実戦
時は流れて一月後経った。
どうやらこの世界に来て、タイムリープの能力(自前)はさらに進化したようだ。
そんな俺とクラスメイト達がいるのはダンジョンの入り口。
周囲には俺達のことを警護するかのように王宮騎士団の騎士達がスタンバイ状態で控えている。
そんな様子を見ながら俺は正面にあるダンジョンの入り口を見ることにした。
一言で言うならどこにでもあるような洞窟の見た目をしているが、実際に入ってみると内部はかなり違うと今俺達の目の前に立っている団長がそう話しており、そして現に今もダンジョンでの注意事項を話し終えたところだ。
団長曰く、ダンジョンにさまざまなトラップが仕掛けている。それらのダメージは小さいものだと擦り傷程度だが、大きなものだと死に至る程のものがあるそうだ。それらを識別することは、現段階では存在しないのでそれぞれのチームに王宮騎士団の騎士が同伴するので、その場その場に応じて彼らの指示に従ってもらうようにと言っていた。それともう一つ、モンスターについてだ。分かっていると思うがダンジョンが深層に進むにつれ、モンスターの強さもそれに比例して強くなる。今回の目的地である階層までのモンスターなら騎士達で対処することが可能だそうだ。
他にもいろいろ話していたが注意すればいいことはこれくらいだろ、そう思っていると団長がこの場にいる者全員を見回すかのようにして、
「それでは今から実戦訓練を行う。それぞれのチームに分かれて出発してくれ。くれぐれ注意して慎重に探索を進める様に。では健闘を祈る」
その掛け声とともに俺達は、それぞれのチームになるとダンジョン入り口に入り始めた。
ちなみに俺のチームは雪、影井×2、そしてゴリラが一匹、そんな俺達の護衛兼リーダーを務めてくれる王宮騎士団の騎士が格チームに同伴するので安全だそうだ。
「俺の名前はダニエル。王宮騎士団の隊長をやっている。気軽にダニーと呼んでくれ。それと気になることがあったらどんどん聞いてもらっても構わない」
そんな風に40代の男性ダニーが自己紹介をしてくれたので、俺はこのダンジョンについてダニーに聞いてみることにした。
ダンジョンの名前は『神の箱庭』、名前の由来は、現存するダンジョンの中で最古であるに加えて最もダンジョン内部が解明されているからだそうだ。
階数は現在解明されているだけで479階、これは過去に召喚された勇者の記録だ。専門家によると規模からして1000階はあるらしい。
今回呼ばれた王宮騎士団の面々はすべて隊長クラスで一人一人が100階クラスの力を持っており、今回のチーム分けの理由は入り口がいくつもあり一斉に入ると危険なので分散させたかったそうだ。
彼の話を聞いているうちにこの神の箱庭に入り、ある程度探索したところで俺はあることに気が付く。
「なあダニー、ダンジョンってすべてこんな遺跡のような構造なのか?」
先ほどから壁や地面といった部分が、すべて人の手によりきれいに石板のようなを敷き詰められており、所々を見ると苔や雑草などといったものを無秩序に生えている光景を伺え知ることができるからだ。
こんな光景は昔インディージョーンズでも見たことがあったなあ~ワンチャンクリスタルの頭蓋骨ないかなあ~、そんな風に遺跡を見てダニーに質問してみると、彼は周囲に注意を払いながら俺の疑問に答える。
「すべてではないな。ほかの国にもいくつかのダンジョンがあるが、この神の箱庭のような構造をしているダンジョンはあまり多くはない。たしか帝国にも一つあったような気がするが......」
彼の言う帝国とは、このユーリシア国と対をなすアスラン帝国のことである。
この国は軍備だけを見るならすべての人族国家の中で最強とまで言われているらしい。
今は魔族との戦争が起こっているのすべての人族国家同士で不可侵条約を互いに結んでいるため敵同士ではないが、この戦争が終結すればその結んでいるはずの条約を破棄してすべての人族国家にその矛先が向く可能性があると示唆されている。
そんな風にダニーに気になることをある度に質問していると、
「ユウ君は何があっても絶対私が守るから!」
雪が可愛く気合を入れて言ってくれた。
これ本来主人公が言うものだろ......つまり俺ヒロイン! キャー抱いてー!
「ケッ!」
いつものようにゴリラは不機嫌なようだ。
ほらゴリちゃん、飴ちゃんがあげるから、たしかバナナ系の味だよ。いつもは草とか昆虫かもしれないけど、たまにはこんな豪勢な飴を食べても天罰は受けないはずだから。
だがゴリラはまったく機嫌が直らない。その勢いで糞まで投げそうな雰囲気だ。
それにしてもここまで嫌われるとは......もしかしてユウトアレルギーでも持っているのかい? 予防接種は打ってないのかい?
だがゴリラ君、君に一つ言いたい。
世界の半分は女だ、人の数だけ出会いがあぁごめん、君の嫁になる生き物はアマゾンに生息していたんだっけ、期待させてごめーんね、てへぺろ♪
「封印の解かれる時が訪れるぞ......弟者よ」
「ああ、封印されし深淵をいまこそ......兄者」
影井兄弟はいつも通りだな。二人とも一卵性双生児だから見た目じゃ判断できないので、包帯がどちらに巻かれているかが見分けのポイントだ。
ちなみに兄が右手、弟が左手である。
それを知っている理由は以前容疑検査があった時に容検の先生から......多分兄の方がこう尋ねられたのを見ていたからだ。
「影井、右手に付けている包帯は何だ。ケガでもしているのか?」
「これはケガのせいではありませんよ」
彼は右手の包帯をさするその視線を窓の外に向ける。
それはまるで黄昏ているのか、まるで過去を後悔しているようにも俺にはそう感じることができたのだ。
俺は彼の視線の先にあるものが何があるのか気になり、彼同様に窓の外に目を向けた。
そこから見えるのは、紅蓮に染まる夕焼けが徐々に街並みをその色から漆黒の変えていくそんな風景......ではなく! この高校の正面にある幼稚園の園児が老人ホームのお年寄りと仲睦まじくしている......そんな和むような風景である。
どうやら彼の将来の夢は闇の秘密結社ではなく、保育士か介護士であると推測できる。
その態度に先生は頭を捻ねってしまう。
「? それじゃあ何でそんなものを付けてくるんだ?」
「付けざるを得ないからだ......これを付けていないと誰も俺を抑えることができないからな!」
な!-なーなーなー......。
彼は視線をスライドして先生の方を見ると、右手に巻かれている封印の包帯を見せつけるようにしながらそう叫んだ。
そして彼の声が廊下中に響き渡る......それはまるでドップラー効果のようであった。
その場にいた、まだ容検を終わっていない生徒達はみなあんぐりだ。
だがいきなり口調が変わった彼をその先生は、納得した様子で少し微笑んでいた。
「そうか......不要物っと」
結果封印の包帯は不要物になってしまったのだ。
そして次に弟の方にその質問が飛んでいく。
「それで弟の方は何だ。ケガか......それとも兄と同じ理由か?」
「いえですね先生、これは少し傷跡が残っていまして、そのせいで付けざるえないのですよえぇ」
彼は左手の包帯を隠すかのように両手を後ろで組んだ。
何故か兄と話す時は全然違う口調で話しているんだが......。
たしかに下の子は上の子を見て育つって言うしな、兄の惨劇から逃れるためだろう。
これには兄も反応した様子ようだ。
「弟者よ! 何だその口調は! いつもの調子はどこにーー」
「はいはい兄の方は黙ってなさい。今は弟の方と話しているんだから」
兄の言葉を叩き切った先生は再度弟の方に向いた。
「でもそれいつもしているけど、いつぐらいのケガなんだ?」
その瞬間弟の雰囲気が一変する。
彼の先ほどまで隠していた左手を先生の目の前まで持っていく。
「これは聖痕と言って遥か昔俺が生まれ変わーー」
「はいはい弟の方も不要物決定っと」
どうやら兄と同じ惨劇を防ぐことができなかったようだな。
その後兄に肩を抱かれながら、
「やっといつもの口調に戻ったではないか! 安心したぞ弟者!」
「......すまん......兄者」
「それに間違っているのは俺達じゃない......この世界の方だ!」
ルルーシュ(あに)はそう言うと、紅蓮の夕日......ではなく! 窓の外の幼稚園と老人ホームを見ていた。
そんな光景に全米が涙......しなかった!
そしてとうとう俺の順番が来た。
「それで竜胆......この本は何だ?」
俺のカバンから先生が最近買った新作のラノベを取り出して訊いてくる。
これ判断を誤ると影井兄弟の惨劇が俺の身に降りかかってしまう!
俺は先生によく見えるように、もう1冊あったラノベを彼の目の前に持っていく。
「いえですね先生、これは日本文化を体現したものでライトノベルと言って決してふよーー」
「はいはい不要物決定っと」
俺のラノベは不要物になってしまったのだ......。
というわけで俺は彼らを判別できるのだ。
島田あいつだけは絶対に許さない。それと回想長いなってかこの情報誰得だよ。
「全員気を引き締めろ! 敵が来るぞ!」
俺が誰かに解説していると、ダニーがそう言うと同時に、正面から何かが近づいてきた。
「グウェ! ガウッ!」
「シャー!」
「カサカサカサカサ」
定番のゴブリンや3メートルぐらいの大蛇、そして最後のがでかいGである。
他にもいろいろなモンスターが一斉に襲い掛かってきた。
まず動いたのは影井兄弟だ
「封印解呪だ! 弟者!」
「了解だ! 兄者!」
二人がそういうと彼らの包帯に包まれた右手と左手が輝いて兄の右手が金、弟の左手が銀を帯びた手のようなものになった。
そして、
「「滅せよ! サンシャイン・アローー!!」」
彼らのいい叫びとともに眩しい閃光が正面にいたモンスターに降り注いだ。
目を開くとそのには先ほどのモンスター達の影も姿も見当たらなかった。
どうやら双子の連携技により大方の雑魚モンスターが消え去ったようだが、それに耐え抜いた手強いモンスターが数匹いるようだ。
「ミノタウロスか......」
ダニーの視線の先を見るとそこには3メートルほどの大きな生物、ミノタウロスがこちらに向かって走って来る
「ガァァァァ!!」
そして叫びながらミノタウロスが斧を振りかざして襲い掛かろうとしていた。
「ギャッ!」
しかし突然ミノタウロスが鳴き声を上げて血を流して倒れた。
近くを見るとゴリラが攻撃したようだ。なんだ仲間じゃなかったのか? てっきり筋肉繋がりてマブダチなのかなあ? と思ってミノタウロスを援護しようと思ってしまったぞ。
そしてマブダチの血を浴びたゴリラは筋肉が膨れ上がれ、目をギラギラさせながらまだ息のあるマブダチに飛び掛かり切り刻んだ後、残っていたモンスターも処分した。
これが絶交というかものなのか......。
ちなみに俺は「影牢」を使い、虫系のモンスター以外を捕まえて自分で剣で殺していたのだが、やはり俺達はまだ高校生、積極的に生き物を殺す機会なんてものに遭遇しないだろう。なのに、この作業にあまり忌避感を感じない......もしかすると『死神の加護』のおかげかもしれないな、そんな風に思うことで納得することができたのだ。
それにしても......地味だ。
戦闘終了後、俺達はケガをしていたのに雪が気が付いたようだ。
「レイジ・ヒール!」
彼女の魔法なのだろう、すぐに俺達とゴリラは緑色の光に包まれたてケガは治っていった。いやゴリラ自然治癒力あるから大丈夫なんじゃないの? と思ったが喋る価値がないので言わなかった。
それにしても範囲型の治癒魔法って便利だな。
「しっかり連携が取れているようだな」
その様子を満足そうに見ていたダニーが、顔を綻ばせてまるで自分のことかのように嬉しそうに言った
「よし! この調子で先に進んで行くぞ!」
そしてダニーの掛け声と共に俺達は歩みを進めた。
この時俺は忘れていたのだ......人の本性がどのようなものであるかを......。