暇そうに見えるな。


「アスナ、お前は入らないのか? 冷たくて気持ちいいぞ、今なら魚の気持ちを理解する絶好のチャンスだぞ」


「魚の気持ちって何ですか? 『いぬのきもち』ならまだ読んだことがあるので分かりますが。それに大体私水着とか持っていませんよ」


 心外そうにそうアスナは言っていたが、意外だ。『いぬのきもち』読んだことあるんだ。まあ俺も読んだことあるけどよ。だがてっきりアスナのことだから、『ねこのきもち』の方を読んでいる思っていた。だってこいつツンデレ、ネコもツンデレだからな。自分のことが書かれたこと方を読んでいると勘違いしていたぜ。


「なら俺みたいに入ればいいじゃないか。そんな防具なんて着ていて暑くないのか?」


「たしかに暑いかと言われれば暑いですが......」


 そう言って手で仰ぐように涼んでいるが、それあんま効果ないだろ。逆に更に暑くなるって言わんこっちゃない、そのせいで更に気だるそうな表情になっている。


「それにほら、別に恥ずかしいわけじゃないだろ。脱げと言っているわけじゃないんだから」


 この時の俺は別に変な意味でではなく、ただ気遣ったつもりでアスナにそう言ったのだが、彼女は何を勘違いしているのか顔を真っ赤に染める。


「ままままさか見たいんですか!? 絶対に嫌ですよ!」


「いやちょっと何言っている分かんない」


 そろそろ『アスナが何を言っているかわからない件』が放送されるんじゃないのか? それぐらい何を言っているのか、そして何を勘違いしているのか分からない。だから若干サンドウィッチになってしまったのだ。


「ホントお前大丈夫か? 何か最近というより竜人の里を出てからなんかおかしいぞ」


「ユウト様にだけは言われたくありません」


 真心100%で心配してあげたら今度はこれだよ。なんで真顔なんだよ、たった今まで赤リンゴだったのがすでに青リンゴに変わったってどういうことだ? これをリンゴ農家さんが知ったら田舎仰天ニュース! JAの耳に届いたそんな日は日本仰天ニュース! カーギルなら世界仰天ニュース! 


 番宣はこれぐらいにしておいて、今は勘違いを解くことに専念しないといけない。どうやら青リンゴになっているが中身は赤リンゴのままのようだ。


「いやそれは違うから。最近の俺は妖刀の力でなんかおかしくなった、ただそれだけだから」


 これはホントのことだ。実際にナナツもそう言っていたからな。


「いえそれは固有スキルですね、会った時からすでにお持ちでしたよ。まさかお気づきになっていないので?」


「あ?」


 なんだそりゃ、そう思ってステータスプレートを取り出して見てみる。よ~く見てみるが見当たらない。虫メガネを創造して見てもやはりダメだ。


「おい、ステータス見てみたがそんなもん載ってねえぞ。つまり妖刀のせーー」


「ならこの世界に来る前から持っていたのではないですか? それならばステータスに反映されない理由にもなりますし」


 すべて妖怪のせいじゃなくて妖刀のせいにしようと思ったのだが、アスナはそれを頑なに認めない。むしろすべて俺の固有スキルのせいにしようとしているように見える。一体何が彼女をこれほど動かしているんだ? そもそも俺達は何を話していたんだっけ?


「あーくそ! 何を話していたか忘れちまった!」


「ユウト様の固有スキルは生まれ付きのもの、故に諦めるしかないという話ですね」


 諦めんなよ! なんかそのセリフだけ聞くと、この固有スキルかもしれないものが悪性ポリープのように感じてしまうじゃねえか。まだステージ4になっていない(むしろステージ5の異次元)、つまりまだ間に合う(異次元なら可能性がワンチャン)! だからホント諦めなよ!


「とにかく私は遠慮しておきます、漂流物ごっこはユウト様お一人でやっていてください」


 ごっこって......だが、たしかに俺の感想レベルは小学生並みだからそれは否定できない。だからといってこんなごっこ遊びを考えられる小学生なんているんだろうか。それ以前漂流物を遊びに例えるという発想普通思いつかねえな、なら俺普通じゃねえなって今更か!


「んじゃほれ」


 しかし、相棒から見放されている可能性があったとして仲間想い俺は、日差しがキツイだろうから漂流物の状態のままパラソルを創造すると、そのまま槍投げ感覚でアスナの方にスローイング。俺の送球がよかったのだろう、アスナのキャッチャーミットにドストレートで届いた。地球に帰還したらプロ野球選手も夢じゃないな。『ただし、ボールではなく槍』


「あ、どうもです」


「気にすんな。俺はこのままどこかに流されるだろうから、単なる馬のはなむけと思ってくれればいい」


「この場合、受け手はユウト様になりますよ」


「へ? そうなん、なら今から俺は旅に出るんだな。それじゃあ」


 すると引き潮の影響からなのか徐々に砂浜から離れていく。


「どうでもいいですけどー夕方になる前には戻って来てくださいねー」


 すでにアスナとの距離が大部離れているので、砂浜からそんな間延びした声がこちらに届いてくる。なのでもうあちらに俺の声が聞こえないと思い、仰向けのまま手を振ることにした。


 そういえば今って昼前だよな? 夕方までそんなことしていたら、『漂流物ごっこをしていた男性 そのまま土左衛門になった模様』みたいな記事がお茶の間の夕刊に載ってしまう。それに証言者アスナ一人しかいなから記事の内容思い通りだ


 ちょっぴり心配になりつつも俺は、強制的に当てもない旅を始めさせられた......。








 旅が始まって早三十分が過ぎようとしている。全然過ぎてねえだろ、と思ってはいけない。体感的に三年の月日が流れてような気がするからだ。つまり漂流物が言いたいことは......?


「つまらん暑い帰りたい」


 つまらんは漂流物だから。熱いはそのままシャンシャインが俺のことを焼き付けるように照らしているから。それらをすべて総計して辿り着いた答えが、帰りたいであった。すぐ遊びに飽きてしまうのは小学生の性なのだ。だからあまり気にしても仕方がない。


 それにここままでは脱水症状になる可能性が非常に高い。今オーエスワンと飲んだら甘いと感じてしまうだろう。


 なので、この後どうすっかなあ~もうやめちゃおっかなあ~。目を瞑ってそんなことを考えていた、そんな時だ。


 


「あれ~? こんなとこに人族がいるなんて珍しいな~」


 どうやら幻聴まで聞こえるようになったらしい。これは本格的にヤバイな、やっぱ夕刊載るかもしれん。


「ん~? 返事がないな~生きてるのかな~?」


 そりゃ生きてるよ、だが幻聴に返事をする奴はそもそもいねえだろ。


「返事がないなら死んでるのかな~?」


 お巡りさん! 幻聴さんが健全なる市民を死亡扱いしてくるのですが如何なさいましょうか。


「死んでるなら一旦陸に運んで~、土葬しないといけないよね~」


 土葬はマジ勘弁! あれって腐った遺体が原因で感染症が引き起こされたという事例があるらしいからな。それと埋葬の仕方は、火葬加えて桜よ咲けー! という具合で俺の灰を海に撒いてくれると助かりやす。


「それじゃあ陸まで行くよ~」


「うおっ!」


 突然誰かが俺の体を引っ張ったので、俺は驚きの声を出してしまう。


「すっごい~! 生き返った~! どうやったの~!?」


 生き返ってないからー、そもそも死んでないからー。


「......君、誰?」


 目を開けて先ほどからこちらに失礼なことを言っている声の正体を見て、俺は一瞬疑いの目を向けざる終えなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ